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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第329話 露店の試食会
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朝早くから準備を進めていたこと、F組とA組をはじめとして沢山の生徒たちの協力を得られたこともあり、露店エリアの準備はつつがなく終了した。マチルダ先生の設備点検が終わると、正午を待たずして、露店の飲食店の有志たちによる試食会が開催された。
露店のあちこちから美味しそうな匂いと楽しげな生徒たちの声が響いてくる。
気温も上がり、冬というよりは春の陽気に包まれていることもあり、さながら建国祭本番のような賑わいが窺える。
「わ~、どれも美味しそう~。出来ることなら全部食べたい……」
空腹を訴えていたメルアが、あちこちの露店から漂ってくる美味しそうな匂いにふらふらと身体を揺らしている。その姿を見つけたのか、ヌメリンが大きな声で呼びかけるのが聞こえて来た。
「お待たせ~! カオス焼きの試食が出来たよぉ~」
普段のおっとりとした口調はそのままに、声量はかなりのものだ。カオス焼きに反応してメルアが手を挙げ、ぶんぶんと左右に振りながら、ヌメリンを歓迎した。
「やった~! ヌメリンちゃん、うちも食べたい~!」
「もちろん、たっくさんあるからねぇ~。味も色々用意したんだぁ~」
「……にゃはっ! それにしても、本当に見た目は全部同じなんだな」
「……なあ、うっすら黒いものが見えるけど、中に入ってるの、食べ物だけだよな?」
初めて見るカオス焼きを、ファラとリゼルが興味津々と言った様子で受け取る。
「そ~だよ~。リゼルのは、イカの墨が入ってるの~。全部食べ物だし、全部おいし~よ~」
ヌメリンが楽しげに応じながら、手際良く全員にカオス焼きを配っていく。生地の上にかかっているソースからは微かに甘酸っぱい匂いがして、魚粉と思われるトッピングがカオス焼きから発せられる熱を受けてゆらゆらと踊っている。
「美味しそうだね」
「具によっては熱いから気をつけるんだぞ」
嬉しそうに僕と顔を見合わせるアルフェに、ヴァナベルが忠告する。
「注意書きが必要なら、どれがなにかわかるようにした方がいいんじゃないのか?」
ヴァナベルの忠告を聞いたグーテンブルク坊やが不思議そうに訊ねると、ヴァナベルはにっと笑って顔の前で人差し指を横に振った。
「わかってないなぁ。わかんないのがいいんだよ。色んな具を仕込んでおいて、味は食べてからのお楽しみって訳だ」
「一人で食べても楽しいし、みんなで食べても面白そうだよね」
二人の会話を聞いていたアルフェが、笑顔で頷く。
「そ~なの~! じゃあ、早速どうぞ~」
「いただきまーす! ……わっ、すっごい良い匂い~。ふ、ふぁっ、あつ……旨っ!」
全員にカオス焼きが行き渡ったことを確認したヌメリンが促すと、メルアが待ってましたとばかりに一口で頬張った。さすがに熱いらしく、はふはふと細かく吐き出す息が、この穏やかな陽気の中でも、白く濁っている。
「出来たてだから~」
「へも、ほひひ~」
苦労して咀嚼しながらもメルアは満面の笑顔だ。なんと言ったのかは聞き取れなかったが、多分、でも美味しいと言いたかったんだろうな。
「そんじゃ、あたしも。んっ! これはイカだな!」
ファラが半分囓って中身を確認しながら食べ進める。
「うちのはソーセージ! これ、おいしい~! もう一個!」
「ど~ぞ~」
トレイにまだカオス焼きが乗っているのを目ざとくみつけたメルアに、ヌメリンが快く差し出す。僕とアルフェ、ホムは少し冷めるのを待っているが、リゼルとグーテンブルク坊やは初めて見る食べ物をどう食したものか考え倦ねている様子だ。
「「なんだ? 遠慮しているのか? たくさんあるから、リゼライも食べるといい」」
「うわっ! リリルル!」
メルアに借りたのか、透明化マントを被ったリリルルが揃ってカオス焼きを差し出す。
「わざわざ持ってきてくれたのか、ありがとうな」
二人にカオス焼きを勧められたリゼルは、元々持っていたカオス焼きを頬張ると、リリルルからも一皿受け取った。
「「礼には及ばない。あとでリハーサルで踊ってもらうために、腹ごしらえは必須だ」」
「んっ! 美味しい……なんだこれ……チーズ……?」
リリルルの突拍子もない発言に驚いたのか、初めてのカオス焼きに驚いたのか、判断しかねるところだが、リゼルの顔を見るとかなり悪くない反応のようだ。多分先ほどのヌメリンの説明を聞くと、イカスミとチーズが入っているということになるのだろうな。
「「リリルルが作ったのも食べるといい」」
「わかった」
リリルルに促されて素直に従ったリゼルだが、一口で頬張った後、不思議そうに首を左右に傾げた。
「……今度のは……なんだ……?」
「「言い忘れたが、ひとつ具を入れ忘れている。それはハズレだ」」
「おい……。でも、出汁が利いているっていうのか、生地だけでも旨いな」
苦笑を浮かべながらも、リリルルのマイペースに慣れて来たのか、リゼルの表情はあくまで穏やかだ。
「本当に美味しいね、リーフ」
「そうだね」
僕が食べたのは、多分この前食べたマグロナルドから着想を得たツナだろうな。噛むと生地の出汁と旨味が混じり合う感覚が、なんとも面白い。
「でしょ~! これ、大人気なんだ~。もう生地ないし」
「はっ!? もう焼き終わったのか?」
自慢げなヌメリンの発言にヴァナベルが耳をぴんと立てて大声を上げる。
「うん。リリルルちゃんが手伝ってくれたんだけど、すっごい速さで~」
「「リリルルの連携に隙は無い」」
「具を入れ忘れているじゃないか」
誇らしく胸を張るリリルルにリゼルが茶々を入れる。
「「それもエンターテイメントとしてのお楽しみになる。ものは言い様だ」」
「ははは、お前たちには敵わないな」
開き直ったのか、元々気にしてさえいないのか、リリルルが潔く言い返すと、リゼルはそれに声を立てて笑った。
「「学園では常にリリルルたちの勝利で終わるのだ」」
「次は負けないと言っただろうに」
リリルルとリゼルの掛け合いが面白いのか、グーテンブルク坊やが声をひそめて笑っている。F組とA組、亜人差別の元に分けられたクラスだったが、今の様子を見る限り、そんなことはもう遠い過去になってしまったようだ。
「ふふっ。みんな楽しそうだね」
「そうだね」
アルフェに笑顔で相槌を返しながら、きっと僕だけでなく、ここにいる皆がそれを感じているだろうという実感がある。今日の気候もあるだろうけれど、本当に穏やかで和やかな時間が流れているのが単純に嬉しい。この調子で建国祭当日も、何事もなく楽しく過ごせることを願うばかりだ。
「リーフも、遠慮しないで食べろよ! お前、真面目だから食いっぱぐれるだろ」
「ありがとう、ヴァナベル」
「ワタシも、もっと食べていーい?」
ヴァナベルがわざわざ僕たちを気遣ってカオス焼きを差し出してくれる。アルフェはすぐに受け取ったが、エステアの隣にいたホムは全く違う方を見たまま静止していた。
「当たり前だろ。ほら、ホムも喰えよ。……ん? なんかあんのか?」
ホムがなかなか受け取らないことを不審に思ったヴァナベルが、首を傾げて怪訝そうにホムの視線を追う。
「いえ、絨毯の模様が魔法陣のように見えた気がしたので……」
「絨毯って?」
僕が問いかけると、ホムは大型の蒸気車両から運び出された筒状に丸められた絨毯を指差した。
「んー。うちには真っ黒にしか見えないけど……気のせいじゃない?」
メルアが左右の浄眼を交互に瞑りながら、エーテルの流れを追っている。
「でもあれ、イグニスさんの使う貴族寮食堂に運ばれていくね」
メルアと同じように浄眼でなにかを見透そうとしたアルフェが、やはりなにも見つけられずに呟いた。
「……どう思う、リーフ?」
「どうだろう。広げたものを見ないことにはわからないけれど……」
エステアに問いかけられたが、さすがの僕も今の情報だけで判断することが出来ない。ホムに限って見間違いということもないだろうけれど、メルアとアルフェの浄眼がエーテルの流れを感じ取れないのなら、魔法陣としての機能は持っていないのだろう。
「危険がないかどうか調べさせてもらいましょうか」
「そうだね」
「ワタシも行く! 魔法陣なら、ワタシの浄眼があった方がいいよね」
エステアの提案に僕が頷くと、間髪入れずにアルフェが手を挙げた。やれやれ、せっかく良い雰囲気だったのに、またイグニスの不穏な気配に水を差されてしまったな。さすがにこんなところでアルフェを巻き込むことはないと思うけれど。
露店のあちこちから美味しそうな匂いと楽しげな生徒たちの声が響いてくる。
気温も上がり、冬というよりは春の陽気に包まれていることもあり、さながら建国祭本番のような賑わいが窺える。
「わ~、どれも美味しそう~。出来ることなら全部食べたい……」
空腹を訴えていたメルアが、あちこちの露店から漂ってくる美味しそうな匂いにふらふらと身体を揺らしている。その姿を見つけたのか、ヌメリンが大きな声で呼びかけるのが聞こえて来た。
「お待たせ~! カオス焼きの試食が出来たよぉ~」
普段のおっとりとした口調はそのままに、声量はかなりのものだ。カオス焼きに反応してメルアが手を挙げ、ぶんぶんと左右に振りながら、ヌメリンを歓迎した。
「やった~! ヌメリンちゃん、うちも食べたい~!」
「もちろん、たっくさんあるからねぇ~。味も色々用意したんだぁ~」
「……にゃはっ! それにしても、本当に見た目は全部同じなんだな」
「……なあ、うっすら黒いものが見えるけど、中に入ってるの、食べ物だけだよな?」
初めて見るカオス焼きを、ファラとリゼルが興味津々と言った様子で受け取る。
「そ~だよ~。リゼルのは、イカの墨が入ってるの~。全部食べ物だし、全部おいし~よ~」
ヌメリンが楽しげに応じながら、手際良く全員にカオス焼きを配っていく。生地の上にかかっているソースからは微かに甘酸っぱい匂いがして、魚粉と思われるトッピングがカオス焼きから発せられる熱を受けてゆらゆらと踊っている。
「美味しそうだね」
「具によっては熱いから気をつけるんだぞ」
嬉しそうに僕と顔を見合わせるアルフェに、ヴァナベルが忠告する。
「注意書きが必要なら、どれがなにかわかるようにした方がいいんじゃないのか?」
ヴァナベルの忠告を聞いたグーテンブルク坊やが不思議そうに訊ねると、ヴァナベルはにっと笑って顔の前で人差し指を横に振った。
「わかってないなぁ。わかんないのがいいんだよ。色んな具を仕込んでおいて、味は食べてからのお楽しみって訳だ」
「一人で食べても楽しいし、みんなで食べても面白そうだよね」
二人の会話を聞いていたアルフェが、笑顔で頷く。
「そ~なの~! じゃあ、早速どうぞ~」
「いただきまーす! ……わっ、すっごい良い匂い~。ふ、ふぁっ、あつ……旨っ!」
全員にカオス焼きが行き渡ったことを確認したヌメリンが促すと、メルアが待ってましたとばかりに一口で頬張った。さすがに熱いらしく、はふはふと細かく吐き出す息が、この穏やかな陽気の中でも、白く濁っている。
「出来たてだから~」
「へも、ほひひ~」
苦労して咀嚼しながらもメルアは満面の笑顔だ。なんと言ったのかは聞き取れなかったが、多分、でも美味しいと言いたかったんだろうな。
「そんじゃ、あたしも。んっ! これはイカだな!」
ファラが半分囓って中身を確認しながら食べ進める。
「うちのはソーセージ! これ、おいしい~! もう一個!」
「ど~ぞ~」
トレイにまだカオス焼きが乗っているのを目ざとくみつけたメルアに、ヌメリンが快く差し出す。僕とアルフェ、ホムは少し冷めるのを待っているが、リゼルとグーテンブルク坊やは初めて見る食べ物をどう食したものか考え倦ねている様子だ。
「「なんだ? 遠慮しているのか? たくさんあるから、リゼライも食べるといい」」
「うわっ! リリルル!」
メルアに借りたのか、透明化マントを被ったリリルルが揃ってカオス焼きを差し出す。
「わざわざ持ってきてくれたのか、ありがとうな」
二人にカオス焼きを勧められたリゼルは、元々持っていたカオス焼きを頬張ると、リリルルからも一皿受け取った。
「「礼には及ばない。あとでリハーサルで踊ってもらうために、腹ごしらえは必須だ」」
「んっ! 美味しい……なんだこれ……チーズ……?」
リリルルの突拍子もない発言に驚いたのか、初めてのカオス焼きに驚いたのか、判断しかねるところだが、リゼルの顔を見るとかなり悪くない反応のようだ。多分先ほどのヌメリンの説明を聞くと、イカスミとチーズが入っているということになるのだろうな。
「「リリルルが作ったのも食べるといい」」
「わかった」
リリルルに促されて素直に従ったリゼルだが、一口で頬張った後、不思議そうに首を左右に傾げた。
「……今度のは……なんだ……?」
「「言い忘れたが、ひとつ具を入れ忘れている。それはハズレだ」」
「おい……。でも、出汁が利いているっていうのか、生地だけでも旨いな」
苦笑を浮かべながらも、リリルルのマイペースに慣れて来たのか、リゼルの表情はあくまで穏やかだ。
「本当に美味しいね、リーフ」
「そうだね」
僕が食べたのは、多分この前食べたマグロナルドから着想を得たツナだろうな。噛むと生地の出汁と旨味が混じり合う感覚が、なんとも面白い。
「でしょ~! これ、大人気なんだ~。もう生地ないし」
「はっ!? もう焼き終わったのか?」
自慢げなヌメリンの発言にヴァナベルが耳をぴんと立てて大声を上げる。
「うん。リリルルちゃんが手伝ってくれたんだけど、すっごい速さで~」
「「リリルルの連携に隙は無い」」
「具を入れ忘れているじゃないか」
誇らしく胸を張るリリルルにリゼルが茶々を入れる。
「「それもエンターテイメントとしてのお楽しみになる。ものは言い様だ」」
「ははは、お前たちには敵わないな」
開き直ったのか、元々気にしてさえいないのか、リリルルが潔く言い返すと、リゼルはそれに声を立てて笑った。
「「学園では常にリリルルたちの勝利で終わるのだ」」
「次は負けないと言っただろうに」
リリルルとリゼルの掛け合いが面白いのか、グーテンブルク坊やが声をひそめて笑っている。F組とA組、亜人差別の元に分けられたクラスだったが、今の様子を見る限り、そんなことはもう遠い過去になってしまったようだ。
「ふふっ。みんな楽しそうだね」
「そうだね」
アルフェに笑顔で相槌を返しながら、きっと僕だけでなく、ここにいる皆がそれを感じているだろうという実感がある。今日の気候もあるだろうけれど、本当に穏やかで和やかな時間が流れているのが単純に嬉しい。この調子で建国祭当日も、何事もなく楽しく過ごせることを願うばかりだ。
「リーフも、遠慮しないで食べろよ! お前、真面目だから食いっぱぐれるだろ」
「ありがとう、ヴァナベル」
「ワタシも、もっと食べていーい?」
ヴァナベルがわざわざ僕たちを気遣ってカオス焼きを差し出してくれる。アルフェはすぐに受け取ったが、エステアの隣にいたホムは全く違う方を見たまま静止していた。
「当たり前だろ。ほら、ホムも喰えよ。……ん? なんかあんのか?」
ホムがなかなか受け取らないことを不審に思ったヴァナベルが、首を傾げて怪訝そうにホムの視線を追う。
「いえ、絨毯の模様が魔法陣のように見えた気がしたので……」
「絨毯って?」
僕が問いかけると、ホムは大型の蒸気車両から運び出された筒状に丸められた絨毯を指差した。
「んー。うちには真っ黒にしか見えないけど……気のせいじゃない?」
メルアが左右の浄眼を交互に瞑りながら、エーテルの流れを追っている。
「でもあれ、イグニスさんの使う貴族寮食堂に運ばれていくね」
メルアと同じように浄眼でなにかを見透そうとしたアルフェが、やはりなにも見つけられずに呟いた。
「……どう思う、リーフ?」
「どうだろう。広げたものを見ないことにはわからないけれど……」
エステアに問いかけられたが、さすがの僕も今の情報だけで判断することが出来ない。ホムに限って見間違いということもないだろうけれど、メルアとアルフェの浄眼がエーテルの流れを感じ取れないのなら、魔法陣としての機能は持っていないのだろう。
「危険がないかどうか調べさせてもらいましょうか」
「そうだね」
「ワタシも行く! 魔法陣なら、ワタシの浄眼があった方がいいよね」
エステアの提案に僕が頷くと、間髪入れずにアルフェが手を挙げた。やれやれ、せっかく良い雰囲気だったのに、またイグニスの不穏な気配に水を差されてしまったな。さすがにこんなところでアルフェを巻き込むことはないと思うけれど。
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