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第一章 輪廻のアルケミスト

第29話 現代の『文字』

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 リオネル先生の合図で、クラスメイトたちが一斉に教科書を捲りはじめる。いよいよ本格的な座学の開始だが、実際に身近なものの喩えを出し、それに触れさせることでリオネル先生は生徒たちの興味や関心を強く引き出しているのがよく理解できた。

 アナイス先生といい、教え方がかなり上手いという印象がある。予習もしてあるし、既に知っている知識だから真剣に聞かなくても問題ないのだが、ついつい耳を傾けてしまうな。

「簡易術式の術式は、みなさんの良く知るルーン文字によって書かれます。ですが、今は新字と呼ばれる新たな文字が生み出され、日々実用化に向けて研究されているのですよ。そのうち、先生が作り出した新字もみなさんに紹介できるかもしれません」

 リオネル先生は、教科書に書かれていることを読み上げるのではなく、噛み砕いてより簡単な言葉で説明しはじめた。研究者でもあるリオネル先生が作り出した新字というのも、僕たちの関心を惹いた。

 今話していた『新字』という表現は、開いているページには出てきていない。恐らくこの後の実践編などで習うのは容易に想像出来た。

 元々、僕が得意としていた分野の話でもある。やり過ぎないように、教科書を先に読み進めておいた方が良さそうだ。

 基礎編は予習の範囲で問題ないことがわかっていたので、応用編へとページを進めてみる。

 半分以上進めたところで、『炎の渦の魔法』という例題が出てきたので、試しに説いてみることにした。

 求められているのは、炎の渦を生み出すための簡易術式だ。エーテルを流せば発動するようにするだけなので、これなら単語の羅列だけでも事足りるだろう。

 だとすれば模範解答は、『炎、螺旋、高熱、投射』といったところか。風を入れるかどうかは迷うところだが、渦の形を成している方を優先してみる。

 答え合わせに巻末の解答リストを参照してみると、『炎渦、投射』とだけ書かれていた。

 なるほど…。『炎渦』という新字を使って、『炎、螺旋、高熱』を一文字で処理しているということか。

 別冊にまとめられた新字一覧表を調べてみると、確かに『炎渦』の新字を見つけることができた。

 基礎編で旧字を習うことを考えると、グラスの時代に使用していたルーン文字が基礎になっているのは間違いないようだが、実際に使われているのは、新字の方が多そうだ。

 基本のルーン文字を増やすことで、一語で表現できるものの範囲を広げ、魔導器の簡略化や大きさの縮小を試みてきたのだろうな。

 ざっと理解したところで、ページを戻して、『炎渦』を表す新字を改めて分析してみる。

 新字といえども、文字を分解すれば、そこに使われている基礎となる文字は変わらないことがすぐにわかった。

 すなわち、炎を示すケンに強大なエネルギーを意味する太陽光を象徴したシゲル、それに衝動的な常道を意味するソーンというルーン文字を組み合わせたものが、高熱の炎の渦を生み出すという具合のようだ。

 こうした基礎がわかっていなければ、新字を理解するのも容易ではない。だから、旧字を基本のルーン文字として教えることにしているのだろう。

 だが、僕がグラスだった頃に使っていたルーン文字を現代でも使う人間はかなり限られている。今は『新字』と呼ばれるものが一般的で、リーフの年齢の人間ならまず使わない文字のようなので、手癖で書かないように気をつけなくては。

 とはいえ、根本的に異なるわけではなくニュアンスや形状が近いので、すぐに記憶できそうだ。子供らしい発想として、独自の文字を作るのも悪くないな。それなら変にボロを出さずに済みそうだ。理論を考えるのは好きだし、新たなルーン文字を検討するのも一興ではある。少し学べば、今の技術に自分の知識を最適化できるだろう。


「……リーフ、リーフってば……」

 などと考えていると、アルフェに太腿を揺さぶられて我に返った。

「ノート……」

 言われて教室を見渡せば、クラスメイトたちが真剣にノートに書き込みをしている。授業は進み、次の段階に移ったようだ。

 黒板には、リオネル先生が記した板書が浮かび上がっている。重要な単語は、微かに発光しており、目立つように工夫されていた。

 一目見て、簡易術式の術式基盤の説明だということが理解できる。

 術式基盤というのは、簡単に言うと、基本となるルーン文字を組み合わせて単語を作り、その単語同士を組み合わせて文章にし、この文章にエーテルを流すと発動する仕組みを持った基盤のことだ。

 文字媒体に情報を圧縮することで、想像力を補い魔法の発動を容易にしているというわけだ。



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