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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第272話 イグニスとマリー

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「イグニス……」

 エステアの押し殺したような声に、ホムが顔を歪めている。イグニスはというと、エステアに対しては一瞥を寄越しただけで、腕組みをしながらマリーに好戦的な目を向けた。

「これはこれは、元生徒会書記担当様」
「一年ほど経ちましたのにお変わりないようで、うんざりしますわね、イグニス」

 慇懃無礼なイグニスの挑発を真っ向から受け、マリーが挑発的な笑みを浮かべる。マリーの返答を聞いたイグニスは、今度は敵意を剥き出しにしてマリーを睨んだ。

「復学早々にチョロチョロと小賢しい真似をしてるかと思えば、今度は無断で何を持ち込むつもりだ?」
ワタクシもこの一年ほどで成長しまして、もうただの生徒ではありませんの。もちろんこちらの蒸気車両も、これから行うことも無断ではありませんわ。全て然るべき方に許可を得ておりますの。たかだか副会長のあなたにとやかく言う権利はありませんわ」

 にっこりと微笑むマリーは、目だけは鋭くイグニスを睨み返す。

「いやいや、マズいって。やめなよ、マリー」

 両者一触即発の雰囲気をどう仲裁したものかと、メルアが右に左に忙しなく身体を動かしながらマリーに囁くが、マリーは緩く首を横に振っただけで応じなかった。

「俺を誰だと思っている? いつまでも副会長の座に甘んじていると思うなよ」
「それは今度の生徒会総選挙でエステアに勝つという意思表明ですの? デュラン家の力を借りて自分の実力を水増しするしか芸がありませんのに?」
「……っ! 言わせておけば!」

 イグニスよりも早く反応したのは、彼の取り巻きだった。挑発に乗った取り巻きに、マリーは高笑いを浴びせ、優越感たっぷりの表情を向ける。

「オーホッホッホ! 本当のことを言い当てられたからって、大きな声を出すのは品がありませんわ」
「ハッ! 人間モドキとつるんでるヤツには言われたくないな」

 マリーに反論するイグニスは、そう言いながらファラとアルフェ、ホムに蔑むような視線を向けた。アルフェは唇を噛み、ぐっと堪えているが、ファラは違った。

「にゃははははっ!」

 このタイミングで突然笑い出したファラは、愉快そうにイグニスとその取り巻きを眺めた。

「な、なんだ……。なにがおかしい?」
「いやさ、そうやってあたしたちを差別して下に見てるから、武侠宴舞ゼルステラであっという間に負けたんだなーって思ってさ」

 ファラの指摘にイグニスが表情を一変させ、低く唸る。

「ぐっ!」
「うふふっ」

 その様子がおかしかったのか、マリーが噴き出した。

「平民のあたしが言うのもなんだけどさ、まあ、マリー先輩は許可も得てるわけだし、気に入らない相手だからって難癖つけてどうこうするのは、貴族としてどーなのかなって」
「この場合、もし納得がいかないようでしたら、寮の中庭の時のように決闘で決着を付けることになるのでしょうか?」

 エステアを庇おうとしているのか、ホムが以前の中庭での決闘の話を持ち出す。言いがかりをつけて決闘を申し込んでおきながらホムに敗れたイグニスは、苛立ったように身体を揺らすと、僕たちに背を向けた。

「毎回決闘してやるほど暇でもない。……いいか、覚えておけ。人間もどきと成績優秀な優等生の生徒会長様とその取り巻きがどう足掻こうが、次の生徒会総選挙で勝つのはこの俺様だ」
「もちろん覚えておきますわ。今の台詞、音声記録に残してあなたが生徒会総選挙で大敗した暁には校内放送で流して差し上げたいほど、ステキな台詞でしたのに、録音し損ねて残念でしかたありませんわぁ~」

 マリーがくすくすと笑いながら、背を向けたままのイグニスを挑発する。いつの間にか僕たちの周りには、遠巻きにやりとりを見守る生徒たちの人だかりが出来ていた。

 マリー先輩の校内放送のこともあり、正門前に注目が集まっていたところにこの騒ぎなので無理もないだろうな。

 流石のイグニスも、ここで争うのは分が悪いということには思い至ったようで、そのまま取り巻きたちを引き連れて校舎へと戻っていった。
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