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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第305話 立入禁止の生徒会室

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 放課後、マリーの放送で呼び出されて生徒会室に移動すると、そこには立ち入り禁止の貼り紙が大きく貼り出されていた。

「なんだこれ!? 嫌がらせか!?」
「集合場所って言われてたのに~なんでぇ~」

 前を歩いていたヴァナベルとヌメリンが納得いかない様子で首を傾げたり、貼り紙を睨んだりしている。

「エステアさんたちもいないね」
「これもイグニスの仕業でしょうか……」

 アルフェとホムが辺りに注意を払っている。イグニスの仕業というのはなんとなくそんな気がするが、本人は謹慎中なので確証はない。とはいえ、こんなことをしそうなのはイグニス以外に考えられないのが厄介なところだな。

「ちっ……あいつ、謹慎中だってのに全然懲りてねぇってことか」
「にゃはっ。まあ、謹慎くらいじゃどうってことないよな。多分、その履歴みたいなのも進学するときに揉み消すだろうしさ」

 さらっと言って退けたファラの言葉に、ヴァナベルがやれやれと溜息を吐いている。

「はぁ……。貴族っていうのは、自分の名誉やらなんやらのためならなんでもするんだな」
「うんざりするねぇ~」

 ヌメリンが同意を示すと、ヴァナベルは溜息を吐きながら耳を動かして苛立ちを表した。

「……あれっ、待って。誰か来る。……多分、ライルくんとリゼルくんじゃないかな?」

 姿は見えないが、アルフェのことだから浄眼で近づいてくるエーテルを視たのだろう。その言葉を聞いて、ヴァナベルが目を輝かせた。

「おっ! ってことは、生徒会に入ってくれるのか」
「げっ! ヴァナベル!」

 声が廊下に響き渡ると同時に、リゼルと思しき声が返って来る。ちょうど突き当たりの角を曲がったリゼルがそこで足を止めて、こちらの様子を窺っているのが見えた。後ろにはグーテンブルク坊やも続いている。

「おいおい、人の顔見てそりゃねぇだろ! 品ってやつはどうしたんだよ」
「お前相手に品もなにもないだろうに。どうして、ここにいるんだ?」

 遠くで声を張り上げていても仕方ないと気づいたのか、グーテンブルク坊やに促されてリゼルがこちらに近づいてくる。とはいえ、ヴァナベルに対して怪訝そうな態度は崩さない。

「どうしてもこうしても聞いてねぇのか?」
「ほら、生徒会会長補佐を俺たちとやるってもう一人……」

 グーテンブルク坊やがリゼルに説明すると、リゼルははっとしたように目を剥いて、ヴァナベルとグーテンブルク坊やを忙しなく見比べた。

「それがあいつか!?」
「そういうこと。まっ、ここは一時休戦ってことで」

 ヴァナベルがリゼルに近づきながら、笑顔で手を差し出す。

「……そこまで言うなら、乗ってやるよ」

 どうなることかと思ったが、リゼルは素直にヴァナベルの手を取り、軽く握手を交わした。その場の空気が少し緩み、ヌメリンが緩慢な動きでぱちぱちと拍手を贈る。

「君にしては素直だね、リゼル」
「こいつに大人みたいな対応をされたら、文句言ってるこっちの格を下げるからな」

 ふん、と荒い鼻息を吐いたリゼルが、気を取り直した様子で笑顔を見せる。挨拶が済んだこともあり、僕はグーテンブルク坊やに話しかけた。

「巻き込んで済まないね、グーテンブルク坊や」
「別に巻き込まれたとは思っていない。こっちとしても、イグニスさんのやり方には疑問があったから、エステア会長がどう動くのかは間近で見ておきたい。そういう名目のつもりだ」

 なるほど、そういう考え方もあるのだなと感心してしまう。あくまでどちらかに肩入れをするというわけではないのが、グーテンブルク坊やらしいな。

「でも手伝ってくれるんだろう?」
「家に害がない限りはね」

 僕の問いかけにグーテンブルク坊やは肩を竦めて苦笑を浮かべる。

「オーッホホホホッ! ワタクシが生徒会にいるからには、下手に手出しはさせませんわぁ!」

 グーテンブルク坊やの不安を払拭するような高らかな笑い声が響き、マリーが姿を見せた。

「マリアンネ先輩!」

 リゼルとグーテンブルク坊やが姿勢を正し、マリーに続いて姿を見せたエステアとメルアに向かって深く頭を垂れる。

「マリー先輩でよろしくてよ。お約束通り来て頂けて嬉しいですわ、リゼル、ライル」

 マリーは気取らないいつもの調子でそう言うと、柔和な笑みを見せた。

「……あの、手出しをさせないというのはどういう……」

 親しみを込めた笑みを向けられて安堵したのか、リゼルがおずおずと問いかける。

「うふふっ。ワタクシの優秀な執事ジョスランの報告によれば、公安から今回の一件は包み隠さずデュラン家に伝わっているそうですの。ということはぁ~」
「生徒会になんらかの妨害をすれば、再び公安が動く可能性があるっちゅーこと!?」

 もったいぶるマリーの言葉をメルアが引き継ぐ。

「まあ、実際にはそうではないんですけど、デュラン家が生徒会へこれ以上干渉することを許しませんわ~!」

 マリーの言葉ほど説得力があるものはないのだろう。リゼルとグーテンブルク坊やの顔にも安堵が滲む。二人が安心したのを見計らって、エステアが口を開いた。

「そういう訳だから、生徒会に入っている生徒に干渉すること自体ないはずよ。もしも、想定外のことが起きるようなら、話を合わせてあなたたちを守る……。私では頼りないかもしれないけれど、あなたたちの協力はどうしても必要なの」

「わかっていますよ、エステア会長」

 エステアに対し、リゼルが丁寧に応じる。

「学園で動きがあるようなら、ジョストが報告してくれることになっているから、こっちは心配いらないはずです」

 グーテンブルクが付け加えると、マリーがぱちぱちと手を叩いた。

「さっすが、ジョスランの従弟いとこ、まだ若いのに優秀なんですわぁ!」
「えっ!? ジョストくんって、ジョスランさんの従弟だったの?」

 マリーの発言に驚きの声を上げたのはアルフェだ。確かに良く似た名前だとは思っていたが、親類と聞いて僕も驚いた。

「そうですわぁ~! ワタクシもジョスランに聞いて、世間の狭さに驚いていますの~! でも、お陰で話がスムーズでしたわぁ」

 なるほど、グーテンブルク坊やとリゼルが承諾してくれた背景には、ジョスランとジョストも関係してくるみたいだな。二人は生徒会に直接入るわけではないけれど、イグニスの脅威から生徒会を守るのに活躍してくれそうだ。

「……まあ、上手くまとまったのはいいんだけどさ。これはどうするんだ?」

 話が落ち着いた頃合いを見て、ヴァナベルが苦笑を浮かべながら立ち入り禁止の貼り紙を示す。マリーはそれを一瞥すると同時に、怒りを露わにして叫んだ。

「んまぁ~! やりやがりましたわねぇ~!!」
「にゃはっ。やっぱり寝耳に水だったか」

 待ち合わせ場所にしていたぐらいなので、それは容易に想像がつく。もしかすると、マリーの呼び出しに合わせてこの貼り紙が貼られた可能性すらあるだろうな。

 エステアの方を見ると、思ったよりも落ち着いた様子でメルアと顔を見合わせている。

「……というわけで、メルア、頼めるかしら?」
「まあ、こうなるかな~と思ってたし、場所はあるよ。うちについてきて」

 エステアの頼みに、苦笑を浮かべたメルアが手を挙げる。僕たちはメルアの案内で校舎を移動した。

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