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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第309話 それぞれの企画
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「では、残りのメンバーは、食べ物以外の出店やイベントを精査しましょう」
「ざっと見たい感じだと、ゲームや占いのようなイベント系と、単純に物品を販売するもので分けられそうだね」
そう言いながら申請書の束を手に取ると、マリーが急に身を乗り出してきた。
「占い!? それは面白そうですわぁ~! どなたがやりますの?」
「リリルルちゃんだよ。同じF組のダークエルフの双子ちゃんなんだけど……」
アルフェの説明にマリーが手をぱちぱちと叩きながら、軽く飛び跳ねる。
「もちろん存じ上げておりますわぁ~! ダークエルフとなると本格的な占いが期待出来ますわね!」
なんだかその言い方だと、これまでがそうでもなかったみたいな感じだな。
「随分と喜んでいるみたいだけど、なにか理由があるのかい?」
「大いにありますわぁ~! 貴族関係の出し物というのは、相手の身分に合わせてご機嫌取りをするところまでがセットなんですの。よかれと思ってそうしてくれているのはわかるんですけど、そんなのどこかのイグニスさんはともかくとして、私、全っ然望んでいないんですわぁ~」
「まあ、そのイグニスは今年は大人しくしてくれそーだし、安泰じゃない?」
うんざりした表情を作るマリーに、メルアが楽観的な調子で言うが、申請書に目を通していたエステアとホムは同時に顔を曇らせた。
「……それが、そうでもないようよ」
「ですね」
黙々と分類作業に勤しんでいたエステアとホムが呆れたような息を吐く。
エステアが示した申請書には、デュラン家の印が捺してある。要するに謹慎中のイグニスが何らかの手段で提出した正真正銘、彼の申請書だ。
「貴族寮の食堂を貸し切っての社交パーティーですって」
建国祭の妨害に動くことを懸念していたが、まさかこんな手段があるとは思ってもみなかった。
「え……? じゃあ、私たちの出店に人が来ない……?」
リゼルとグーテンブルク坊やも寝耳に水だったようで、絶句している。
「来賓をごっそりもってくっちゅーつもりかぁ~。まあ、社交場って意味は確かにあるんだけど、意味っちゅーか社交場そのものを用意されたら、そっちに集中しちゃうよねぇ」
「謹慎中だから取り巻きに提出させたってとこか。けっ! やりたい放題だな」
作業の手を止めたヴァナベルが嫌悪感を露わに顔を歪めている。
「これってぇ~生徒会の権限で申請却下~ってわけにはいかない感じ~?」
そう訊ねるヌメリンはそれが出来ないことをわかっている様子だ。エステアは申し訳なさそうに頷くと、申請書をテーブルの上に置いた。
「出来ないわね。基本的に危険がないものは許可することになっているから……」
「でも、風紀乱しまくりみたいな感じじゃん! 建国祭でパーティーだよ、パーティー! 一生徒が学園を私物化しているようなもんじゃん!」
メルアの怒りももっともだが、生徒会にはこれを却下する権限はない。もし、生徒会側の人間がこうしたパーティーを企画したなら、生徒たちから非難されるだろうけれど、イグニスは生徒会に属してはいない一生徒なのだ。それこそがイグニスの狙いなのだと気づくと、彼の狡猾さに目眩がした。
「……一生徒だから許されるんだと思うよ」
苦々しく呟くと、メルアが驚いた様子で僕の顔を覗き込んできた。
「へっ!? ししょー、大丈夫? 熱とかない?」
「至って普通だよ。イグニスはエステアがこの学園にもたらそうとしている自由を、濫用する方に舵を切ったんだと思って」
「はぁ、濫用ねぇ……」
ヴァナベルは僕の話している言葉の意味を理解した様子で、ふっ、と音を立てて息を吐いた。
「それって、一生徒がこれだけの規模のパーティーを、来賓のために開いたって言ったら、自主性をすごく重んじられるってこと?」
アルフェが僕の話を噛み砕いてさらにわかりやすく説明してくれる。
「そう解釈出来るね。貴族ということを考えれば、家とは切り離せない。だからデュラン家の財力を使ったところで、それは当然のやり方になる」
「……そうね。その通りだと思うわ」
それに反対することも否定することもできないのがもどかしいそうに、エステアが何度も首を縦に振った。無理矢理自分を納得させようとしているようなその仕草に、メルアが激しく首を横に振る。
「……でも、でもさっ! これ許可しちゃったら、やっぱり……」
でも、ここにいる誰もがメルアに共感は出来ても賛成は出来ない。メルアもそれはわかっていて最後まで言わずに口を噤んだ。
「……悲観する必要はないと思う」
重い沈黙を短いうちに破ったのは、リゼルだった。
「イグニスさんは貴族寮の食堂を使うわけだし、他の会場とは離れている。建国祭で学園に来た来賓は、パーティに寄るだろうけれど、パーティだけに参加してカナルフォード学園の建国祭を見たとは言わないはずだ」
「私もそう思う。この学園の生徒はイグニスさんだけじゃない。デュラン家の持つ影響は大きいけれど、他の生徒が……平民も含めて『それ以外』なんて考える人は稀だ」
リゼルに続いてグーテンブルク坊やが持論を述べる。その意見を聞く限り、表立ってイグニスを批判するつもりはないにせよ、その他の生徒を守りたいという意思が感じ取れた。
「リゼルもライルもなんでそう思いますの?」
「単純に私たちはこの建国祭が楽しみなんだ。みんな活き活きとして、建国祭のアイディアを出し合っている。そんな楽しそうなみんなが作る建国祭が、社交場として展開されるパーティひとつに叶わないなんあり得ない」
マリーの問いかけにリゼルは笑顔を浮かべた。なにかを悟ったようなすがすがしさを感じられる笑顔でそう語るリゼルには、素直に好感が持てた。
「お前、いけ好かない奴だと思ってたけど、いいこと言うんだな」
「いいこともなにも、本心だよ。お前のカオス焼きとやらも、私たちじゃ思いつかない発想で実に興味深い」
ヴァナベルが感心した様子でリゼルの発言を褒めると、リゼルが苦笑を浮かべてヴァナベルの出店への感想を述べた。
「えへへ~、褒められてるよぉ~ベル~」
「ま、まあ、そこまで言うんならお前らにも喰わせてやるよ」
「ありがとう、楽しみにしてる」
かつては険悪だった二人の雰囲気も、こうして見るとかなり和やかだ。生徒会として同じ目標を持つことで、僕たちは変わっていける、そんな気がする。
「ワタシも食べる~!」
「とーぜん、私にも頂けるんですわよね!?」
マリーが遅れを取るまいと、ヴァナベルに詰め寄らんという勢いでアピールしている。
「もちろんだぜ! こりゃ忙しくなりそうだな、ヌメ!」
「がんばろ~ね~」
ヌメリンがおっとりとした笑顔でそう言うと、ふっとその場の嫌な緊張感が緩んだ。
険しい顔をしていたエステアとホムも、少し表情を柔らかくして顔を見合わせている。
「……みんなありがとう。でも、なにか工夫しないと貴族食堂とその他の出し物の場所で分断が見えそうね」
とはいえ、エステアの懸念はまだ多そうだ。
「それはイグニスの自業自得じゃん? っちゅーか、それすら計画のうちかもしれないし」
「それは言えますね。自分たちを爪弾きにしているとでも言い出せば、面倒なことになりそうです」
イグニスの元に来賓が集中してもしなくても面倒なことになるようだ。これは、どう手を打つべきか迷うな。貴族寮の面々の口ぶりからするに、定員を理由に分散することは恐らく不可能なのだろう。
「でも、みんながいるところでパーティをされるのも微妙だよね……?」
「ん~。一応出店ブースってのがあるからなぁ……。食堂貸し切りはまだしも、ブースを占領されるんじゃ困るだろ」
ファラの意見もその通りだと思う。分断を恐れて一箇所にまとめるよりは、申請書通りに貴族寮の食堂を貸し切りにした方が穏便には進みそうだ。
「ったく! そういうのも見越してやってんだとすると、マジで性格悪いよな」
「まあ、目的のためには手段を選ばないタイプではあるよね」
怒りを露わにしているヴァナベルを宥めるように一言添えると、ヴァナベルは、はっとした顔をして、僕を指差した。
「それだよ、それ! そういうのに対抗するのってどうすんのがいいんだろうな」
ヴァナベルに言われて気がついた。僕たちは対抗したいわけではないはずだ。
目指す建国祭は、生徒みんなが楽しいと思える祭典であるべきなのだから。
「……別に対抗しなくてもいいと思うよ。グーテンブルク坊やとリゼルが言うように、他の生徒の出店は充分魅力的だ。人の流れは作り出せると思う」
そこまでは考えがまとまってきた。あとは、きっかけさえあればいい。
「ざっと見たい感じだと、ゲームや占いのようなイベント系と、単純に物品を販売するもので分けられそうだね」
そう言いながら申請書の束を手に取ると、マリーが急に身を乗り出してきた。
「占い!? それは面白そうですわぁ~! どなたがやりますの?」
「リリルルちゃんだよ。同じF組のダークエルフの双子ちゃんなんだけど……」
アルフェの説明にマリーが手をぱちぱちと叩きながら、軽く飛び跳ねる。
「もちろん存じ上げておりますわぁ~! ダークエルフとなると本格的な占いが期待出来ますわね!」
なんだかその言い方だと、これまでがそうでもなかったみたいな感じだな。
「随分と喜んでいるみたいだけど、なにか理由があるのかい?」
「大いにありますわぁ~! 貴族関係の出し物というのは、相手の身分に合わせてご機嫌取りをするところまでがセットなんですの。よかれと思ってそうしてくれているのはわかるんですけど、そんなのどこかのイグニスさんはともかくとして、私、全っ然望んでいないんですわぁ~」
「まあ、そのイグニスは今年は大人しくしてくれそーだし、安泰じゃない?」
うんざりした表情を作るマリーに、メルアが楽観的な調子で言うが、申請書に目を通していたエステアとホムは同時に顔を曇らせた。
「……それが、そうでもないようよ」
「ですね」
黙々と分類作業に勤しんでいたエステアとホムが呆れたような息を吐く。
エステアが示した申請書には、デュラン家の印が捺してある。要するに謹慎中のイグニスが何らかの手段で提出した正真正銘、彼の申請書だ。
「貴族寮の食堂を貸し切っての社交パーティーですって」
建国祭の妨害に動くことを懸念していたが、まさかこんな手段があるとは思ってもみなかった。
「え……? じゃあ、私たちの出店に人が来ない……?」
リゼルとグーテンブルク坊やも寝耳に水だったようで、絶句している。
「来賓をごっそりもってくっちゅーつもりかぁ~。まあ、社交場って意味は確かにあるんだけど、意味っちゅーか社交場そのものを用意されたら、そっちに集中しちゃうよねぇ」
「謹慎中だから取り巻きに提出させたってとこか。けっ! やりたい放題だな」
作業の手を止めたヴァナベルが嫌悪感を露わに顔を歪めている。
「これってぇ~生徒会の権限で申請却下~ってわけにはいかない感じ~?」
そう訊ねるヌメリンはそれが出来ないことをわかっている様子だ。エステアは申し訳なさそうに頷くと、申請書をテーブルの上に置いた。
「出来ないわね。基本的に危険がないものは許可することになっているから……」
「でも、風紀乱しまくりみたいな感じじゃん! 建国祭でパーティーだよ、パーティー! 一生徒が学園を私物化しているようなもんじゃん!」
メルアの怒りももっともだが、生徒会にはこれを却下する権限はない。もし、生徒会側の人間がこうしたパーティーを企画したなら、生徒たちから非難されるだろうけれど、イグニスは生徒会に属してはいない一生徒なのだ。それこそがイグニスの狙いなのだと気づくと、彼の狡猾さに目眩がした。
「……一生徒だから許されるんだと思うよ」
苦々しく呟くと、メルアが驚いた様子で僕の顔を覗き込んできた。
「へっ!? ししょー、大丈夫? 熱とかない?」
「至って普通だよ。イグニスはエステアがこの学園にもたらそうとしている自由を、濫用する方に舵を切ったんだと思って」
「はぁ、濫用ねぇ……」
ヴァナベルは僕の話している言葉の意味を理解した様子で、ふっ、と音を立てて息を吐いた。
「それって、一生徒がこれだけの規模のパーティーを、来賓のために開いたって言ったら、自主性をすごく重んじられるってこと?」
アルフェが僕の話を噛み砕いてさらにわかりやすく説明してくれる。
「そう解釈出来るね。貴族ということを考えれば、家とは切り離せない。だからデュラン家の財力を使ったところで、それは当然のやり方になる」
「……そうね。その通りだと思うわ」
それに反対することも否定することもできないのがもどかしいそうに、エステアが何度も首を縦に振った。無理矢理自分を納得させようとしているようなその仕草に、メルアが激しく首を横に振る。
「……でも、でもさっ! これ許可しちゃったら、やっぱり……」
でも、ここにいる誰もがメルアに共感は出来ても賛成は出来ない。メルアもそれはわかっていて最後まで言わずに口を噤んだ。
「……悲観する必要はないと思う」
重い沈黙を短いうちに破ったのは、リゼルだった。
「イグニスさんは貴族寮の食堂を使うわけだし、他の会場とは離れている。建国祭で学園に来た来賓は、パーティに寄るだろうけれど、パーティだけに参加してカナルフォード学園の建国祭を見たとは言わないはずだ」
「私もそう思う。この学園の生徒はイグニスさんだけじゃない。デュラン家の持つ影響は大きいけれど、他の生徒が……平民も含めて『それ以外』なんて考える人は稀だ」
リゼルに続いてグーテンブルク坊やが持論を述べる。その意見を聞く限り、表立ってイグニスを批判するつもりはないにせよ、その他の生徒を守りたいという意思が感じ取れた。
「リゼルもライルもなんでそう思いますの?」
「単純に私たちはこの建国祭が楽しみなんだ。みんな活き活きとして、建国祭のアイディアを出し合っている。そんな楽しそうなみんなが作る建国祭が、社交場として展開されるパーティひとつに叶わないなんあり得ない」
マリーの問いかけにリゼルは笑顔を浮かべた。なにかを悟ったようなすがすがしさを感じられる笑顔でそう語るリゼルには、素直に好感が持てた。
「お前、いけ好かない奴だと思ってたけど、いいこと言うんだな」
「いいこともなにも、本心だよ。お前のカオス焼きとやらも、私たちじゃ思いつかない発想で実に興味深い」
ヴァナベルが感心した様子でリゼルの発言を褒めると、リゼルが苦笑を浮かべてヴァナベルの出店への感想を述べた。
「えへへ~、褒められてるよぉ~ベル~」
「ま、まあ、そこまで言うんならお前らにも喰わせてやるよ」
「ありがとう、楽しみにしてる」
かつては険悪だった二人の雰囲気も、こうして見るとかなり和やかだ。生徒会として同じ目標を持つことで、僕たちは変わっていける、そんな気がする。
「ワタシも食べる~!」
「とーぜん、私にも頂けるんですわよね!?」
マリーが遅れを取るまいと、ヴァナベルに詰め寄らんという勢いでアピールしている。
「もちろんだぜ! こりゃ忙しくなりそうだな、ヌメ!」
「がんばろ~ね~」
ヌメリンがおっとりとした笑顔でそう言うと、ふっとその場の嫌な緊張感が緩んだ。
険しい顔をしていたエステアとホムも、少し表情を柔らかくして顔を見合わせている。
「……みんなありがとう。でも、なにか工夫しないと貴族食堂とその他の出し物の場所で分断が見えそうね」
とはいえ、エステアの懸念はまだ多そうだ。
「それはイグニスの自業自得じゃん? っちゅーか、それすら計画のうちかもしれないし」
「それは言えますね。自分たちを爪弾きにしているとでも言い出せば、面倒なことになりそうです」
イグニスの元に来賓が集中してもしなくても面倒なことになるようだ。これは、どう手を打つべきか迷うな。貴族寮の面々の口ぶりからするに、定員を理由に分散することは恐らく不可能なのだろう。
「でも、みんながいるところでパーティをされるのも微妙だよね……?」
「ん~。一応出店ブースってのがあるからなぁ……。食堂貸し切りはまだしも、ブースを占領されるんじゃ困るだろ」
ファラの意見もその通りだと思う。分断を恐れて一箇所にまとめるよりは、申請書通りに貴族寮の食堂を貸し切りにした方が穏便には進みそうだ。
「ったく! そういうのも見越してやってんだとすると、マジで性格悪いよな」
「まあ、目的のためには手段を選ばないタイプではあるよね」
怒りを露わにしているヴァナベルを宥めるように一言添えると、ヴァナベルは、はっとした顔をして、僕を指差した。
「それだよ、それ! そういうのに対抗するのってどうすんのがいいんだろうな」
ヴァナベルに言われて気がついた。僕たちは対抗したいわけではないはずだ。
目指す建国祭は、生徒みんなが楽しいと思える祭典であるべきなのだから。
「……別に対抗しなくてもいいと思うよ。グーテンブルク坊やとリゼルが言うように、他の生徒の出店は充分魅力的だ。人の流れは作り出せると思う」
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