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第三章 暴風のコロッセオ
第212話 エステアの人気
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アルタードとレムレス、それにアーケシウスの整備と起動実験を終えたところで、バックヤードが混雑しはじめた。
貴族寮の生徒の大半は機兵一機につき、メカニックを最低二人は従えているので、全15チームが揃うとかなりの人数になるのだ。
その上、エステアのセレーム・サリフへの取材なども継続して行われているので、中継を行うテレビ局や新聞社、雑誌社の記者たちも増え始めた。
「他の選手の妨げにならないよう、移動致しましょう」
取材を受けていたエステアも混雑はかなり気にしていたようで、区切りの良いところでそう切り出すと大闘技場の客席の方へと移動を始めた。
「わたくしたちも闘技場の方へ出ても良いのでしょうか?」
「試合を行うエリアはまだ点検中だろうけれど、客席から見る分には構わないはずだよ」
事前に配布された注意事項に目を通しながら、ホムの問いかけに応える。
「一般入場が始まる前に、会場の様子を把握しておこうか」
「うん。みんなで行こっ」
僕の提案にアルフェが僕とホムの手を繋いで歩き出した。
「……凄い人の声がするね」
「収容人数以上の人間が集まっているようですね」
闘技場に向かう通路を歩いていても、外のざわめきが強く感じられる。バックヤードにいた時は気がつかなかったが、一般開場までまだ一時間もあるというのに、既に多くの人が詰めかけているようだ。
「あのインタビューも中継されているようですね」
「リアルタイムで観られるのって、なんだかすごいねぇ」
闘技場に出ると、あの大きな映像盤にエステアの姿が映し出されているのが見えた。まだ人が入っていないというのに、闘技場の外からエステアへの期待を込めた声援や拍手が輪を成すように響いている。
「これが、エステア様の人気……想像以上です……」
「この前のエキシビションマッチで、知名度が上がったせいもあるだろうね」
エステアは昨年の武侠宴舞・カナルフォード杯の優勝チームのエースだ。あのエキシビションマッチにたった一人で参加したことで、その実力が高校生の枠に留まらないことをその場の誰もが目の当たりにしたのだ。
「あれでファンになった人も多いよね」
「そうそう! エステアは大人気で大忙しなんだよ~」
アルフェの呟きに頭上から声が降る。反応したのはメルアだった。
「メルアは、インタビューを受けないのかい?」
「うちはエステアに比べたらその他大勢だもん」
観客席の最上段に立ったメルアが、中腹にある踊り場でインタビューを受けているエステアを横目で見ながら、爪先を鳴らしている。
「まあ、誰かさんと違って、別に嫉妬とかぜーんぜんないんだけど」
意味ありげに呟いたメルアが目線はそのままで、指先だけを別方向に動かす。メルアの指先を視線だけでそっと辿ると、イグニスが明らかに悔しげな様子でエステアを睨んでいるのがわかった。
「仲間内で嫉妬とかヤダヤダ~、なんだけど……。まあ、なに言っても聞かないしねぇ」
大仰に首を竦めたメルアが、やれやれとばかりに客席の柵に頬杖をつく。
「チームとしてやっていけるのかい?」
「正直、エステアがいればカンケーないかなって」
あっけらかんと言い放つメルアの言葉は、要するに戦力としてイグニスを認めていないということだ。同じ生徒会であり、チームでありながらも、エステアとメルアの二人とイグニスの間には埋められない溝があるのが、僕にもはっきりとわかる。
「フツーに考えたら、去年と同じで書記のマリーが出るはずなんだけど……。ホント、納得行ってないのはうちだけじゃないから」
イグニスの機兵適性値と彼の機兵への疑惑の話を踏まえると、プロフェッサーも疑念を抱いてはいるのだろうな。それぞれの立場を考えると、学園で最も高い地位にいるデュラン家の子息であるイグニスに意見出来る者はいないのだ。
「まあ、愚痴ってもはじまらないし、連携取れるかどうかはあっち次第だけど、うちは調整役も兼ねてるからさ、うまいことやらないとね」
「……大変そうだね」
エステアとイグニスは表面上取り繕うこともしないほど、関係がこじれている。その二人を繋ぐ役割を担うことになっているメルアの苦労を思うと、苦笑に顔を歪めるしかなかった。
「でっしょー。あっ、エステアが呼んでる! じゃ、また~」
それでもメルアはいつもの調子で明るく手を振ると、漸くインタビューを終えたエステアの元へと走って行った。
貴族寮の生徒の大半は機兵一機につき、メカニックを最低二人は従えているので、全15チームが揃うとかなりの人数になるのだ。
その上、エステアのセレーム・サリフへの取材なども継続して行われているので、中継を行うテレビ局や新聞社、雑誌社の記者たちも増え始めた。
「他の選手の妨げにならないよう、移動致しましょう」
取材を受けていたエステアも混雑はかなり気にしていたようで、区切りの良いところでそう切り出すと大闘技場の客席の方へと移動を始めた。
「わたくしたちも闘技場の方へ出ても良いのでしょうか?」
「試合を行うエリアはまだ点検中だろうけれど、客席から見る分には構わないはずだよ」
事前に配布された注意事項に目を通しながら、ホムの問いかけに応える。
「一般入場が始まる前に、会場の様子を把握しておこうか」
「うん。みんなで行こっ」
僕の提案にアルフェが僕とホムの手を繋いで歩き出した。
「……凄い人の声がするね」
「収容人数以上の人間が集まっているようですね」
闘技場に向かう通路を歩いていても、外のざわめきが強く感じられる。バックヤードにいた時は気がつかなかったが、一般開場までまだ一時間もあるというのに、既に多くの人が詰めかけているようだ。
「あのインタビューも中継されているようですね」
「リアルタイムで観られるのって、なんだかすごいねぇ」
闘技場に出ると、あの大きな映像盤にエステアの姿が映し出されているのが見えた。まだ人が入っていないというのに、闘技場の外からエステアへの期待を込めた声援や拍手が輪を成すように響いている。
「これが、エステア様の人気……想像以上です……」
「この前のエキシビションマッチで、知名度が上がったせいもあるだろうね」
エステアは昨年の武侠宴舞・カナルフォード杯の優勝チームのエースだ。あのエキシビションマッチにたった一人で参加したことで、その実力が高校生の枠に留まらないことをその場の誰もが目の当たりにしたのだ。
「あれでファンになった人も多いよね」
「そうそう! エステアは大人気で大忙しなんだよ~」
アルフェの呟きに頭上から声が降る。反応したのはメルアだった。
「メルアは、インタビューを受けないのかい?」
「うちはエステアに比べたらその他大勢だもん」
観客席の最上段に立ったメルアが、中腹にある踊り場でインタビューを受けているエステアを横目で見ながら、爪先を鳴らしている。
「まあ、誰かさんと違って、別に嫉妬とかぜーんぜんないんだけど」
意味ありげに呟いたメルアが目線はそのままで、指先だけを別方向に動かす。メルアの指先を視線だけでそっと辿ると、イグニスが明らかに悔しげな様子でエステアを睨んでいるのがわかった。
「仲間内で嫉妬とかヤダヤダ~、なんだけど……。まあ、なに言っても聞かないしねぇ」
大仰に首を竦めたメルアが、やれやれとばかりに客席の柵に頬杖をつく。
「チームとしてやっていけるのかい?」
「正直、エステアがいればカンケーないかなって」
あっけらかんと言い放つメルアの言葉は、要するに戦力としてイグニスを認めていないということだ。同じ生徒会であり、チームでありながらも、エステアとメルアの二人とイグニスの間には埋められない溝があるのが、僕にもはっきりとわかる。
「フツーに考えたら、去年と同じで書記のマリーが出るはずなんだけど……。ホント、納得行ってないのはうちだけじゃないから」
イグニスの機兵適性値と彼の機兵への疑惑の話を踏まえると、プロフェッサーも疑念を抱いてはいるのだろうな。それぞれの立場を考えると、学園で最も高い地位にいるデュラン家の子息であるイグニスに意見出来る者はいないのだ。
「まあ、愚痴ってもはじまらないし、連携取れるかどうかはあっち次第だけど、うちは調整役も兼ねてるからさ、うまいことやらないとね」
「……大変そうだね」
エステアとイグニスは表面上取り繕うこともしないほど、関係がこじれている。その二人を繋ぐ役割を担うことになっているメルアの苦労を思うと、苦笑に顔を歪めるしかなかった。
「でっしょー。あっ、エステアが呼んでる! じゃ、また~」
それでもメルアはいつもの調子で明るく手を振ると、漸くインタビューを終えたエステアの元へと走って行った。
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