342 / 396
第四章 絢爛のスクールフェスタ
第342話 魔族の襲撃
しおりを挟む
晴れ渡っていたはずの青い空が、赤黒い混沌の雲に浸食されている。
その中心の裂け目から、巨大な目玉の魔族――デモンズアイがどろりと溶け出すようにその身体を覗かせている。その禍々しい目玉からどろどろと血の涙が流され、美しいカナルフォード学園を穢していく。
「……ひでぇ臭いだ……。鼻が曲がっちまう……」
ヴァナベルが耐えかねて呻くように紡ぐ声が聞こえる。大闘技場の庇型の屋根の上に、闘技場にぼたぼたと零れる血の涙は、見る間に生き物たる意思を持って動き始めるのだ。
遠目では良く見えないが、デモンズアイの血涙は翼を持つ異形という目玉に羽がついたような魔族や、レッサーデーモンと呼ばれる人間の身体組織を限りなく削ぎ落とした上に死体を継ぎ接ぎして背中に腕を生やし、脇腹に巨大な目玉を備えたおぞましい姿の魔族を生み出す。既にあちこちで上がっている悲鳴が絶望の叫びに変わるまで、一刻の猶予もない。
「……どうしよう、どうしたらいい……?」
アルフェが咄嗟に取り出した魔導杖を握りしめ、震える声で僕に訊ねて来る。
「街を襲うのは下等魔族と呼ばれる魔物だ。僕たちに勝てない相手じゃない。だけど、あのデモンズアイを倒さない限りは無限に湧き続ける」
「……大闘技場に向かいましょう。ナイル様たちを助けなければ」
僕と記憶を共有しているホムが、いち早く僕の言葉の意味を読み取ってくれる。
「まずはエステアたちと合流しないとね」
一体二体ならホムとアルフェでも倒せるだろう。だが、今この瞬間にどれだけの魔物と魔族が生み出されているのか、人魔大戦の前線を経験していない僕には、見当もつかない。
どれだけの恐怖と絶望を想像しているだろうとアルフェの手を探るように手を伸ばす。僕が握るよりも早く、アルフェの手が強く僕の手を握りしめた。
「ワタシは大丈夫。リーフを守るよ。それより、あのシルエット……翼持つ異形が来る……」
アルフェが上空を指差すと、無数の影が大闘技場上空から飛び立つ姿が見えた。影は見る間に近づき、その全貌を露わにする。翼を持つ無数の目玉が、紅い瞳を禍々しく光らせ、瞼のように目を覆う無数の牙をねっとりとした粘液で光らせながら人間たちの物色を始めているのだ。
「氷よ――」
アルフェが魔法の杖を振るい、氷魔法の詠唱を始める。詠唱はアルフェの想像力を形として具現させ、至る所にシェルターのような氷の防御壁を築いた。
「ヌメ、武器出せ!」
「あーい!」
ヴァナベルの合図でヌメリンが屋台の裏からヴァナベルの剣を取り出して投げ、自分の巨大な戦斧を街灯に向かって打ち下ろした。
「わかってるじゃねえか!」
ヴァナベルが折れて傾きかけた街灯に跳躍して飛び乗る。ヌメリンはそれを見越していたように戦斧を捨てて街灯を抱えると、驚異的な怪力で街灯ごとヴァナベルを持ち上げた。
「よいしょぉ~!」
「こっち来るんじゃねぇよ、バケモン!!」
ヌメリンが振り回す街灯の上で、ヴァナベルが接近する翼持つ異形を次々に刺突して迎え撃つ。
「わたくしも加勢致します!」
「ウィンドフロー!」
ヴァナベルに倣って街灯の上に跳躍するホムを、アルフェの魔法が補助する。ホムは風に乗って街灯の天辺に立ち、街灯の間を飛び渡りながら的確に翼持つ異形を蹴り落としていく。
人々はアルフェの作った氷の壁に身を潜め、次から次へと地面に叩き付けられる異形に、顔を覆いながら悲鳴を押し殺している。
今は善戦しているとはいえ、楽観は出来ない。これが続けば、必ず体力の限界が来るからだ。魔族はそれを狙っている。下等魔族は知能の欠片もないが、それを生み出す魔族の親玉の狡猾さを考えれば、これだけで攻撃が済むとは思えない。
「……けど、一体なんのために……」
――この学園がなぜ『選ばれた』のか。
周囲の状況の理解と並行して考えを巡らせたその時、黒い影が急接近してくるのがわかった。
「ワタシのリーフに手を出さないで!」
冷たい疾風が駆け抜け、アルフェの氷魔法が翼持つ異形を地面に串刺しにする。デモンズアイが流すようなどろどろとした赤黒い血涙を零し、下等魔族はその場で息絶えた。
「ありがとう、アルフェ」
咄嗟に真なる叡智の書を手にしたがアルフェの攻撃はそれよりも遙かに早かった。
「どういたしまして。ひとまずここは、もう大丈夫かな?」
アルフェが少し無理をした笑顔を見せ、上空の様子を示す。少なくともヴァナベルとヌメリン、ホムの攻撃によってこちらに飛来してきた翼持つ異形の一団は一掃できたようだ。
「おい、無事か、リーフ!?」
ヌメリンが抱えた街灯の上から跳躍したヴァナベルが、飛び降りながらこちらに問いかけてくる。
「おかげさまで」
応えながら氷の壁に身を寄せていた人々の様子を注意深く観察する。魔族の取りこぼしはなく、どうやら無事のようだ。
「それにしても気持ち悪いねぇ~。目玉に直接翼が生えてるし、変な牙はいっぱいあるし~」
「これって魔獣……じゃねぇよな。本でしか見たことねぇけど、これが魔族なのか?」
敵を観察する余裕のなかった二人が、アルフェが倒した一体を見下ろしながら気味悪そうに呟く。ホムが戻って来たのを確認し、僕は翼持つ異形を近くにいた全員に示した。
「これは、翼持つ異形だ。使役式の下等魔族だよ。あのデモンズアイが召喚している」
「ん? 待て。使役式ってことは、コイツに命令してるヤツがいるってことか?」
事の重大さに気づいたヴァナベルが、僕に確かめるように訊いてくる。
「そういうことになるね。それと、あのデモンズアイを倒さない限り、こいつらは際限なく湧き続ける。厄介なのは、こいつよりもレッサーデーモンだ」
「……四つん這いの人間に似た悪趣味な姿の魔族です。脇腹の目玉には毒がありますから、決して攻撃してはなりません」
僕の説明を補うように、ホムが険しい顔で続けてくれる。ヴァナベルたちとは同じ軍事科というだけあり、彼女たちが誤って目に攻撃しないように忠告したのだ。
「わかった。こいつはともかく、レッサーデーモンってヤツの目は狙わねぇよ」
「目玉ほどではないけれど、全身に毒を持つから、遠距離攻撃が有効だろうね。幸か不幸か、まだ街中には溢れていないようだけど……」
辺りを見回しても、レッサーデーモンの気配は感じられない。幾つかの塊になって上空を回っている翼持つ異形が、また増え始めているぐらいだ。まあ、それもかなり問題視しなければならないのだけれど。
「けど、なんでそんなことわかるんだよ?」
「それは……」
「あやつらの知能の欠片もない笑い声は、癇にさわるからな。ギャギャギャっと甲高く喚くから、居所などすぐにわかる」
言いかけた僕の言葉を引き取ったのは、意外なことにハーディアだった。
「あんた詳しいんだな」
「まあな。それより、どうするつもりじゃ? このままでは、いくらわらわとて、ゆっくりカオス焼きを楽しむ場合ではないぞ」
「こっちも焼いてる場合じゃねぇんだよ。けど、腹が減ってるならやるよ!」
昨日ハーディアにお土産を持たせようとしていたくらいには、彼女の食べっぷりを気に入っていたのだろう。ヴァナベルが客に渡すばかりになっていたカオス焼きを素早く取りに戻り、ハーディアに渡す。
「わらわの献上品として受け取ってやろう。有り難く頂戴するぞ」
ヴァナベルの行動が余程嬉しかったのか、ハーディアは屈託のない笑みを浮かべ、カオス焼きを頬張った。
「……で、どうする? ここも安全とまでは言えないよな」
「そうだね。みんなの安全を確保したい。けど、逃げられそうな場所と言えば、講堂以外に思いつかないんだ。そこまでハーディアを連れていってもらえないか?」
緊急時の避難場というものを決めておくべきだったが、今はそんなことを悔いている場合ではない。魔族の襲撃となれば、もう先生方も動いているだろう。人魔大戦中であれば、軍も初動を始めている頃だ。もしかすると、学園内のことを熟知しているプロフェッサーが率いる公安部隊も助けに来てくれるかもしれない。
「……それに異論はねぇけどさ、お前はどうするんだよ、リーフ?」
ヴァナベルの問いかけに僕はアルフェとホムと目を合わせた。
「生徒会として、生徒の安全を確保する必要がある。まずはエステアたちと合流して、方針を固める」
「わかった。じゃあ、なんか決まったら知らせてくれ。オレもいざというとき用に多機能通信魔導器、持ってるからさ」
事前にマリーが支給してくれたのだろう、多機能通信魔導器を示してヴァナベルがにっと笑う。こういう時のヴァナベルの笑みは、強がりなんだろうな。でも、それが僕としても心強い。
「避難誘導を頼んだよ、ヴァナベル、ヌメリン」
「任せて~」
快く避難誘導を引き受けてくれたヴァナベルとヌメリンの隣に、ハーディアが並ぶ。
「怖い思いをさせてごめんね。ワタシたちが必ずなんとかするから無事でいてね、ハーディアちゃん」
「無理はするなよ。わらわは、大抵のことはどうにか出来る。心配するな」
ハーディアは、怯える様子など微塵も見せずに、力強く言い切る。
「ありがとう。その言葉が心強いよ」
僕は三人にそう告げて、アルフェとホムと駆け出した。目指すは生徒会の本部テント。あと少しの距離なのに、逃げ惑う人たちのお陰で辿り着くまでの時間が途方も無く長く感じられた。
その中心の裂け目から、巨大な目玉の魔族――デモンズアイがどろりと溶け出すようにその身体を覗かせている。その禍々しい目玉からどろどろと血の涙が流され、美しいカナルフォード学園を穢していく。
「……ひでぇ臭いだ……。鼻が曲がっちまう……」
ヴァナベルが耐えかねて呻くように紡ぐ声が聞こえる。大闘技場の庇型の屋根の上に、闘技場にぼたぼたと零れる血の涙は、見る間に生き物たる意思を持って動き始めるのだ。
遠目では良く見えないが、デモンズアイの血涙は翼を持つ異形という目玉に羽がついたような魔族や、レッサーデーモンと呼ばれる人間の身体組織を限りなく削ぎ落とした上に死体を継ぎ接ぎして背中に腕を生やし、脇腹に巨大な目玉を備えたおぞましい姿の魔族を生み出す。既にあちこちで上がっている悲鳴が絶望の叫びに変わるまで、一刻の猶予もない。
「……どうしよう、どうしたらいい……?」
アルフェが咄嗟に取り出した魔導杖を握りしめ、震える声で僕に訊ねて来る。
「街を襲うのは下等魔族と呼ばれる魔物だ。僕たちに勝てない相手じゃない。だけど、あのデモンズアイを倒さない限りは無限に湧き続ける」
「……大闘技場に向かいましょう。ナイル様たちを助けなければ」
僕と記憶を共有しているホムが、いち早く僕の言葉の意味を読み取ってくれる。
「まずはエステアたちと合流しないとね」
一体二体ならホムとアルフェでも倒せるだろう。だが、今この瞬間にどれだけの魔物と魔族が生み出されているのか、人魔大戦の前線を経験していない僕には、見当もつかない。
どれだけの恐怖と絶望を想像しているだろうとアルフェの手を探るように手を伸ばす。僕が握るよりも早く、アルフェの手が強く僕の手を握りしめた。
「ワタシは大丈夫。リーフを守るよ。それより、あのシルエット……翼持つ異形が来る……」
アルフェが上空を指差すと、無数の影が大闘技場上空から飛び立つ姿が見えた。影は見る間に近づき、その全貌を露わにする。翼を持つ無数の目玉が、紅い瞳を禍々しく光らせ、瞼のように目を覆う無数の牙をねっとりとした粘液で光らせながら人間たちの物色を始めているのだ。
「氷よ――」
アルフェが魔法の杖を振るい、氷魔法の詠唱を始める。詠唱はアルフェの想像力を形として具現させ、至る所にシェルターのような氷の防御壁を築いた。
「ヌメ、武器出せ!」
「あーい!」
ヴァナベルの合図でヌメリンが屋台の裏からヴァナベルの剣を取り出して投げ、自分の巨大な戦斧を街灯に向かって打ち下ろした。
「わかってるじゃねえか!」
ヴァナベルが折れて傾きかけた街灯に跳躍して飛び乗る。ヌメリンはそれを見越していたように戦斧を捨てて街灯を抱えると、驚異的な怪力で街灯ごとヴァナベルを持ち上げた。
「よいしょぉ~!」
「こっち来るんじゃねぇよ、バケモン!!」
ヌメリンが振り回す街灯の上で、ヴァナベルが接近する翼持つ異形を次々に刺突して迎え撃つ。
「わたくしも加勢致します!」
「ウィンドフロー!」
ヴァナベルに倣って街灯の上に跳躍するホムを、アルフェの魔法が補助する。ホムは風に乗って街灯の天辺に立ち、街灯の間を飛び渡りながら的確に翼持つ異形を蹴り落としていく。
人々はアルフェの作った氷の壁に身を潜め、次から次へと地面に叩き付けられる異形に、顔を覆いながら悲鳴を押し殺している。
今は善戦しているとはいえ、楽観は出来ない。これが続けば、必ず体力の限界が来るからだ。魔族はそれを狙っている。下等魔族は知能の欠片もないが、それを生み出す魔族の親玉の狡猾さを考えれば、これだけで攻撃が済むとは思えない。
「……けど、一体なんのために……」
――この学園がなぜ『選ばれた』のか。
周囲の状況の理解と並行して考えを巡らせたその時、黒い影が急接近してくるのがわかった。
「ワタシのリーフに手を出さないで!」
冷たい疾風が駆け抜け、アルフェの氷魔法が翼持つ異形を地面に串刺しにする。デモンズアイが流すようなどろどろとした赤黒い血涙を零し、下等魔族はその場で息絶えた。
「ありがとう、アルフェ」
咄嗟に真なる叡智の書を手にしたがアルフェの攻撃はそれよりも遙かに早かった。
「どういたしまして。ひとまずここは、もう大丈夫かな?」
アルフェが少し無理をした笑顔を見せ、上空の様子を示す。少なくともヴァナベルとヌメリン、ホムの攻撃によってこちらに飛来してきた翼持つ異形の一団は一掃できたようだ。
「おい、無事か、リーフ!?」
ヌメリンが抱えた街灯の上から跳躍したヴァナベルが、飛び降りながらこちらに問いかけてくる。
「おかげさまで」
応えながら氷の壁に身を寄せていた人々の様子を注意深く観察する。魔族の取りこぼしはなく、どうやら無事のようだ。
「それにしても気持ち悪いねぇ~。目玉に直接翼が生えてるし、変な牙はいっぱいあるし~」
「これって魔獣……じゃねぇよな。本でしか見たことねぇけど、これが魔族なのか?」
敵を観察する余裕のなかった二人が、アルフェが倒した一体を見下ろしながら気味悪そうに呟く。ホムが戻って来たのを確認し、僕は翼持つ異形を近くにいた全員に示した。
「これは、翼持つ異形だ。使役式の下等魔族だよ。あのデモンズアイが召喚している」
「ん? 待て。使役式ってことは、コイツに命令してるヤツがいるってことか?」
事の重大さに気づいたヴァナベルが、僕に確かめるように訊いてくる。
「そういうことになるね。それと、あのデモンズアイを倒さない限り、こいつらは際限なく湧き続ける。厄介なのは、こいつよりもレッサーデーモンだ」
「……四つん這いの人間に似た悪趣味な姿の魔族です。脇腹の目玉には毒がありますから、決して攻撃してはなりません」
僕の説明を補うように、ホムが険しい顔で続けてくれる。ヴァナベルたちとは同じ軍事科というだけあり、彼女たちが誤って目に攻撃しないように忠告したのだ。
「わかった。こいつはともかく、レッサーデーモンってヤツの目は狙わねぇよ」
「目玉ほどではないけれど、全身に毒を持つから、遠距離攻撃が有効だろうね。幸か不幸か、まだ街中には溢れていないようだけど……」
辺りを見回しても、レッサーデーモンの気配は感じられない。幾つかの塊になって上空を回っている翼持つ異形が、また増え始めているぐらいだ。まあ、それもかなり問題視しなければならないのだけれど。
「けど、なんでそんなことわかるんだよ?」
「それは……」
「あやつらの知能の欠片もない笑い声は、癇にさわるからな。ギャギャギャっと甲高く喚くから、居所などすぐにわかる」
言いかけた僕の言葉を引き取ったのは、意外なことにハーディアだった。
「あんた詳しいんだな」
「まあな。それより、どうするつもりじゃ? このままでは、いくらわらわとて、ゆっくりカオス焼きを楽しむ場合ではないぞ」
「こっちも焼いてる場合じゃねぇんだよ。けど、腹が減ってるならやるよ!」
昨日ハーディアにお土産を持たせようとしていたくらいには、彼女の食べっぷりを気に入っていたのだろう。ヴァナベルが客に渡すばかりになっていたカオス焼きを素早く取りに戻り、ハーディアに渡す。
「わらわの献上品として受け取ってやろう。有り難く頂戴するぞ」
ヴァナベルの行動が余程嬉しかったのか、ハーディアは屈託のない笑みを浮かべ、カオス焼きを頬張った。
「……で、どうする? ここも安全とまでは言えないよな」
「そうだね。みんなの安全を確保したい。けど、逃げられそうな場所と言えば、講堂以外に思いつかないんだ。そこまでハーディアを連れていってもらえないか?」
緊急時の避難場というものを決めておくべきだったが、今はそんなことを悔いている場合ではない。魔族の襲撃となれば、もう先生方も動いているだろう。人魔大戦中であれば、軍も初動を始めている頃だ。もしかすると、学園内のことを熟知しているプロフェッサーが率いる公安部隊も助けに来てくれるかもしれない。
「……それに異論はねぇけどさ、お前はどうするんだよ、リーフ?」
ヴァナベルの問いかけに僕はアルフェとホムと目を合わせた。
「生徒会として、生徒の安全を確保する必要がある。まずはエステアたちと合流して、方針を固める」
「わかった。じゃあ、なんか決まったら知らせてくれ。オレもいざというとき用に多機能通信魔導器、持ってるからさ」
事前にマリーが支給してくれたのだろう、多機能通信魔導器を示してヴァナベルがにっと笑う。こういう時のヴァナベルの笑みは、強がりなんだろうな。でも、それが僕としても心強い。
「避難誘導を頼んだよ、ヴァナベル、ヌメリン」
「任せて~」
快く避難誘導を引き受けてくれたヴァナベルとヌメリンの隣に、ハーディアが並ぶ。
「怖い思いをさせてごめんね。ワタシたちが必ずなんとかするから無事でいてね、ハーディアちゃん」
「無理はするなよ。わらわは、大抵のことはどうにか出来る。心配するな」
ハーディアは、怯える様子など微塵も見せずに、力強く言い切る。
「ありがとう。その言葉が心強いよ」
僕は三人にそう告げて、アルフェとホムと駆け出した。目指すは生徒会の本部テント。あと少しの距離なのに、逃げ惑う人たちのお陰で辿り着くまでの時間が途方も無く長く感じられた。
0
お気に入りに追加
793
あなたにおすすめの小説
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!
まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。
ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる