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第二章 誠忠のホムンクルス
第63話 和解の申し出
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入学式はアルフェの立派な挨拶ではじまり、つつがなく幕を閉じた。
「……んー、やっぱり緊張して、ちょっと噛んじゃった……」
新入生――しかも、セント・サライアス初の小中連続しての特待生代表というアルフェの挨拶は、詩的でとにかく情感に溢れた素晴らしいものだった。
「全然そんなふうには聞こえなかったよ」
この僕の想像力を以てしても、美しい花の舞う希望に溢れた景色が見えるようだったのだから、驚きだ。
「……でも、リーフの時みたいに泣いてる人、居なかったし……」
「アルフェの挨拶は希望に溢れたものだったからね。胸が弾むことはあっても、苦楽を思い出して泣くってことにはならないんじゃないかな?」
だが、当のアルフェはどうも納得していないようだ。ここは、黙っておくつもりだった一言を伝えておいたほうが良いのかもしれない。
「……アルフェの代表挨拶は、本当に素晴らしかったよ」
「……本当に? どれくらい?」
アルフェの目がキラキラしているところを見ると、自分を卑下しているわけではなくて、どうやら僕に褒められたいだけのようだ。
「……そうだな。アルフェの声は歌うように心地良くて、聞き惚れてしまったんだよ。アルフェが言う、希望の三年間……そのイメージが僕の頭にも浮かんでくるようだった……」
「リーフ……」
アルフェが驚いたような声を漏らす。
「上手く言えていないかもしれないけれど、伝わるかな、アルフェ?」
アルフェのように詩的な表現が浮かばなかったので、思ったままのことを伝えたつもりなのだが、直接すぎてわざとらしく聞こえてしまっただろうか……。
「ううん。すごく嬉しい……。リーフのエーテル、キラキラして……なんだか喜んでるみたい」
「そうなんだ……」
思いがけないところで、僕のエーテルの状態を教えてもらったな。もしかして、感情とも関連があるのかもしれないな。
「きっと、みんなもそう思ったんじゃないかな」
「……そうだったら、嬉しいな」
そうしてアルフェを労いながら教室に向かう途中、聞き覚えのある声が僕たちを呼び止めた。
「なあ! お前たち!」
面倒臭そうな雰囲気を感じ取ったので、振り返らずに横目で見るだけにした。どうやら、あのグーテンブルク坊やだ。たくさんいたはずの取り巻きが、一人だけになっている。
「おい、待てよ! 俺を無視するなよ!」
「リーフ……」
僕の視線に気づいたわけではないだろうが、グーテンブルク坊やが声を荒らげる。アルフェが怯えたような声を出し、僕の腕に抱きついた。
やれやれ、フェアリーバトルでやられたのを忘れたわけじゃないだろうに。
「……誰かと思えば、グーテンブルク坊やじゃないか。なにか用かい?」
ゆっくりと振り返り、余裕を持ってグーテンブルク坊やに対応する。振り返った僕とアルフェに、グーテンブルク坊やは称賛の目を向けた。
「アルフェのさ、さっきのあいさつ。すごかった……。お前の――いや、リーフの卒業の挨拶も良かったけどさ、なんていうか……」
だが、彼の賛辞には僕もアルフェも興味がない。さっさと切り上げて教室に行くとするか。
「それはどうも」
「ま、待て。まだ話の途中だ」
話を切り上げて踵を返そうとすると、グーテンブルク坊やが慌てた様子で呼び止めた。
「……まだなにか?」
「そ、その……さ。いつものヤツらが同じクラスに入れなくて、今はこの従者っていうか、ジョストしかいねぇんだよ。だから、これからはその……」
どうやら、他の取り巻きは成績の問題で同じクラスにはなれなかったらしい。けれど、従者を伴うことができるなんて、そういう制度があったんだな。
「……と、とにかく、そういう訳だから、仲良くやろうぜ。今日はそれを言いにきた」
「わざわざどうも。けど、そもそも君が勝手に敵対してきただけで、僕はなんとも思っていないよ」
「……アルフェも」
僕個人としては、心の底からどうでも良かったので適当に答えた。アルフェも同意を示したが、声の響きから察する限り、仲良くする気はないだろう。
「……そ、そうか……。じゃあ、良かった……」
拍子抜けしたような声で呟き、グーテンブルク坊やがジョストと呼んだ従者と去って行く。ジョストだけが数歩進んでから振り返り、深々と頭を垂れると、急いでグーテンブルク坊やの方を追っていった。
「……なんだか雰囲気が変わったね……」
アルフェがぽかんとしながらグーテンブルク坊やの背中を見つめている。
「まあ、僕たちに手出ししてこないなら、別に」
「そうだね」
小学校で浄眼を揶揄された傷が癒えていないのか、アルフェは安堵に顔を綻ばせると、その場に少し屈んで、僕の頬に頬を寄せた。
「少しだけ、このままでいさせて、リーフ……」
アルフェの声が少しだけ震えている。
「アルフェに嫌なことをするヤツは、もういないよ。だから大丈夫……」
僕はかつてそうしたように、アルフェの髪を撫で、その下にある尖った耳を指先でなぞった。
「……んー、やっぱり緊張して、ちょっと噛んじゃった……」
新入生――しかも、セント・サライアス初の小中連続しての特待生代表というアルフェの挨拶は、詩的でとにかく情感に溢れた素晴らしいものだった。
「全然そんなふうには聞こえなかったよ」
この僕の想像力を以てしても、美しい花の舞う希望に溢れた景色が見えるようだったのだから、驚きだ。
「……でも、リーフの時みたいに泣いてる人、居なかったし……」
「アルフェの挨拶は希望に溢れたものだったからね。胸が弾むことはあっても、苦楽を思い出して泣くってことにはならないんじゃないかな?」
だが、当のアルフェはどうも納得していないようだ。ここは、黙っておくつもりだった一言を伝えておいたほうが良いのかもしれない。
「……アルフェの代表挨拶は、本当に素晴らしかったよ」
「……本当に? どれくらい?」
アルフェの目がキラキラしているところを見ると、自分を卑下しているわけではなくて、どうやら僕に褒められたいだけのようだ。
「……そうだな。アルフェの声は歌うように心地良くて、聞き惚れてしまったんだよ。アルフェが言う、希望の三年間……そのイメージが僕の頭にも浮かんでくるようだった……」
「リーフ……」
アルフェが驚いたような声を漏らす。
「上手く言えていないかもしれないけれど、伝わるかな、アルフェ?」
アルフェのように詩的な表現が浮かばなかったので、思ったままのことを伝えたつもりなのだが、直接すぎてわざとらしく聞こえてしまっただろうか……。
「ううん。すごく嬉しい……。リーフのエーテル、キラキラして……なんだか喜んでるみたい」
「そうなんだ……」
思いがけないところで、僕のエーテルの状態を教えてもらったな。もしかして、感情とも関連があるのかもしれないな。
「きっと、みんなもそう思ったんじゃないかな」
「……そうだったら、嬉しいな」
そうしてアルフェを労いながら教室に向かう途中、聞き覚えのある声が僕たちを呼び止めた。
「なあ! お前たち!」
面倒臭そうな雰囲気を感じ取ったので、振り返らずに横目で見るだけにした。どうやら、あのグーテンブルク坊やだ。たくさんいたはずの取り巻きが、一人だけになっている。
「おい、待てよ! 俺を無視するなよ!」
「リーフ……」
僕の視線に気づいたわけではないだろうが、グーテンブルク坊やが声を荒らげる。アルフェが怯えたような声を出し、僕の腕に抱きついた。
やれやれ、フェアリーバトルでやられたのを忘れたわけじゃないだろうに。
「……誰かと思えば、グーテンブルク坊やじゃないか。なにか用かい?」
ゆっくりと振り返り、余裕を持ってグーテンブルク坊やに対応する。振り返った僕とアルフェに、グーテンブルク坊やは称賛の目を向けた。
「アルフェのさ、さっきのあいさつ。すごかった……。お前の――いや、リーフの卒業の挨拶も良かったけどさ、なんていうか……」
だが、彼の賛辞には僕もアルフェも興味がない。さっさと切り上げて教室に行くとするか。
「それはどうも」
「ま、待て。まだ話の途中だ」
話を切り上げて踵を返そうとすると、グーテンブルク坊やが慌てた様子で呼び止めた。
「……まだなにか?」
「そ、その……さ。いつものヤツらが同じクラスに入れなくて、今はこの従者っていうか、ジョストしかいねぇんだよ。だから、これからはその……」
どうやら、他の取り巻きは成績の問題で同じクラスにはなれなかったらしい。けれど、従者を伴うことができるなんて、そういう制度があったんだな。
「……と、とにかく、そういう訳だから、仲良くやろうぜ。今日はそれを言いにきた」
「わざわざどうも。けど、そもそも君が勝手に敵対してきただけで、僕はなんとも思っていないよ」
「……アルフェも」
僕個人としては、心の底からどうでも良かったので適当に答えた。アルフェも同意を示したが、声の響きから察する限り、仲良くする気はないだろう。
「……そ、そうか……。じゃあ、良かった……」
拍子抜けしたような声で呟き、グーテンブルク坊やがジョストと呼んだ従者と去って行く。ジョストだけが数歩進んでから振り返り、深々と頭を垂れると、急いでグーテンブルク坊やの方を追っていった。
「……なんだか雰囲気が変わったね……」
アルフェがぽかんとしながらグーテンブルク坊やの背中を見つめている。
「まあ、僕たちに手出ししてこないなら、別に」
「そうだね」
小学校で浄眼を揶揄された傷が癒えていないのか、アルフェは安堵に顔を綻ばせると、その場に少し屈んで、僕の頬に頬を寄せた。
「少しだけ、このままでいさせて、リーフ……」
アルフェの声が少しだけ震えている。
「アルフェに嫌なことをするヤツは、もういないよ。だから大丈夫……」
僕はかつてそうしたように、アルフェの髪を撫で、その下にある尖った耳を指先でなぞった。
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