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第三章 暴風のコロッセオ

第137話 クラス対抗模擬演習

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 食堂で普段より早い朝食を摂った後、会場である機兵用演習場へと向かった。

「「リリルルは、今この刻にエルフ同盟の同志が揃うと知っていた。共に戦おう、アルフェの人」」

「ハッ! 逃げ出さずに来たじゃねぇか。ちんちくりんでもいないよりはマシだからなぁ!」

 機兵演習場には、既にヴァナベルとヌメリン、リリルルが揃っており、僕たちをそれぞれに迎え入れた。まあ、ヴァナベル的にも人数はきちんと揃っていた方が良いのだろうな。

 程なくして全員が揃い、九時の開始前にタヌタヌ先生の武器チェックが行われる。

「よしよし、揃ったな。まずは武器の確認からだ」

 クラスメイトたちは、それぞれの武器や魔道具を所持している。リリルルとアルフェは、魔法の杖を頭上に掲げて先端を合わせ、それを中心にくるくると謎の踊りを踊っている。リリルル曰く「エルフ同盟の士気を高める神聖な舞」らしい。アルフェもすっかり慣れたのか、リリルルに合わせて器用にステップを踏んでいるのが可愛らしいな。

「……ただいま、リーフ」

 一通り踊り終えたアルフェが僕のもとへと戻ってくる。もう作戦会議は昨日の段階で終わっているし、アルフェとファラは自由行動を取ってよいことになったこともあり、アルフェもなんだか楽しそうだ。

「お帰り、アルフェ。その杖は入学祝のだね?」
「うん。こっちの方が魔力も上がるし、良い機会だからおろそうかなって。ワタシ、リーフと一緒にどうしても勝ちたいから」

 アルフェはそう言って真新しい魔法の杖を大事そうに抱えた。持ち手の部分に紫色の合成魔石ブラッドグレイルがついた新しい杖は、アルフェによく馴染んでいる。きっとエルフ族の父親が選んだ由緒正しきものなんだろうな。同じことはリリルルにも言える。ダークエルフの彼女たちが手にしている杖は、一般的なものよりも大きく長く、そのまま打撃に使えそうな代物だ。

 その他の魔法科の生徒も、それぞれのとっておきの魔法の杖を持ってきている。普段の授業で使っているものとは違うあたり、この日のために調達したか温存しておいたものなのだろうな。多少なりとも魔力を底上げできれば、A組の鼻を明かすことにもなるだろう。

「さて、最終確認だが、お前たち、忘れ物はないな?」

 それぞれ武器の確認が終わったと見て、タヌタヌ先生が声を張り上げる。

「当ったり前だろ! 模擬戦で武器を忘れる間抜けがいるかよ!」

 ヴァナベルがクラス委員長らしく一番に反応して高らかに笑ったが、ふと思い出したように僕の方に視線を移した。

「いや、もしかすると、いるかもなぁ!?」

 ああ、確かに僕は目に見えてわかりやすい武器を持ってきていないな。ホムは武装錬成アームドで強化する心づもりで、両手にグローブをはめているから、武器を忘れていると思われているのは、明らかに僕だ。

「いや、ちゃんとここにある」

 仕方ないので、小脇に抱えていた、真なる叡智の書アルス・マグナを掲げて見せる。

「は……?」

 ヴァナベルは虚を突かれたように目を丸くし、それから僕に近づいてまじまじと真なる叡智の書アルス・マグナを眺めた。

「はぁん、魔導書が武器ってワケか! 頭でっかちのお前らしいな」

 そう言いながらヴァナベルは、鞘から剣を抜き放ち、真紅に輝く刀身の魔剣を自慢げに見せつけた。

「まあ、オレのこの魔剣にかかれば――」

 ヴァナベルの言葉は、そこでにわかに盛り上がりを見せたA組のざわめきに掻き消される。

「――さあ、誇り高き血を引く者たちよ。今日というこの日にF組に歴然とした実力の差をつけ、A組のA組たる所以を見せつけようではないか!」
「おーーーー!」

 A組を鼓舞するリゼルの挨拶が終わると、A組だけでなくF組以外の他のクラスからも大歓声と拍手が湧いた。その盛り上がりはかなりのもので、F組のアイザックやロメオはもう気圧されしてしまっている。

「……ハッ、見せつけやがって。こっちも負けてらんねぇな!」

 忌々しげに右足で地面を叩いたヴァナベルが、眉を吊り上げた決意の表情でF組全員を見渡す。

「いいか、良く聞け! この真紅の剣がお前たちを必ず守る。この剣を目印にしてついてこい。絶対に勝たせてやる!」
「お~!」
「「リリルルは作戦に従おう、長い耳の兎耳族ヴァニーの人」」

 ヌメリンが戦斧を振り上げ、リリルルがそれに続く。

「あたしらも、好きにやらせてもらうか、アルフェ」
「うん。がんばろうね、ファラちゃん」

 ファラと顔を見合わせて確かめ合ったアルフェが、改めて僕を見つめる。

「リーフは――」
「僕のことなら心配ないよ。これもあるし、簡単にやられるほどやわじゃない」

 真なる叡智の書アルス・マグナを見せたことで、アルフェは少し安堵した様子だ。以前、ガイスト・アーマーと戦った際にアルフェはこれを使っているところを見ているので、それなりの説得力があるのだろう。

「わたくしがついております」
「そうだね。リーフをお願いね、ホムちゃん」
「アルフェ様も、どうかお気を付けて。いざとなれば、ホムが駆けつけます」

 ホムがアルフェを勇気づけるように言い、胸に手を当てる。

「うん。ワタシもそうする」

 アルフェも同じように胸に手を当てると、少し緊張した面持ちで頷いた。

「さあ、模擬戦の始まりだぜ。みんな、定位置につけ!」
「急いでね~」

 もう間もなく模擬戦の開始時間になる。ヴァナベルが急かし、ヌメリンが緊張感のないおっとりとした声音でクラスメイトを促して定位置に移動させた。

 一見整列しているように見えるが、作戦を知っている立場からみれば、先陣を切るヴァナベル、ヌメリン、リリルルを先頭とした三角形に近い陣形に変形出来るようなクラスメイトの配置だ。

 A組も定位置についているようだが、こちらは陣形としては特に特徴がないように思われた。リゼルに到っては最後尾にいる。

「おやぁ? 貴族山の大将さんは、一番後ろで高みの見物ってかぁ?」

 ヴァナベルが長い兎耳族の耳をぴくぴくと動かしながら、苛立った声を上げている。彼女からしてみれば、同じクラス委員長であるリゼルが先陣を切らないこの陣形が気に入らないのだろう。

 だが、なぜ――

 考えを巡らせる間もなく、空から一陣の風が吹き抜け、A組とF組の間を、マチルダ先生が箒で横切った。

「はぁーい、では、お時間になりましたぁ!」

 いつになくテンションの高いマチルダ先生が、甲高い声を上げる。拡声魔法を使っているのか、その声はF組の最後尾のさらに後ろにいる僕のところまで、良く響いた。

「頭部および急所への意図的な攻撃は不可。負傷者は私たち救護班が強制退避の上、処置しますのでそのつもりで――」
「わぁってんよ! 説明はいいから早くやらせてくれよ、先生!」

 マチルダ先生の言葉を遮り、魔剣を構えたヴァナベルが早くの開始を訴える。

「栄えあるクラス対抗戦の代表の第一声がそれとは、程度が知れるな」

 マチルダ先生に倣って拡声魔法を使ったリゼルが諫めると、ヴァナベルは苛立った様子でリゼルを睨んだ。

「そっちこそ、開口一番が悪口じゃねぇか!」

 こっちは拡声魔法を使わなくても充分聞こえる大声だ。

「弱い犬ほどよく吠える。どちらが強いか、すぐに分かるさ」
「ハッ! オレのどこが犬だぁ!?」
「ベル~、それはものの例えだからぁ~」

 収拾がつかなくなってきた二人の言い合いを止めようと、ヌメリンが間に入る。

「はいはい! お喋りはそこまで。では――、始め!」

 マチルダ先生の唐突な開始の合図で、F組とA組対抗の戦いの火蓋が切られた。
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