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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第350話 光属性魔法アムレート
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「……話を戻してもいいかしら? 時間が惜しいわ」
冷静に切り出したエステアに、プロフェッサーが同意を示す。
「そうですね。悪い報せをもうひとつしなければなりませんが、構いませんか?」
「現状を正しく把握することは、なにより重要です」
誰もが希望を持ちたいと思っている。けれど、安易な楽観は目の前の大切な事実を見落としかねない。
「陸上艦のみならず、駐留軍の機兵も護衛として持ち出されました。どういうやりとりがあったかはわかりませんが、結論だけ言えば、軍の戦力たるものはもうほとんど残されていません」
「だからガイストアーマーなんですのね」
プロフェッサーのもたらした情報に、マリーが納得した様子で頷く。
「大学部から拝借させてもらった。絶対軍用従機があった方がいいと思ったのでな。その大学部も自分らを守らなきゃってんで、三機融通してもらうのがやっとだった」
タヌタヌ先生が付け加えると、メルアが大きく目を見開いた。
「待って待って! じゃあさ、援軍はもう来ないってこと? うちらだけで、無限に湧いて来ちゃうあいつらと戦わなきゃってこと!?」
「……いえ、そうではありません。私の権限で、動かせる部隊に救援を要請しました。ただ、到着には最低でもあと数時間は掛かります」
「それまで持ちこたえなければならないというわけですわね」
軍の人間でもあるマリーが、状況を正しく冷静に判断して相槌を打つ。
「あのデモンズアイをどうにかしないと、ダメなのよねぇ~。流石の私も、転移門の封印魔法なんて持ってないし~」
「封印……魔法……」
マチルダ先生の言葉で、なにか思い出せそうな気がした。
僕は知っている。少なくとも、前世の僕はそれを、真なる叡智の書に書き写している。
僕の思考に反応して、真なる叡智の書の頁が捲れていく。
その頁には、光属性結界魔法アムレートの簡易術式が記されていた。
前世の僕が依頼を受けて製造した聖騎士の装備の報酬として、彼の持つ光魔法の知識を報酬として受け取ったのだ。
聖華の三女神を信奉するカーライル聖王国の聖導教会が伝えるその魔法は、邪悪なる者を祓い浄化する。僕をエーテル過剰生成症候群たらしめている現況は、女神アウローラの光のエーテルなのだから、術式を発動させることが出来れば、最大限の効果を発揮出来るはずだ。
尤も、前世の僕には聖痕はなく、僕も光魔法に興味を示してこなかったので、術式起動自体が初めてだ。だが、実現出来れば他のどの作戦よりも勝利に近いことだけは確かだ。
「……一つだけ、この状況を打開する方法があるかもしれません」
「えっ!? ししょー、それ本気で言ってる!?」
メルアの問いかけに、僕は真なる叡智の書を胸に抱いてゆっくりと頷いた。
「僕は本気だよ、メルア。魔族を撃退出来る光属性結界魔法、アムレートを使えば、可能だと思う」
アムレートの言葉にマチルダ先生が眉を上げる。メルアも興味を持って僕に質問を向けた。
「アムレートって、魔族が忌避する光の魔素を拡散して放出する光魔法だよね? 確かに、追い払うことは出来るだろうけど……」
「その通り。でも、アムレートの効果は単なる魔除けの結界というだけじゃない。結界内に浄化の空間領域を発生させることもできるんだ。アムレートの結界内では、低位の魔族は体組織を維持できずに崩壊する」
「……つまりその結界を使えば、雑魚もろともデモンズ・アイの血涙を消滅させ、更なる増援も絶つことが出来るということですわね」
僕の説明を聞いたマリーが、みんなにわかりやすいように補足してくれる。
「大雑把に言うとそういうことになるね。アムレートの効果を最大限にして、街全体に広げるために魔法陣を描く必要がある。街全体を結界で覆ってしまえば、デモンズ・アイがどこに移動しても、街を血涙から守ることが可能だ」
マリーの補足に相槌を打ち、僕は先生方へ視線を移した。プロフェッサーは僕の作戦をかなり評価しているようだが、マチルダ先生とタヌタヌ先生は険しい表情を浮かべていた。
「……いかがですか、先生方?」
「いい案だとは思うわよ。でも、今ここにいるメンバーでは、さすがに不可能じゃないのかしら~?」
マチルダ先生の言葉にメルアが目を見開く。
「そーだよ! ししょーって、エーテル過剰生成症候群ってだけで、聖痕は持ってないじゃん!?」
光属性魔法を扱うことが出来る者は限られている。女神その人か、あるいは聖痕持ちと呼ばれる先天的な紋様状の痣がある者、あるいは聖王国の聖騎士の秘術を受けて後天的に聖痕を継承した者だけなのだ。
「うん。だから、『打開する方法があるかもしれない』なんだ」
僕が認めると、皆の表情に落胆の色が微かに浮かんだ。けれど、アルフェは違った。
「……リーフに聖痕はない。ないけど、でも、ワタシ、リーフなら出来ると思う! だって、リーフのエーテルって金色ですっごくキラキラしていて……ワタシはまだ見たことないけど、本で読んだことある光属性の特性とそっくりなんだもん!」
アルフェの必死の訴えにマチルダ先生が目を瞬く。
「……そうなのですか、メルア?」
「あ、はい。アルフェちゃんの言う通り、金ぴかのエーテルなんです。エステアのエーテルのこと、いつも眩しいって思ってたけど、ししょーのエーテルの輝きはそれとは全然違う。ただエーテルが多いからってわけじゃない気がしてたんだけど、光属性かもって言われたら、そうかもしれない」
マチルダ先生の問いかけに、メルアが僕をじっと見つめながらエーテルの特徴を皆に伝える。だが、マチルダ先生はそれだけでは納得しなかった。
「そのエーテル過剰生成症候群は、後天的なものなのでしょう?」
魔女の血統らしい、鋭い指摘だ。さすがに女神アウローラのエーテルを浴びたとは言えないけれど、その経緯こそが僕に実現可能性を示していることも確かなのだ。
「そうですね。聖痕のように先天的なものでないことは確かです」
「万が一、光属性の適性があったとして、魔法が苦手というあなたに、その魔法を使えるの?」
マチルダ先生が胸の前で腕を組んだまま、厳しい声で問う。
「光魔法を簡易術式に落とし込み、巻物に近しいものとして所持しています。僕のエーテルの特性が光属性を備えているのならば、起動できるはずです」
僕は胸に抱いた真なる叡智の書を視線で示しながら、訴えた。マチルダ先生は首を縦に振らない。その隣のタヌタヌ先生は身震いするように全身を小刻みに左右に震わせた。
「ある種の賭けというわけか……。わしは、反対だ。不確実な作戦に生徒たちの命を預けることは出来ん。たとえどれだけ戦力が心許なかろうが、魔族の侵略から街を救うのは、軍人であるわしらが成すべきことだ。そうですよな、クリストファー少佐」
「……正論過ぎるほどの正論です」
タヌタヌ先生らしい判断に、プロフェッサーが同意を示す。だが、話はそれだけでは終わらなかった。
「ですが、目的と手段を履き違えてはなりませんよ、タヌタヌ軍曹」
「ハッ」
プロフェッサーの鋭い声に、タヌタヌ先生が姿勢を正して唇を引き結ぶ。
「大人であり、教師であり、軍人であるという我々の立場では、反対すべきところなのでしょう。しかし、それは賢い選択とは言えません。我々が成すべきことは、この街から魔族を一掃することです。また、そのために、犠牲者を一人でも減らす作戦を考える必要があります」
プロフェッサーが大闘技場を仰ぎ見る。その上空には、今にも零れ落ちそうなデモンズアイの血涙が垂れ下がっている。血溜まりから新たなレッサーデーモンが生まれれば、またこの場所に殺到するのは時間の問題だ。
「そうですね、エステア?」
話を振られたエステアは、覚悟を決めた様子で深く頷いた。
「……理解したつもりです。援軍が来るまでの数時間を待つ余裕はない。戦闘によるエーテルの消耗を考えれば、今すぐ作戦を実行するべきと私は考えます」
「私も同感ですわぁ~! ついでに、建国祭をぶち壊しにしてくれたあいつに、私の宵の明星をお見舞いしなければ気がおさまりませんの!」
「あ! 最大出力にすれば、怯ませることぐらいは出来るかもね!」
マリーが強く同意を示し、メルアもそれに便乗する。
「んもう! メルアったら、自分が作ったものにもっと自信を持ってくださいまし! もしかすると撃退出来る可能性だってありますわよ!」
「確かに、射程距離まで入れば、可能性はあるかもしれないね」
そのための魔力増幅装置を仕込んでいるのだ。後先を考えなければ、必殺の一撃を放つことも出来るだろう。
「リーフの作戦と同時に進めれば、最も効率がよさそうねぇ~。一か八かに賭けてみるのは、この際悪くない案かも~」
プロフェッサーとエステアに加え、マリー、メルアの賛成を受けてマチルダ先生の態度も軟化する。
「ご協力感謝致します、マチルダ少佐」
「無闇やたらにエーテルを消費するよりは、いいわよねぇ~」
微笑み掛けるプロフェッサーに、マチルダ先生も唇の端を持ち上げる。もう後がないことは、ここにいる全員が理解している。それだけ切羽詰まっているだけに、失敗は許されない。
冷静に切り出したエステアに、プロフェッサーが同意を示す。
「そうですね。悪い報せをもうひとつしなければなりませんが、構いませんか?」
「現状を正しく把握することは、なにより重要です」
誰もが希望を持ちたいと思っている。けれど、安易な楽観は目の前の大切な事実を見落としかねない。
「陸上艦のみならず、駐留軍の機兵も護衛として持ち出されました。どういうやりとりがあったかはわかりませんが、結論だけ言えば、軍の戦力たるものはもうほとんど残されていません」
「だからガイストアーマーなんですのね」
プロフェッサーのもたらした情報に、マリーが納得した様子で頷く。
「大学部から拝借させてもらった。絶対軍用従機があった方がいいと思ったのでな。その大学部も自分らを守らなきゃってんで、三機融通してもらうのがやっとだった」
タヌタヌ先生が付け加えると、メルアが大きく目を見開いた。
「待って待って! じゃあさ、援軍はもう来ないってこと? うちらだけで、無限に湧いて来ちゃうあいつらと戦わなきゃってこと!?」
「……いえ、そうではありません。私の権限で、動かせる部隊に救援を要請しました。ただ、到着には最低でもあと数時間は掛かります」
「それまで持ちこたえなければならないというわけですわね」
軍の人間でもあるマリーが、状況を正しく冷静に判断して相槌を打つ。
「あのデモンズアイをどうにかしないと、ダメなのよねぇ~。流石の私も、転移門の封印魔法なんて持ってないし~」
「封印……魔法……」
マチルダ先生の言葉で、なにか思い出せそうな気がした。
僕は知っている。少なくとも、前世の僕はそれを、真なる叡智の書に書き写している。
僕の思考に反応して、真なる叡智の書の頁が捲れていく。
その頁には、光属性結界魔法アムレートの簡易術式が記されていた。
前世の僕が依頼を受けて製造した聖騎士の装備の報酬として、彼の持つ光魔法の知識を報酬として受け取ったのだ。
聖華の三女神を信奉するカーライル聖王国の聖導教会が伝えるその魔法は、邪悪なる者を祓い浄化する。僕をエーテル過剰生成症候群たらしめている現況は、女神アウローラの光のエーテルなのだから、術式を発動させることが出来れば、最大限の効果を発揮出来るはずだ。
尤も、前世の僕には聖痕はなく、僕も光魔法に興味を示してこなかったので、術式起動自体が初めてだ。だが、実現出来れば他のどの作戦よりも勝利に近いことだけは確かだ。
「……一つだけ、この状況を打開する方法があるかもしれません」
「えっ!? ししょー、それ本気で言ってる!?」
メルアの問いかけに、僕は真なる叡智の書を胸に抱いてゆっくりと頷いた。
「僕は本気だよ、メルア。魔族を撃退出来る光属性結界魔法、アムレートを使えば、可能だと思う」
アムレートの言葉にマチルダ先生が眉を上げる。メルアも興味を持って僕に質問を向けた。
「アムレートって、魔族が忌避する光の魔素を拡散して放出する光魔法だよね? 確かに、追い払うことは出来るだろうけど……」
「その通り。でも、アムレートの効果は単なる魔除けの結界というだけじゃない。結界内に浄化の空間領域を発生させることもできるんだ。アムレートの結界内では、低位の魔族は体組織を維持できずに崩壊する」
「……つまりその結界を使えば、雑魚もろともデモンズ・アイの血涙を消滅させ、更なる増援も絶つことが出来るということですわね」
僕の説明を聞いたマリーが、みんなにわかりやすいように補足してくれる。
「大雑把に言うとそういうことになるね。アムレートの効果を最大限にして、街全体に広げるために魔法陣を描く必要がある。街全体を結界で覆ってしまえば、デモンズ・アイがどこに移動しても、街を血涙から守ることが可能だ」
マリーの補足に相槌を打ち、僕は先生方へ視線を移した。プロフェッサーは僕の作戦をかなり評価しているようだが、マチルダ先生とタヌタヌ先生は険しい表情を浮かべていた。
「……いかがですか、先生方?」
「いい案だとは思うわよ。でも、今ここにいるメンバーでは、さすがに不可能じゃないのかしら~?」
マチルダ先生の言葉にメルアが目を見開く。
「そーだよ! ししょーって、エーテル過剰生成症候群ってだけで、聖痕は持ってないじゃん!?」
光属性魔法を扱うことが出来る者は限られている。女神その人か、あるいは聖痕持ちと呼ばれる先天的な紋様状の痣がある者、あるいは聖王国の聖騎士の秘術を受けて後天的に聖痕を継承した者だけなのだ。
「うん。だから、『打開する方法があるかもしれない』なんだ」
僕が認めると、皆の表情に落胆の色が微かに浮かんだ。けれど、アルフェは違った。
「……リーフに聖痕はない。ないけど、でも、ワタシ、リーフなら出来ると思う! だって、リーフのエーテルって金色ですっごくキラキラしていて……ワタシはまだ見たことないけど、本で読んだことある光属性の特性とそっくりなんだもん!」
アルフェの必死の訴えにマチルダ先生が目を瞬く。
「……そうなのですか、メルア?」
「あ、はい。アルフェちゃんの言う通り、金ぴかのエーテルなんです。エステアのエーテルのこと、いつも眩しいって思ってたけど、ししょーのエーテルの輝きはそれとは全然違う。ただエーテルが多いからってわけじゃない気がしてたんだけど、光属性かもって言われたら、そうかもしれない」
マチルダ先生の問いかけに、メルアが僕をじっと見つめながらエーテルの特徴を皆に伝える。だが、マチルダ先生はそれだけでは納得しなかった。
「そのエーテル過剰生成症候群は、後天的なものなのでしょう?」
魔女の血統らしい、鋭い指摘だ。さすがに女神アウローラのエーテルを浴びたとは言えないけれど、その経緯こそが僕に実現可能性を示していることも確かなのだ。
「そうですね。聖痕のように先天的なものでないことは確かです」
「万が一、光属性の適性があったとして、魔法が苦手というあなたに、その魔法を使えるの?」
マチルダ先生が胸の前で腕を組んだまま、厳しい声で問う。
「光魔法を簡易術式に落とし込み、巻物に近しいものとして所持しています。僕のエーテルの特性が光属性を備えているのならば、起動できるはずです」
僕は胸に抱いた真なる叡智の書を視線で示しながら、訴えた。マチルダ先生は首を縦に振らない。その隣のタヌタヌ先生は身震いするように全身を小刻みに左右に震わせた。
「ある種の賭けというわけか……。わしは、反対だ。不確実な作戦に生徒たちの命を預けることは出来ん。たとえどれだけ戦力が心許なかろうが、魔族の侵略から街を救うのは、軍人であるわしらが成すべきことだ。そうですよな、クリストファー少佐」
「……正論過ぎるほどの正論です」
タヌタヌ先生らしい判断に、プロフェッサーが同意を示す。だが、話はそれだけでは終わらなかった。
「ですが、目的と手段を履き違えてはなりませんよ、タヌタヌ軍曹」
「ハッ」
プロフェッサーの鋭い声に、タヌタヌ先生が姿勢を正して唇を引き結ぶ。
「大人であり、教師であり、軍人であるという我々の立場では、反対すべきところなのでしょう。しかし、それは賢い選択とは言えません。我々が成すべきことは、この街から魔族を一掃することです。また、そのために、犠牲者を一人でも減らす作戦を考える必要があります」
プロフェッサーが大闘技場を仰ぎ見る。その上空には、今にも零れ落ちそうなデモンズアイの血涙が垂れ下がっている。血溜まりから新たなレッサーデーモンが生まれれば、またこの場所に殺到するのは時間の問題だ。
「そうですね、エステア?」
話を振られたエステアは、覚悟を決めた様子で深く頷いた。
「……理解したつもりです。援軍が来るまでの数時間を待つ余裕はない。戦闘によるエーテルの消耗を考えれば、今すぐ作戦を実行するべきと私は考えます」
「私も同感ですわぁ~! ついでに、建国祭をぶち壊しにしてくれたあいつに、私の宵の明星をお見舞いしなければ気がおさまりませんの!」
「あ! 最大出力にすれば、怯ませることぐらいは出来るかもね!」
マリーが強く同意を示し、メルアもそれに便乗する。
「んもう! メルアったら、自分が作ったものにもっと自信を持ってくださいまし! もしかすると撃退出来る可能性だってありますわよ!」
「確かに、射程距離まで入れば、可能性はあるかもしれないね」
そのための魔力増幅装置を仕込んでいるのだ。後先を考えなければ、必殺の一撃を放つことも出来るだろう。
「リーフの作戦と同時に進めれば、最も効率がよさそうねぇ~。一か八かに賭けてみるのは、この際悪くない案かも~」
プロフェッサーとエステアに加え、マリー、メルアの賛成を受けてマチルダ先生の態度も軟化する。
「ご協力感謝致します、マチルダ少佐」
「無闇やたらにエーテルを消費するよりは、いいわよねぇ~」
微笑み掛けるプロフェッサーに、マチルダ先生も唇の端を持ち上げる。もう後がないことは、ここにいる全員が理解している。それだけ切羽詰まっているだけに、失敗は許されない。
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