アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

文字の大きさ
上 下
337 / 396
第四章 絢爛のスクールフェスタ

第337話 愛を知り、愛を歌う

しおりを挟む
「みなさまぁあああああああ! 大変ぇええええええん! お待たせいたしましたぁあああああああああーーーーー!! この特設ステージは、ご存じ、ジョニー! ジョニー・スパロウが司会進行を務めさせていただきまぁああああああすッ!!!」

 司会として颯爽と現れたのは、武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯でも活躍を見せてくれたジョニーだった。

「まさか、ジョニーを呼んでるなんて……」
「うっわ~! ひっさびさにマリーの本気を見たわ……」

 事前になにも聞かされていなかったらしく、エステアとメルアが驚きのあまり絶句している。

「うふふっ。ライブ会場を盛り上げるに相応しい司会といえば、ジョニー・スパロウ以外に思いつきませんわ~!」

 マリーが本当にあっさりと言って退けたのが、いっそ清々しい。

「にゃははっ! まあ、武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯だけじゃなくて、武侠宴舞ゼルステラの主要公式戦には必ず呼ばれるほどの人気司会だもんな! 明日の大学部とプロリーグの試合にも呼ばれてるし」
「ジョニーさんの声を聞くと、頑張ろうってすごく思うよね。なんでも出来る気がするもん!」

 それだけジョニーのあの熱のこもった司会には、不思議な力があるということだ。アルフェが影響を受けたのも当然で、観客はそれ以上に興奮した様子で歓声を上げている。その歓声はすぐに、僕たちの登場を待ち望む期待の声へと変わっていった。

Re:bertyリバティ! Re:bertyリバティ!」
Re:bertyリバティ! Re:bertyリバティ!」

 生徒会総選挙でのお披露目とは比べものにならない、Re:bertyリバティコールが響き渡る。武侠宴舞ゼルステラの時とは違い、生身でいることもあり、武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯の熱狂にも負けない興奮が、ステージを包んでいるように感じられた。

「すっごい声援だよ! もう、やるっきゃないね!」
「ええ! みんなの期待に応え、それを上回るライブにしましょう!」

 メルアの意気込みにエステアが頬を上気させて応える。大観衆の声援がエステアの不安を吹き飛ばしたその瞬間を、目の当たりにしたような気がした。

「行こう、アルフェ」
「うん、リーフ、ホムちゃん……」

 アルフェが僕の手を取り、ホムに片手を伸ばす。

「みなさま、手をつないで参りましょう」

 ホムの提案にエステアが手を取り、メルアとファラがそれに続く。

 その間も、Re:bertyリバティへの期待は高まり、僕たちを呼ぶ声が響き続けている。

「準備はよろしいですわね。では、参りますわよぉ~!」

 マリーが大きく手を振り、ステージと僕たちを隔てていた暗幕を取り払うよう指示する。それを合図に、ジョニーの声が高らかに響き渡った。

「それでは、早速登場していただきましょう! リバティイイイイイイイイイイーーーーーー!!!」

 手を繋ぎ、足並みを揃えて進む僕たちはたくさんの光と歓声、拍手を一斉に受ける。光に包まれたステージは、今まで立ったことのあるどの場所よりも眩しい。

「みんな、行くよ」

 アルフェが歌うように口を開く。歓声でほとんど聞こえないはずのその声は、僕たちの胸に染み渡るように強く優しく届いた。

 目を合わせて微笑み合い、手を解いてそれぞれの位置に着く。

「ねえ、あれ見て、金色の光……キラキラしてる!」

 前方に座っていた小さな女の子が、僕たちの周りを乱舞するエーテルの光に気づいて指差した。ああ、それは僕のエーテルが衣装の簡易術式を通じて具現した光だ。ステージの上を漂う穏やかな風はエステアとホムの感情が共鳴した証。そして弾むように揺れる僕たちの衣装は、僕たちの楽しいという感情の表れだ。

 柄にもなく興奮している。平常心なんて保てないほど、楽しくて、嬉しくて堪らない。こんなに沢山の人の期待と好意が、アルフェの感情を介して僕にも伝わってきている。僕が生み出した簡易術式の効果が、こんなに広く影響を及ぼすなんて思わなかった。

「……ワン、ツー……」

 エステアに代わりリードギターを務めるホムが、皆と目を合わせながら合図する。ファラのドラムがリズムを刻んでいく。

「ワンツースリー」

 ――奏でよう、僕たちのラブソングを。



 第一音が重なった瞬間、僕たちは――Re:bertyリバティはひとつになった。

「もしも世界が明日変わっても――」

 アルフェの澄んだ声が、想いを込めてラブソングを歌い上げる。



「ワタシのキミへの想いは変わらない――」

 目を合わせ、僕もベースを奏でてその音に応える。



 ――僕も、僕も同じだよ、アルフェ。

 想いを込めた分だけ、衣装が僕のエーテルに反応して煌めき出す。ステージが金色の光に溢れて煌めく。観客席に驚愕と興奮のざわめきが広がっていく。みんな笑顔で、僕たちのラブソングに合わせて手を振り、身体を揺らし、唇を動かしている。

 ステージ上には、キラキラした眩しい景色が広がっている。

 みんなの笑顔が弾けて、音が踊っている。なんて楽しいんだろうと感じながら隣を見れば、ホムがこの上ない優しい笑顔で僕と目を合わせてくれる。



 ホム――僕の大切な、僕が愛を教えるべき家族。そんなホムと、今は言葉を交わさなくても通じ合っている、愛し合っている実感がある。ホムのギターの音色が優しく、時に強くそれを僕の心に届けてくれる。これがホムの愛だ。今表現できる、精一杯の感情をこの曲にぶつけているのが全身で感じられる。

 ホムのギターに寄り添い、共に歩んでいるのはエステアの芯の通ったギターの音色だ。彼女の戦い方と同じ、真っ直ぐで淀みない美しい音色は、僕たちの強さを表現してくれている。



 僕たちは、きっと大人になるだろう。これから目覚ましく世界も変わるだろう。

 だけど、この瞬間をこうして過ごせる奇跡を全身で覚えていたい。



 ファラのドラムが力強く、それを訴えて、メルアの鍵盤キーボードのメロディが未来への道標になろうとしてくれている。



 ああ、このステージで僕たちは本当の意味でひとつになっている。

 やっとわかった、エステアはこの未来を表現したくて、この曲を作って僕たちに託してくれたのだ。

 遠くの人に届くように、文字通りアルフェが美しい歌声を響かせている。アルフェの声に滲むアルフェの想いが、ステージを更に煌めかせている。アルフェが歌いたかったラブソングは、今、ここにある。きっと、今完成した。

 そしてみんなで造り上げたこのステージで、僕はもう一度愛を知る。

 アルフェに出逢えていなかったら、僕は今でも愛を知らないかもしれない。孤独のままで良いと思っていたかもしれない。でも、今は違う。

 アルフェが幼い頃に僕に約束を結ばせてくれて本当に良かった。
 あの約束が僕がひとりではないと教えてくれる。僕に本当の意味での強さをくれる。

 リリルルの占いを聞いた後だからなのか、アルフェと一緒に作った歌詞に深みが増している。もしも、リリルルが言うような残酷な運命の波に呑まれて、世界が明日変わったとしても、僕はアルフェが好きだ。アルフェもきっと僕を好きなままでいてくれる――そうあってほしい。

 ああ、僕は愛を知らなくて、ずっと一人で生きていけると思っていたのに、いつの間にかこんなに欲張りになってしまったんだな。女神はそれを幸福を知り、求める権利に気づいたのだと笑うだろう。だけど、だけどそれでいい。

 誰に笑われようとも、アルフェが僕にくれたこの気持ちは僕の宝物だ。そしてアルフェはそれをいつだって最高の輝きに導いてくれる。

 この愛は、僕だけのものではなく、アルフェと二人の大切な宝物だ。アルフェはそれをこの歌を通じて、どこまでも真摯に僕に伝え、教えてくれたのだ。




―――――――
作中でRe:bertyリバティが演奏した命の歌『アニマ』がYouTubeで公開中です。
よければMVを観にきてください。
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFR8BZpDYc
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...