186 / 396
第三章 暴風のコロッセオ
第186話 規格外の魔導杖
しおりを挟む
「ねえ、今の術式起動って、もしかして!」
「もう出来たでござるか~!?」
球体に変化したブラッドグレイルが金型の中心にゆっくりと降りてくるのと同時に、アイザックとロメオが僕の元に駆けつけてくる。
「すごい……。設計図で大きさを把握してたつもりだけど、こんな大きさのブラッドグレイル、間近で見るのは初めてだよ」
「リーフ殿、その巨大なブラッドグレイルをこんな短時間で完成させたでござるか!?」
楽しくなってしまったので、我を忘れて没頭していたが、さすがにちょっと早すぎたのかもしれない。アイザックとロメオがしきりに驚嘆している姿を見て、僕は恐縮した風を装った。
「……まあ、前に作ったことがあったからね」
前世の頃ではあるけれど、別に嘘じゃない。
「それより、そっちももう終わったみたいだね。仕事が早くて助かるよ」
アイザックとロメオも、どうやら設計した金型で機兵用の杖を出力し終えた様子だ。
「いやいやいや! それはこっちの台詞だよ」
「そうでござるよ~!」
二人がぶんぶんと首を横に振り、苦笑を浮かべている。とはいえ、これでもう魔導杖を完成させるための材料は揃ったわけだ。
「早速、クレーンで嵌め込んでみようか」
「じゃあ、ぼくがやるよ!」
ロメオが挙手してクレーンへと急ぐ。ロメオの正確な操作で両円錐型の台座と、王冠状の枠の中央にブラッドグレイルが下ろされると、設計通り、ブラッドグレイルはその自重で枠の真ん中にしっかりと嵌め込まれた。
「……これで完成だね。試しにエーテルを流してみようか」
「拙者、ドキドキが止まらないでござる~!」
「落ち着けよ、アイザック」
アイザックを窘めるロメオも、クレーンを降りてから駆け寄って来たあたり、起動実験が待ちきれない様子だ。
「エーテル増幅器なんだから、正常に稼働するか確認出来るように測定器も繋がないと」
「さすがだね、ロメオ」
正確さを重んじるロメオが、気を利かせて測定器に繋いでくれる。僕としてもどのくらいの出力になるのか気になるところなので、楽しみだな。
「準備出来たよ。いつでもどうぞ」
「じゃあ、行くよ」
魔導杖の持ち手に手をかけ、エーテルを流したその瞬間。
「うわぁああっ!?」
「眩しいでござる~!」
魔導杖からエーテルが迸り、眩い閃光となって工房内を照らした。
「何事ですか!?」
離れた場所で作業をしていたはずのプロフェッサーが慌てた様子で走ってくる。
「すみません。……魔導杖が完成したので、起動試験をしただけなんですが」
やれやれ。ここで想像力のなさを痛感するとは思わなかったな。
今の閃光は、魔導杖の本来の用途である魔法という指向性を持たせずにエーテルを流したせいだ。しかも僕の流したエーテルが多すぎたために、閃光という形で杖から余剰エーテルが放出されたわけだ。
「い、今の出力……値はどうなっているでござる?」
「……ひゃ、150マギア……。嘘だろ……」
ロメオが震える声で絞り出す。エーテル出力の測定器には、150マギアという数値が記録されていた。
「通常の機兵の出力は50~80マギアでござるよ!? 二倍? いや、三倍はあるでござる~」
「なにこれ、とんでもない出力だよ、リーフ!?」
「……そうみたいだね……」
やはり、女神の光のエーテルそのものを内包していることが強く関係したようだ。想像以上の成果に僕自身も驚いてしまった。
起動試験のために軽くエーテルを流しただけでこれなんだから、アルフェのエーテル量が増幅されたならとんでもないことになりそうだな。
「……リーフ、このブラッドグレイルの錬成の工程をレポートにまとめてくれませんか? もちろん、充分な加点を約束します」
プロフェッサーが口許を押さえ、湧き上がる興味を抑えきれない様子で僕に頼んでくる。まあ、工学科の自由課題でこの作業時間を確保しているわけだし、断る理由はないな。
だけど、女神のエーテルが含まれた血液で錬成陣を描いたらこうなりました、なんて口が裂けても言えないわけだから、後々似たような効果がありそうな錬成陣をアレンジするしかなさそうだ。
「……あの、錬成陣の術式をランダムで組み替えたのが影響しているのかも知れないんですが、思いつきなので、再現性は恐らくないかと……」
「それでも構いません。覚えている限りでいいので、是非私にレポートを!!」
やれやれ、嘘のレポートを書くのは気が引けるし、再現しようとプロフェッサーが躍起になりそうなのは目に見えているわけだから、それっぽいものを追試して仕上げておこう。幸い、錬成陣を描く過程で良さそうなアイディアは思いついているわけだし、今後のためにもやっておくか。
「もう出来たでござるか~!?」
球体に変化したブラッドグレイルが金型の中心にゆっくりと降りてくるのと同時に、アイザックとロメオが僕の元に駆けつけてくる。
「すごい……。設計図で大きさを把握してたつもりだけど、こんな大きさのブラッドグレイル、間近で見るのは初めてだよ」
「リーフ殿、その巨大なブラッドグレイルをこんな短時間で完成させたでござるか!?」
楽しくなってしまったので、我を忘れて没頭していたが、さすがにちょっと早すぎたのかもしれない。アイザックとロメオがしきりに驚嘆している姿を見て、僕は恐縮した風を装った。
「……まあ、前に作ったことがあったからね」
前世の頃ではあるけれど、別に嘘じゃない。
「それより、そっちももう終わったみたいだね。仕事が早くて助かるよ」
アイザックとロメオも、どうやら設計した金型で機兵用の杖を出力し終えた様子だ。
「いやいやいや! それはこっちの台詞だよ」
「そうでござるよ~!」
二人がぶんぶんと首を横に振り、苦笑を浮かべている。とはいえ、これでもう魔導杖を完成させるための材料は揃ったわけだ。
「早速、クレーンで嵌め込んでみようか」
「じゃあ、ぼくがやるよ!」
ロメオが挙手してクレーンへと急ぐ。ロメオの正確な操作で両円錐型の台座と、王冠状の枠の中央にブラッドグレイルが下ろされると、設計通り、ブラッドグレイルはその自重で枠の真ん中にしっかりと嵌め込まれた。
「……これで完成だね。試しにエーテルを流してみようか」
「拙者、ドキドキが止まらないでござる~!」
「落ち着けよ、アイザック」
アイザックを窘めるロメオも、クレーンを降りてから駆け寄って来たあたり、起動実験が待ちきれない様子だ。
「エーテル増幅器なんだから、正常に稼働するか確認出来るように測定器も繋がないと」
「さすがだね、ロメオ」
正確さを重んじるロメオが、気を利かせて測定器に繋いでくれる。僕としてもどのくらいの出力になるのか気になるところなので、楽しみだな。
「準備出来たよ。いつでもどうぞ」
「じゃあ、行くよ」
魔導杖の持ち手に手をかけ、エーテルを流したその瞬間。
「うわぁああっ!?」
「眩しいでござる~!」
魔導杖からエーテルが迸り、眩い閃光となって工房内を照らした。
「何事ですか!?」
離れた場所で作業をしていたはずのプロフェッサーが慌てた様子で走ってくる。
「すみません。……魔導杖が完成したので、起動試験をしただけなんですが」
やれやれ。ここで想像力のなさを痛感するとは思わなかったな。
今の閃光は、魔導杖の本来の用途である魔法という指向性を持たせずにエーテルを流したせいだ。しかも僕の流したエーテルが多すぎたために、閃光という形で杖から余剰エーテルが放出されたわけだ。
「い、今の出力……値はどうなっているでござる?」
「……ひゃ、150マギア……。嘘だろ……」
ロメオが震える声で絞り出す。エーテル出力の測定器には、150マギアという数値が記録されていた。
「通常の機兵の出力は50~80マギアでござるよ!? 二倍? いや、三倍はあるでござる~」
「なにこれ、とんでもない出力だよ、リーフ!?」
「……そうみたいだね……」
やはり、女神の光のエーテルそのものを内包していることが強く関係したようだ。想像以上の成果に僕自身も驚いてしまった。
起動試験のために軽くエーテルを流しただけでこれなんだから、アルフェのエーテル量が増幅されたならとんでもないことになりそうだな。
「……リーフ、このブラッドグレイルの錬成の工程をレポートにまとめてくれませんか? もちろん、充分な加点を約束します」
プロフェッサーが口許を押さえ、湧き上がる興味を抑えきれない様子で僕に頼んでくる。まあ、工学科の自由課題でこの作業時間を確保しているわけだし、断る理由はないな。
だけど、女神のエーテルが含まれた血液で錬成陣を描いたらこうなりました、なんて口が裂けても言えないわけだから、後々似たような効果がありそうな錬成陣をアレンジするしかなさそうだ。
「……あの、錬成陣の術式をランダムで組み替えたのが影響しているのかも知れないんですが、思いつきなので、再現性は恐らくないかと……」
「それでも構いません。覚えている限りでいいので、是非私にレポートを!!」
やれやれ、嘘のレポートを書くのは気が引けるし、再現しようとプロフェッサーが躍起になりそうなのは目に見えているわけだから、それっぽいものを追試して仕上げておこう。幸い、錬成陣を描く過程で良さそうなアイディアは思いついているわけだし、今後のためにもやっておくか。
0
お気に入りに追加
793
あなたにおすすめの小説
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
その悪役令嬢はなぜ死んだのか
キシバマユ
ファンタジー
前世で死を迎えた菊池奈緒は異世界で転生した。
奈緒は満身創痍の体で目覚め、助けてもらった先生の元で治療魔法の見習いとして新たな人生を歩み始める。
しかし、自分が今宿っている体の前の持ち主が「重大な悪事」を繰り返していたらしいことを知り、次第に運命の謎に巻き込まれていく。
奈緒は自身の過去と向き合い今の体の秘密を探る中で、この異世界でどのように生き延びるかを模索していく。
奈緒は「悪役令嬢」としての運命をどう回避するのか__
表紙はillustACのものを使わせていただきました
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる