上 下
286 / 396
第四章 絢爛のスクールフェスタ

第286話 宵の明星

しおりを挟む
※魔導砲完成

 スパークショットの簡易術式を彫り込んだイシルディンとドゥマニウムの複合素材に錬金金属であるレイヴァスキンの液体を流し込んで乾燥魔導器ドライヤーの温風で乾かす。そうして仕上がった全長2mほどになる四枚の細長い板を組み合わせた銃砲身バレルを組み立て、接着面をヒートペンで溶接すると、細長い長方形の筒状の砲身が出来上がった。

 ここまでくればあとはもう仕上げだけだ。僕はそこに予め用意していた銃把グリップを嵌め込んで、握り具合を確かめた。マリーが扱いやすいようにベースは魔導砲のパーツを使ったが、なかなかに馴染みが良い。この銃把グリップに設けていた窪みにエーテル増幅装置であるブラッドグレイルを嵌め込み、金具で四方を固定すると、マリーの要求を全て採り入れた特注の魔導砲が完成した。

「……出来た。本当に出来ちゃった」

 組み立てを息を呑むように眺めていたメルアが、感嘆の声を漏らす。

「おめでとう、メルア」

 総重量約5kgの大きな魔導砲を作業台の上で回転させ、メルアに銃把グリップを向ける。メルアは目を潤ませて完成したばかりの細長く大きな魔導砲を持ち上げ、大切に抱えた。

「ありがと……って、もうほとんどししょーのお陰だから!」
「いやいや、かなめになる簡易術式を根気強く彫ったのはメルアだよ」

 僕が出来ないことというわけではないけれど、メルアがマリーのために苦手を克服したのは大きな進歩だ。実際、滞りなく液体レイヴァスキンが簡易術式の溝に行き渡ったのを見るに、いかにメルアが慎重に正確に作業を進めていたかがわかる。

「褒められるのは嬉しいよ。ありがと……でも、でもね! これはししょーのブラッドグレイルがあってこその機構だし! ……だけど……だけど、本当にありがとう! お陰でマリーの誕生日に間に合った!」
「それはなにより」

 メルアには僕が褒めていることがきちんと伝わっているようで安心した。ここで妙に謙遜してしまうあたりが、メルアの人の良さを表しているようでなんだか安心するな。

「でさ、これせっかくだからししょーに格好いい名前をお願いしたいんだけど、いい?」
「そこは、君がつけた方がいいよ。なにか考えていたんじゃないかい?」

 そもそも一年もこれを完成させるためのアイディアを出し続けてきたのだ。メルアがなにも考えていないとは考え辛い。

「……うーん……うちがつけてもなんかコレじゃない感になっちゃうし、あんまりセンスないから、ししょーのセンスにお任せ――」
「メルア」

 ああ、もしかするとメルアは僕に遠慮しているのかもしれないな。だったら尚更師匠と呼ばれる身としては、弟子に遠慮などされたくないのだけれど。

「これは誰から誰へのプレゼントなんだい?」

 どう説得したらいいだろうかと考えたところで、アルフェの顔が浮かんだ。多分アルフェならこう言っただろうな。プレゼントというものは、誰が誰のために贈りたいものなのかということが大事なのだ。それを作ったのが、誰であれ、贈り主の想いが尊重されるはずだ。メルアは気にしているが、それはこの錬金術で作り出したプレセントにおいても同じだろう。

「うちからマリーへのだよ。それはわかってる……」
「だったらわかるね?」

 諭すように問いかけると、メルアは観念したように俯いた。

「……笑わないで聞いてよ。宵の明星ヴェスパー……ってのを考えてたんだけど」
「素敵な名前だよ、メルア。由来を聞いてもいいかな?」
「由来っていうか……。あのさ、うちにとってエステアは明けの明星なんだよね。夜明けに最も明るく輝く金星で、暗闇を切り裂いて夜明けに皆を導く存在。で、マリーは宵の明星で、夜空で最も明るく輝く金星。暗闇の中でも目印になってエステアを導いてくれる。これからもマリーにはうちと一緒にエステアを支えてほしい。だから、敬愛の意味を込めて宵の明星ヴェスパー……って」

 メルアがつっかえながらも丁寧に説明してくれる。メルアの過去を聞き、彼女たちの関係性を聞いた今なら、僕にもその意味や願いがすんなりと理解出来た。

「ぴったりだね、マリーに」
「でしょ? まっ、支えるとかお上品な感じじゃなくて、突っ込んでくタイプではあるんだけど」

 だったら尚更、この弾丸ではなく雷のエーテルを圧縮して放つ魔導砲はマリーにぴったりだろう。試射したいところだけれど、貴重なその一撃を僕たちがやってしまうのは避けたい。早く見せて反応を見てみたいものだ。

「……で、これからどうするんだい? マリーに直接渡せばいいのかな?」
「いやいやいや、一応銃器だし、学内で作る許可はもらってるんだけど、一年前だし……。完成したからその報告を兼ねて、携帯許可と使用許可取らないとマズいかな~って」

 ああ、一応学園内で使うことも想定されるのか。エーテル増幅装置に僕の血を材料にしたブラッドグレイルを使っているので、使う場所や場面はかなり限られるだろうな。

「じゃあ、申請しようか。手伝うよ」
「手伝ってもらうっちゅーほどのことでもないんだけどさ、プロフェッサーのところに行くから、ししょーがいた方が気が楽かも」

 メルアから意外な言葉が出たので、僕は小首を傾げた。そもそもプロフェッサーとの付き合いは僕よりもメルアの方が長いし、距離も近いはずなのだけれど。

「そう?」
「緊張するとかそういう話じゃないんだけど、この魔導砲――宵の明星ヴェスパーって、すっごく出来がいいじゃん。プロフェッサー、絶対突っ込んでくると思うんだよね」
「ああ、それはそうかもしれないね」

 しかもブラッドグレイルを組み込んでいるとあって、また魔力増幅にかなりの興味を示しそうではあるな。突っ込んだ質問が出た場合は、僕がいた方がメルアも気が楽だろう。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

処理中です...