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第三章 暴風のコロッセオ
第187話 観戦チケットの入手
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レギオンの骨格の問題があるにせよ、アルフェのためのレムレスの製造計画は順調だ。この調子で、明日以降はレムレス本体の方も進めておきたいな。
魔導杖が予定よりも早く完成したので、作業の片付けを終えた後、アイザックとロメオと作業を分担するため、レムレスの改造計画と作業指示書を書き記しておくことにした。
レムレスの機体は、既に取り外してある可動装甲の操縦桿を操縦槽から外し、付随する魔導制御回路を再調整することでほぼ調整は終わりだ。
あとは、アルフェに似合うように機体の色を塗り直しておいた方がいいだろうな。元々の破損もあって塗装はお世辞にも綺麗だとは言えないし、今の黒を基調として赤と金の紋様がついている機体色はアルフェのイメージからはかけ離れている。
せっかくだから、アルフェに似合うように白をベースにして、髪色に合わせた薄紫と金で紋様を描こう。きっとアルフェも喜んでくれるはずだ。
改造計画兼作業指示書が出来たところで、機兵製造の計画自体はかなり大きく前進したな。骨格調達の目処が立たないので、焦る気持ちはあるにせよ、ともかく今は出来ることをやるのみだ。
「さて……」
設計も一段落したことだし、僕もそろそろ寮に戻るとするかな。そう考えながら作業場の片隅の椅子から立ち上がると、微かにアルフェの声が聞こえたような気がした。
「……まさかね?」
冷静に考えて、大学部の施設の片隅にある作業場で、アルフェの声が聞こえるわけがない。最近ゆっくりと話せていないから、アルフェの声が懐かしくなってしまったのだろうか。だが、今度ははっきりと僕を呼ぶアルフェの声が聞こえて来た。
「リーフぅー!」
「アルフェ!? どこだい!?」
聞き間違えようのないアルフェの声に、作業場を出て首を巡らせる。
「リーフ!」
すると、僕のエーテルを浄眼で辿ってきたのか、真っ直ぐに僕に向かって駆け寄ってくるアルフェとホムの姿が見えた。
「驚いたよ。ホムも疲れているだろうに……」
なんだかこうして作業場に三人で揃うのが新鮮だ。そういえば、二人のための機体を作っているというのに、当人たちに作業場を見せていなかったな。完成させることにばかり目を向けて、肝心のアルフェとホムの意見を聞くことを忘れてしまっていたようだ。
「キレイ……。これ、ワタシが使っていいの?」
アルフェは完成したばかりのレムレスの魔導杖を浄眼をキラキラさせながら覗き込んでいる。
「そうだよ。アルフェのために僕が作った。エーテル増幅器で、実力の何倍もの力を出せるはずだ」
「ここに入ってるリーフのエーテルが、ワタシに力をくれるんだね」
アルフェは僕の説明を聞きながらブラッドグレイルに、愛しむような目を向けて手のひらを添える。やはり、アルフェの浄眼には、ブラッドグレイルの中に閉じ込められた僕の血の錬成陣が金色に輝いて視えるようだ。
「気に入ってくれたかい?」
詳しい製法を言うと心配されるだろうから、アルフェに合わせて微笑みながら聞いてみることにする。アルフェは顔を上げて何度も頷き、僕の手を取ってぎゅっと握った。
「うん、とっても! ワタシ、メルア先輩に勝つね!」
今までのアルフェなら、『勝てるようにがんばる』というところを、『勝つ』と断言してくるあたりに、アルフェの強い覚悟を感じるな。この魔導杖がその自信を支えてくれているのなら、僕としても嬉しい限りだ。
僕もその覚悟に見合うよう、魔法科の選択授業を免除されるほどの実力の持ち主――アルフェの魔法の先生でもあるメルアを越えるために、レムレスを完成させなければ。
「……マスター。こちらはわたくしの機兵でしょうか?」
作業場を物静かに眺めていたホムが、僕とアルフェの会話の切れ目を待ってレギオンを示す。レギオンは装甲を剥がしたままで、かなり中途半端というよりもジャンクに近い見た目になってしまっている。
「そうだよ。ホムのレギオンは、骨格を追加してカスタマイズする予定だ。少し難航しているけれど、必ず間に合わせるからね」
「申しあげにくいのですが、マスター。わたくしは、この機体とあまり相性が良くないように思います。練習機に使っているのですが、思うように乗りこなせなくて……」
言いにくそうに伝えてくれるホムは、内心ではかなり焦っている様子だ。僕はホムに並び、その手を取って一緒にレギオンを見上げた。
「僕に任せて。ホムが自分の手足のように違和感なく動かせる機体に仕上げるから」
「マスター……。わたくしのために、ありがとうございます……」
ホムはまるで僕がそう言うことを期待していたかのように目を潤ませると、恭しく頭を垂れた。
「少し違うよ。これは、ホムのためだけじゃない、僕のためでもあるんだ」
僕はホムの髪を撫で、そっと言い聞かせる。
「……僕は、僕の武器を使って、みんなを幸せにしたい」
これは前世の僕が思いつきもしなかったことだ。幸せがなにかを知った今は、この武器を使ってそれを成し得られると僕は信じている。僕の新しい夢であり、未来のための希望だ。
「この武侠宴舞での勝利を、その第一歩にしたいんだ。この学園で、みんなが笑顔で過ごせるようにね」
この小さな目標は、エステアの願いでもある。僕もそれを叶えたいと思う。自分が持っている精一杯の力を使って。
「うん! ワタシたち、絶対勝とうね!」
アルフェが力強く頷いて、僕とホムを両腕で包み込む。僕たちは身体を寄せ合い、互いの顔を見て頷き合った。
「……ああ、リーフ。良かった、まだ残っていましたね」
不意に作業場に響いてきた声は、プロフェッサーのものだった。僕にレポートを頼み込んだ後は、用事があると言って早々に作業場を離れていたが、なにかあったのだろうか。
「プロフェッサー、どうかしたんですか?」
「いえ、ちょっと向こう数日間、急用が入ってこちらに顔を出せないことになってしまったのですが、どうしても渡したいものがあったので……」
そう言ってプロフェッサーが白衣のポケットから取り出したのは、金色の印字が美しい一枚のチケットだった。
「今度の土曜日に開催される、大学部の武侠宴舞のエキシビジョンマッチの観戦チケットです」
「えっ、いいんですか?」
願ってもいない申し出に、思わず声が裏返ってしまった。
武侠宴舞の試合は見に行こうと思ってはいたが、忙しさにかまけて下調べすら忘れていたのだ。
「本当は自分で見に行く予定だったんですけど、見ての通り仕事に追われていまして。よかったら代わりに見に行ってください。個室を取っていますから、良ければ三人で」
「ありがとうございます、プロフェッサー!」
「感謝いたします」
アルフェもホムもプロフェッサーの申し出をとても喜んでいる。エキシビジョンマッチには優秀な操手が出るらしいので、二人にとっても戦い方の参考になるはずだ。僕としても、実戦を見ることで今ある機兵製造計画の改善点を見いだせるかもしれない。
「ありがたく頂戴いたします、プロフェッサー」
チケットを受け取り、プロフェッサーに会釈する。プロフェッサーは再び顔を上げた僕を見つめて、思わせぶりな笑みを浮かべた。
「そうそう。このエキシビジョンマッチには、特別な選手が出場するんです。きっと参考になりますよ」
魔導杖が予定よりも早く完成したので、作業の片付けを終えた後、アイザックとロメオと作業を分担するため、レムレスの改造計画と作業指示書を書き記しておくことにした。
レムレスの機体は、既に取り外してある可動装甲の操縦桿を操縦槽から外し、付随する魔導制御回路を再調整することでほぼ調整は終わりだ。
あとは、アルフェに似合うように機体の色を塗り直しておいた方がいいだろうな。元々の破損もあって塗装はお世辞にも綺麗だとは言えないし、今の黒を基調として赤と金の紋様がついている機体色はアルフェのイメージからはかけ離れている。
せっかくだから、アルフェに似合うように白をベースにして、髪色に合わせた薄紫と金で紋様を描こう。きっとアルフェも喜んでくれるはずだ。
改造計画兼作業指示書が出来たところで、機兵製造の計画自体はかなり大きく前進したな。骨格調達の目処が立たないので、焦る気持ちはあるにせよ、ともかく今は出来ることをやるのみだ。
「さて……」
設計も一段落したことだし、僕もそろそろ寮に戻るとするかな。そう考えながら作業場の片隅の椅子から立ち上がると、微かにアルフェの声が聞こえたような気がした。
「……まさかね?」
冷静に考えて、大学部の施設の片隅にある作業場で、アルフェの声が聞こえるわけがない。最近ゆっくりと話せていないから、アルフェの声が懐かしくなってしまったのだろうか。だが、今度ははっきりと僕を呼ぶアルフェの声が聞こえて来た。
「リーフぅー!」
「アルフェ!? どこだい!?」
聞き間違えようのないアルフェの声に、作業場を出て首を巡らせる。
「リーフ!」
すると、僕のエーテルを浄眼で辿ってきたのか、真っ直ぐに僕に向かって駆け寄ってくるアルフェとホムの姿が見えた。
「驚いたよ。ホムも疲れているだろうに……」
なんだかこうして作業場に三人で揃うのが新鮮だ。そういえば、二人のための機体を作っているというのに、当人たちに作業場を見せていなかったな。完成させることにばかり目を向けて、肝心のアルフェとホムの意見を聞くことを忘れてしまっていたようだ。
「キレイ……。これ、ワタシが使っていいの?」
アルフェは完成したばかりのレムレスの魔導杖を浄眼をキラキラさせながら覗き込んでいる。
「そうだよ。アルフェのために僕が作った。エーテル増幅器で、実力の何倍もの力を出せるはずだ」
「ここに入ってるリーフのエーテルが、ワタシに力をくれるんだね」
アルフェは僕の説明を聞きながらブラッドグレイルに、愛しむような目を向けて手のひらを添える。やはり、アルフェの浄眼には、ブラッドグレイルの中に閉じ込められた僕の血の錬成陣が金色に輝いて視えるようだ。
「気に入ってくれたかい?」
詳しい製法を言うと心配されるだろうから、アルフェに合わせて微笑みながら聞いてみることにする。アルフェは顔を上げて何度も頷き、僕の手を取ってぎゅっと握った。
「うん、とっても! ワタシ、メルア先輩に勝つね!」
今までのアルフェなら、『勝てるようにがんばる』というところを、『勝つ』と断言してくるあたりに、アルフェの強い覚悟を感じるな。この魔導杖がその自信を支えてくれているのなら、僕としても嬉しい限りだ。
僕もその覚悟に見合うよう、魔法科の選択授業を免除されるほどの実力の持ち主――アルフェの魔法の先生でもあるメルアを越えるために、レムレスを完成させなければ。
「……マスター。こちらはわたくしの機兵でしょうか?」
作業場を物静かに眺めていたホムが、僕とアルフェの会話の切れ目を待ってレギオンを示す。レギオンは装甲を剥がしたままで、かなり中途半端というよりもジャンクに近い見た目になってしまっている。
「そうだよ。ホムのレギオンは、骨格を追加してカスタマイズする予定だ。少し難航しているけれど、必ず間に合わせるからね」
「申しあげにくいのですが、マスター。わたくしは、この機体とあまり相性が良くないように思います。練習機に使っているのですが、思うように乗りこなせなくて……」
言いにくそうに伝えてくれるホムは、内心ではかなり焦っている様子だ。僕はホムに並び、その手を取って一緒にレギオンを見上げた。
「僕に任せて。ホムが自分の手足のように違和感なく動かせる機体に仕上げるから」
「マスター……。わたくしのために、ありがとうございます……」
ホムはまるで僕がそう言うことを期待していたかのように目を潤ませると、恭しく頭を垂れた。
「少し違うよ。これは、ホムのためだけじゃない、僕のためでもあるんだ」
僕はホムの髪を撫で、そっと言い聞かせる。
「……僕は、僕の武器を使って、みんなを幸せにしたい」
これは前世の僕が思いつきもしなかったことだ。幸せがなにかを知った今は、この武器を使ってそれを成し得られると僕は信じている。僕の新しい夢であり、未来のための希望だ。
「この武侠宴舞での勝利を、その第一歩にしたいんだ。この学園で、みんなが笑顔で過ごせるようにね」
この小さな目標は、エステアの願いでもある。僕もそれを叶えたいと思う。自分が持っている精一杯の力を使って。
「うん! ワタシたち、絶対勝とうね!」
アルフェが力強く頷いて、僕とホムを両腕で包み込む。僕たちは身体を寄せ合い、互いの顔を見て頷き合った。
「……ああ、リーフ。良かった、まだ残っていましたね」
不意に作業場に響いてきた声は、プロフェッサーのものだった。僕にレポートを頼み込んだ後は、用事があると言って早々に作業場を離れていたが、なにかあったのだろうか。
「プロフェッサー、どうかしたんですか?」
「いえ、ちょっと向こう数日間、急用が入ってこちらに顔を出せないことになってしまったのですが、どうしても渡したいものがあったので……」
そう言ってプロフェッサーが白衣のポケットから取り出したのは、金色の印字が美しい一枚のチケットだった。
「今度の土曜日に開催される、大学部の武侠宴舞のエキシビジョンマッチの観戦チケットです」
「えっ、いいんですか?」
願ってもいない申し出に、思わず声が裏返ってしまった。
武侠宴舞の試合は見に行こうと思ってはいたが、忙しさにかまけて下調べすら忘れていたのだ。
「本当は自分で見に行く予定だったんですけど、見ての通り仕事に追われていまして。よかったら代わりに見に行ってください。個室を取っていますから、良ければ三人で」
「ありがとうございます、プロフェッサー!」
「感謝いたします」
アルフェもホムもプロフェッサーの申し出をとても喜んでいる。エキシビジョンマッチには優秀な操手が出るらしいので、二人にとっても戦い方の参考になるはずだ。僕としても、実戦を見ることで今ある機兵製造計画の改善点を見いだせるかもしれない。
「ありがたく頂戴いたします、プロフェッサー」
チケットを受け取り、プロフェッサーに会釈する。プロフェッサーは再び顔を上げた僕を見つめて、思わせぶりな笑みを浮かべた。
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