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第3話 芥藻屑との戦 ノ65

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 韋駄地が長槍を雑に放り投げ、先程抜いた刀一本で構えを取る。
 
「貴様は殊の外素早い。この刀で勝負するとしよう」

 相手の実力を認めたのは仙花だけではなかった。
 彼女の速い動きに対応するには攻撃範囲の広い長槍も、速く鋭い攻撃を展開できる刀が適当と韋駄地は踏んだのである。

 これらによって暫く、互いに攻撃する時期を窺う膠着状態が続いた...



「キン!キィン!キィン!キン!キィン!」

 首領同士の一騎打ちが始まった頃、蛇腹の西側では二人の天才剣士による激しい攻防を繰り広げられていた。

 といっても、居眠り侍こと雪舟丸より十歳以上歳下で芥藻屑の客人扱い可惜夜千里(あたらよせんり)の防戦一辺倒となっている。

 攻める阿良雪舟丸は何処の流派にも属していないし自己流派を名乗ってもいない。
 かの宮本武蔵が「二天一流(にてんいちりゅう)」、佐々木小次郎が「巌流(がんりゅう)」、そして柳生石舟斎が「新陰流」と剣豪はそれぞれの剣術流派に属していたものである。

 雪舟丸ほどの達人ともなれば自己流派の開祖となれる実力と実績もあったのだけれど、彼は流派に敢えて属さなかった。

 それは彼なりの剣術に対する信念や拘りがあったことに基づく。
 つまりは己の剣術は未だ発展途上にあり、「剣術此処に極まれり」という想いに達するには程遠いと考えていたのだから、呆れる程の努力家とも云えよう。

 現時点で彼に無理矢理流派を名乗らせようものなら余り考えもせず、「居眠り流」などとつけてしまいそうだから怖いものである。

 だが流派に属していないからといって彼の剣術が他の者より劣るなんてことはあり得ない。ともすれば型にハマることのない剣術は変化に富み、相手が剣筋を読むことを困難にさせるものだ。

 故に、雪舟丸の変化して読みづらい剣筋に神速であることを加え鑑みると、反撃できずに防戦一方であるとはいえ、長きに渡り何十合も剣をぶつけ重ね合わせている若き天才剣士、可惜夜千里はまごうことなき逸材だと云える。

「キン!キン!キン!キン!キィン!」

 また幾度かの神速攻撃を防いだ可惜夜千里が退き距離を取った。

 肩で息をする彼は、精神的にも肉体的にもかなりの疲労が見られる。

「ハァハァハァ...まさか此処まで一方的な展開になるなんて...フゥ...雪舟丸さん。余り言いたくはありませんが僕は貴方の底知れぬ強さに正直心底驚いてますよ。否、これは『驚愕している』と言った方が適当かも知れませんね...」

 可惜夜千里の言葉を聞く雪舟丸の表情には余裕すら感じられる。
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