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第三章 暴風のコロッセオ
第227話 魔眼の攻略
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「ホムちゃん!!」
アルフェ様の氷魔法の足止めを振り切り、ファラ様のレスヴァールが迫っている。アルフェ様が展開してくれた磁力加速の魔法陣は一枚のみ。けれど、これがあれば跳ぶことが出来る。
「はぁああああああっ!」
磁力加速を突き抜け、レスヴァールへ向けて真っ直ぐに跳躍する。横に薙いだ蹴りはファラ様に簡単に受け流された。
「どうやら距離を稼がないとキツそうだな」
ファラ様にはもう磁力加速の弱点が見えている。魔法陣一枚分の加速では、ファラ様のレスヴァールに損傷を与えることが出来ない。
「ここでぇええええええっ!!! レスヴァールがぁああああああっ、動いたぁああああああっ! アルタードと肉迫し、近接戦闘を選んでいるぅうううううっ!!!!!」
「アルタード! アルタード!」
「レスヴァール! レスヴァール!」
この距離ではアルフェ様が磁力加速を展開しても、魔法陣を駆け抜ける隙がない。ファラ様の双剣はわたくしの動きを封じるように、じわじわと追い詰めはじめる。決して激しい剣戟というわけではないけれど、油断出来ない。ファラ様はアルタードを倒す術を探っている。近接攻撃でレムレスの援護を封じている今は、その第一段階だ。
「にゃはっ。利き腕が使えない分、手数が減ってるな」
使えるのは左腕と両脚のみ。アルタードの頭部を使うのはあまり現実的ではない。
「右腕の損傷が利いているのかぁああああっ!??? アルタード、防戦一方だぁあああああっ! じわじわと追い詰められていきまぁあああああす!」
足許でアルフェ様が生み出した水が飛沫を上げて揺れている。ヌメリンの砂煙攻撃のように水飛沫を上げて目眩ましに使うのは、多分意味がない。ファラ様にはそのひとつひとつが見えてしまうからだ。蹴り出した方の脚が双剣で叩き落とされるかもしれないし、軸足を薙ぎ払われるかもしれない。やはり今は動けない。
この距離には死角がない。間合いを詰めてはいるけれど、レスヴァールの映像盤にはアルタードの全貌が見えているはずだ。
攻撃を仕掛けてカウンターを入れられたら終わりだ。けれど、防戦一方では勝つことが出来ない。勝つためには、カウンターを入れる隙を出さなければいい。
「アルフェ様! 水を凍らせてください!」
「おっと、その手はもう通用しないよ」
声を聞きつけたレスヴァールが、わたくしの予備動作とほぼ同時に跳躍する。ここまでは想定の内だ。アルフェ様はその隙にレムレスの魔導杖を振るい、大闘技場を満たしている水を凍らせた。
「なんとぉおおおおおっ!!! 水浸しの大闘技場が一転、スケートリンクになったぁああああっ!? またも、無詠唱魔法が炸裂ぅうううううううっ!!!」
アルタードとレスヴァールが二機着地し、衝撃で大闘技場の氷が不規則に割れる。アルフェ様はわざと全て凍らせなかったのだ。
「な……っ」
予想外の出来事にレスヴァールが体勢を崩した。わたくしが狙っていたのはまさにこの一瞬の隙だ。
「はぁあああああああっ!!!!」
アルタードの左脚を軸にして右脚で突き蹴りを繰り出す。
「キタァアアアアアアッ!!! アルタードの猛攻!! 目にも留まらぬ百裂脚が炸裂しておりまぁあああああすッッッッッッ!!!」
ファラ様が双剣で受けるのはわかっている。距離は絶対に取らせてくれない。だから上下左右に打点を変えて双剣の死角になる場所を狙い続けるしかない。
「にゃはっ! 考えたな!」
ファラ様は実に楽しそうだ。魔眼を以てすれば攻撃を全て見切ることができる。予想外の攻撃が来ない限りは。
「アルタード、止まりません!! 何という持久力ぅうううううううっ!!! そして、それらを全て双剣で受け止めるレスヴァアアアアアアアアアルゥウウウウウウッ!!! 驚異的!! 驚異的な二機の激戦が繰り広げられているぅううううううっ!!!!!」
蹴りによる打撃の衝撃で、ファラ様のレスヴァールが少しずつ後ろに押し出されている。不安定な氷の上、いつ割れるともしれない氷の床に大きな罅が入るのを感じる。
「うにゃっ!?」
レスヴァールが大きな亀裂に脚を取られ、アルタードとの距離が僅かに空く。この間合いならば――
わたくしはアルタードの両脚を揃えて膝を落とし、素早く踏み出してレスヴァールに背中から体当たりを浴びせた。
「まあ、そう来るだろうな!」
――見切られていた!
レスヴァールはわたくしの体当たりに合わせて噴射推進装置を短く噴かせ、氷の上に逃れた。
迷っている暇はない。次の一手を繰り出すのみ。
「おおっと! アルタードが大きく体勢を崩したか!?」
崩したのではない。体勢を低く構え、旋脚に切り替えたのだ。足許を払うわたくしの蹴りと同時にレスヴァールが跳躍する。
「まだです!」
わたくしは残されたアルタードの左腕を氷の上に突き立て、噴射推進装置を噴射させた。跳躍して追撃し、浴びせ蹴りを振り抜く。
「ホム!!!!」
ファラ様の叫びがほんの一瞬聞こえた。わたくしの蹴りを受け止めたレスヴァールの双剣の片方が折れている。
わたくしはレスヴァールの双剣を足場にさらに跳躍し、間合いを取ろうと試みる。ファラ様は当然わたくしを追うはずだ。
「あたしの勝ちだ、ホム!」
ファラ様の声は勝利を確信している。全ての攻撃を見切る力量、機兵を操る技術、わたくし一人で戦える相手ではない。
「アルタード大ピンチ! 大ぁああああああいぃいいいいいピンチィイイイイイイイイイイッ!!!!」
ファラ様は迎撃の体勢に入っている。わたくしへの敬意もあるだろう。共に高め合ったあの日々で確実に力をつけたのはファラ様も同じだ。
――嬉しい。
おかしな感覚だ。恐怖よりも嬉しさが勝った。
わたくしは嬉しい。今はなにも怖くない。何故ならわたくしには頼もしい仲間が居るから。
「アルフェ様、今です!」
わたくしが仮に撃墜されたとしても悔いはない。わたくしはアルフェ様を信じて、その攻撃に賭けたのだから。
「にゃんだぁ!?」
「天雷よ、紫電の槍となり敵を穿て。ライトニング・ファランクス!」
アルフェ様の詠唱が、救いの言葉のように響いてくる。アルフェ様の放った雷魔法はさながら雷の槍のように隙間なく降り注ぎ、ファラ様のレスヴァールに殺到する。
「これはぁああああああっ!!! 凄まじい攻撃ィイイイイイイ!!! レスヴァールに逃げ場はない!! 最早これはぁああああああっ!! 回避不能ォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
攻撃を全て見切られているなら、それを上回る攻撃で挑めばいい。アルフェ様のこの広範囲に及ぶライトニング・ファランクスを回避することは絶対に不可能だ。
「そんなのアリかよぉ!!!」
それでも回避行動を決して止めないところがファラ様だ。だが、その動きも虚しくレスヴァールの動きは次第に鈍くなり、やがて沈黙した。
「雷の魔法の直撃を受けたレスヴァールはぁあああああっ!!! 完全に沈黙ぅうううううううっ!!!! 撃墜! 撃墜判定により、リィイインフォオオオオオスのぉおおおおおおおおお!!!!! 逆転!! 逆転勝利ぃいいいいいいいいいいッ!!!!!!」
勝利宣言が響き渡り、足許の氷が割れる。機体が沈むような感覚があったかと思うと、氷の細かな破片がキラキラと宙に浮かび始めた。
「おめでとう、ホムちゃん」
ああ、これはアルフェ様からわたくしへのお祝いなのだ。アルフェ様のおかげで勝てたというのに、なんてお優しいのだろう。
「アルフェ様も、おめでとうございます」
嬉しくて嬉しくて目頭が熱くなる。この勝利はマスターという強い絆で結ばれた、わたくしたちチームの力で手に入れた勝利だ。
アルフェ様の氷魔法の足止めを振り切り、ファラ様のレスヴァールが迫っている。アルフェ様が展開してくれた磁力加速の魔法陣は一枚のみ。けれど、これがあれば跳ぶことが出来る。
「はぁああああああっ!」
磁力加速を突き抜け、レスヴァールへ向けて真っ直ぐに跳躍する。横に薙いだ蹴りはファラ様に簡単に受け流された。
「どうやら距離を稼がないとキツそうだな」
ファラ様にはもう磁力加速の弱点が見えている。魔法陣一枚分の加速では、ファラ様のレスヴァールに損傷を与えることが出来ない。
「ここでぇええええええっ!!! レスヴァールがぁああああああっ、動いたぁああああああっ! アルタードと肉迫し、近接戦闘を選んでいるぅうううううっ!!!!!」
「アルタード! アルタード!」
「レスヴァール! レスヴァール!」
この距離ではアルフェ様が磁力加速を展開しても、魔法陣を駆け抜ける隙がない。ファラ様の双剣はわたくしの動きを封じるように、じわじわと追い詰めはじめる。決して激しい剣戟というわけではないけれど、油断出来ない。ファラ様はアルタードを倒す術を探っている。近接攻撃でレムレスの援護を封じている今は、その第一段階だ。
「にゃはっ。利き腕が使えない分、手数が減ってるな」
使えるのは左腕と両脚のみ。アルタードの頭部を使うのはあまり現実的ではない。
「右腕の損傷が利いているのかぁああああっ!??? アルタード、防戦一方だぁあああああっ! じわじわと追い詰められていきまぁあああああす!」
足許でアルフェ様が生み出した水が飛沫を上げて揺れている。ヌメリンの砂煙攻撃のように水飛沫を上げて目眩ましに使うのは、多分意味がない。ファラ様にはそのひとつひとつが見えてしまうからだ。蹴り出した方の脚が双剣で叩き落とされるかもしれないし、軸足を薙ぎ払われるかもしれない。やはり今は動けない。
この距離には死角がない。間合いを詰めてはいるけれど、レスヴァールの映像盤にはアルタードの全貌が見えているはずだ。
攻撃を仕掛けてカウンターを入れられたら終わりだ。けれど、防戦一方では勝つことが出来ない。勝つためには、カウンターを入れる隙を出さなければいい。
「アルフェ様! 水を凍らせてください!」
「おっと、その手はもう通用しないよ」
声を聞きつけたレスヴァールが、わたくしの予備動作とほぼ同時に跳躍する。ここまでは想定の内だ。アルフェ様はその隙にレムレスの魔導杖を振るい、大闘技場を満たしている水を凍らせた。
「なんとぉおおおおおっ!!! 水浸しの大闘技場が一転、スケートリンクになったぁああああっ!? またも、無詠唱魔法が炸裂ぅうううううううっ!!!」
アルタードとレスヴァールが二機着地し、衝撃で大闘技場の氷が不規則に割れる。アルフェ様はわざと全て凍らせなかったのだ。
「な……っ」
予想外の出来事にレスヴァールが体勢を崩した。わたくしが狙っていたのはまさにこの一瞬の隙だ。
「はぁあああああああっ!!!!」
アルタードの左脚を軸にして右脚で突き蹴りを繰り出す。
「キタァアアアアアアッ!!! アルタードの猛攻!! 目にも留まらぬ百裂脚が炸裂しておりまぁあああああすッッッッッッ!!!」
ファラ様が双剣で受けるのはわかっている。距離は絶対に取らせてくれない。だから上下左右に打点を変えて双剣の死角になる場所を狙い続けるしかない。
「にゃはっ! 考えたな!」
ファラ様は実に楽しそうだ。魔眼を以てすれば攻撃を全て見切ることができる。予想外の攻撃が来ない限りは。
「アルタード、止まりません!! 何という持久力ぅうううううううっ!!! そして、それらを全て双剣で受け止めるレスヴァアアアアアアアアアルゥウウウウウウッ!!! 驚異的!! 驚異的な二機の激戦が繰り広げられているぅううううううっ!!!!!」
蹴りによる打撃の衝撃で、ファラ様のレスヴァールが少しずつ後ろに押し出されている。不安定な氷の上、いつ割れるともしれない氷の床に大きな罅が入るのを感じる。
「うにゃっ!?」
レスヴァールが大きな亀裂に脚を取られ、アルタードとの距離が僅かに空く。この間合いならば――
わたくしはアルタードの両脚を揃えて膝を落とし、素早く踏み出してレスヴァールに背中から体当たりを浴びせた。
「まあ、そう来るだろうな!」
――見切られていた!
レスヴァールはわたくしの体当たりに合わせて噴射推進装置を短く噴かせ、氷の上に逃れた。
迷っている暇はない。次の一手を繰り出すのみ。
「おおっと! アルタードが大きく体勢を崩したか!?」
崩したのではない。体勢を低く構え、旋脚に切り替えたのだ。足許を払うわたくしの蹴りと同時にレスヴァールが跳躍する。
「まだです!」
わたくしは残されたアルタードの左腕を氷の上に突き立て、噴射推進装置を噴射させた。跳躍して追撃し、浴びせ蹴りを振り抜く。
「ホム!!!!」
ファラ様の叫びがほんの一瞬聞こえた。わたくしの蹴りを受け止めたレスヴァールの双剣の片方が折れている。
わたくしはレスヴァールの双剣を足場にさらに跳躍し、間合いを取ろうと試みる。ファラ様は当然わたくしを追うはずだ。
「あたしの勝ちだ、ホム!」
ファラ様の声は勝利を確信している。全ての攻撃を見切る力量、機兵を操る技術、わたくし一人で戦える相手ではない。
「アルタード大ピンチ! 大ぁああああああいぃいいいいいピンチィイイイイイイイイイイッ!!!!」
ファラ様は迎撃の体勢に入っている。わたくしへの敬意もあるだろう。共に高め合ったあの日々で確実に力をつけたのはファラ様も同じだ。
――嬉しい。
おかしな感覚だ。恐怖よりも嬉しさが勝った。
わたくしは嬉しい。今はなにも怖くない。何故ならわたくしには頼もしい仲間が居るから。
「アルフェ様、今です!」
わたくしが仮に撃墜されたとしても悔いはない。わたくしはアルフェ様を信じて、その攻撃に賭けたのだから。
「にゃんだぁ!?」
「天雷よ、紫電の槍となり敵を穿て。ライトニング・ファランクス!」
アルフェ様の詠唱が、救いの言葉のように響いてくる。アルフェ様の放った雷魔法はさながら雷の槍のように隙間なく降り注ぎ、ファラ様のレスヴァールに殺到する。
「これはぁああああああっ!!! 凄まじい攻撃ィイイイイイイ!!! レスヴァールに逃げ場はない!! 最早これはぁああああああっ!! 回避不能ォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
攻撃を全て見切られているなら、それを上回る攻撃で挑めばいい。アルフェ様のこの広範囲に及ぶライトニング・ファランクスを回避することは絶対に不可能だ。
「そんなのアリかよぉ!!!」
それでも回避行動を決して止めないところがファラ様だ。だが、その動きも虚しくレスヴァールの動きは次第に鈍くなり、やがて沈黙した。
「雷の魔法の直撃を受けたレスヴァールはぁあああああっ!!! 完全に沈黙ぅうううううううっ!!!! 撃墜! 撃墜判定により、リィイインフォオオオオオスのぉおおおおおおおおお!!!!! 逆転!! 逆転勝利ぃいいいいいいいいいいッ!!!!!!」
勝利宣言が響き渡り、足許の氷が割れる。機体が沈むような感覚があったかと思うと、氷の細かな破片がキラキラと宙に浮かび始めた。
「おめでとう、ホムちゃん」
ああ、これはアルフェ様からわたくしへのお祝いなのだ。アルフェ様のおかげで勝てたというのに、なんてお優しいのだろう。
「アルフェ様も、おめでとうございます」
嬉しくて嬉しくて目頭が熱くなる。この勝利はマスターという強い絆で結ばれた、わたくしたちチームの力で手に入れた勝利だ。
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