20 / 44
第二章 怪人”魔百合”
第20話
しおりを挟む
「〝こうして、ゼノスは奏音を傷つけることなく刺客を退けることに成功した〟……と」
まゆりを奏音が大好きな百合の怪人に見立てた戦闘パート。
濃密なシーンを書き終えたのは、放課後、部活が始まるちょっと前だった。
授業中は日ごろから行っている妄想で展開を考え、休み時間と昼休みに文字として整える。
完璧な流れを掴めたことにある程度の満足感を覚えていると「お疲れ~……」と奏音がやつれた表情で部室に入ってきた。
「……どうしたの?」
「いや、大したことない……よ」
そう語る彼女の表情はとても大したことが無かったようには思えず、「相談してほしいな」と陽太は地雷を踏む覚悟でつついてみた。
「いや、私のことだからさ……ヨウくんには関係ないことだし、迷惑かけられないし……」
「部員の相談役になるのも部長の役目だって。遠慮なく話していいよ」
「うーん……」
「迷惑なんて結構結構! 話すだけでも気が楽になることもあるし、この間の僕みたいに新しい解決方法が出てくるかもしれないでしょ?」
他の人であればここまでしない。
奏音には以前の部活存続の時に助けてもらったから、そのお礼がしたい。
その一心での提案だった。
陽太の思いが伝わってくれたようで「えっと……実はね」と奏音はぽつりぽつりとあらましを語り始める。
彼女の口から零れ出たのは、サッカー部元主将であり、校内でも随一のモテ男である三年生・久保井によるストーカー紛いの行為だった。
その内容は、どれも絶妙に気持ちが悪いものばかり。
朝登校するときにピッタリ背後をついてきたり、付き合い始めたと噂が流されていたり、舐め回すような視線で観察してきたり、目が合えばウインクをしてきた、などなど。
その他にも細かい愚痴を挟みつつ「――わざわざみんなの前で〝一緒に帰ろう〟とか〝今日はいつもよりもきれいだね〟とか」とまで一言で言い切ると、すうっ、と目一杯に空気を肺に取り込んでから「……ホントにイヤ!」と再会してから一番の声の大きさで叫んだ。
声量から、奏音のうんざりさがひしひしと伝わってきて、迫力にすっかり気圧されてしまった陽太は「お、お疲れ様」と声をかけることが精一杯だった。
「はぁ……ここだけが唯一のオアシスだよ」
眉を八の字にして奏音はソファーに座ると「あれ、物語進んだんだ」と机の上にあった出来立てほやほやの原稿を手に取った。
「あっ」
今回は、サキュバスや触手など男子が好きな下のネタが詰まっているシーンが満載。
できることなら読んでほしくはなかったが、部活動の一環として謳っている以上拒否するわけにもいかず。
ただ頭を抱えていると「あ、このキャラってまゆりがモデル?」と問いかけてきた。
「う、うん。そうだよ」
魔百合は、あと数百文字後にはサキュバスを操り自身は触手攻めをするという際どい行動をすることになる。
覚悟を決めてただその時を待っていた陽太だが「ヨウくん、まゆりと知り合いだったっけ」と奏音が話題を逸らしてくれた。
「今日偶然話したから、ついね」
恐る恐る答えると、奏音は「ふーん……あ、そう言えば、まゆり部活に入ること反対してたなぁ」と言いながら原稿を伏せた。
どうやら、延命できたらしい。
胸を撫で下ろしつつ、今朝の出来事を悟られないように「そ、そうなんだ」と至って平静を装ってみた……が、「何か、まゆりからいじめとか受けてない?」という奏音の一言で背筋が凍ることとなる。
「えっ⁉」
思わず零れた上ずった声。そんなことないよ、と取り繕うとしたが、その前に「やっぱりかぁ……」と奏音は項垂れてしまった。
「え? やっぱり?」
「うん。まゆりってさ、時々私のことになると周りが見えなくなるというか……」
含みのある言葉から、これまでも何度かこうしたことがあったのだろう。
苦虫をかみつぶしたような表情で「ホントはいい娘なんだけどね」と力なく笑い「なにされてるの?」と続ける。
黙っておこう、と思うも、先ほど自分が〝悩みを話して〟と言ってしまった手前、嘘をつくわけにもいかない。
脚色なしに、今朝受けた万引き犯に仕立て上げられたという被害を包み隠さず伝えると、ますます表情を曇らせて「……本当にゴメン」と言い、頭を抱えてしまった。
「友達として恥ずかしい……。ちょっとまゆりと話してみる」
そう言って奏音はスマホを取り出した。責任感のある彼女らしい行動の速さだが「大丈夫、ちょっと待って」と言って陽太は奏音を制した。
「え?」
「ちょっとさ、考えがあるんだ」
「考え?」
「そう。ちょっとした作戦だよ」
「作戦って……なんの?」
奏音の問いかけに、陽太はにやりと笑って「実はさ、この小説書いてる途中で思いついたんだ」と言い、裏返しになった原稿用紙にシャーペンで文字を書き記すと「題して、コレ!」と奏音に見せつけた。
まゆりを奏音が大好きな百合の怪人に見立てた戦闘パート。
濃密なシーンを書き終えたのは、放課後、部活が始まるちょっと前だった。
授業中は日ごろから行っている妄想で展開を考え、休み時間と昼休みに文字として整える。
完璧な流れを掴めたことにある程度の満足感を覚えていると「お疲れ~……」と奏音がやつれた表情で部室に入ってきた。
「……どうしたの?」
「いや、大したことない……よ」
そう語る彼女の表情はとても大したことが無かったようには思えず、「相談してほしいな」と陽太は地雷を踏む覚悟でつついてみた。
「いや、私のことだからさ……ヨウくんには関係ないことだし、迷惑かけられないし……」
「部員の相談役になるのも部長の役目だって。遠慮なく話していいよ」
「うーん……」
「迷惑なんて結構結構! 話すだけでも気が楽になることもあるし、この間の僕みたいに新しい解決方法が出てくるかもしれないでしょ?」
他の人であればここまでしない。
奏音には以前の部活存続の時に助けてもらったから、そのお礼がしたい。
その一心での提案だった。
陽太の思いが伝わってくれたようで「えっと……実はね」と奏音はぽつりぽつりとあらましを語り始める。
彼女の口から零れ出たのは、サッカー部元主将であり、校内でも随一のモテ男である三年生・久保井によるストーカー紛いの行為だった。
その内容は、どれも絶妙に気持ちが悪いものばかり。
朝登校するときにピッタリ背後をついてきたり、付き合い始めたと噂が流されていたり、舐め回すような視線で観察してきたり、目が合えばウインクをしてきた、などなど。
その他にも細かい愚痴を挟みつつ「――わざわざみんなの前で〝一緒に帰ろう〟とか〝今日はいつもよりもきれいだね〟とか」とまで一言で言い切ると、すうっ、と目一杯に空気を肺に取り込んでから「……ホントにイヤ!」と再会してから一番の声の大きさで叫んだ。
声量から、奏音のうんざりさがひしひしと伝わってきて、迫力にすっかり気圧されてしまった陽太は「お、お疲れ様」と声をかけることが精一杯だった。
「はぁ……ここだけが唯一のオアシスだよ」
眉を八の字にして奏音はソファーに座ると「あれ、物語進んだんだ」と机の上にあった出来立てほやほやの原稿を手に取った。
「あっ」
今回は、サキュバスや触手など男子が好きな下のネタが詰まっているシーンが満載。
できることなら読んでほしくはなかったが、部活動の一環として謳っている以上拒否するわけにもいかず。
ただ頭を抱えていると「あ、このキャラってまゆりがモデル?」と問いかけてきた。
「う、うん。そうだよ」
魔百合は、あと数百文字後にはサキュバスを操り自身は触手攻めをするという際どい行動をすることになる。
覚悟を決めてただその時を待っていた陽太だが「ヨウくん、まゆりと知り合いだったっけ」と奏音が話題を逸らしてくれた。
「今日偶然話したから、ついね」
恐る恐る答えると、奏音は「ふーん……あ、そう言えば、まゆり部活に入ること反対してたなぁ」と言いながら原稿を伏せた。
どうやら、延命できたらしい。
胸を撫で下ろしつつ、今朝の出来事を悟られないように「そ、そうなんだ」と至って平静を装ってみた……が、「何か、まゆりからいじめとか受けてない?」という奏音の一言で背筋が凍ることとなる。
「えっ⁉」
思わず零れた上ずった声。そんなことないよ、と取り繕うとしたが、その前に「やっぱりかぁ……」と奏音は項垂れてしまった。
「え? やっぱり?」
「うん。まゆりってさ、時々私のことになると周りが見えなくなるというか……」
含みのある言葉から、これまでも何度かこうしたことがあったのだろう。
苦虫をかみつぶしたような表情で「ホントはいい娘なんだけどね」と力なく笑い「なにされてるの?」と続ける。
黙っておこう、と思うも、先ほど自分が〝悩みを話して〟と言ってしまった手前、嘘をつくわけにもいかない。
脚色なしに、今朝受けた万引き犯に仕立て上げられたという被害を包み隠さず伝えると、ますます表情を曇らせて「……本当にゴメン」と言い、頭を抱えてしまった。
「友達として恥ずかしい……。ちょっとまゆりと話してみる」
そう言って奏音はスマホを取り出した。責任感のある彼女らしい行動の速さだが「大丈夫、ちょっと待って」と言って陽太は奏音を制した。
「え?」
「ちょっとさ、考えがあるんだ」
「考え?」
「そう。ちょっとした作戦だよ」
「作戦って……なんの?」
奏音の問いかけに、陽太はにやりと笑って「実はさ、この小説書いてる途中で思いついたんだ」と言い、裏返しになった原稿用紙にシャーペンで文字を書き記すと「題して、コレ!」と奏音に見せつけた。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
思い出の更新
志賀武之真
青春
小学校の卒業式を控えた亨と華。
二人には決して漏らす事のできない出来ない秘密があった。
あの夏、華を襲った悲劇。あの忌まわしく辛い思い出。
でも華は決意した。秘密の扉を開放し、強く生きてゆくことを。
そして亨も、精一杯の勇気を搾り出し、自分の思いを華にぶつける。・
亨と華の思い出が更新された。
(7話 総文字数約15,000字;短編)
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
BUZZER OF YOUTH
Satoshi
青春
BUZZER OF YOUTH
略してBOY
この物語はバスケットボール、主に高校~大学バスケを扱います。
主人公である北条 涼真は中学で名を馳せたプレイヤー。彼とその仲間とが高校に入学して高校バスケに青春を捧ぐ様を描いていきます。
実は、小説を書くのはこれが初めてで、そして最後になってしまうかもしれませんが
拙いながらも頑張って更新します。
最初は高校バスケを、欲をいえばやがて話の中心にいる彼らが大学、その先まで書けたらいいなと思っております。
長編になると思いますが、最後までお付き合いいただければこれに勝る喜びはありません。
コメントなどもお待ちしておりますが、あくまで自己満足で書いているものなので他の方などが不快になるようなコメントはご遠慮願います。
応援コメント、「こうした方が…」という要望は大歓迎です。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などには、名前のモデルこそ(遊び心程度では)あれど関係はございません。
ヤンデレの妹がマジで俺に懐きすぎてだるい。
クロエ マトエ
青春
俺の名前は 高城アユ これでも男だ。
親父の、高城産業2代目社長高城幸久は65歳で亡くなった。そして俺高城アユがその後を
継ぎ親父の遺産を全て貰う!!
金額で言うなら1500億くらいか。
全部俺の物になるはずだった……。
だけど、親父は金以外のモノも残していった
それは妹だ
最悪な事に見た事無い妹が居た。
更に最悪なのが
妹は極度のヤンデレだ。
そんな、ヤンデレな妹と生活をしなくちゃ
いけない俺の愚痴を聞いてくれ!!
アンタッチャブル・ツインズ ~転生したら双子の妹に魔力もってかれた~
歩楽 (ホラ)
青春
とってもギャグな、お笑いな、青春学園物語、
料理があって、ちょびっとの恋愛と、ちょびっとのバトルで、ちょびっとのユリで、
エロ?もあったりで・・・とりあえず、合宿編23話まで読め!
そして【お気に入り】登録を、【感想】をお願いします!
してくれたら、作者のモチベーションがあがります
おねがいします~~~~~~~~~
___
科学魔法と呼ばれる魔法が存在する【現代世界】
異世界から転生してきた【双子の兄】と、
兄の魔力を奪い取って生まれた【双子の妹】が、
国立関東天童魔法学園の中等部に通う、
ほのぼの青春学園物語です。
___
【時系列】__
覚醒編(10才誕生日)→入学編(12歳中学入学)→合宿編(中等部2年、5月)→異世界編→きぐるい幼女編
___
タイトル正式名・
【アンタッチャブル・ツインズ(その双子、危険につき、触れるな関わるな!)】
元名(なろう投稿時)・
【転生したら双子の妹に魔力もってかれた】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる