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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第359話 最悪の予兆
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★ホム視点
アルフェ様が風魔法で跳躍してアーケシウスの頭部に乗り、わたくしもそれに続く。マスターはわたくしたちの搭乗を確かめると、噴射式推進装置で移動させ、蒸気車両から離れ始めた。
「ギャッ! ギャギャッ!」
「ギャギャッ! ギャッギャギャッ!」
エーテル遮断ローブを脱いで魔力増幅装置を手にしたマスターのエーテルに反応して、レッサーデーモンたちが目玉をぎょろぎょろと動かしながら追ってくる。大きく裂けた口から覗く長い舌からはとめどなく滴る涎が、その渇望を如実に表している。飢えている魔族にとって、マスターは本当に格好の餌なのだ。
『殲滅してやりますわぁ~!!』
マリー様の声から少し遅れて、アーケシウスを追ってくるレッサーデーモンの群れにスパークショットが炸裂する。最大照射で放たれた宵の明星の威力は、漆黒の薄闇に閉ざされた世界を白く染め上げるほどの閃光を伴い、地上に湧き出たレッサーデーモンの群れは、すさまじい威力で薙ぎ払われていく。
血涙で染め上げられた地面の上をスパークショットの閃光が薙ぎ、生まれ出でようとしていた魔の手をも殲滅する。血涙も攻撃の出力に耐えきれずに干からび、がさがさと乾いた血糊がアーケシウスの噴射式推進装置に煽られて地面から引き剥がされ、辺りに散った。
これで魔族の出現は一時的に止まったわけだが、わたくしたちにはほっと一息吐いている暇はない。
「リーフ!」
素早く行動を起こしたのはアルフェ様だった。アルフェ様に誘われるように、エーテル遮断ローブで再びエーテルを隠したマスターが、アーケシウスから飛び降りる。
マスターは、真なる叡智の書を血糊が剥がれて清浄に近い状態になった石畳の上に置き、魔墨のペンを走らせて魔法陣を描きはじめる。
真なる叡智の書の開かれた頁に何が描かれているかを読み取れるのはマスターだけだ。わたくしはわたくしを成しているマスターの血と共有を受けた記憶のお陰で、ほんの少しだけ、そこに書かれているものが見える程度だ。だが、それでもわかる。地面に描かなければならないのは、都市全体にアムレートの効力を広めるためだ。だからそれだけアムレートの魔法陣は巨大なものを必要とするのだ。
「…………」
マスターがアムレートの魔法陣を書き終わるまでに、どのくらいの時間が必要なのだろう。少なくとも、今、大闘技場《コロッセオ》から溢れた血涙から、また魔族が生まれる気配が広がっている。
赤黒く汚れた血涙の上にざわざわと波紋が立っていく。それが目玉に変わり、レッサーデーモンや翼持つ異形を生み出すまでに、あとどれだけの猶予を持つことができるのだろう。そしてまた、あとどれぐらいデモンズアイとそれが垂れ流している血涙に魔族を生み出す力があるのだろう。
エーテル遮断ローブで今は守られているけれど、マスターには、光に蛾が集まるように無数の魔物たちが寄ってくる。わたくしはどこまでそれをお守りすることが出来るのだろう。
「マリー先輩! メルア先輩!」
魔族の生まれ出る気配を感じ取ったのか、アルフェ様が多機能通信魔導器に向かって叫んでいる。
『わかってるって! けど、次の発射までちょっと時間が――」
通信に応答したのはメルア先輩だ。その声が聞こえたのか否か、大闘技場上空のデモンズアイの目が不気味なほどゆっくりと動き、研究棟の方を向いた。
『うわっ、なにこれヤバい!』
「……メルア先輩!?」
メルア先輩の悲鳴のような声に、アルフェ様が多機能通信魔導器を耳に押し当てる。だが、次に聞こえて来たのはデモンズアイから響くあの不気味な|魔族《使役者)の声だった。
『調子に乗るなよ、虫ケラども!!』
デモンズアイから怒号が響き、その声にアークドラゴンが反応する。エステアを振り切ったアークドラゴンは、そのま天高く舞い上がったかと思うと、研究棟の方へ向かった。
『戻りなさい! 私が相手よ!!』
『マリー!』
『迎撃するのみですわぁ!!』
常にパッシブになっている通信に、忙しなく声が重なっていく。
「ダメだ! 逃げろ!」
警告を発したのはマスターだったが、遅かった。
最大出力のスパークショットの一閃が、アークドラゴンを貫かんと発射されたのだ。だが、アークドラゴンの硬い皮膚はそれを難なく弾き、軌道が逸れたスパークショットは暗雲の彼方へと消えた。
『え……?』
飛翔するアークドラゴンの羽音が、多機能通信魔導器から聞こえてくる。わたくしたちを通り越したアークドラゴンが、研究棟の上空で、口を大きく開けたのが、わたくしにははっきりと見えた。口の中に宿る禍々しいほど漆黒の炎は、最悪の展開を想像させるには十分過ぎた。
『やめて!!』
『きゃあああああああああっ!』
エステアの悲鳴に、マリーとメルアの悲鳴が重なったかと思うと、研究棟の建物が轟音を立てて崩落する音が続いた。
『いやぁああああああっ!!』
多機能通信魔導器からエステアの悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
『マリー! メルア! 応えて! お願い!』
痛切なほど繰り返される呼びかけに、答える声は聞こえない。
アルフェ様が風魔法で跳躍してアーケシウスの頭部に乗り、わたくしもそれに続く。マスターはわたくしたちの搭乗を確かめると、噴射式推進装置で移動させ、蒸気車両から離れ始めた。
「ギャッ! ギャギャッ!」
「ギャギャッ! ギャッギャギャッ!」
エーテル遮断ローブを脱いで魔力増幅装置を手にしたマスターのエーテルに反応して、レッサーデーモンたちが目玉をぎょろぎょろと動かしながら追ってくる。大きく裂けた口から覗く長い舌からはとめどなく滴る涎が、その渇望を如実に表している。飢えている魔族にとって、マスターは本当に格好の餌なのだ。
『殲滅してやりますわぁ~!!』
マリー様の声から少し遅れて、アーケシウスを追ってくるレッサーデーモンの群れにスパークショットが炸裂する。最大照射で放たれた宵の明星の威力は、漆黒の薄闇に閉ざされた世界を白く染め上げるほどの閃光を伴い、地上に湧き出たレッサーデーモンの群れは、すさまじい威力で薙ぎ払われていく。
血涙で染め上げられた地面の上をスパークショットの閃光が薙ぎ、生まれ出でようとしていた魔の手をも殲滅する。血涙も攻撃の出力に耐えきれずに干からび、がさがさと乾いた血糊がアーケシウスの噴射式推進装置に煽られて地面から引き剥がされ、辺りに散った。
これで魔族の出現は一時的に止まったわけだが、わたくしたちにはほっと一息吐いている暇はない。
「リーフ!」
素早く行動を起こしたのはアルフェ様だった。アルフェ様に誘われるように、エーテル遮断ローブで再びエーテルを隠したマスターが、アーケシウスから飛び降りる。
マスターは、真なる叡智の書を血糊が剥がれて清浄に近い状態になった石畳の上に置き、魔墨のペンを走らせて魔法陣を描きはじめる。
真なる叡智の書の開かれた頁に何が描かれているかを読み取れるのはマスターだけだ。わたくしはわたくしを成しているマスターの血と共有を受けた記憶のお陰で、ほんの少しだけ、そこに書かれているものが見える程度だ。だが、それでもわかる。地面に描かなければならないのは、都市全体にアムレートの効力を広めるためだ。だからそれだけアムレートの魔法陣は巨大なものを必要とするのだ。
「…………」
マスターがアムレートの魔法陣を書き終わるまでに、どのくらいの時間が必要なのだろう。少なくとも、今、大闘技場《コロッセオ》から溢れた血涙から、また魔族が生まれる気配が広がっている。
赤黒く汚れた血涙の上にざわざわと波紋が立っていく。それが目玉に変わり、レッサーデーモンや翼持つ異形を生み出すまでに、あとどれだけの猶予を持つことができるのだろう。そしてまた、あとどれぐらいデモンズアイとそれが垂れ流している血涙に魔族を生み出す力があるのだろう。
エーテル遮断ローブで今は守られているけれど、マスターには、光に蛾が集まるように無数の魔物たちが寄ってくる。わたくしはどこまでそれをお守りすることが出来るのだろう。
「マリー先輩! メルア先輩!」
魔族の生まれ出る気配を感じ取ったのか、アルフェ様が多機能通信魔導器に向かって叫んでいる。
『わかってるって! けど、次の発射までちょっと時間が――」
通信に応答したのはメルア先輩だ。その声が聞こえたのか否か、大闘技場上空のデモンズアイの目が不気味なほどゆっくりと動き、研究棟の方を向いた。
『うわっ、なにこれヤバい!』
「……メルア先輩!?」
メルア先輩の悲鳴のような声に、アルフェ様が多機能通信魔導器を耳に押し当てる。だが、次に聞こえて来たのはデモンズアイから響くあの不気味な|魔族《使役者)の声だった。
『調子に乗るなよ、虫ケラども!!』
デモンズアイから怒号が響き、その声にアークドラゴンが反応する。エステアを振り切ったアークドラゴンは、そのま天高く舞い上がったかと思うと、研究棟の方へ向かった。
『戻りなさい! 私が相手よ!!』
『マリー!』
『迎撃するのみですわぁ!!』
常にパッシブになっている通信に、忙しなく声が重なっていく。
「ダメだ! 逃げろ!」
警告を発したのはマスターだったが、遅かった。
最大出力のスパークショットの一閃が、アークドラゴンを貫かんと発射されたのだ。だが、アークドラゴンの硬い皮膚はそれを難なく弾き、軌道が逸れたスパークショットは暗雲の彼方へと消えた。
『え……?』
飛翔するアークドラゴンの羽音が、多機能通信魔導器から聞こえてくる。わたくしたちを通り越したアークドラゴンが、研究棟の上空で、口を大きく開けたのが、わたくしにははっきりと見えた。口の中に宿る禍々しいほど漆黒の炎は、最悪の展開を想像させるには十分過ぎた。
『やめて!!』
『きゃあああああああああっ!』
エステアの悲鳴に、マリーとメルアの悲鳴が重なったかと思うと、研究棟の建物が轟音を立てて崩落する音が続いた。
『いやぁああああああっ!!』
多機能通信魔導器からエステアの悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
『マリー! メルア! 応えて! お願い!』
痛切なほど繰り返される呼びかけに、答える声は聞こえない。
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