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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第294話 繋がる想い
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「えっ!? 火事!?」
「非常事態ですわぁ~!!」
生徒たちが講堂の後ろの方に慌てて避難を始める。
マチルダ先生が氷魔法で生徒らと僕たちの間に氷の壁を築いたかと思うと、アルフェとメルアが無詠唱の水魔法で炎を消し止めた。
炎が上がっていたのはほんの一瞬のことだ。だが、エーテル供給ケーブルが燃え尽きたことで、演奏は止まり、僕たちの音はぷっつりと途絶えてしまった。
「おい、演奏が止まってるぞ? どうなってる!?」
生徒たちの動揺のざわめきを打ち破ったのは、イグニスの鋭い声だった。講堂から出て行ったはずのイグニスが、講堂の扉の前で仁王立ちになり、冷やかな笑みをこちらに向けている。
「まさか、イグニス……」
ホムが苦々しく呟く声に、アルフェとメルアが愕然とした様子で顔を見合わせている。
「エーテルを使った感じ……全然しなかった」
「うちの浄眼でも……」
仮に魔法だとすれば、アルフェとメルアが発動前に感知出来たはずなのだ。だが、それはなかったし、詠唱をホムが聞き取ることも出来なかった。
無詠唱でエーテルを介在させない炎――。これは、どういう仕掛けかはわからないが、イグニスが操る炎の特徴でもある。
「ライブに浮かれて機材チェックもままならないか? エーテル供給ケーブルから出火させるなど、危険極まりないぞ。一歩間違えれば、全校生徒を巻き込んだ大惨事だ。こんなことで生徒会長が務まると思っているのか!?」
だが、証拠はない。証拠がない以上、真っ当な意見で責め立てるイグニスが圧倒的に有利だ。
「……ぐだぐだじゃん。エステアってもっとしっかりしてると思ったのに、大丈夫かな」
「やっぱり、イグニスに入れた方がいいんじゃ……」
マチルダ先生が氷の壁を解除すると同時に、生徒たちの非難の声が僕たちに向けられた。
突然のトラブルに加え、イグニスの扇動によって観客から厳しい意見が向けられる。もちろん、安全管理は重要なので、言い返す言葉もない。
そう言われれば、仮にその黒幕がイグニスだとわかっていても、言い合うだけ僕たちの信頼を落とすことになる。トラブルのせいにしてこのまま演奏を中断するのは簡単だ。だが、それではイグニスに負けたことになる。
――ワタシ、負けない。
アルフェの声が聞こえた気がして、はっと顔を上げると、ボーカルとして最も照明を浴びていたアルフェが前に進み出るのが見えた。
アルフェはマイクを下ろし、大きく息を吸い込むと自分の声だけで『感謝の祈り』を歌い始めた。
こんな過去なら 欲しくなかった
ワタシはなに?
そんなの誰も 望んでない
アルフェがより情感豊かに心を込めて声を響かせたのは、演奏の続きではなかった。でも、これは『感謝の祈り』に今の気持ちを乗せているのだ。
ああ、アルフェは今のステージを過去にしたくない。
負けたくないのだとはっきりとわかった。
だったら僕がすべきことは、たった一つだ。
水浸しになった足許に目を向け、想像を働かせる。
アルフェの声を、エステアの想いをこの場所に響かせる――。
こんな状況になっても、僕にはそれが出来る。
「――クリエイト・ウォーター」
アルフェの声に重ね、僕の唇から歌うような詠唱が零れた。
エーテル供給ケーブルが使えないなら、ケーブルに代わるものを用意すればいい。僕の無限に湧き出るエーテルを使い、網の目のように水を媒介にしたエーテル供給回路を作る。
エーテルタンクの代わりになる炉心は、僕の身体だ。
貴方の言葉 不安を拭い
だから私の全て思い出させる
このまま私は歌い続ける
貴方と出会えた喜び噛み締めて
アルフェが歌詞の一部を変え、僕に視線を送る。
キラキラした浄眼が僕を映し、無数の蝶が僕たちの周りを舞う。
――通じている、繋がっている。
アルフェには僕のやろうとしていることが、もうわかっている。
アルフェとのエーテルの共鳴を感じて、僕は微笑んだ。
「――術式起動・簡易魔力供給炉」
アルフェに倣い、自分のエーテルのイメージを具現化させる。
眩く舞うアルフェの蝶が、僕の黄金のエーテルを受けて足許に描いた簡易術式の魔法陣が眩しく光りだす。
「音が……音が戻りましたわ……」
マリーの驚愕の呟きが聞こえる。エステアとホムがギター演奏を穏やかに再開したのだ。
僕はみんなと目を合わせて頷く。
――いくよ、みんな。
『だから私は歌い続ける 貴方と出会えた喜び噛み締めて』
アルフェが僕に歌で応えてくれる。途切れたところから、もう一度再開する。
ああ、この音ですら、エステアが願っていたものそのものに変わっていく。
もう一度僕たちは音を取り戻した。
自由な未来のための音を。
「ああ、音が戻った!」
「すごい! なにこれ! キラキラしてきれい!」
「リバティ! リバティ!」
独唱から間奏に入った僕たちの演奏に、大歓声が上がる。
届いた、という実感があった。
演奏を通じてエーテルを供給する僕にみんなの想いが集まっている。
くすぐったくて、気分が高揚して、――嬉しい。
解き放たれた自由な音を噛み締めながら、僕はいつもよりお腹に力を入れて、エーテルを流すことに集中しながら演奏を続ける。
このライブの音を、こうして僕自身が生み出せるのは幸せだ。
アルフェが振り向き、汗の珠を弾けさせながら薔薇色の笑顔を見せてくれる。
ああ、今僕たちは繋がっている。
音楽を通じて、エーテルを通じて一つになっているんだ。
―――――――
劇中挿入歌『感謝の祈り』Youtubeで公開中です!
是非是非、聴いてみてください。
高評価とチャンネル登録頂けると励みになります!
https://www.youtube.com/watch?v=k9xlWekyHNs
「非常事態ですわぁ~!!」
生徒たちが講堂の後ろの方に慌てて避難を始める。
マチルダ先生が氷魔法で生徒らと僕たちの間に氷の壁を築いたかと思うと、アルフェとメルアが無詠唱の水魔法で炎を消し止めた。
炎が上がっていたのはほんの一瞬のことだ。だが、エーテル供給ケーブルが燃え尽きたことで、演奏は止まり、僕たちの音はぷっつりと途絶えてしまった。
「おい、演奏が止まってるぞ? どうなってる!?」
生徒たちの動揺のざわめきを打ち破ったのは、イグニスの鋭い声だった。講堂から出て行ったはずのイグニスが、講堂の扉の前で仁王立ちになり、冷やかな笑みをこちらに向けている。
「まさか、イグニス……」
ホムが苦々しく呟く声に、アルフェとメルアが愕然とした様子で顔を見合わせている。
「エーテルを使った感じ……全然しなかった」
「うちの浄眼でも……」
仮に魔法だとすれば、アルフェとメルアが発動前に感知出来たはずなのだ。だが、それはなかったし、詠唱をホムが聞き取ることも出来なかった。
無詠唱でエーテルを介在させない炎――。これは、どういう仕掛けかはわからないが、イグニスが操る炎の特徴でもある。
「ライブに浮かれて機材チェックもままならないか? エーテル供給ケーブルから出火させるなど、危険極まりないぞ。一歩間違えれば、全校生徒を巻き込んだ大惨事だ。こんなことで生徒会長が務まると思っているのか!?」
だが、証拠はない。証拠がない以上、真っ当な意見で責め立てるイグニスが圧倒的に有利だ。
「……ぐだぐだじゃん。エステアってもっとしっかりしてると思ったのに、大丈夫かな」
「やっぱり、イグニスに入れた方がいいんじゃ……」
マチルダ先生が氷の壁を解除すると同時に、生徒たちの非難の声が僕たちに向けられた。
突然のトラブルに加え、イグニスの扇動によって観客から厳しい意見が向けられる。もちろん、安全管理は重要なので、言い返す言葉もない。
そう言われれば、仮にその黒幕がイグニスだとわかっていても、言い合うだけ僕たちの信頼を落とすことになる。トラブルのせいにしてこのまま演奏を中断するのは簡単だ。だが、それではイグニスに負けたことになる。
――ワタシ、負けない。
アルフェの声が聞こえた気がして、はっと顔を上げると、ボーカルとして最も照明を浴びていたアルフェが前に進み出るのが見えた。
アルフェはマイクを下ろし、大きく息を吸い込むと自分の声だけで『感謝の祈り』を歌い始めた。
こんな過去なら 欲しくなかった
ワタシはなに?
そんなの誰も 望んでない
アルフェがより情感豊かに心を込めて声を響かせたのは、演奏の続きではなかった。でも、これは『感謝の祈り』に今の気持ちを乗せているのだ。
ああ、アルフェは今のステージを過去にしたくない。
負けたくないのだとはっきりとわかった。
だったら僕がすべきことは、たった一つだ。
水浸しになった足許に目を向け、想像を働かせる。
アルフェの声を、エステアの想いをこの場所に響かせる――。
こんな状況になっても、僕にはそれが出来る。
「――クリエイト・ウォーター」
アルフェの声に重ね、僕の唇から歌うような詠唱が零れた。
エーテル供給ケーブルが使えないなら、ケーブルに代わるものを用意すればいい。僕の無限に湧き出るエーテルを使い、網の目のように水を媒介にしたエーテル供給回路を作る。
エーテルタンクの代わりになる炉心は、僕の身体だ。
貴方の言葉 不安を拭い
だから私の全て思い出させる
このまま私は歌い続ける
貴方と出会えた喜び噛み締めて
アルフェが歌詞の一部を変え、僕に視線を送る。
キラキラした浄眼が僕を映し、無数の蝶が僕たちの周りを舞う。
――通じている、繋がっている。
アルフェには僕のやろうとしていることが、もうわかっている。
アルフェとのエーテルの共鳴を感じて、僕は微笑んだ。
「――術式起動・簡易魔力供給炉」
アルフェに倣い、自分のエーテルのイメージを具現化させる。
眩く舞うアルフェの蝶が、僕の黄金のエーテルを受けて足許に描いた簡易術式の魔法陣が眩しく光りだす。
「音が……音が戻りましたわ……」
マリーの驚愕の呟きが聞こえる。エステアとホムがギター演奏を穏やかに再開したのだ。
僕はみんなと目を合わせて頷く。
――いくよ、みんな。
『だから私は歌い続ける 貴方と出会えた喜び噛み締めて』
アルフェが僕に歌で応えてくれる。途切れたところから、もう一度再開する。
ああ、この音ですら、エステアが願っていたものそのものに変わっていく。
もう一度僕たちは音を取り戻した。
自由な未来のための音を。
「ああ、音が戻った!」
「すごい! なにこれ! キラキラしてきれい!」
「リバティ! リバティ!」
独唱から間奏に入った僕たちの演奏に、大歓声が上がる。
届いた、という実感があった。
演奏を通じてエーテルを供給する僕にみんなの想いが集まっている。
くすぐったくて、気分が高揚して、――嬉しい。
解き放たれた自由な音を噛み締めながら、僕はいつもよりお腹に力を入れて、エーテルを流すことに集中しながら演奏を続ける。
このライブの音を、こうして僕自身が生み出せるのは幸せだ。
アルフェが振り向き、汗の珠を弾けさせながら薔薇色の笑顔を見せてくれる。
ああ、今僕たちは繋がっている。
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