アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

文字の大きさ
上 下
156 / 396
第三章 暴風のコロッセオ

第156話 機兵適性値の測定

しおりを挟む
 翌週の月曜日。予定通り機兵適性値の測定が行われることになった。F組は、レギオンと特例で僕のアーケシウスを使用するので、二機に対してセッティングが行われている。

 機兵適性値の測定は、機兵の操縦槽内にあるスフィアと呼ばれる制御回路に専用の測定器を接続することで行われる。測定器を操縦槽の中に設置したレギオンが各クラスに一機割り当てられ、かつ、不正などがないように機外に設けられた映像盤に投影魔法で操縦槽内の様子が投影されるようになっている。

 特例で許可された僕のアーケシウスにも、レギオンと同じように測定器と映像盤が接続された。

「アーケシウス、どんな骨董品かと思っていたけどすごいな」
「実際、僕が竜堂広場市バザーで見つけた時は、骨董品だったよ。スクラップ品という扱いだったしね」
「それをよくぞここまで育ててくれたでござるよ、リーフ殿~! 拙者、従機萌えに目覚めそうでござる~!」

 機兵オタクを自称しているロメオとアイザックは僕のアーケシウスをつぶさに観察し、感動しきりの様子だ。

「レギオンをこうして間近で見て、搭乗出来るって日にアーケシウスに出逢えるなんて、運命めいたものを感じるな」
「まあ、現役機という意味ではかなり希少だろうからね」
「希少ではないでござる! これは最早奇跡でござるよ~!」

 大声で訴えるアイザックは、感極まって泣きそうになっている。そういえば、竜堂広場市でアーケシウスを見つけた時、父上も同じようなことを言っていたな。

 存在自体が奇跡のようなものだとすれば、それが修理・改造されて動く姿は、アイザックやロメオにとって感動の域に達するものなのだろう。

 そう考えながら愛機であるアーケシウスを見上げてみる。円柱形の頭部と胴部が特徴的なこの機体は、僕がグラスだった頃に活躍していた従機でもあるので、なんだか感慨めいたものを感じる気もするな。

「おーい、揃ってるか? そろそろ始めるぞ」

 プロフェッサーによる測定準備が調ったらしく、タヌタヌ先生がF組の生徒たちに声をかける。その声を合図に、アイザックがなぜか敬礼してロメオを真っ直ぐに見つめた。

「ロメオ殿。拙者、ロメオ殿の分まで、レギオンの操縦槽を体感してくるでござるよ~!」
「頼むぞ、アイザック!」

 小人族のロメオは測定には参加出来ないが、おそらく後で搭乗する機会ぐらいは得られそうだ。彼は、乗れないことを悲観するでもなく、僕がアーケシウスを持ち込む判断をしたことをしきりに羨ましがっていた。

「きっと在学中に、自分の機体を作るだろうね」
「にゃはっ。乗れなくても楽しそうだな」

 楽しそうにレギオンの方へと向かっていくアイザックとロメオを見送りながら呟くと、ファラが相槌を打ってくれた。隣のアルフェも楽しそうにはしているが、どことなく落ち着きがなさそうだ。多分緊張しているんだろうな。

「ん? どうしたんだ、アルフェ」

 僕の代わりに変化に気づいたファラが訊ねてくれる。アルフェはそこで少し長く息を吐いて、目許にかかった前髪を整えた。

「あのね、機兵に乗るのは初めてだから、なんだか緊張しちゃって……。ファラちゃんは平気なの?」
「あたしは父さんから、機兵を受け継いでるからな」

 ファラはそう言ってA組の方を見遣った。

「特例があるってわかってたら、あたしも持ち込むんだったぜ」

 特例は僕のような身体的理由を必ずしも要件としないので、A組の方では一部の生徒たちが自分の機体を持ち込んでいるのが見える。学校用に調達してあるのか、ある程度基準があるのかはわからなかったが、ほとんどが僕の父の機体と同じ、レーヴェをベースにしたもののようだ。

「お父さんのお下がりがあるんだね。いいなぁ」

 ファラと話して少し緊張が解けたのか、アルフェの表情が緩む。と、傍らで二人の話を聞いていたヴァナベルの兎耳族の耳がぴくりと動いた。

「ん? けど、機兵なんてそうポンポン買えるもんか? 確か高ぇんだろ?」
「にゃ……」

 ファラが、しまったというような表情をして、猫耳族の耳をがりがりと掻く。

「あー……。あたしとしたことが、なんか口が滑ったな。湿っぽくなるから黙ってたんだけどさ、父さんはもう殉職してるんだ」
「……ああ、そういうことか……」

 うっかり踏み込んでしまったヴァナベルが、気まずそうに呟く。単純に気になったことを聞いただけだったらしく、兎耳族の耳が、わかりやすく力を失っている。

「にゃはっ、もう過ぎたことだからさ。そんな顔するなって!」

 ヴァナベルの様子にファラが明るく笑って、その背を叩く。

「「そうだぞ。兎耳族のクラス委員長の人」」

 同意を示す声が聞こえてきたと思えば、リリルルだ。

「リリルルちゃん、どうしたの?」
「「アルフェの人の緊張を察して駆けつけた。我々は仲間を見捨てない」」

 なんだか仰々しい物言いだが、リリルルはアルフェを心配してきてくれたようだ。ダークエルフで強い魔力を持つリリルルは、浄眼ではないけれど、もしかするとエーテルの流れを感じる特殊な能力のようなものがあるのかもしれないな。

 それかエルフ同士、なにか波長のようなものを感じ取れるのかもしれない。きっと感覚的なものだろうから、聞いたところで僕にはわからないのだろうけれど。

「じゃあ踊ろっか」
「「そのつもりだ」」

 アルフェとリリルルが手を繋いで、くるくるとステップを踏み始める。

「オレも混ぜてくれよ」
「ヌメも~」

 ヴァナベルとヌメリンもその輪に加わり、くるくると踊り始めた。

「ほら、お前たちも来いよ」

 驚いたな、まさかヴァナベルに誘われる日が来るとは思わなかった。

「乗り気だね、ヴァナベル」

 ホムと手を繋いで輪に入り、ヴァナベルに左手を差し出しながら聞くと、ヴァナベルは照れくさそうに笑って僕の手を取った。

「最初は変な儀式みてぇだなって思ってたんだけどさ。なんか、験担ぎみたいでいい気がするんだよ」
「にゃはっ、確かに」

 ファラもすっかりいつもの笑顔に戻っている。ステップを踏むうちに、アルフェの緊張も解けたようだ。

「「この踊りには、ダークエルフの加護を与える力がある」」
「マジか!?」

 真顔で声を揃えるリリルルにヴァナベルが驚愕の叫びを上げる。

「「今考えた」」
「にゃははっ。だと思ったぜ」

 リリルルのわかりにくい冗談にファラが噴き出し、みんながそれにつられて笑い合う。

 ダークエルフの加護が与えられるわけではないにせよ、リリルルがはじめたこの儀式は、みんなを和ませるのにはちょうどいいな。

 おかげで測定を前のF組は、和やかな雰囲気だ。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...