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第三章 暴風のコロッセオ

第186話 規格外の魔導杖

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「ねえ、今の術式起動って、もしかして!」
「もう出来たでござるか~!?」

 球体に変化したブラッドグレイルが金型の中心にゆっくりと降りてくるのと同時に、アイザックとロメオが僕の元に駆けつけてくる。

「すごい……。設計図で大きさを把握してたつもりだけど、こんな大きさのブラッドグレイル、間近で見るのは初めてだよ」
「リーフ殿、その巨大なブラッドグレイルをこんな短時間で完成させたでござるか!?」

 楽しくなってしまったので、我を忘れて没頭していたが、さすがにちょっと早すぎたのかもしれない。アイザックとロメオがしきりに驚嘆している姿を見て、僕は恐縮した風を装った。

「……まあ、前に作ったことがあったからね」

 前世の頃ではあるけれど、別に嘘じゃない。

「それより、そっちももう終わったみたいだね。仕事が早くて助かるよ」

 アイザックとロメオも、どうやら設計した金型で機兵用の杖を出力し終えた様子だ。

「いやいやいや! それはこっちの台詞だよ」
「そうでござるよ~!」

 二人がぶんぶんと首を横に振り、苦笑を浮かべている。とはいえ、これでもう魔導杖を完成させるための材料は揃ったわけだ。

「早速、クレーンで嵌め込んでみようか」
「じゃあ、ぼくがやるよ!」

 ロメオが挙手してクレーンへと急ぐ。ロメオの正確な操作で両円錐型の台座と、王冠状の枠の中央にブラッドグレイルが下ろされると、設計通り、ブラッドグレイルはその自重で枠の真ん中にしっかりと嵌め込まれた。

「……これで完成だね。試しにエーテルを流してみようか」
「拙者、ドキドキが止まらないでござる~!」
「落ち着けよ、アイザック」

 アイザックをたしなめるロメオも、クレーンを降りてから駆け寄って来たあたり、起動実験が待ちきれない様子だ。

「エーテル増幅器なんだから、正常に稼働するか確認出来るように測定器も繋がないと」
「さすがだね、ロメオ」

 正確さを重んじるロメオが、気を利かせて測定器に繋いでくれる。僕としてもどのくらいの出力になるのか気になるところなので、楽しみだな。

「準備出来たよ。いつでもどうぞ」
「じゃあ、行くよ」

 魔導杖の持ち手に手をかけ、エーテルを流したその瞬間。

「うわぁああっ!?」
「眩しいでござる~!」

 魔導杖からエーテルが迸り、眩い閃光となって工房内を照らした。

「何事ですか!?」

 離れた場所で作業をしていたはずのプロフェッサーが慌てた様子で走ってくる。

「すみません。……魔導杖が完成したので、起動試験をしただけなんですが」

 やれやれ。ここで想像力のなさを痛感するとは思わなかったな。
 今の閃光は、魔導杖の本来の用途である魔法という指向性を持たせずにエーテルを流したせいだ。しかも僕の流したエーテルが多すぎたために、閃光という形で杖から余剰エーテルが放出されたわけだ。

「い、今の出力……値はどうなっているでござる?」
「……ひゃ、150マギア……。嘘だろ……」

 ロメオが震える声で絞り出す。エーテル出力の測定器には、150マギアという数値が記録されていた。

「通常の機兵の出力は50~80マギアでござるよ!? 二倍? いや、三倍はあるでござる~」
「なにこれ、とんでもない出力だよ、リーフ!?」
「……そうみたいだね……」

 やはり、女神アウローラの光のエーテルそのものを内包していることが強く関係したようだ。想像以上の成果に僕自身も驚いてしまった。

 起動試験のために軽くエーテルを流しただけでこれなんだから、アルフェのエーテル量が増幅されたならとんでもないことになりそうだな。

「……リーフ、このブラッドグレイルの錬成の工程をレポートにまとめてくれませんか? もちろん、充分な加点を約束します」

 プロフェッサーが口許を押さえ、湧き上がる興味を抑えきれない様子で僕に頼んでくる。まあ、工学科の自由課題でこの作業時間を確保しているわけだし、断る理由はないな。

 だけど、女神のエーテルが含まれた血液で錬成陣を描いたらこうなりました、なんて口が裂けても言えないわけだから、後々似たような効果がありそうな錬成陣をアレンジするしかなさそうだ。

「……あの、錬成陣の術式をランダムで組み替えたのが影響しているのかも知れないんですが、思いつきなので、再現性は恐らくないかと……」
「それでも構いません。覚えている限りでいいので、是非私にレポートを!!」

 やれやれ、嘘のレポートを書くのは気が引けるし、再現しようとプロフェッサーが躍起になりそうなのは目に見えているわけだから、それっぽいものを追試して仕上げておこう。幸い、錬成陣を描く過程で良さそうなアイディアは思いついているわけだし、今後のためにもやっておくか。
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