29 / 396
第一章 輪廻のアルケミスト
第29話 現代の『文字』
しおりを挟む
リオネル先生の合図で、クラスメイトたちが一斉に教科書を捲りはじめる。いよいよ本格的な座学の開始だが、実際に身近なものの喩えを出し、それに触れさせることでリオネル先生は生徒たちの興味や関心を強く引き出しているのがよく理解できた。
アナイス先生といい、教え方がかなり上手いという印象がある。予習もしてあるし、既に知っている知識だから真剣に聞かなくても問題ないのだが、ついつい耳を傾けてしまうな。
「簡易術式の術式は、みなさんの良く知るルーン文字によって書かれます。ですが、今は新字と呼ばれる新たな文字が生み出され、日々実用化に向けて研究されているのですよ。そのうち、先生が作り出した新字もみなさんに紹介できるかもしれません」
リオネル先生は、教科書に書かれていることを読み上げるのではなく、噛み砕いてより簡単な言葉で説明しはじめた。研究者でもあるリオネル先生が作り出した新字というのも、僕たちの関心を惹いた。
今話していた『新字』という表現は、開いているページには出てきていない。恐らくこの後の実践編などで習うのは容易に想像出来た。
元々、僕が得意としていた分野の話でもある。やり過ぎないように、教科書を先に読み進めておいた方が良さそうだ。
基礎編は予習の範囲で問題ないことがわかっていたので、応用編へとページを進めてみる。
半分以上進めたところで、『炎の渦の魔法』という例題が出てきたので、試しに説いてみることにした。
求められているのは、炎の渦を生み出すための簡易術式だ。エーテルを流せば発動するようにするだけなので、これなら単語の羅列だけでも事足りるだろう。
だとすれば模範解答は、『炎、螺旋、高熱、投射』といったところか。風を入れるかどうかは迷うところだが、渦の形を成している方を優先してみる。
答え合わせに巻末の解答リストを参照してみると、『炎渦、投射』とだけ書かれていた。
なるほど…。『炎渦』という新字を使って、『炎、螺旋、高熱』を一文字で処理しているということか。
別冊にまとめられた新字一覧表を調べてみると、確かに『炎渦』の新字を見つけることができた。
基礎編で旧字を習うことを考えると、グラスの時代に使用していたルーン文字が基礎になっているのは間違いないようだが、実際に使われているのは、新字の方が多そうだ。
基本のルーン文字を増やすことで、一語で表現できるものの範囲を広げ、魔導器の簡略化や大きさの縮小を試みてきたのだろうな。
ざっと理解したところで、ページを戻して、『炎渦』を表す新字を改めて分析してみる。
新字といえども、文字を分解すれば、そこに使われている基礎となる文字は変わらないことがすぐにわかった。
すなわち、炎を示すケンに強大なエネルギーを意味する太陽光を象徴したシゲル、それに衝動的な常道を意味するソーンというルーン文字を組み合わせたものが、高熱の炎の渦を生み出すという具合のようだ。
こうした基礎がわかっていなければ、新字を理解するのも容易ではない。だから、旧字を基本のルーン文字として教えることにしているのだろう。
だが、僕がグラスだった頃に使っていたルーン文字を現代でも使う人間はかなり限られている。今は『新字』と呼ばれるものが一般的で、リーフの年齢の人間ならまず使わない文字のようなので、手癖で書かないように気をつけなくては。
とはいえ、根本的に異なるわけではなくニュアンスや形状が近いので、すぐに記憶できそうだ。子供らしい発想として、独自の文字を作るのも悪くないな。それなら変にボロを出さずに済みそうだ。理論を考えるのは好きだし、新たなルーン文字を検討するのも一興ではある。少し学べば、今の技術に自分の知識を最適化できるだろう。
「……リーフ、リーフってば……」
などと考えていると、アルフェに太腿を揺さぶられて我に返った。
「ノート……」
言われて教室を見渡せば、クラスメイトたちが真剣にノートに書き込みをしている。授業は進み、次の段階に移ったようだ。
黒板には、リオネル先生が記した板書が浮かび上がっている。重要な単語は、微かに発光しており、目立つように工夫されていた。
一目見て、簡易術式の術式基盤の説明だということが理解できる。
術式基盤というのは、簡単に言うと、基本となるルーン文字を組み合わせて単語を作り、その単語同士を組み合わせて文章にし、この文章にエーテルを流すと発動する仕組みを持った基盤のことだ。
文字媒体に情報を圧縮することで、想像力を補い魔法の発動を容易にしているというわけだ。
アナイス先生といい、教え方がかなり上手いという印象がある。予習もしてあるし、既に知っている知識だから真剣に聞かなくても問題ないのだが、ついつい耳を傾けてしまうな。
「簡易術式の術式は、みなさんの良く知るルーン文字によって書かれます。ですが、今は新字と呼ばれる新たな文字が生み出され、日々実用化に向けて研究されているのですよ。そのうち、先生が作り出した新字もみなさんに紹介できるかもしれません」
リオネル先生は、教科書に書かれていることを読み上げるのではなく、噛み砕いてより簡単な言葉で説明しはじめた。研究者でもあるリオネル先生が作り出した新字というのも、僕たちの関心を惹いた。
今話していた『新字』という表現は、開いているページには出てきていない。恐らくこの後の実践編などで習うのは容易に想像出来た。
元々、僕が得意としていた分野の話でもある。やり過ぎないように、教科書を先に読み進めておいた方が良さそうだ。
基礎編は予習の範囲で問題ないことがわかっていたので、応用編へとページを進めてみる。
半分以上進めたところで、『炎の渦の魔法』という例題が出てきたので、試しに説いてみることにした。
求められているのは、炎の渦を生み出すための簡易術式だ。エーテルを流せば発動するようにするだけなので、これなら単語の羅列だけでも事足りるだろう。
だとすれば模範解答は、『炎、螺旋、高熱、投射』といったところか。風を入れるかどうかは迷うところだが、渦の形を成している方を優先してみる。
答え合わせに巻末の解答リストを参照してみると、『炎渦、投射』とだけ書かれていた。
なるほど…。『炎渦』という新字を使って、『炎、螺旋、高熱』を一文字で処理しているということか。
別冊にまとめられた新字一覧表を調べてみると、確かに『炎渦』の新字を見つけることができた。
基礎編で旧字を習うことを考えると、グラスの時代に使用していたルーン文字が基礎になっているのは間違いないようだが、実際に使われているのは、新字の方が多そうだ。
基本のルーン文字を増やすことで、一語で表現できるものの範囲を広げ、魔導器の簡略化や大きさの縮小を試みてきたのだろうな。
ざっと理解したところで、ページを戻して、『炎渦』を表す新字を改めて分析してみる。
新字といえども、文字を分解すれば、そこに使われている基礎となる文字は変わらないことがすぐにわかった。
すなわち、炎を示すケンに強大なエネルギーを意味する太陽光を象徴したシゲル、それに衝動的な常道を意味するソーンというルーン文字を組み合わせたものが、高熱の炎の渦を生み出すという具合のようだ。
こうした基礎がわかっていなければ、新字を理解するのも容易ではない。だから、旧字を基本のルーン文字として教えることにしているのだろう。
だが、僕がグラスだった頃に使っていたルーン文字を現代でも使う人間はかなり限られている。今は『新字』と呼ばれるものが一般的で、リーフの年齢の人間ならまず使わない文字のようなので、手癖で書かないように気をつけなくては。
とはいえ、根本的に異なるわけではなくニュアンスや形状が近いので、すぐに記憶できそうだ。子供らしい発想として、独自の文字を作るのも悪くないな。それなら変にボロを出さずに済みそうだ。理論を考えるのは好きだし、新たなルーン文字を検討するのも一興ではある。少し学べば、今の技術に自分の知識を最適化できるだろう。
「……リーフ、リーフってば……」
などと考えていると、アルフェに太腿を揺さぶられて我に返った。
「ノート……」
言われて教室を見渡せば、クラスメイトたちが真剣にノートに書き込みをしている。授業は進み、次の段階に移ったようだ。
黒板には、リオネル先生が記した板書が浮かび上がっている。重要な単語は、微かに発光しており、目立つように工夫されていた。
一目見て、簡易術式の術式基盤の説明だということが理解できる。
術式基盤というのは、簡単に言うと、基本となるルーン文字を組み合わせて単語を作り、その単語同士を組み合わせて文章にし、この文章にエーテルを流すと発動する仕組みを持った基盤のことだ。
文字媒体に情報を圧縮することで、想像力を補い魔法の発動を容易にしているというわけだ。
0
お気に入りに追加
793
あなたにおすすめの小説
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
その悪役令嬢はなぜ死んだのか
キシバマユ
ファンタジー
前世で死を迎えた菊池奈緒は異世界で転生した。
奈緒は満身創痍の体で目覚め、助けてもらった先生の元で治療魔法の見習いとして新たな人生を歩み始める。
しかし、自分が今宿っている体の前の持ち主が「重大な悪事」を繰り返していたらしいことを知り、次第に運命の謎に巻き込まれていく。
奈緒は自身の過去と向き合い今の体の秘密を探る中で、この異世界でどのように生き延びるかを模索していく。
奈緒は「悪役令嬢」としての運命をどう回避するのか__
表紙はillustACのものを使わせていただきました
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる