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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第336話 最後の練習
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生徒会の本部テントに戻ってすぐに、僕たちはすぐに特設ステージへの移動を始めた。
「もうステージに移動してもいいのかい?」
「いいもなにも、楽器も衣装も全てあっちに移動済みですわ~!」
僕の問いかけにマリーが楽しげな笑顔を見せる。本番前にエステアと練習をしたいと少し先に戻ったホムだったが、果たして練習出来たのだろうか。そう思いながらホムを見ると、エステアと楽しげに談笑している姿が目に入った。ホムもエステアも僕たちのラブソング『アニマ』を見えないギターを爪弾くように手指を動かしている。
「にゃはっ! 楽器がなくても練習って出来るもんだよな」
僕の視線に気づいたのか、すぐそばを歩いていたファラが自分の太腿をリズム良く叩きながら声をかけてくる。
「どうやらそのようだね。ファラの調子はどうだい?」
「ばっちり! 昨日もよく寝たしな」
ファラは自信ありげに頷くと、アルフェに微笑みかけた。
「あたしのいびき、うるさくなかったよな?」
「ふふっ、平気だよ、ファラちゃん」
アルフェが眠れているか気になったのか、敢えて聞く辺りがファラの優しさだろう。ルームメイトの問いかけにアルフェは微笑み返し、鼻歌で『アニマ』の音を奏でた。
「早く歌いたくて、みんなにこの歌を届けたくてずっとうずうずしているの」
「だよな! あたしも今日はそわそわしてる。なんか落ち着かないっていうか、わくわくが止まらないって言うかさ」
アルフェとファラがお互いの興奮を確かめ合うように会話を続けている。二人が感じていることは、僕にも理解出来た。
沢山の人で賑わう学園内を移動するにつれ、ステージに集まっている人の多さが見えてくる。用意された観客席よりもずっと多くの人々が、ステージが始まる前だというのに早くも詰めかけているのだ。
ステージから見てやや後方には、来賓席と貼り紙が張られた席が設けられており、既に座りきれない人がマリーの執事ジョスランの説明を受けている姿が窺えた。
「凄いわ、来賓席ももう埋まってる……」
「ちゅーことはもっと用意しないと足りなくない!?」
「そのためのジョスランですわ~!」
マリーが対応に追われている様子のジョスランを指差し、誇らしげに叫ぶ。マリーの声が聞こえたのか、ジョスランがこちらを見て深々と一礼した。
「では、来賓をイグニスが独占するという状況にはないわけですね」
「そうよ、ホム。私たちの演奏の如何によっては客席を離れてしまうかもしれないけれど、でも、注目はしてもらえている」
エステアの言葉の端から彼女の不安がまだ感じられる。表立って宣言しているわけではないが、来賓をパーティーで独占しようとしていたイグニスと客を取り合っているのだから、その反発を考えれば当然だろう。だが、パーティーのホストを務めている以上、また招待しているのが身分の高い来賓である以上は、イグニスが表立って妨害することはない。ホムの落ち着きから察するに、多分、そう考えていいのだろうな。
あの地下通路のスライムのことは気になるが、こうして建国祭本番を迎えた今となっては、魔物を学園内にけしかけるような真似は絶対に出来ない。そんなことをすれば、デュラン家の子息という立場をもってしても、学園の追放を免れないことぐらい、イグニスは理解しているはずだ。
「……大丈夫だよ。リーフが作ってくれた衣装を着て、みんなで作った曲を演奏すれば、今ここにいない人だって、きっとここに来てくれる。遠くまで届くように、ワタシ、頑張って歌うから!」
アルフェが胸に手を当て、力強く宣言する。確かめるように向けられた視線に、僕は笑顔で大きく頷いた。
特設ステージの裏に向かうと、簡易的ではあるが練習用の設備が整えられた一室が用意されていた。
衣装に着替えた僕たちは、それぞれの楽器を手に本番前の練習に臨む。ホムの方を見ると、まだ少し不安げな様子だ。
事前準備のために楽器をステージの方に移動していたということもあり、恐らく思うようにギターを弾きながらの練習ができなかったのかもしれない。
「……大丈夫かい、ホム?」
僕が問いかけると、ホムは意外なことに笑顔をつくって静かに頷いた。
「はい、大丈夫です。今日このステージに立つに相応しい気持ちを、マスターに教えて頂いたのですから」
ホムが紡ぐ穏やかな口調は、そのまま彼女の表情を柔らかなものに変えていく。
ああ、不安げに見えたのは、もしかすると僕の心の内の表れだったのかもしれないな。不安なのは、僕自身だ。
大丈夫だと言い聞かせて、尚、まだ見えない脅威を感じてしまっている。それこそが、イグニスの思う壺だというのに――。
「……マスター?」
「平気だよ、ホム。僕は大丈夫だ」
ホムの問いかけに笑って見せる。アルフェが勇気を振り絞って、みんなを導こうとしてくれているように、笑顔でいれば不安を吹き飛ばす力になる。そう信じる心が、僕たちの愛だ。
「さあ、始めましょう。悔いなき最高のステージのために」
エステアの合図でファラがドラムでリズムを取る。
次の瞬間、僕たちの音が喜びとなって弾けた。
「もうステージに移動してもいいのかい?」
「いいもなにも、楽器も衣装も全てあっちに移動済みですわ~!」
僕の問いかけにマリーが楽しげな笑顔を見せる。本番前にエステアと練習をしたいと少し先に戻ったホムだったが、果たして練習出来たのだろうか。そう思いながらホムを見ると、エステアと楽しげに談笑している姿が目に入った。ホムもエステアも僕たちのラブソング『アニマ』を見えないギターを爪弾くように手指を動かしている。
「にゃはっ! 楽器がなくても練習って出来るもんだよな」
僕の視線に気づいたのか、すぐそばを歩いていたファラが自分の太腿をリズム良く叩きながら声をかけてくる。
「どうやらそのようだね。ファラの調子はどうだい?」
「ばっちり! 昨日もよく寝たしな」
ファラは自信ありげに頷くと、アルフェに微笑みかけた。
「あたしのいびき、うるさくなかったよな?」
「ふふっ、平気だよ、ファラちゃん」
アルフェが眠れているか気になったのか、敢えて聞く辺りがファラの優しさだろう。ルームメイトの問いかけにアルフェは微笑み返し、鼻歌で『アニマ』の音を奏でた。
「早く歌いたくて、みんなにこの歌を届けたくてずっとうずうずしているの」
「だよな! あたしも今日はそわそわしてる。なんか落ち着かないっていうか、わくわくが止まらないって言うかさ」
アルフェとファラがお互いの興奮を確かめ合うように会話を続けている。二人が感じていることは、僕にも理解出来た。
沢山の人で賑わう学園内を移動するにつれ、ステージに集まっている人の多さが見えてくる。用意された観客席よりもずっと多くの人々が、ステージが始まる前だというのに早くも詰めかけているのだ。
ステージから見てやや後方には、来賓席と貼り紙が張られた席が設けられており、既に座りきれない人がマリーの執事ジョスランの説明を受けている姿が窺えた。
「凄いわ、来賓席ももう埋まってる……」
「ちゅーことはもっと用意しないと足りなくない!?」
「そのためのジョスランですわ~!」
マリーが対応に追われている様子のジョスランを指差し、誇らしげに叫ぶ。マリーの声が聞こえたのか、ジョスランがこちらを見て深々と一礼した。
「では、来賓をイグニスが独占するという状況にはないわけですね」
「そうよ、ホム。私たちの演奏の如何によっては客席を離れてしまうかもしれないけれど、でも、注目はしてもらえている」
エステアの言葉の端から彼女の不安がまだ感じられる。表立って宣言しているわけではないが、来賓をパーティーで独占しようとしていたイグニスと客を取り合っているのだから、その反発を考えれば当然だろう。だが、パーティーのホストを務めている以上、また招待しているのが身分の高い来賓である以上は、イグニスが表立って妨害することはない。ホムの落ち着きから察するに、多分、そう考えていいのだろうな。
あの地下通路のスライムのことは気になるが、こうして建国祭本番を迎えた今となっては、魔物を学園内にけしかけるような真似は絶対に出来ない。そんなことをすれば、デュラン家の子息という立場をもってしても、学園の追放を免れないことぐらい、イグニスは理解しているはずだ。
「……大丈夫だよ。リーフが作ってくれた衣装を着て、みんなで作った曲を演奏すれば、今ここにいない人だって、きっとここに来てくれる。遠くまで届くように、ワタシ、頑張って歌うから!」
アルフェが胸に手を当て、力強く宣言する。確かめるように向けられた視線に、僕は笑顔で大きく頷いた。
特設ステージの裏に向かうと、簡易的ではあるが練習用の設備が整えられた一室が用意されていた。
衣装に着替えた僕たちは、それぞれの楽器を手に本番前の練習に臨む。ホムの方を見ると、まだ少し不安げな様子だ。
事前準備のために楽器をステージの方に移動していたということもあり、恐らく思うようにギターを弾きながらの練習ができなかったのかもしれない。
「……大丈夫かい、ホム?」
僕が問いかけると、ホムは意外なことに笑顔をつくって静かに頷いた。
「はい、大丈夫です。今日このステージに立つに相応しい気持ちを、マスターに教えて頂いたのですから」
ホムが紡ぐ穏やかな口調は、そのまま彼女の表情を柔らかなものに変えていく。
ああ、不安げに見えたのは、もしかすると僕の心の内の表れだったのかもしれないな。不安なのは、僕自身だ。
大丈夫だと言い聞かせて、尚、まだ見えない脅威を感じてしまっている。それこそが、イグニスの思う壺だというのに――。
「……マスター?」
「平気だよ、ホム。僕は大丈夫だ」
ホムの問いかけに笑って見せる。アルフェが勇気を振り絞って、みんなを導こうとしてくれているように、笑顔でいれば不安を吹き飛ばす力になる。そう信じる心が、僕たちの愛だ。
「さあ、始めましょう。悔いなき最高のステージのために」
エステアの合図でファラがドラムでリズムを取る。
次の瞬間、僕たちの音が喜びとなって弾けた。
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