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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第312話 アルフェの熱意
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建国祭の申請書の確認を終えた後、Re:bertyのライブ、リゼルとグーテンブルク坊やとリリルルが企画するというダンスパーティーの新たな申請書を追加し、生徒会としての今日の仕事は無事に終わった。
「そんじゃ、今日のところは解散!」
几帳面に分類した書類を箱に入れてまとめているエステアとホムの隣で、メルアが解散の合図をする。エステアとホム以外は手が空いているので、お互いの仕事を讃え合うような拍手が自然と起こった。
「なんか、達成感があっていいな。……それで、先輩方、解散の後は、バンドメンバーが残ってRe:bertyの打ち合わせをやるんですか?」
グーテンブルク坊やがそれとなく解散後の行動に言及すると、メルアが笑顔で応えた。
「エステアに曲のアイディアがあるらしーから、マリーとうちで、各パートも考えてこようかなって」
「ありがとうございます。ワタシたちもがんばります!」
メルアの頼もしい発言にアルフェが笑顔を輝かせる。僕が頷くと、ホムとファラも目を合わせてくれた。
「動き出したって感じがするな。でも、なんだか、順調過ぎて怖いくらいだ」
「にゃははっ! そういうのなんつーんだっけ、……フラグ?」
ぽつりと思い出したように呟いたリゼルに、ファラが猫人族の耳をぴくりと動かして反応した。
「滅多なこと言うんじゃねぇぞ、ファラ。確かにイグニスが何してくるかわかんねぇけどさ」
「そ~だよ~。ファラちゃんの魔眼ってぇ~未来まで見えてるわけじゃないよね~?」
ヴァナベルとヌメリンに不安そうに畳みかけられたファラが、苦笑を浮かべて小さく頭を下げる。
「いやいや、まさか! リリルルじゃあるまいし、あたしにそこまでの能力はないよ」
「でも、用心に越したことはないわね。順調にいっているときこそ、足許を固めないと。気を引き締めていきましょう」
少し不穏な空気が流れたが、エステアが落ち着いた口調で返してくれる。だが、マリーの悲鳴がそれを破った。
「あ~! でも、ひとつ大事なことを忘れていますわぁ~! ライブには外せませんアレを!!」
「なになに!? 楽器ならもうあるけど!?」
さすがのメルアも驚いたのか甲高く叫ぶように問い返す。
「楽器とステージを用意しただけじゃ、まだまだ足りませんわぁ! 最高のライブをさらに最高にするなら、衣装にもこだわりませんと!」
「……確かに、言われてみればそうですよね」
マリーがまくし立てた言葉を噛みしめるように、グーテンブルク坊やが顎に手を当てて深く頷いている。僕にはあまり想像のつかない世界なので、ここは見識のあるみんなの意見を聞くことに徹しよう。
「にゃはっ! だったら、楽器の次は、洋服店を店ごと運んできそうな勢いだな」
「そうですわぁ~! そうと決まれば、私、ジョスランに手配を――」
「あのっ、いいですか!?」
興奮した様子のマリーの言葉を遮ったのは、意外にもアルフェだった。
「どうしたの、アルフェちゃん?」
普段あまり人の話を遮ったりはしないタイプのアルフェに驚いたのは、メルアだけではなかった。みんなの注目を集めたアルフェは、スカートをぎゅっと握りしめて切り出した。
「あの、あのね……。話を遮っちゃってごめんなさい。でも、衣装も自分たちの手作りがいいと思って」
「……それはいいアイディアですけど、建国祭までそこまで時間があるわけじゃありませんのよ? そもそも作ったことがあるんですの?」
アルフェの発言に、マリーが怪訝そうに問い返す。アイディアを認めてはくれているようだが、現実的なスケジュールを気にしているのは明らかだ。
「自分たちが着るようなものは、まだ……。だけど、リーフのこの帽子……リーフのママが作ってくれて、ずっと素敵だなって思ってて……ワタシ、小さいリーフのお人形さんを持ってて……その、自分で作ったお洋服で、着せ替えとかはやってたから……」
思わず問い返しそうになったが、寸でのところで堪えることが出来た。アルフェが僕の帽子を素敵だと思って、僕の小さな着せ替え人形を持っていたなんて、初耳だ。でも、みんなは驚いた様子もなく、僕とアルフェに微笑ましげな優しい視線を向けている。
「あ、じゃあ、基礎は出来てるっぽいよね。着せ替えってことは何着もあるわけでしょ?」
メルアの言葉にアルフェが頷く。一体どんな服を何着作ったのかも気になるけれど、アルフェが今まで秘密にしていたくらいだから僕からは訊かないでおこう。
「だから、やってみたいんです。ワタシ、誰よりもリーフに似合う服を作る自信があるから」
「まあ、リーフの服っていうと現実的にはお子様用とかになっちゃうもんな。アルフェがやりたいっていうなら、任せてみてもいいんじゃねぇか?」
アルフェの想いを汲んだのか、現実的な僕の身体的な問題に気づいたのか、ヴァナベルが賛成意見を述べる。
「それはあるよな。あと、多分リーフのその帽子ってなんか錬金術の加工があるだろ? そういうのを服に応用したらいいと思う」
小さい頃の僕のことをアルフェの次に知っているグーテンブルク坊やが口を挟む。母上が作ってくれた帽子はセントサライアス小学校に入学した時から被っているものだが、グーテンブルク坊やはどうやらそれを覚えていたようだ。
「あ! やっぱそーだよね! いつ見てもきれーだし、なんか良い匂いするし、うちも気になってたんだよ~!」
すかさずメルアが反応し、興味津々な様子で僕と帽子を見比べている。ここはアルフェの意向もあるし、期日に間に合うように出来る工夫を話しておいた方が、話もまとまるんだろうな。僕としても、アルフェが考えた服を着てステージに立つのは是非実現したい。
「大変な作業になると思うけれど、大丈夫かい?」
「うん! デザインは生徒会総選挙のライブの時に、こんなのが着れたらいいなって考えてたのがあるし、縫製は磁力操作魔法でやれば人手もいらないと思うの」
「あ、武侠宴舞・カナルフォード杯でうちが見せたメルアちゃん親衛隊の出番っちゅーわけやね。今回はアルフェちゃん親衛隊が働いてくれるっちゅーわけだ!」
ああ、確かにそういう魔法の使い方をすれば、想像力が豊かなアルフェならば難なく衣装の縫製に応用することが出来るだろう。
「ん~、でもそれだけじゃ、自己満足で終わってしまいませんこと? 職人にデザインを渡して作らせてもいいんですわよ」
マリーが小首を傾げながら首を挟む。アルフェの意見を否定しているわけではないことはわかっていたので、僕が代わりに応えることにした。
「僕たちにしか出来ない衣装を作ろう。感情に合わせて揺れて動く生地、それをベースにして衣装を作れば、唯一無二のものにならないかな?」
「はひゃっ!?」
僕の提案に素っ頓狂な声を上げたのはメルアだ。
「ししょー、いまなんて?」
「いやいや、感情に合わせて布が動くってどういうことだよ!?」
メルアと同じくらい驚いたらしいリゼルが、僕に驚愕の視線を向けている。
「いや、ホムのギターを直した時に、感情をエーテルを通じて伝える工夫を思いついたんだ。衣装に使う生地にも同じことを簡易術式で入れれば、演奏中のエーテルの余波で動かすことができるだろう?」
「あーーーーーうーーーーー」
なるべく簡単に説明したつもりだったが、リゼルは押し黙り、メルアは小さく唸るだけになってしまった。
「んまぁ! 簡単に言って退けてしまいますのね。ギターは魔導器を応用すればいいですけど、着用者の感情を反映して動かすなんて……そんな布が出来たら特許ですわ、特許! ヌメリンさんの会社で取り扱ってもらってボロ儲け出来ちゃいますわよ~!」
「だな! あのニケーの衣装にも使われたりしてさ!」
そんな馬鹿なと思ったが、僕とホム以外は希望と期待に満ちた笑顔を浮かべているので、どうやらこれは現実的にありそうなことらしい。
やれやれ、アルフェのためを思って発言したのだけれど、なんだかまた僕はやり過ぎてしまったようだな。まあ、実現しなければ意味がないし、これからが少し大変なのだけれど。
「……リーフはいつだってすっごく素敵なアイディアをくれる! ワタシ、リーフと一緒に頑張るから、みんな、信じて!」
「信じるもなにも、私はもう、その衣装を着たくてたまらなくて、すっごくワクワクしてる! だから、お願いします、アルフェ」
アルフェの宣言にエステアが心からの笑顔と敬意を持って僕とアルフェに頭を垂れる。
こうして僕とアルフェは、建国祭に合わせて、Re:bertyの新曲の歌詞だけではなく衣装も作ることになった。
「そんじゃ、今日のところは解散!」
几帳面に分類した書類を箱に入れてまとめているエステアとホムの隣で、メルアが解散の合図をする。エステアとホム以外は手が空いているので、お互いの仕事を讃え合うような拍手が自然と起こった。
「なんか、達成感があっていいな。……それで、先輩方、解散の後は、バンドメンバーが残ってRe:bertyの打ち合わせをやるんですか?」
グーテンブルク坊やがそれとなく解散後の行動に言及すると、メルアが笑顔で応えた。
「エステアに曲のアイディアがあるらしーから、マリーとうちで、各パートも考えてこようかなって」
「ありがとうございます。ワタシたちもがんばります!」
メルアの頼もしい発言にアルフェが笑顔を輝かせる。僕が頷くと、ホムとファラも目を合わせてくれた。
「動き出したって感じがするな。でも、なんだか、順調過ぎて怖いくらいだ」
「にゃははっ! そういうのなんつーんだっけ、……フラグ?」
ぽつりと思い出したように呟いたリゼルに、ファラが猫人族の耳をぴくりと動かして反応した。
「滅多なこと言うんじゃねぇぞ、ファラ。確かにイグニスが何してくるかわかんねぇけどさ」
「そ~だよ~。ファラちゃんの魔眼ってぇ~未来まで見えてるわけじゃないよね~?」
ヴァナベルとヌメリンに不安そうに畳みかけられたファラが、苦笑を浮かべて小さく頭を下げる。
「いやいや、まさか! リリルルじゃあるまいし、あたしにそこまでの能力はないよ」
「でも、用心に越したことはないわね。順調にいっているときこそ、足許を固めないと。気を引き締めていきましょう」
少し不穏な空気が流れたが、エステアが落ち着いた口調で返してくれる。だが、マリーの悲鳴がそれを破った。
「あ~! でも、ひとつ大事なことを忘れていますわぁ~! ライブには外せませんアレを!!」
「なになに!? 楽器ならもうあるけど!?」
さすがのメルアも驚いたのか甲高く叫ぶように問い返す。
「楽器とステージを用意しただけじゃ、まだまだ足りませんわぁ! 最高のライブをさらに最高にするなら、衣装にもこだわりませんと!」
「……確かに、言われてみればそうですよね」
マリーがまくし立てた言葉を噛みしめるように、グーテンブルク坊やが顎に手を当てて深く頷いている。僕にはあまり想像のつかない世界なので、ここは見識のあるみんなの意見を聞くことに徹しよう。
「にゃはっ! だったら、楽器の次は、洋服店を店ごと運んできそうな勢いだな」
「そうですわぁ~! そうと決まれば、私、ジョスランに手配を――」
「あのっ、いいですか!?」
興奮した様子のマリーの言葉を遮ったのは、意外にもアルフェだった。
「どうしたの、アルフェちゃん?」
普段あまり人の話を遮ったりはしないタイプのアルフェに驚いたのは、メルアだけではなかった。みんなの注目を集めたアルフェは、スカートをぎゅっと握りしめて切り出した。
「あの、あのね……。話を遮っちゃってごめんなさい。でも、衣装も自分たちの手作りがいいと思って」
「……それはいいアイディアですけど、建国祭までそこまで時間があるわけじゃありませんのよ? そもそも作ったことがあるんですの?」
アルフェの発言に、マリーが怪訝そうに問い返す。アイディアを認めてはくれているようだが、現実的なスケジュールを気にしているのは明らかだ。
「自分たちが着るようなものは、まだ……。だけど、リーフのこの帽子……リーフのママが作ってくれて、ずっと素敵だなって思ってて……ワタシ、小さいリーフのお人形さんを持ってて……その、自分で作ったお洋服で、着せ替えとかはやってたから……」
思わず問い返しそうになったが、寸でのところで堪えることが出来た。アルフェが僕の帽子を素敵だと思って、僕の小さな着せ替え人形を持っていたなんて、初耳だ。でも、みんなは驚いた様子もなく、僕とアルフェに微笑ましげな優しい視線を向けている。
「あ、じゃあ、基礎は出来てるっぽいよね。着せ替えってことは何着もあるわけでしょ?」
メルアの言葉にアルフェが頷く。一体どんな服を何着作ったのかも気になるけれど、アルフェが今まで秘密にしていたくらいだから僕からは訊かないでおこう。
「だから、やってみたいんです。ワタシ、誰よりもリーフに似合う服を作る自信があるから」
「まあ、リーフの服っていうと現実的にはお子様用とかになっちゃうもんな。アルフェがやりたいっていうなら、任せてみてもいいんじゃねぇか?」
アルフェの想いを汲んだのか、現実的な僕の身体的な問題に気づいたのか、ヴァナベルが賛成意見を述べる。
「それはあるよな。あと、多分リーフのその帽子ってなんか錬金術の加工があるだろ? そういうのを服に応用したらいいと思う」
小さい頃の僕のことをアルフェの次に知っているグーテンブルク坊やが口を挟む。母上が作ってくれた帽子はセントサライアス小学校に入学した時から被っているものだが、グーテンブルク坊やはどうやらそれを覚えていたようだ。
「あ! やっぱそーだよね! いつ見てもきれーだし、なんか良い匂いするし、うちも気になってたんだよ~!」
すかさずメルアが反応し、興味津々な様子で僕と帽子を見比べている。ここはアルフェの意向もあるし、期日に間に合うように出来る工夫を話しておいた方が、話もまとまるんだろうな。僕としても、アルフェが考えた服を着てステージに立つのは是非実現したい。
「大変な作業になると思うけれど、大丈夫かい?」
「うん! デザインは生徒会総選挙のライブの時に、こんなのが着れたらいいなって考えてたのがあるし、縫製は磁力操作魔法でやれば人手もいらないと思うの」
「あ、武侠宴舞・カナルフォード杯でうちが見せたメルアちゃん親衛隊の出番っちゅーわけやね。今回はアルフェちゃん親衛隊が働いてくれるっちゅーわけだ!」
ああ、確かにそういう魔法の使い方をすれば、想像力が豊かなアルフェならば難なく衣装の縫製に応用することが出来るだろう。
「ん~、でもそれだけじゃ、自己満足で終わってしまいませんこと? 職人にデザインを渡して作らせてもいいんですわよ」
マリーが小首を傾げながら首を挟む。アルフェの意見を否定しているわけではないことはわかっていたので、僕が代わりに応えることにした。
「僕たちにしか出来ない衣装を作ろう。感情に合わせて揺れて動く生地、それをベースにして衣装を作れば、唯一無二のものにならないかな?」
「はひゃっ!?」
僕の提案に素っ頓狂な声を上げたのはメルアだ。
「ししょー、いまなんて?」
「いやいや、感情に合わせて布が動くってどういうことだよ!?」
メルアと同じくらい驚いたらしいリゼルが、僕に驚愕の視線を向けている。
「いや、ホムのギターを直した時に、感情をエーテルを通じて伝える工夫を思いついたんだ。衣装に使う生地にも同じことを簡易術式で入れれば、演奏中のエーテルの余波で動かすことができるだろう?」
「あーーーーーうーーーーー」
なるべく簡単に説明したつもりだったが、リゼルは押し黙り、メルアは小さく唸るだけになってしまった。
「んまぁ! 簡単に言って退けてしまいますのね。ギターは魔導器を応用すればいいですけど、着用者の感情を反映して動かすなんて……そんな布が出来たら特許ですわ、特許! ヌメリンさんの会社で取り扱ってもらってボロ儲け出来ちゃいますわよ~!」
「だな! あのニケーの衣装にも使われたりしてさ!」
そんな馬鹿なと思ったが、僕とホム以外は希望と期待に満ちた笑顔を浮かべているので、どうやらこれは現実的にありそうなことらしい。
やれやれ、アルフェのためを思って発言したのだけれど、なんだかまた僕はやり過ぎてしまったようだな。まあ、実現しなければ意味がないし、これからが少し大変なのだけれど。
「……リーフはいつだってすっごく素敵なアイディアをくれる! ワタシ、リーフと一緒に頑張るから、みんな、信じて!」
「信じるもなにも、私はもう、その衣装を着たくてたまらなくて、すっごくワクワクしてる! だから、お願いします、アルフェ」
アルフェの宣言にエステアが心からの笑顔と敬意を持って僕とアルフェに頭を垂れる。
こうして僕とアルフェは、建国祭に合わせて、Re:bertyの新曲の歌詞だけではなく衣装も作ることになった。
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