上 下
60 / 396
第二章 誠忠のホムンクルス

第60話 家族への貢献

しおりを挟む
 予定よりも少し遅くなったものの、僕の中学校入学に合わせて母も錬金術師としての仕事を再開した。腕の良い錬金術師という話は、今も健在らしく、仕事を再開したという報せを出した翌日には、依頼の品が殺到するに到った。

「……みんな、本当にリクエストが多いんだから」

 朝一番に届いた注文書を整理しながら呟く母の目許が、嬉しそうに綻んでいる。仕事を再開するというのは、母にとっても自分の時間を取り戻す良い機会だろう。

 生まれてから十二年間も僕という人間にかかりきりでいてくれたことが、僕にとっては驚異的だ。自分には到底真似出来ないたくさんの愛情を注がれたことに改めて感謝しながら、僕は食べ終わった食器を片付けていく。自分が食べた分はもちろん、目玉焼き用に置かれていた塩胡椒などの調味料も食器棚に戻す。

 注文書を一通り読み終えた母が、手を天井に向けて伸びをしている。真面目な母のことだから、皆の期待に応えようと無理をしないことを祈るばかりだ。

「……母上。洗い物は僕がやります」

 テーブルを拭き上げるために手布をかたく絞りながら、僕は母に声をかけた。

「ありがとう。助かるわ、リーフ」
「もう中学生になるのですから、このくらいは当然です。それと――」

 手伝いを申し出たいが、さすがに錬金術の手伝いはやり過ぎだろうな。ここは無難に、家のことをやるべきだろう。

「昼食はどうしますか、母上?」
「……そうね。冷蔵魔導器に買い置きがあるから、一度戻るわ」
「ありがとうございます。わかりました」

 素直に引き下がったものの、あの口ぶりだと、多分僕にお昼を作ってくれるつもりなんだろうな。母がアトリエに行ったら、昼食の計画を立ててみよう。買い置きがあるなら、ついでに夕食もなにか仕込んでおくといいかもしれない。

「リーフ」
「なんでしょう?」

 椅子から立ち上がった母がアトリエに向かうものだと思っていた僕は、不意に名前を呼ばれてぎくりとして振り向いた。

「何かいつもと違うことがあったら、我慢しないですぐに教えてね」
「僕は大丈夫ですよ、母上」
「……ええ。そうね……」

 取り繕うように笑ったように見えたのは、やっぱり僕の身体のことを心配しているようだ。体感的にはなんともないわけだし、新学期が始まればアルフェに浄眼で視てもらうこともできるだろう。こればかりは、時間をかけて言葉以外の方法で伝えていくしかないだろうな。

 それをどうすべきかは、まだなにも思いつかないのだけれど……。

 頭の片隅にでも置いておけば、そのうち良い案が浮かぶかもしれない。今すぐどうにかするのは無理なのだと、焦る気持ちを宥めながら、僕は冷蔵魔導器の扉を開け、中のものを確認する作業をはじめた。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...