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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第289話 工学科の特別講師
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迎えた翌日の工学科の授業、珍しい参加者が教室に現れた。
「本日は特別講師として、メルア・ガーネル特級錬金術師が授業に参加します。ご存じのとおり当学園の二年生ですから、どうぞ気軽に相談してください」
「はーーい! わからないことがあったら、うちにどんどん聞いちゃって~!」
「拙者とロメオ殿は、機兵改造について少々ご相談があるでござる!」
にこにこしながら手を振るメルアに、アイザックとロメオが早速挙手する。
「はいはーい!」
メルアは愛想良くそれを引き受けると、二人の席まで移動する。アイザックとロメオが質問の先陣を切ったことで、他の生徒もメルアに次々と相談を持ちかけはじめた。
やれやれ。いつもよりも賑やかになってきたが、今のうちにレポートを仕上げておかないとな。それにしても、工学科の授業なのに特級錬金術師とはいえ、どうしてメルアが参加することになったのだろうか。
「……気になりますか?」
メルアの方をちらちらと見ていたのがばれたのか、プロフェッサーがこちらに近づいて来て囁いた。
「助手が必要な段階とも思えないですし、何故かなとは思いますけど」
「それはもちろん、魔導砲についてあれこれ聞かせてもらうためですよ」
ああ、なるほど。授業時間というある程度自由に使える時間を有効活用しようという訳なのか。さすがはプロフェッサー、自分の興味に驚くほど正直だな。
仕方ないのでレポートをまとめながら、簡単に魔導砲のアイディアと実装した機構について説明していく。
プロフェッサーは、設計図と昨日メルアが土魔法で模写した模型を眺めながら感嘆の溜息を吐きながら嬉しそうに目を輝かせた。
「……いやいや! 模型で見ても素晴らしい機構です。天才というものはやはり存在するんですね。武侠宴舞・カナルフォード杯でも充分にその才能を発揮していましたが、この設計図からこれを仕上げてくるとは思いませんでした」
設計図は出来るだけ簡略化していたので、ブラッドグレイルのことを含めてもっと突っ込まれるかと覚悟していたのだが、昨日の感嘆以上の驚きはなく、ただただ興味を持ってプロフェッサーは僕の説明に聴き入り、レポートに魅入っているだけだった。
案外メルアが入ってくれて、レポートや質問に集中出来る時間が出来たことで、プロフェッサーも自問自答する時間を楽しんでいるのかもしれないな。全てを知ることと同じくらい、自分で考えることが好きなのだろう。
「これで三学期の課題はほぼ終了ですね。出来ればもうひとつくらい、君の作った魔導器をこの目で見たいものです」
「ひとつでいーの? なんかそれって、今年で最後みたいな言い方じゃん」
一通り生徒からの質問に答えたメルアが、プロフェッサーから当然のように僕が書いたレポートを受け取りながら首を傾げる。
「……まあ、当たらずしも遠からずですね。別の研究職のポストに誘われているんです」
「へぇ……」
さして興味がないのか、よくあることだから慣れているのか、メルアはもう僕の論文の方にすっかり夢中になっている。まあ、そのお陰で僕はプロフェッサーが目で合図したことに気づくことができた。
どうやらプロフェッサーは、イグニスと教頭の企みを挫けば、この学園での任務が終わるらしい。そして、今の発言が出たということは、エステアの再選を確信しているのだ。
エステアはかなり気に病んでいたけれど、武侠宴舞・カナルフォード杯の勝利よりも大切なものを在任中にこの学園にもたらしていたことの証にならないかな。それを伝えられるのは、きっと総選挙が終わった後になりそうだけれど。
「……というわけなので、君にこれを」
そう言いながらプロフェッサーが差し出したのは、一枚の名刺だった。そこに書かれた名前はもちろんこの学園でも使われている偽名だが、連絡先は本物のようだ。
「今後、魔導器で会心の出来の作品が出来た時は、ぜひ知らせてください。所属は変わっても、ここに連絡してもらえれば、必ず繋がります」
「わかる、わかるよプロフェッサー! ししょーの作品、うちも絶対見たいもん」
メルアはプロフェッサーが連絡先を渡したことよりも、僕の研究を追いかけたいという興味の方に激しく共感している。
「あー、でもそれもあと一年ちょっとだよね!? 卒業したらどーしよ~!」
「大学部に進学すれば近いですよ」
身もだえするメルアの悩みにあっさりと解決策を示したのは、プロフェッサーだった。
「確かに! じゃあ、このまま研究職を突き進むのもいいよね。卒業したら、錬金学会に就職みたいな感じで言われてたけど、大学部に進学してからでも遅くないだろうし!」
なんだか僕の錬金術見たさに進路を変えたように聞こえるけど、それは大丈夫なんだろうか。でも、メルアが決めたことだし、進路のことなのだからきっと両親や他の先生方にも相談するんだろうな。
まだまだ先だと思っていたけれど、僕も進路の話をきちんとする時が来ているのかもしれない。
「本日は特別講師として、メルア・ガーネル特級錬金術師が授業に参加します。ご存じのとおり当学園の二年生ですから、どうぞ気軽に相談してください」
「はーーい! わからないことがあったら、うちにどんどん聞いちゃって~!」
「拙者とロメオ殿は、機兵改造について少々ご相談があるでござる!」
にこにこしながら手を振るメルアに、アイザックとロメオが早速挙手する。
「はいはーい!」
メルアは愛想良くそれを引き受けると、二人の席まで移動する。アイザックとロメオが質問の先陣を切ったことで、他の生徒もメルアに次々と相談を持ちかけはじめた。
やれやれ。いつもよりも賑やかになってきたが、今のうちにレポートを仕上げておかないとな。それにしても、工学科の授業なのに特級錬金術師とはいえ、どうしてメルアが参加することになったのだろうか。
「……気になりますか?」
メルアの方をちらちらと見ていたのがばれたのか、プロフェッサーがこちらに近づいて来て囁いた。
「助手が必要な段階とも思えないですし、何故かなとは思いますけど」
「それはもちろん、魔導砲についてあれこれ聞かせてもらうためですよ」
ああ、なるほど。授業時間というある程度自由に使える時間を有効活用しようという訳なのか。さすがはプロフェッサー、自分の興味に驚くほど正直だな。
仕方ないのでレポートをまとめながら、簡単に魔導砲のアイディアと実装した機構について説明していく。
プロフェッサーは、設計図と昨日メルアが土魔法で模写した模型を眺めながら感嘆の溜息を吐きながら嬉しそうに目を輝かせた。
「……いやいや! 模型で見ても素晴らしい機構です。天才というものはやはり存在するんですね。武侠宴舞・カナルフォード杯でも充分にその才能を発揮していましたが、この設計図からこれを仕上げてくるとは思いませんでした」
設計図は出来るだけ簡略化していたので、ブラッドグレイルのことを含めてもっと突っ込まれるかと覚悟していたのだが、昨日の感嘆以上の驚きはなく、ただただ興味を持ってプロフェッサーは僕の説明に聴き入り、レポートに魅入っているだけだった。
案外メルアが入ってくれて、レポートや質問に集中出来る時間が出来たことで、プロフェッサーも自問自答する時間を楽しんでいるのかもしれないな。全てを知ることと同じくらい、自分で考えることが好きなのだろう。
「これで三学期の課題はほぼ終了ですね。出来ればもうひとつくらい、君の作った魔導器をこの目で見たいものです」
「ひとつでいーの? なんかそれって、今年で最後みたいな言い方じゃん」
一通り生徒からの質問に答えたメルアが、プロフェッサーから当然のように僕が書いたレポートを受け取りながら首を傾げる。
「……まあ、当たらずしも遠からずですね。別の研究職のポストに誘われているんです」
「へぇ……」
さして興味がないのか、よくあることだから慣れているのか、メルアはもう僕の論文の方にすっかり夢中になっている。まあ、そのお陰で僕はプロフェッサーが目で合図したことに気づくことができた。
どうやらプロフェッサーは、イグニスと教頭の企みを挫けば、この学園での任務が終わるらしい。そして、今の発言が出たということは、エステアの再選を確信しているのだ。
エステアはかなり気に病んでいたけれど、武侠宴舞・カナルフォード杯の勝利よりも大切なものを在任中にこの学園にもたらしていたことの証にならないかな。それを伝えられるのは、きっと総選挙が終わった後になりそうだけれど。
「……というわけなので、君にこれを」
そう言いながらプロフェッサーが差し出したのは、一枚の名刺だった。そこに書かれた名前はもちろんこの学園でも使われている偽名だが、連絡先は本物のようだ。
「今後、魔導器で会心の出来の作品が出来た時は、ぜひ知らせてください。所属は変わっても、ここに連絡してもらえれば、必ず繋がります」
「わかる、わかるよプロフェッサー! ししょーの作品、うちも絶対見たいもん」
メルアはプロフェッサーが連絡先を渡したことよりも、僕の研究を追いかけたいという興味の方に激しく共感している。
「あー、でもそれもあと一年ちょっとだよね!? 卒業したらどーしよ~!」
「大学部に進学すれば近いですよ」
身もだえするメルアの悩みにあっさりと解決策を示したのは、プロフェッサーだった。
「確かに! じゃあ、このまま研究職を突き進むのもいいよね。卒業したら、錬金学会に就職みたいな感じで言われてたけど、大学部に進学してからでも遅くないだろうし!」
なんだか僕の錬金術見たさに進路を変えたように聞こえるけど、それは大丈夫なんだろうか。でも、メルアが決めたことだし、進路のことなのだからきっと両親や他の先生方にも相談するんだろうな。
まだまだ先だと思っていたけれど、僕も進路の話をきちんとする時が来ているのかもしれない。
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