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第三章 暴風のコロッセオ
第177話 別行動の放課後
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「わぁ! これ凄いね、リーフ。リーフの金色のエーテルがふんわり柔らかく見えるよ」
昨晩のうちにメルア用にカスタマイズした簡易術式を彫り込んだ『煌く星空の指輪』の出来は、アルフェによると上々らしい。
浄眼で感知出来るエーテル量を制御する効果を持たせたものの、僕には浄眼がないのでアルフェに視てもらえるのはかなり助かる。
「視え方としては、かなり変わるのかな?」
「うん! 凄いエーテルがあるっていうのはちゃんと分かるんだけど、その視え方だけが変わって視えるって言ったら伝わるかな? エーテルだけが薄いカーテン越しに見えてるみたいな雰囲気なんだけど……」
「ああ、そういう意図の簡易術式を設計したから、ちゃんと機能しているようで安心したよ」
「リーフってやっぱり凄いね」
「こういうのが好きなんだよ、前世からね」
今世でも前世の僕の研究が役立つということは、死後に与えられた冠位も女神の気まぐれではなかったということだ。今後は特級錬金術師に甘んじずに、この知識と技術を誰かのために役立てながら今世でもゆっくりとその高みを目指すのも、いいな。そのためには、まずは母の黒石病を完治させる術を見出さなければ。
「……アルフェ、今日の放課後もメルアのところへ行くんだよね」
「うん。今日はもうちょっと広いところでやるんだ」
頷くアルフェは少しだけ眠そうだ。多分、アルフェのことだから昨晩遅くまで多層術式の練習をしていたのだろうな。
「身体を休める時間もきちんと確保するんだよ、アルフェ」
「ふふっ。リーフには何でもお見通しだね」
僕の忠告にアルフェが苦笑を浮かべ、僕の腕に手を絡めてくる。
「『煌めく星空の指輪』は、ワタシがメルア先輩に届けるね」
「ありがとう。アルフェも、僕のことはお見通しだね」
アルフェの言葉を借りて礼を言うと、アルフェはくすぐったそうに目を細めた。
「リーフとは赤ちゃんの頃からずっと一緒だもん」
「……そうだね」
小学校の頃のアルフェとの約束――ずっと一緒にいる、が不意に思い返された。僕の密かな計画を知ったら、アルフェは悲しむだろうか。それともやっぱり笑って、いつものようについてきてくれるのだろうか。
――アルフェにとっての幸せというのは、なんなんだろう。
今までとは違って、離ればなれの時間が出来ると、ふとそんなことを考えてしまうな。
* * *
朝のうちにアルフェにメルアの『煌く星空の指輪』を渡したので、放課後の掃除を終えると僕たちは別行動に移った。
ホムはファラとヴァナベル、ヌメリンと特訓へ向かい、アルフェはメルアの元で魔法を教えてもらう約束になっている。
僕はというと、ホームルームの時間に武侠宴舞・カナルフォード杯、一次選考突破の内定が出たという報せを聞いたので、プロフェッサーに頼んで大会で使用する機兵を見学させてもらうことにしていた。
「ははぁ~、大学部の格納庫とは! 拙者達も行くでござるよ~!」
「ごめん。アイザックがどうしてもって……。ぼくも、出来たら見学したいな……って」
たまたま別件でプロフェッサーを訪ねて来ていたアイザックとロメオが、格納庫の見学というワードに反応してついてくることになった。
「一次選考突破の内定段階で、機兵の選定を始めるなんて感心ですね」
プロフェッサーが僕たちを案内しながら、感嘆の吐息を漏らしている。
「しかも今年はF組から2組の出場……。ファラもレスヴァールを手配していましたし、君たちの本気度がよくわかります」
レスヴァールは、帝国軍人であったファラの父親の愛機だ。
「第六世代機兵のレーヴェをベースにしたカスタム機ですから、機兵評価値を決めるのがとても楽しみですよ」
二次選考では、総合戦闘力と機兵評価値の両方をチームメンバーで合計し、もっとも高かった14組が選出される。武侠宴舞・カナルフォード杯の本番では、この14組に生徒会をプラスした全15組のトーナメント戦が行われるのだ。
貴族階級の生徒や生徒会のメンバーは、最低でも第六世代機兵のレーヴェなので、各200点、三機で合計600点となる可能性が高い。僕は機兵より性能が下とされる従機で出場するので、他二機の機兵評価値を上げる必要がある。
「そうそう、リーフ。参考までに教えておくけれど、従機は機兵の半分くらいで評価するから、君のアーケシウスの機兵評価値は、現時点では65点といったところだよ」
ああ、思ったよりは高評価だな。もう少しカスタマイズしたいところだが、まずはアルフェとホムの機体をどうにかすることが先決だ。
「まあ、骨董品レベルの従機を自分用に改良してカスタマイズしているところを、私は高く評価しているよ」
「……とはいえ、100点にも満たないのは、二次選考突破に向けては厳しいところでござるな」
武侠宴舞・カナルフォード杯の二次選考の内容を把握しているアイザックとロメオが、揃って険しい顔をしている。
「でも、修理さえすれば、軍の払い下げの機兵でもエントリーできるわけだろ? それで、レーヴェを選べば……」
「35点ばかり足りないことになるだろうね」
計算上ではそうなるが、僕は身体的理由でアーケシウスに乗る以外に選択肢がない。
「アーケシウスを戦闘用にカスタマイズすれば、機兵評価値を上げることは可能だろうね。もちろん、期日に間に合えばの話だけど」
優先度は低いが、考えていないわけではない。時間との闘いだが、大会の本番が二か月後ということを考えれば、一応あと一か月半の猶予はあるはずだ。
「査定の締め切りは一週間前だからね。君の魔導器を作るスピードを考えれば、足りないということはないだろう?」
そう訊ねるプロフェッサーは実に楽しそうな目をしている。僕がどんな戦略で機兵をカスタマイズするのかを、純粋に期待しているようだ。
「そうそう。この先の工科大学の設備で製作できるように、手配しておいたよ。敷地的に高等部は機兵改造用の設備がないし、ちょっと手間だけど誰かの邪魔が入ったりしない分、集中できるでしょう」
「ありがとうございます」
大学部まで足を運ぶことになるが、周囲を気にせず機兵製造に注力できる環境が整っているのは有り難い。大学部の学生も、工科大学の生徒ならば工学科と同じような雰囲気なのかもしれないな。
昨晩のうちにメルア用にカスタマイズした簡易術式を彫り込んだ『煌く星空の指輪』の出来は、アルフェによると上々らしい。
浄眼で感知出来るエーテル量を制御する効果を持たせたものの、僕には浄眼がないのでアルフェに視てもらえるのはかなり助かる。
「視え方としては、かなり変わるのかな?」
「うん! 凄いエーテルがあるっていうのはちゃんと分かるんだけど、その視え方だけが変わって視えるって言ったら伝わるかな? エーテルだけが薄いカーテン越しに見えてるみたいな雰囲気なんだけど……」
「ああ、そういう意図の簡易術式を設計したから、ちゃんと機能しているようで安心したよ」
「リーフってやっぱり凄いね」
「こういうのが好きなんだよ、前世からね」
今世でも前世の僕の研究が役立つということは、死後に与えられた冠位も女神の気まぐれではなかったということだ。今後は特級錬金術師に甘んじずに、この知識と技術を誰かのために役立てながら今世でもゆっくりとその高みを目指すのも、いいな。そのためには、まずは母の黒石病を完治させる術を見出さなければ。
「……アルフェ、今日の放課後もメルアのところへ行くんだよね」
「うん。今日はもうちょっと広いところでやるんだ」
頷くアルフェは少しだけ眠そうだ。多分、アルフェのことだから昨晩遅くまで多層術式の練習をしていたのだろうな。
「身体を休める時間もきちんと確保するんだよ、アルフェ」
「ふふっ。リーフには何でもお見通しだね」
僕の忠告にアルフェが苦笑を浮かべ、僕の腕に手を絡めてくる。
「『煌めく星空の指輪』は、ワタシがメルア先輩に届けるね」
「ありがとう。アルフェも、僕のことはお見通しだね」
アルフェの言葉を借りて礼を言うと、アルフェはくすぐったそうに目を細めた。
「リーフとは赤ちゃんの頃からずっと一緒だもん」
「……そうだね」
小学校の頃のアルフェとの約束――ずっと一緒にいる、が不意に思い返された。僕の密かな計画を知ったら、アルフェは悲しむだろうか。それともやっぱり笑って、いつものようについてきてくれるのだろうか。
――アルフェにとっての幸せというのは、なんなんだろう。
今までとは違って、離ればなれの時間が出来ると、ふとそんなことを考えてしまうな。
* * *
朝のうちにアルフェにメルアの『煌く星空の指輪』を渡したので、放課後の掃除を終えると僕たちは別行動に移った。
ホムはファラとヴァナベル、ヌメリンと特訓へ向かい、アルフェはメルアの元で魔法を教えてもらう約束になっている。
僕はというと、ホームルームの時間に武侠宴舞・カナルフォード杯、一次選考突破の内定が出たという報せを聞いたので、プロフェッサーに頼んで大会で使用する機兵を見学させてもらうことにしていた。
「ははぁ~、大学部の格納庫とは! 拙者達も行くでござるよ~!」
「ごめん。アイザックがどうしてもって……。ぼくも、出来たら見学したいな……って」
たまたま別件でプロフェッサーを訪ねて来ていたアイザックとロメオが、格納庫の見学というワードに反応してついてくることになった。
「一次選考突破の内定段階で、機兵の選定を始めるなんて感心ですね」
プロフェッサーが僕たちを案内しながら、感嘆の吐息を漏らしている。
「しかも今年はF組から2組の出場……。ファラもレスヴァールを手配していましたし、君たちの本気度がよくわかります」
レスヴァールは、帝国軍人であったファラの父親の愛機だ。
「第六世代機兵のレーヴェをベースにしたカスタム機ですから、機兵評価値を決めるのがとても楽しみですよ」
二次選考では、総合戦闘力と機兵評価値の両方をチームメンバーで合計し、もっとも高かった14組が選出される。武侠宴舞・カナルフォード杯の本番では、この14組に生徒会をプラスした全15組のトーナメント戦が行われるのだ。
貴族階級の生徒や生徒会のメンバーは、最低でも第六世代機兵のレーヴェなので、各200点、三機で合計600点となる可能性が高い。僕は機兵より性能が下とされる従機で出場するので、他二機の機兵評価値を上げる必要がある。
「そうそう、リーフ。参考までに教えておくけれど、従機は機兵の半分くらいで評価するから、君のアーケシウスの機兵評価値は、現時点では65点といったところだよ」
ああ、思ったよりは高評価だな。もう少しカスタマイズしたいところだが、まずはアルフェとホムの機体をどうにかすることが先決だ。
「まあ、骨董品レベルの従機を自分用に改良してカスタマイズしているところを、私は高く評価しているよ」
「……とはいえ、100点にも満たないのは、二次選考突破に向けては厳しいところでござるな」
武侠宴舞・カナルフォード杯の二次選考の内容を把握しているアイザックとロメオが、揃って険しい顔をしている。
「でも、修理さえすれば、軍の払い下げの機兵でもエントリーできるわけだろ? それで、レーヴェを選べば……」
「35点ばかり足りないことになるだろうね」
計算上ではそうなるが、僕は身体的理由でアーケシウスに乗る以外に選択肢がない。
「アーケシウスを戦闘用にカスタマイズすれば、機兵評価値を上げることは可能だろうね。もちろん、期日に間に合えばの話だけど」
優先度は低いが、考えていないわけではない。時間との闘いだが、大会の本番が二か月後ということを考えれば、一応あと一か月半の猶予はあるはずだ。
「査定の締め切りは一週間前だからね。君の魔導器を作るスピードを考えれば、足りないということはないだろう?」
そう訊ねるプロフェッサーは実に楽しそうな目をしている。僕がどんな戦略で機兵をカスタマイズするのかを、純粋に期待しているようだ。
「そうそう。この先の工科大学の設備で製作できるように、手配しておいたよ。敷地的に高等部は機兵改造用の設備がないし、ちょっと手間だけど誰かの邪魔が入ったりしない分、集中できるでしょう」
「ありがとうございます」
大学部まで足を運ぶことになるが、周囲を気にせず機兵製造に注力できる環境が整っているのは有り難い。大学部の学生も、工科大学の生徒ならば工学科と同じような雰囲気なのかもしれないな。
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