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第六章:役割
82:白羽の矢
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「……というわけで、オレが徹夜した結果、意識が途切れてリオに向かって倒れただけです……はい、深い意味や関係性は一切ありません……」
あれからアレンくんを少し休ませ、事務所でミーティング。あの現場の証言は彼にしてもらった。ギルさんがにやにやと笑みを浮かべている。この人、本当に一回厳しく絞った方がいいと思う。
アーサーくんはため息を吐く。ある意味きみも当事者だもんね。
「まあ、なんだ……朝から盛んだな、などと思って、すまなかった……」
「ううん、謝らないで……これはね、誰も悪くないの……」
申し訳なさそうに目を伏せるアーサーくん。本当に、この件は誰も悪くない。むしろ頑張ったアレンくんに功労賞を授けたい。
「それで、イアンさんに歌詞を頼んだみたいだけど……」
「う、うん……オレ、本当にセンスないみたいでさ……なんか、みんなの紹介文みたいになっちゃって……」
それはそれで見てみたいけど、確かにアイドルの楽曲じゃないね。やっぱり難しいのかな。私が筆を執るべき?
「念のため代えは用意しといた方がいいんじゃねーの?」
そこでギルさんが手を挙げた。代えってどういうこと? ゴーストライター?
「稽古つけてもらうのはいいけどさ、楽曲がないと振り付けも決まんねーだろ? だから、アレンが筆を折ったときのための作詞家」
「いてくれると助かる……オレ、やり切れる自信がないから……」
「一理ありますね。そうなると、誰が適任かなぁ……」
白羽の矢を突き立てるのは誰にすべきか。メンバーの顔を見ていく。
エリオットくん。語彙が足りてなさそう。ストレートな言葉を使うという点では、向いてはいる? あまり任せたくはないけど。
ギルさん。どんな言葉を綴るかは未知数だけど、挑発的な歌詞になりそう。私のアイドルにはそぐわない可能性が高い。
イアンさん。今朝見せてもらったけど、なんていうか、口が悪い。ヤンキーがラップしましたみたいな歌詞だった。却下。
ネイトさん。ものすごく固い言葉しか並ばない気がする。却下。
オルフェさん。さすがに過労死させられない。却下。
……となると、実質一人か……。
「アーサーくん」
「は……ま、まさか……」
「きみしかいない、きみならできる!」
「冗談だろう!? なにを根拠に!?」
「いいんじゃね? 貴族だし教養深そうじゃん」
ギルさん、こういうときに背中を押すのは見方によっては性格が悪いですよ。この場面においてはいい仕事してますけど。
オルフェさんも顎に手を当てて息を漏らした。
「アレンのフォローにアーサーが回るのは他のメンバーよりも自然だと思うけれど」
「二人は友達ですもんね!」
「なるほど、友は助け合うものなのですね。これが友情……美しいものです」
「ま、異論はねぇわ」
よしよし、これで逃げ場はなくなった。この包囲網を逃れる術がきみにはあるかい、アーサー・ランドルフくん。
アーサーくんはうろたえながらも抵抗の意志を見せていた。往生際が悪いな。
「ぼ、僕にはできない……」
「ふーん、そっか。オレの尻拭いなんてしたくないよな、貴族だもんな」
駄目押しの一言。アレンくんに言われたら引き下がれないでしょう。男が廃るんじゃないかな。
唇を噛み、なおも抵抗を続けるアーサーくん。なにが彼の足に鉄球を繋いでいるんだろう。アレンくんは投げやりな息を漏らした。
「ま、いいよ。無理なら仕方ないよな。オレが頑張ればいいだけだもんな」
無愛想にそっぽを向くアレンくん。私にはわかった。いま、この子は釣り糸を垂らしたのだ。
口を抉るような鋭い針と、落胆という名の生き餌。他でもないアーサーくん相手だからこそ、抜群の効き目を発揮する。
「ちょっと待て」
ほら見ろ、男の子って単純だ。アレンくんはしてやったりと口の端を上げた。
「誰が頑張らないと言った? そこまで言われて黙っていられるか」
「へぇー、じゃあ頑張るんだ?」
「あくまでお前のフォローを、だ。僕がいないとままならないこともあるだろう」
「はいはい。頼りにしてるよ、アーサー」
この二人の関係、すごくわかりやすい。アレンくんはやっぱりお母さん似だなぁって思うよ。たくましいよね、いろいろ。アーサーくんも嵌められたのがわかっただろう、それでも文句を言う気配はなかった。
アレンくんとアーサーくん、自分たちの関係は自分たちが一番理解しているはずだ。私がいまさらなにを言うこともない。他のメンバーも、それについてわかってきたようだった。
「それじゃあ、歌詞はオレとアーサーに任せて。頑張るから」
「うん、お願いします。オルフェさんとの擦り合わせも忘れずにね」
「とはいえ、二人とも初めての経験だ。伴奏を先に仕上げた方がいいかもしれない。僕も頑張らないとね、真剣に」
そう語るオルフェさんの表情に、自然と震えた。見たことがない、想像できなかった顔だった。彼はいつも穏やかで余裕があって……そういう、ある種の浮世離れした印象があった。
けれど、一瞬。ほんの一瞬だけ、彼の顔に真剣さが見えた。余裕のなさ――というか、必死さみたいなものが確かに映っていた。この人、こんな顔をできるんだ……。
「それじゃあ、一旦解散しましょう。私もミランダさんと打ち合わせをしなければいけないので……」
「そうだね。稽古場までは僕が送っていくよ」
「そ、それならオレも行きたいです!」
「お前はミランダさんに会いたいだけだろう……黙って僕と作詞だ、焚きつけておいて逃げるのは許さないからな」
不貞腐れた様子のアレンくん。この辺りはアーサーくんがブレーキの役目を果たしてくれそうだ。本当に、いいパートナーになりそうだなぁ。
ひとまずミーティングは終わりだ。私も部屋に戻って身支度しないと。ああ、スーツが恋しい……仕事用の服、調達しないと。私服じゃ気持ちが整わないや……。
あれからアレンくんを少し休ませ、事務所でミーティング。あの現場の証言は彼にしてもらった。ギルさんがにやにやと笑みを浮かべている。この人、本当に一回厳しく絞った方がいいと思う。
アーサーくんはため息を吐く。ある意味きみも当事者だもんね。
「まあ、なんだ……朝から盛んだな、などと思って、すまなかった……」
「ううん、謝らないで……これはね、誰も悪くないの……」
申し訳なさそうに目を伏せるアーサーくん。本当に、この件は誰も悪くない。むしろ頑張ったアレンくんに功労賞を授けたい。
「それで、イアンさんに歌詞を頼んだみたいだけど……」
「う、うん……オレ、本当にセンスないみたいでさ……なんか、みんなの紹介文みたいになっちゃって……」
それはそれで見てみたいけど、確かにアイドルの楽曲じゃないね。やっぱり難しいのかな。私が筆を執るべき?
「念のため代えは用意しといた方がいいんじゃねーの?」
そこでギルさんが手を挙げた。代えってどういうこと? ゴーストライター?
「稽古つけてもらうのはいいけどさ、楽曲がないと振り付けも決まんねーだろ? だから、アレンが筆を折ったときのための作詞家」
「いてくれると助かる……オレ、やり切れる自信がないから……」
「一理ありますね。そうなると、誰が適任かなぁ……」
白羽の矢を突き立てるのは誰にすべきか。メンバーの顔を見ていく。
エリオットくん。語彙が足りてなさそう。ストレートな言葉を使うという点では、向いてはいる? あまり任せたくはないけど。
ギルさん。どんな言葉を綴るかは未知数だけど、挑発的な歌詞になりそう。私のアイドルにはそぐわない可能性が高い。
イアンさん。今朝見せてもらったけど、なんていうか、口が悪い。ヤンキーがラップしましたみたいな歌詞だった。却下。
ネイトさん。ものすごく固い言葉しか並ばない気がする。却下。
オルフェさん。さすがに過労死させられない。却下。
……となると、実質一人か……。
「アーサーくん」
「は……ま、まさか……」
「きみしかいない、きみならできる!」
「冗談だろう!? なにを根拠に!?」
「いいんじゃね? 貴族だし教養深そうじゃん」
ギルさん、こういうときに背中を押すのは見方によっては性格が悪いですよ。この場面においてはいい仕事してますけど。
オルフェさんも顎に手を当てて息を漏らした。
「アレンのフォローにアーサーが回るのは他のメンバーよりも自然だと思うけれど」
「二人は友達ですもんね!」
「なるほど、友は助け合うものなのですね。これが友情……美しいものです」
「ま、異論はねぇわ」
よしよし、これで逃げ場はなくなった。この包囲網を逃れる術がきみにはあるかい、アーサー・ランドルフくん。
アーサーくんはうろたえながらも抵抗の意志を見せていた。往生際が悪いな。
「ぼ、僕にはできない……」
「ふーん、そっか。オレの尻拭いなんてしたくないよな、貴族だもんな」
駄目押しの一言。アレンくんに言われたら引き下がれないでしょう。男が廃るんじゃないかな。
唇を噛み、なおも抵抗を続けるアーサーくん。なにが彼の足に鉄球を繋いでいるんだろう。アレンくんは投げやりな息を漏らした。
「ま、いいよ。無理なら仕方ないよな。オレが頑張ればいいだけだもんな」
無愛想にそっぽを向くアレンくん。私にはわかった。いま、この子は釣り糸を垂らしたのだ。
口を抉るような鋭い針と、落胆という名の生き餌。他でもないアーサーくん相手だからこそ、抜群の効き目を発揮する。
「ちょっと待て」
ほら見ろ、男の子って単純だ。アレンくんはしてやったりと口の端を上げた。
「誰が頑張らないと言った? そこまで言われて黙っていられるか」
「へぇー、じゃあ頑張るんだ?」
「あくまでお前のフォローを、だ。僕がいないとままならないこともあるだろう」
「はいはい。頼りにしてるよ、アーサー」
この二人の関係、すごくわかりやすい。アレンくんはやっぱりお母さん似だなぁって思うよ。たくましいよね、いろいろ。アーサーくんも嵌められたのがわかっただろう、それでも文句を言う気配はなかった。
アレンくんとアーサーくん、自分たちの関係は自分たちが一番理解しているはずだ。私がいまさらなにを言うこともない。他のメンバーも、それについてわかってきたようだった。
「それじゃあ、歌詞はオレとアーサーに任せて。頑張るから」
「うん、お願いします。オルフェさんとの擦り合わせも忘れずにね」
「とはいえ、二人とも初めての経験だ。伴奏を先に仕上げた方がいいかもしれない。僕も頑張らないとね、真剣に」
そう語るオルフェさんの表情に、自然と震えた。見たことがない、想像できなかった顔だった。彼はいつも穏やかで余裕があって……そういう、ある種の浮世離れした印象があった。
けれど、一瞬。ほんの一瞬だけ、彼の顔に真剣さが見えた。余裕のなさ――というか、必死さみたいなものが確かに映っていた。この人、こんな顔をできるんだ……。
「それじゃあ、一旦解散しましょう。私もミランダさんと打ち合わせをしなければいけないので……」
「そうだね。稽古場までは僕が送っていくよ」
「そ、それならオレも行きたいです!」
「お前はミランダさんに会いたいだけだろう……黙って僕と作詞だ、焚きつけておいて逃げるのは許さないからな」
不貞腐れた様子のアレンくん。この辺りはアーサーくんがブレーキの役目を果たしてくれそうだ。本当に、いいパートナーになりそうだなぁ。
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