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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第264話 無双系お嬢様

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「F組が20に対し、A組は18! これで、全員発砲の手順は覚えましたわね」

 実弾射撃の後、的に当たった数が発表されたが、この成績はマリーの関心を強く惹いたらしく、次なる訓練が宣言された。

「では、次はA組との模擬弾による演習ですわ」

 全員が魔導砲の発砲を経験したばかりだというのに、もう演習へと移っている。アルカディア帝国は軍事国家なので、有事にそんな悠長なことは言っていられないのだと頭では理解しているが、納得するのにはもう少し時間がかかりそうだ。

「おっし! 望むところだぜ!」
「にゃははっ! いきなり実戦ってのは面白いな!」

 意気揚々と腕に力を入れて見せるヴァナベルとファラはすっかり乗り気だ。二人とも的の要と言われる部分――要するに頭部と心臓部を一撃で撃ち抜いただけあって、自信が溢れている。だが、A組のリゼルも気圧されすることなく、二人を見つめて微笑んだ。

「こちらとしても、学力テストの雪辱を果たすチャンスだ」

 好戦的なヴァナベルとファラに負けていないあたり、リゼルも実はかなりの負けず嫌いのようだ。

「士気高く、やり甲斐を感じますわ。では、早速実戦と参りましょう。でも、ただの実戦では物足りないですわね――」

 マリーがそう呟いて上空を仰ぐと、どこからか接近してきていたマチルダ先生が天候操作魔法を展開し、一瞬のうちに豪雪を降らせた。

「うぉっ! マジか! さみぃ!」

 辺りは瞬く間に積雪30センチを超える雪原へと変わる。この急激な変化には、さすがの僕も戸惑った。

「リリルルちゃん、大丈夫?」

 冬とはいえ陽光が射してさえいれば比較的薄着でも過ごせていただけに、リリルルを気遣うアルフェも唇が真っ青だ。

「「心配には及ばないアルフェの人。……っくしゅん!」」

 リリルルは大丈夫だと言い張ってはいるが、元々が薄着な上に冬でも全く格好に変化がないため、見ているこっちの方が寒くなる。

「……中尉、これは一体、どういうつもりなのです……?」

 マチルダ先生を巻き込んだ盛大な仕掛けに、さすがのタヌタヌ先生も口を挟まずにいられなかったのか、おずおずと切り出した。

「ちょっとしたエンタメ性を持たせただけですわ。でも、心配ご無用、みなさんはこれを着ていただきますわ」
「これって……?」

 疑問符を言い終わる前に、演習場の彼方から猛進してくる蒸気車両の姿が見えて思わず口を噤んだ。

「え……なんだ、あれ……?」

 クラスを問わず戸惑いの声が上がる。巨大な箱形の荷台を供えた蒸気車両は雪煙を巻き上げて僕たちの前に停止すると、後部の扉が勢い良く開かれた。

「さっ! 雪ごときで立ち止まっている場合ではありませんわよ。これを着込んでくださいまし!」

 マリーが示した荷台には大量の防寒着が並んでいる。

「軍御用達の防寒着ですの。白なら隠れやすくてよろしいでしょう?」
「すげー! なんか規格外って感じだな、マリー先輩!」

 ヴァナベルが驚嘆の声を上げる間に、荷台にずらりと掛けられていた白の防寒具が動いて、中から数人の作業員が飛び出してくる。彼らは雪で覆われた演習場に障害物と赤と白、二本のフラッグを対になるように打ち立てた。

「これは……?」

 いち早く着替え終わったリゼルが、さながら陣取りゲームのように設置されたフラッグと障害物に唖然として目を瞬いている。

「見てのとおりの陣取りゲームですわ。フラッグを立ててある場所が本拠地、先に相手の陣地のフラッグを奪うか、模擬弾で相手を全滅させた方が勝ちですわ」

 説明しながらマリーが残っている防寒着に向かって魔導砲を放つ。着弾と同時に黄色のインクが炸裂し、白い防寒着を染めた。

「模擬弾としてこのペイント弾を使いますわ。命中するとこのようにべっとりインクがつきますから、撃たれた生徒は戦線離脱ということになりますの。銃剣の方にも同じようにインクのついた模擬剣に変更していますから、これで斬られた場合も退場していただきますわ」

 ああなるほど、それで白の防寒着を着ることになったわけだ。

 それにしても急ごしらえとはいえ、鮮やかに設置された陣地は見事だな。ヴァナベルが早速赤いフラッグの前に陣取っているので、僕たちF組は赤、A組は白という割り振りになるようだ。

 フラッグの元にそれぞれの組が移動し、F組とA組の陣営が完成すると、マリーが高らかに笑って実戦ゲームの開始を宣言した。

「それでは、いざ尋常に勝負ですわ~!!」

   * * *

 初の陣取りゲームではあったが、F組の連携は見事なものだった。

 軍事科のメンバーが前衛と後衛にバランス良く並び、射撃訓練で成績の良かったアイザックとロメオは中心部の障害物から、陣地に攻め入るA組を撃破していく。

 二人を援護するのは大柄なギードと、動きが俊敏なファラとヴァナベルだ。他のメンバーも中心よりも前に出てA組と互角以上の撃ち合いを続けている。

「にゃははっ! なかなか順調って感じだな。じゃあ、ここらであたしも――」

 A組を撃破しながら前線を押し上げ続けていたファラが、ヴァナベルと目を合わせて先に飛び出して行く。

「来たぞ! 撃て撃て!」

 飛び出したファラにA組が集中砲火するが、それは寧ろ狙い通りだ。

「ヴァナベル!」
「バーカ、囮に決まってるだろ! いくぞ、ヌメ!」
「あ~~い!」

 ファラが遅滞の魔眼を駆使してA組を翻弄して惹きつけるうちに、ヴァナベルとヌメリンが反対側から飛び出し、A組を一掃していく。

「……みんなすごい。ワタシたち、出る幕ないかも……?」

 僕とアルフェ、ホムはフラッグを守る係に割り振られているので、この戦いを最も冷静に見ることが出来ている。

 ファラの攪乱とヴァナベルとヌメリン、ギードの活躍もあり、A組は開始10分ほどでリゼルとグーテンブルク坊やを残す二人になってしまった。

「よっしゃ! 勝利は目前――」
「ん~! ぜんっぜん勝負になっていなくてつまりませんわ~~!!」

 ヴァナベルの勝利宣言を遮ったのは、マリーの叫び声だった。

「パワーバランスと指揮系統がなっていませんの! A組にはワタクシが加勢して差し上げますわ」

 突然のマリーの参戦宣言にヴァナベルとファラが顔を見合わせ、口をあんぐりと開けている。

「え? ちょっと……」
「問答無用! いきますわよ~!」

 こちらの言い分に聞く耳を持つ様子もなく、マリーは機銃剣を両腕に抱えた二刀流でF組の陣地に突っ込んできた。



「覚悟なさいまし!」
「え……?」

 真っ先に標的にされたのは、安全な障壁から確実に敵を撃破していたアイザックとロメオだ。

「やだ、嘘!」
「ちょっと~!」
「ぎゃあ!」

 アイザックとロメオを守るように陣形を取っていたクラスメイトたちも巻き添えを食らって、次々に被弾していく。

「オーホホホッホッ! やっぱりこのくらいでないと、実戦の意味がありませんわ~!!」

 容赦なくF組の陣地に突入してくるマリーに、リゼルとグーテンブルク坊やが慌てて続く。

「マリー先輩がいれば百人力だ! 俺たちも行くぞ、ライル!」

 さっきまでとは打って変わって、リゼルとグーテンブルク坊やもやる気を取り戻している。

「こんなのあり~~?」
「マジかよ!」

 あと僅かで勝利を掴めるところだったヴァナベルとヌメリンも、接近してくるマリーたちから距離を取るために後退を余儀なくされている。

 そうこうするうちに、あっという間に、F組も僕とアルフェ、ホム、ファラ、ヴァナベル、ヌメリンを残すだけになってしまった。
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