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第一章 輪廻のアルケミスト
第18話 託児所への視察
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三歳を過ぎると行動範囲は託児所の外に及んだ
託児所の職員が街の建物を説明しながら、僕とアルフェが乗った大型の乳母車を押していく。いつもは託児所の近くである黒竜教の聖堂である竜堂の近くを回るだけなのだが、今日は少し遠出をしている印象だ。太陽を目印にしているので、東南方向に移動しているのだろう。乳母車の揺れにアルフェと共に身を任せていると、トーチ・タウンを囲む巨大な外壁が見えてきた。
普段は遠目にしか見ない外壁の手前には、まだ新しい煉瓦造りの建物が幾つも並んでいる。同じ建築家によってデザインされているらしく、ざっと見渡して四棟ほどの建物が並ぶ一角はどうやら教育機関のようだ。
「あのピカピカの建物が、私立セント・サライアス小学校ですよ」
僕の視線に気づいたのか、託児所の職員が説明してくれる。
サライアスということは、歴史上の賢者サライにかけていそうだ。教育機関に賢者の名をつけるということは、かなり高度な教育が行われているのだろうな。
「あっち?」
アルフェが時計塔を挟んで建つ少し小さな建物を指差す。
「あの建物は、セント・サライアス小学校付属幼稚園。あなたたちくらいの子やお兄さんお姉さんがお勉強をするところなのよ」
「おべんきょー」
話の意味がわかっているのか、アルフェが得意気にオウム返しで繰り返す。
付属幼稚園を備えているということは、早期教育にも力が入っていそうだ。あの小学校に入れば、両親に対して少しは恩返しができるだろうか。
「明日、私たちのところに視察が入るからね。ご挨拶できるかな?」
「あーい」
アルフェが答え、僕も頷く。わざわざ遠出してセント・サライアス小学校を見せるということは、明日の視察にはなにか特別な目的がありそうだ。
「アルフェ、へーき?」
職員がいる手前、片言を装ってアルフェに話しかけてみる。アルフェはぱちぱちと目を瞬き、にっこりと微笑んだ。
「リーフもする」
「……そうだね」
僕たちは視察される側なんだけど、と言いたかったけれど、込み入った話をしてもアルフェには通じないし、流暢に喋って職員に疑われるのも困る。
――でも、アルフェは知らない人が来ると怖がりそうだな。
そうなると僕にくっついて動かなくなりがちなので、自由に動こうと思うとかなり苦心しそうだ。だけど、視察が来るという情報にはかなり興味が湧いた。
わざわざ託児所に視察に来る目的は、一体なんだろうか。あれぐらいの規模の学校なら、特待生制度などもありそうだ。その候補を探す……とかだと、いいな。
◇◇◇
その翌日――。
「やー! やったら、やぁー」
案の定、託児所にセント・サライアス小学校の視察が入るとアルフェが人見知りを発動した。
「……あらあら、アルフェちゃん。大丈夫ですよ。抱っこしましょうねー」
「やーっ! リーフがいいっ!」
アルフェはそう言いながら、僕をぎゅっと抱き締めている。少し落ち着いてもらわないと視察の目的を知る前に担当者がいなくなりそうなので、アルフェの背に手を回してぎゅっと抱き締め返すことにした。
「リーフ、すき」
僕と抱き合って少し落ち着いたのか、アルフェが小さく呟く。でも、その目はまん丸に見開かれて怯えたように視察担当者を見つめていた。
「……あの、失礼ですが――」
視察担当者が、アルフェの目に気づき、食い入るように見つめた。
「この子が、浄眼の――」
「ええ、そうなんです。でも、とても繊細な子でして……」
アルフェの機嫌を損ねまいと、託児所の職員が声のトーンを落として話している。アルフェにも僕にもその声は聞こえているんだけどね。
「アルフェのめんめ……?」
その証拠にアルフェが不安そうに僕に聞いてきた。
「きれいだよ、アルフェ」
アルフェを怖がらせないように、目を合わせて落ち着いた声をかけてみる。アルフェは僕の言葉にぎこちなく笑うと、抱きついている腕に力を込めた。
どうやら、視察担当者はアルフェの能力を見にきたらしい。託児所で浄眼を持っているのはアルフェだけなので、焦らなくてもこのクラスに滞在するのは間違いないようだ。
「アルフェくん、君に簡単なテストをお願いしたいのだが――」
「やーーーーっ!」
視察担当者がアルフェに優しげな声をかけるが、アルフェは最後まで聞かずに僕の後ろに隠れた。そのまま僕を引っ張るようにして、視察担当者との距離をあけていく。明らかな警戒を示されて、視察担当者も職員も困ったように笑っていた。
「ごめんなさい。家族以外の男の人に慣れていなくて……」
「……いえ、よくあることです。落ち着くまで待ちましょう」
二人の会話を聞き取りながら、アルフェの変化にも注意を払う。
「……アルフェ」
「リーフぅ……」
舌っ足らずに僕の名を呼ぶアルフェは、怯えたように震えている。浄眼を理由に注目を浴びることを好まないのは、この託児所に来てから現れた特徴でもある。
――綺麗な目だと思うんだけどな。
その上、高い能力を有していて将来魔導師としての大成が期待されるとなれば、早期教育にも力が入るだろう。
――テストというのは、僕も受けられるのかな?
どんなテストかはわからないが、自分もついでに能力を測ってもらえば、アルフェと共に目をかけてもらえる可能性が高い。アルフェにテストを受けるように働きかければ、僕にもその機会が巡ってくるかもしれない。
託児所の職員が街の建物を説明しながら、僕とアルフェが乗った大型の乳母車を押していく。いつもは託児所の近くである黒竜教の聖堂である竜堂の近くを回るだけなのだが、今日は少し遠出をしている印象だ。太陽を目印にしているので、東南方向に移動しているのだろう。乳母車の揺れにアルフェと共に身を任せていると、トーチ・タウンを囲む巨大な外壁が見えてきた。
普段は遠目にしか見ない外壁の手前には、まだ新しい煉瓦造りの建物が幾つも並んでいる。同じ建築家によってデザインされているらしく、ざっと見渡して四棟ほどの建物が並ぶ一角はどうやら教育機関のようだ。
「あのピカピカの建物が、私立セント・サライアス小学校ですよ」
僕の視線に気づいたのか、託児所の職員が説明してくれる。
サライアスということは、歴史上の賢者サライにかけていそうだ。教育機関に賢者の名をつけるということは、かなり高度な教育が行われているのだろうな。
「あっち?」
アルフェが時計塔を挟んで建つ少し小さな建物を指差す。
「あの建物は、セント・サライアス小学校付属幼稚園。あなたたちくらいの子やお兄さんお姉さんがお勉強をするところなのよ」
「おべんきょー」
話の意味がわかっているのか、アルフェが得意気にオウム返しで繰り返す。
付属幼稚園を備えているということは、早期教育にも力が入っていそうだ。あの小学校に入れば、両親に対して少しは恩返しができるだろうか。
「明日、私たちのところに視察が入るからね。ご挨拶できるかな?」
「あーい」
アルフェが答え、僕も頷く。わざわざ遠出してセント・サライアス小学校を見せるということは、明日の視察にはなにか特別な目的がありそうだ。
「アルフェ、へーき?」
職員がいる手前、片言を装ってアルフェに話しかけてみる。アルフェはぱちぱちと目を瞬き、にっこりと微笑んだ。
「リーフもする」
「……そうだね」
僕たちは視察される側なんだけど、と言いたかったけれど、込み入った話をしてもアルフェには通じないし、流暢に喋って職員に疑われるのも困る。
――でも、アルフェは知らない人が来ると怖がりそうだな。
そうなると僕にくっついて動かなくなりがちなので、自由に動こうと思うとかなり苦心しそうだ。だけど、視察が来るという情報にはかなり興味が湧いた。
わざわざ託児所に視察に来る目的は、一体なんだろうか。あれぐらいの規模の学校なら、特待生制度などもありそうだ。その候補を探す……とかだと、いいな。
◇◇◇
その翌日――。
「やー! やったら、やぁー」
案の定、託児所にセント・サライアス小学校の視察が入るとアルフェが人見知りを発動した。
「……あらあら、アルフェちゃん。大丈夫ですよ。抱っこしましょうねー」
「やーっ! リーフがいいっ!」
アルフェはそう言いながら、僕をぎゅっと抱き締めている。少し落ち着いてもらわないと視察の目的を知る前に担当者がいなくなりそうなので、アルフェの背に手を回してぎゅっと抱き締め返すことにした。
「リーフ、すき」
僕と抱き合って少し落ち着いたのか、アルフェが小さく呟く。でも、その目はまん丸に見開かれて怯えたように視察担当者を見つめていた。
「……あの、失礼ですが――」
視察担当者が、アルフェの目に気づき、食い入るように見つめた。
「この子が、浄眼の――」
「ええ、そうなんです。でも、とても繊細な子でして……」
アルフェの機嫌を損ねまいと、託児所の職員が声のトーンを落として話している。アルフェにも僕にもその声は聞こえているんだけどね。
「アルフェのめんめ……?」
その証拠にアルフェが不安そうに僕に聞いてきた。
「きれいだよ、アルフェ」
アルフェを怖がらせないように、目を合わせて落ち着いた声をかけてみる。アルフェは僕の言葉にぎこちなく笑うと、抱きついている腕に力を込めた。
どうやら、視察担当者はアルフェの能力を見にきたらしい。託児所で浄眼を持っているのはアルフェだけなので、焦らなくてもこのクラスに滞在するのは間違いないようだ。
「アルフェくん、君に簡単なテストをお願いしたいのだが――」
「やーーーーっ!」
視察担当者がアルフェに優しげな声をかけるが、アルフェは最後まで聞かずに僕の後ろに隠れた。そのまま僕を引っ張るようにして、視察担当者との距離をあけていく。明らかな警戒を示されて、視察担当者も職員も困ったように笑っていた。
「ごめんなさい。家族以外の男の人に慣れていなくて……」
「……いえ、よくあることです。落ち着くまで待ちましょう」
二人の会話を聞き取りながら、アルフェの変化にも注意を払う。
「……アルフェ」
「リーフぅ……」
舌っ足らずに僕の名を呼ぶアルフェは、怯えたように震えている。浄眼を理由に注目を浴びることを好まないのは、この託児所に来てから現れた特徴でもある。
――綺麗な目だと思うんだけどな。
その上、高い能力を有していて将来魔導師としての大成が期待されるとなれば、早期教育にも力が入るだろう。
――テストというのは、僕も受けられるのかな?
どんなテストかはわからないが、自分もついでに能力を測ってもらえば、アルフェと共に目をかけてもらえる可能性が高い。アルフェにテストを受けるように働きかければ、僕にもその機会が巡ってくるかもしれない。
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