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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第363話 共に戦う信頼
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★ホム視点
歓楽街の入り口に着地すると、エステアはすぐにわたくしの腕から離れてその場に立った。
「ご無事ですか?」
「ええ、お陰様で」
応じるエステアは身体の彼方此方に火傷を負っている。だが、気懸かりなのは負傷よりもエステアの魔力消耗の度合いだ。
肩で息を続けていなければ呼吸が続かないほどに、体力の消耗も激しい。今は、ほとんど気力で戦っているような状況だろう。けれど、それを一番わかっているのはエステアだ。わたくしが指摘する必要はない。
「どうして……」
呼吸を整えるように努めながら、エステアはわたくしを見つめ、戸惑うように唇を震わせた。アークドラゴンが迫る気配を感じながらもわたくしはその場に跪き、エステアを見上げて目を合わせた。
「あなたを助けるためです、エステア」
「でも、リーフが……」
「マスターも承知してくださいました」
これ以上の気遣いは不要だと、わたくしは笑顔に似た表情を作った。上手く出来たかどうかはわからないが、エステアもわたくしと同じように顔の緊張を解いてくれたのだから、きっと伝わったのだろう。何もかも言葉で表現する必要はないのだ。
エステアが唇を噛み、何かに耐えている。その視線がアークドラゴンに向けられたのを見留めて立ち上がると、こちらを追ってきたはずのアークドラゴンが上空を旋回している姿が視界に飛び込んできた。
怒り任せにわたくしたちを追ってくると思ったが、レッサーデーモンや翼持つ異形よりもかなりの知能があるようだ。わたくしたちの攻撃を警戒してか、様子を窺うように旋回を続けている。
すぐに襲って来ないのは不気味ではあるが、お陰で少しだけエステアと話す時間が出来た。
「……よく耐えてくださいました。ここから先は、わたくしが傍におります」
「ホム……」
エステアの目が潤むのがわかる。一人で全て背負って戦うのは、どんなに苦しかっただろうか。わたくしにその苦しみをどうしたら和らげて差し上げられるのかわからなかったが、大切なことをまずは伝えようと思った。
「ご安心ください。マリー様とメルア様はご無事です」
「え……?」
わたくしの言葉にエステアの目から涙が零れる。張り詰めていた緊張が緩んだせいなのかもしれないが、気づかないふりをして続けた。
「ですから、研究棟から離れました。これ以上の注意を引きつけないために。今頃は、きっとお二人の力で脱出されていることと思います。そうでなければ、助けに戻りましょう」
「……そう……そうだったのね……」
エステアの声が震えている。安堵と喜びと、少しの後悔がないまぜになったような感情だ。わたくしがまだ知らない、エステアの表情がそこにはあった。
「ありがとう、ホム。とにかく早くアークドラゴンを片付けて、二人に会いたいわ」
エステアが素直な気持ちを表現してくれたことで、わたくしも漸く安堵することができた。わたくしたちは勝つのだ。その希望が残り少ないエステアの魔力を底上げしてくれる。力をくれるのは、怒りではない。アルフェ様が仰るような希望なのだ。
「わたくしもです。共に戦いましょう、エステア」
「一緒に戦ってくれるの?」
「もちろんです。ですから、何もかも自分で背負って抱え込むのはもう止めにしましょう」
エステアは一人で何でも出来るわけではない。今まではそうしてきたかも知れないけれど、一人ではどうにもならないこともあるのだ。この戦いでエステアは痛感したはずだ。遠距離攻撃の作戦部隊である、マリー様とメルア様が欠けてしまったことで。
「……そうね。私の悪い癖だわ。一人で何でも抱え込まず、誰かを頼るべきだって、メルアにもマリーにも言われて来たのに……」
「わたくしが共に背負いましょう。だからもっと頼ってください。あなたと肩を並べて戦えるのは、ここではわたくしだけですから」
わたくしの発言に、エステアは泣き出しそうに微笑んで首を横に振る。
「なにか間違っておりましたか?」
「違うわ、ホム。ここでは、なんて言わないで」
エステアの微笑みの意味がわたくしに響いてくる。ああ、なんだ。エステアも同じように認めてくれていたのだ。
「世界中どこを探しても、私と肩を並べて戦えるのは……あなただけよ、ホム」
「はい!」
わたくしも微笑んで頷き、アムレートの魔法陣を描き続けているマスターの方へと視線を向けた。
異変はない。翼持つ異形がデモンズアイから直接生まれ出でようとしている様子も、凍り付いた血涙の下からレッサーデーモンが湧き出ているわけでもない。
アークドラゴンの飛翔音以外は聞こえない、不気味な静寂だ。
けれど、これで一つの仮説を立てることが出来る。邪法を使う魔族であっても、デモンズアイのように魔界と繋がったままではなく、人間界に放たれたアークドラゴンは、わたくしたちでいうところのエーテルが無限にあるわけではないはずだ。
デモンズアイの血涙が供給源になっていないことは、これまでの行動から理解できる。デモンズアイの血涙は魔族を生み出す機能しか持っていない。それも、一見無限に見えるけれど、アルフェ様の攻撃の後は沈黙を保っていることから、恐らく有限ではあるのだ。
上空のアークドラゴンがわたくしたちの視線に気づいたのか、牽制するように大きく翼を羽ばたかせる。風が街を抜けて行く。
「力を合わせて、必ず勝ちましょう!」
「はい!」
エステアの声に力強さが戻っている。大丈夫だとその表情が証明してくれている。
マスターの作戦は必ず成功する。この戦いは、もう単なる時間稼ぎではない。わたくしとエステアによるアークドラゴンに勝つための戦いなのだから。
歓楽街の入り口に着地すると、エステアはすぐにわたくしの腕から離れてその場に立った。
「ご無事ですか?」
「ええ、お陰様で」
応じるエステアは身体の彼方此方に火傷を負っている。だが、気懸かりなのは負傷よりもエステアの魔力消耗の度合いだ。
肩で息を続けていなければ呼吸が続かないほどに、体力の消耗も激しい。今は、ほとんど気力で戦っているような状況だろう。けれど、それを一番わかっているのはエステアだ。わたくしが指摘する必要はない。
「どうして……」
呼吸を整えるように努めながら、エステアはわたくしを見つめ、戸惑うように唇を震わせた。アークドラゴンが迫る気配を感じながらもわたくしはその場に跪き、エステアを見上げて目を合わせた。
「あなたを助けるためです、エステア」
「でも、リーフが……」
「マスターも承知してくださいました」
これ以上の気遣いは不要だと、わたくしは笑顔に似た表情を作った。上手く出来たかどうかはわからないが、エステアもわたくしと同じように顔の緊張を解いてくれたのだから、きっと伝わったのだろう。何もかも言葉で表現する必要はないのだ。
エステアが唇を噛み、何かに耐えている。その視線がアークドラゴンに向けられたのを見留めて立ち上がると、こちらを追ってきたはずのアークドラゴンが上空を旋回している姿が視界に飛び込んできた。
怒り任せにわたくしたちを追ってくると思ったが、レッサーデーモンや翼持つ異形よりもかなりの知能があるようだ。わたくしたちの攻撃を警戒してか、様子を窺うように旋回を続けている。
すぐに襲って来ないのは不気味ではあるが、お陰で少しだけエステアと話す時間が出来た。
「……よく耐えてくださいました。ここから先は、わたくしが傍におります」
「ホム……」
エステアの目が潤むのがわかる。一人で全て背負って戦うのは、どんなに苦しかっただろうか。わたくしにその苦しみをどうしたら和らげて差し上げられるのかわからなかったが、大切なことをまずは伝えようと思った。
「ご安心ください。マリー様とメルア様はご無事です」
「え……?」
わたくしの言葉にエステアの目から涙が零れる。張り詰めていた緊張が緩んだせいなのかもしれないが、気づかないふりをして続けた。
「ですから、研究棟から離れました。これ以上の注意を引きつけないために。今頃は、きっとお二人の力で脱出されていることと思います。そうでなければ、助けに戻りましょう」
「……そう……そうだったのね……」
エステアの声が震えている。安堵と喜びと、少しの後悔がないまぜになったような感情だ。わたくしがまだ知らない、エステアの表情がそこにはあった。
「ありがとう、ホム。とにかく早くアークドラゴンを片付けて、二人に会いたいわ」
エステアが素直な気持ちを表現してくれたことで、わたくしも漸く安堵することができた。わたくしたちは勝つのだ。その希望が残り少ないエステアの魔力を底上げしてくれる。力をくれるのは、怒りではない。アルフェ様が仰るような希望なのだ。
「わたくしもです。共に戦いましょう、エステア」
「一緒に戦ってくれるの?」
「もちろんです。ですから、何もかも自分で背負って抱え込むのはもう止めにしましょう」
エステアは一人で何でも出来るわけではない。今まではそうしてきたかも知れないけれど、一人ではどうにもならないこともあるのだ。この戦いでエステアは痛感したはずだ。遠距離攻撃の作戦部隊である、マリー様とメルア様が欠けてしまったことで。
「……そうね。私の悪い癖だわ。一人で何でも抱え込まず、誰かを頼るべきだって、メルアにもマリーにも言われて来たのに……」
「わたくしが共に背負いましょう。だからもっと頼ってください。あなたと肩を並べて戦えるのは、ここではわたくしだけですから」
わたくしの発言に、エステアは泣き出しそうに微笑んで首を横に振る。
「なにか間違っておりましたか?」
「違うわ、ホム。ここでは、なんて言わないで」
エステアの微笑みの意味がわたくしに響いてくる。ああ、なんだ。エステアも同じように認めてくれていたのだ。
「世界中どこを探しても、私と肩を並べて戦えるのは……あなただけよ、ホム」
「はい!」
わたくしも微笑んで頷き、アムレートの魔法陣を描き続けているマスターの方へと視線を向けた。
異変はない。翼持つ異形がデモンズアイから直接生まれ出でようとしている様子も、凍り付いた血涙の下からレッサーデーモンが湧き出ているわけでもない。
アークドラゴンの飛翔音以外は聞こえない、不気味な静寂だ。
けれど、これで一つの仮説を立てることが出来る。邪法を使う魔族であっても、デモンズアイのように魔界と繋がったままではなく、人間界に放たれたアークドラゴンは、わたくしたちでいうところのエーテルが無限にあるわけではないはずだ。
デモンズアイの血涙が供給源になっていないことは、これまでの行動から理解できる。デモンズアイの血涙は魔族を生み出す機能しか持っていない。それも、一見無限に見えるけれど、アルフェ様の攻撃の後は沈黙を保っていることから、恐らく有限ではあるのだ。
上空のアークドラゴンがわたくしたちの視線に気づいたのか、牽制するように大きく翼を羽ばたかせる。風が街を抜けて行く。
「力を合わせて、必ず勝ちましょう!」
「はい!」
エステアの声に力強さが戻っている。大丈夫だとその表情が証明してくれている。
マスターの作戦は必ず成功する。この戦いは、もう単なる時間稼ぎではない。わたくしとエステアによるアークドラゴンに勝つための戦いなのだから。
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