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少年とタマとムギ

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 普通じゃない家庭で育ち普通じゃない僕は、今年の春から高校一年になる新村天馬(しんむらてんま)。

 「普通じゃない」という言葉にはちゃんとした理由があるのだが、まずは手っ取り早く自分の説明からしておこう。

 僕は生まれながらにして超能力が使えるエスパー体質な人間なのだ。

 超能力には様々な種類があり、もちろんその能力には限界もある。

 おっと、超能力に関しては追々説明するとして、僕が普通でないのは理解して頂けたであろう。

 ではもう一方の「普通じゃない家庭」について説明しよう。

 あれは僕が中学に上がったばかりの頃だった。

 雨が激しく降った日の夜、古書店を営む父親が二匹の子猫を拾って家に帰って来た。

 父が言うには古書店の中から外を眺めていると、三度笠をかぶった小柄な人が現れ、電柱の直ぐそばに小さなダンボールを置いてどこかへ消えたらしい。

 三度笠の人も気になったが、ダンボールの中身を確認するために近づいて中を覗くと…

 目を潤ませた二匹の子猫が入っていたそうで、放ってはおけず捨て猫と断定して連れ帰ったとの事だった。

 僕も母も猫好きで、二匹の子猫を見た時は飛び上がるほど喜んだものである。

 緊急の家族会議を開き、その日のうちに子猫たちの名前は決定した。

 真っ白な子猫にはタマ。

 真っ黒な子猫にはムギと名付けた。

 それから家族全員に可愛がられたタマとムギは、すくすく育つのかと思いきや…
予想に反してすくすくとは育たなかったのである。

 3カ月が経過するまでは普通の子猫のように育ったのだが、それ以降大きくならず体重も増えなくなった。

 父が「新種の小型猫じゃないのか」と安易な意見を言ったが、僕と母はその意見に賛同して余計な心配をしないようにした。

 平日は家が留守になるためタマとムギは父について行き、日中は古書店で過ごすようになる。

 そして、僕が中学を卒業して3日後に忘れられない事件が起こる。

 卒業式のあとは家でゴロゴロすることが多く、その日も二階の部屋のベッドに寝転がってマンガを読んでいた。

 長い間熱中してマンガを読んでいたが突然、階段を人が「ドタドタ」上って来る音が聴こえる。

 人が居るはずのない家で聴こえる音に怯えていると…

「バーン!」

 部屋のドアが派手に音を立てて開いた!?

「天馬―――っ!父さんがたいへんだーーーっ!」

 僕はあらゆる意味で驚愕した!?

 泣いて叫びながら目の前に現れたのが一糸まとわぬ姿の少女だったからである。

「ちょちょ、ちょっと待って!君は誰!?そしてなんで服を着てないの!?」

 こんな状況でなかなか的確な質問が出来たのではなかろうか。

 僕と同年くらいに見える少女が泣きながら言う。

「なに言ってんだタマだよーっ!長く一緒に居るのに分からないのか!?」

 タマ!?僕の知っているタマは猫であって人間の少女ではない。

「君が何を言ってるのかさっぱり分からない!?」

「もういいからとにかく一緒に来いっ!」

「いでーーーっ!?」

 タマと名乗る少女が僕の首に「ガブッ!」と噛みついたのだ。

 僕は混乱の中で咄嗟に叫んだ!

「おすわりーーっ!」

 すると首に噛みついていた少女が急に大人しくなり猫のおすわりポーズをとった。

 目のやり場に困りつつ良く見ると、頭から猫耳が出ていて、背中の後ろで尻尾を振っているのが見える。

「し、信じられない。君は本当に猫のタマなのか?」

「だから最初からそう言ってるだろ。ボクは新村家の可愛い飼い猫のタマだよ」

「取り敢えず僕の服をやるから着てくれ。目のやり場に困る」

 そう言ってタマに僕の私服を一式渡した。

 タマがもたつきながら服を着ている間に僕が訊く。

「で、父さんがたいへんって言ってたけど何があったんだ?」

 着替えるタマが「ハッ!」となり、部屋に入って来た時と同じテンションで答える。

「お父さんが古書店で急に苦しみだして動けなくて慌てて天馬を呼びに来たんだよ!」

 本当に緊急事態だったか!

「タマ!僕に掴まれ!」

「シュッ!」

 タマが僕に掴まってすぐに古書店へ瞬間移動する。

 店内を見渡すと「ニャーニャー」とムギの鳴く声が聞こえ、そこに駆け寄ると父が苦しそうに腹部を押さえて倒れていた。

「父さん大丈夫?」

「……」

 話しかけたが口を開くのも辛そうだ...
 僕は父の腕を首に掛け何度か行った事のある病院をイメージして瞬間移動で連れて行った。

 病院の診断によると父は急性虫垂炎(きゅうせいちゅうすいえん)という病気で即手術となり、後から来た母が付き添ってその日は入院することになった。

 手術が成功して命に別状も無く、もう大丈夫という医者の話しを聞いて、僕はタマとムギの待つ古書店に瞬間移動で戻る。

 タマがやってくれたのか古書店は戸締りがしてあった。

 店内に入ると「ニャーニャー」鳴きながらタマとムギが近づいてくる。

 僕は二匹の頭を撫でながら感謝の気持ちを伝える。

「今日はありがとなタマ、ムギ。君たちのお陰で父さんは助かったよ」

 こうして二匹の猫を見ていると、さっき見たタマの姿は幻だったのだろうと思ったその時!?

「ボン!ボン!」

 二匹の猫が消え、二人の少女が現れた!?やはり一糸まとわぬ姿で…

「父さんが無事でよかったなー天馬っ!」

 元気に少年のような話し方をしてくるタマ。

「天馬、あの、わたしムギだけど分かる?」

 ムギはタマと逆でおとなしそうな少女。
タマと同じく年齢は僕と同じように見えた。

「ん、ムギということは分かるんだけど君らは化け猫か何かなのか?」

 タマが少し怒った顔をして返す。

「可愛いボク達に向けて化け猫とは酷いな!」

 ムギがフォローするように話す。

「わたしたちは「猫又」よ天馬。やっと人間の姿に化けられるようになったのよ」

 猫又…「やっぱり化け猫やないかーい!」というツッコミは心の中に閉まっておく。
 
 このあと3人?で家に帰り2人?から詳しく話しを訊いた。

 そしてこの日を境に、町にはあやかしと呼ばれる者たちが集まりだし、僕の日常は不本意ながら騒がしくなっていくのであった。
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