389 / 396
第四章 絢爛のスクールフェスタ
第389話 間隙のホム
しおりを挟む
戦況は刻一刻と変わっている。不利であろうとも、そこに絶望はない。
イグニスの油断は必ず隙となる。僕たちは三人で、この場を切り抜ける機会を伺いながら戦い続けるだけだ。
デモンズアイの幼体との決着がつけば、ヴァナベルたちも僕たちに追いつく。今はそれまでの時間を稼げばいい。
――負けない。
「ワタシたちは負けない!」
僕の心の声と、アルフェの凛とした声が重なって響く。ホムが骨の山から高く跳躍するのを合図に、アルフェはホムの全身に風魔法を付与する。長靴との相乗効果によって、ホムは更に加速してイグニスに向かって行く。
「はぁあああああっ!」
武装錬金で固めた拳を振りかぶり、ホムが落下と加速の勢いに乗せてイグニスの巨躯に拳を叩き込む。
「無駄だ! 何度来ようがオレ様にダメージはないぞ!」
イグニスが吠えるが、ホムは攻撃の手を休めない。骨の山に着地するや否や、胴部に潜り込み、下から突き上げるような攻撃を続ける。
「小賢しい! まるで蠅だな!」
鉤爪を振り回すイグニスの声に明らかな苛立ちが混じる。烈火の如く怒り狂う炎も、ホムには及ばない。身体を巨大化させたせいで、イグニスは胴部に潜り込んだホムを捕らえきれないのだ。
それ以前に、ホムはもうイグニスの攻撃を見切ってしまっている。大ダメージを与えることこそままならないものの、ホムには僅かな余裕が生まれている。
「遅すぎます!」
イグニスを敢えて煽るホムは、攻撃の単純化を狙っている。カナルフォード杯でもそうだった。怒りで我を忘れたイグニスの攻撃は、威力こそ増すものの、冷静さを欠くのだ。
「エステアに比べれば、イグニス、あなたの攻撃など――」
「五月蠅い! ちょこまか動き回るヒトモドキが! 我らが崇高な魔族にとっての害虫がぁああああっ!」
イグニスが大きく後退し、轟々とうねりを上げる炎を宿した鉤爪でホムを追い回す。骨の山が砕け、崩れ、白い粉塵となり、ホムの姿が掻き消える。
「どこにいても無駄だ! 燃やし尽くしてやるからな!」
イグニスが咆吼と炎を上げながら、骨粉の煙幕の中で荒ぶっている。
「ホムちゃん、伏せて!」
体勢を立て直すホムの気配を察してか、アルフェが鋭く声を放つのと同時に、無数の水の槍がイグニスの荒れ狂う炎に殺到する。
「無駄な足掻きを!」
アルフェが無詠唱で発動した水の槍と入れ替わるように、ホムがこちらに戻ってくる。息が乱れていることから、ホムが消耗し始めているのがわかった。
打撃のみでは決定打を与えられない。それを察したアルフェの援護も、イグニスに決定的なダメージを与えるには至らない。だが、今はこの時間が重要だ。
「しつけぇんだよぉおおおおおおっ!!!」
大口を開けたイグニスの咆吼がさながら邪法の詠唱であったかのように、炎が激しく燃えさかる。自らの巨躯を炎で包み込んだイグニスを前に、水の槍は瞬く間に蒸発する。
「訂正してやる。蠅にも及ばんぞ! ヒトモドキどもめ!」
イグニスの嘲笑とともに、炎が更に燃えさかる。確かに生半可な攻撃ではイグニスの炎の守りを突破することは叶わない。だが、アルフェが作り出した僅かな隙が、今は大きい。
「粘液よ。絡み纏わりつき――」
アルフェのように素早く魔法を発動することは出来ないが、僕には真なる叡智の書がある。
「自由を奪え。グルー」
猛る炎は上へ上へと燃えさかる。それならば、粘度を伴う水魔法を、イグニスの足元に発動させればいい。
「ハッ! この程度の魔法でオレ様を捕らえられるとでも――」
「捕えろ!」
イグニスの声を遮り、接着魔法に指向性を与える。骨の山を包み込む粘度の高い水魔法は、さながらスライムのように絡みつき、イグニスの四肢にまとわりつく。
「馬鹿が! 無駄だと言うのにまだやるか!?」
不快感を露わにしたイグニスが咆吼し、身に纏った炎が小さな爆発を幾つも起こす。その熱で接着魔法で生成された接着剤が溶けはじめ、イグニスが勝ち誇ったように牙を剥き出した。その余裕が大きな隙になることを、イグニスはまだわかっていない。ホムはもう準備を終えている。
「ホム!」
僕とアルフェが稼いだ時間を、ホムは全て充電に回していた。ホムが足を踏み鳴らすと同時に、軌道から紫電が迸る。
「雷鳴瞬動!」
詠唱と同時にホムの身体が、雷光の如く射出される。従機の装甲すらも打ち破る最大威力で放たれる雷鳴瞬動は、獄炎獣イフリートにも通用する。
「はぁあああああっ!」
閃光を纏ったホムの蹴りが炸裂し、イグニスの巨躯が骨の山に沈む。僕の目には右半身が吹き飛んだように映った。
イグニスの油断は必ず隙となる。僕たちは三人で、この場を切り抜ける機会を伺いながら戦い続けるだけだ。
デモンズアイの幼体との決着がつけば、ヴァナベルたちも僕たちに追いつく。今はそれまでの時間を稼げばいい。
――負けない。
「ワタシたちは負けない!」
僕の心の声と、アルフェの凛とした声が重なって響く。ホムが骨の山から高く跳躍するのを合図に、アルフェはホムの全身に風魔法を付与する。長靴との相乗効果によって、ホムは更に加速してイグニスに向かって行く。
「はぁあああああっ!」
武装錬金で固めた拳を振りかぶり、ホムが落下と加速の勢いに乗せてイグニスの巨躯に拳を叩き込む。
「無駄だ! 何度来ようがオレ様にダメージはないぞ!」
イグニスが吠えるが、ホムは攻撃の手を休めない。骨の山に着地するや否や、胴部に潜り込み、下から突き上げるような攻撃を続ける。
「小賢しい! まるで蠅だな!」
鉤爪を振り回すイグニスの声に明らかな苛立ちが混じる。烈火の如く怒り狂う炎も、ホムには及ばない。身体を巨大化させたせいで、イグニスは胴部に潜り込んだホムを捕らえきれないのだ。
それ以前に、ホムはもうイグニスの攻撃を見切ってしまっている。大ダメージを与えることこそままならないものの、ホムには僅かな余裕が生まれている。
「遅すぎます!」
イグニスを敢えて煽るホムは、攻撃の単純化を狙っている。カナルフォード杯でもそうだった。怒りで我を忘れたイグニスの攻撃は、威力こそ増すものの、冷静さを欠くのだ。
「エステアに比べれば、イグニス、あなたの攻撃など――」
「五月蠅い! ちょこまか動き回るヒトモドキが! 我らが崇高な魔族にとっての害虫がぁああああっ!」
イグニスが大きく後退し、轟々とうねりを上げる炎を宿した鉤爪でホムを追い回す。骨の山が砕け、崩れ、白い粉塵となり、ホムの姿が掻き消える。
「どこにいても無駄だ! 燃やし尽くしてやるからな!」
イグニスが咆吼と炎を上げながら、骨粉の煙幕の中で荒ぶっている。
「ホムちゃん、伏せて!」
体勢を立て直すホムの気配を察してか、アルフェが鋭く声を放つのと同時に、無数の水の槍がイグニスの荒れ狂う炎に殺到する。
「無駄な足掻きを!」
アルフェが無詠唱で発動した水の槍と入れ替わるように、ホムがこちらに戻ってくる。息が乱れていることから、ホムが消耗し始めているのがわかった。
打撃のみでは決定打を与えられない。それを察したアルフェの援護も、イグニスに決定的なダメージを与えるには至らない。だが、今はこの時間が重要だ。
「しつけぇんだよぉおおおおおおっ!!!」
大口を開けたイグニスの咆吼がさながら邪法の詠唱であったかのように、炎が激しく燃えさかる。自らの巨躯を炎で包み込んだイグニスを前に、水の槍は瞬く間に蒸発する。
「訂正してやる。蠅にも及ばんぞ! ヒトモドキどもめ!」
イグニスの嘲笑とともに、炎が更に燃えさかる。確かに生半可な攻撃ではイグニスの炎の守りを突破することは叶わない。だが、アルフェが作り出した僅かな隙が、今は大きい。
「粘液よ。絡み纏わりつき――」
アルフェのように素早く魔法を発動することは出来ないが、僕には真なる叡智の書がある。
「自由を奪え。グルー」
猛る炎は上へ上へと燃えさかる。それならば、粘度を伴う水魔法を、イグニスの足元に発動させればいい。
「ハッ! この程度の魔法でオレ様を捕らえられるとでも――」
「捕えろ!」
イグニスの声を遮り、接着魔法に指向性を与える。骨の山を包み込む粘度の高い水魔法は、さながらスライムのように絡みつき、イグニスの四肢にまとわりつく。
「馬鹿が! 無駄だと言うのにまだやるか!?」
不快感を露わにしたイグニスが咆吼し、身に纏った炎が小さな爆発を幾つも起こす。その熱で接着魔法で生成された接着剤が溶けはじめ、イグニスが勝ち誇ったように牙を剥き出した。その余裕が大きな隙になることを、イグニスはまだわかっていない。ホムはもう準備を終えている。
「ホム!」
僕とアルフェが稼いだ時間を、ホムは全て充電に回していた。ホムが足を踏み鳴らすと同時に、軌道から紫電が迸る。
「雷鳴瞬動!」
詠唱と同時にホムの身体が、雷光の如く射出される。従機の装甲すらも打ち破る最大威力で放たれる雷鳴瞬動は、獄炎獣イフリートにも通用する。
「はぁあああああっ!」
閃光を纏ったホムの蹴りが炸裂し、イグニスの巨躯が骨の山に沈む。僕の目には右半身が吹き飛んだように映った。
0
お気に入りに追加
796
あなたにおすすめの小説
異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる