世界の花嫁と世界の王

月蛍縁

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1.夜明けとお茶会

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「姫、起きてください」
「姫様」
小鳥達が私の寝ている部屋の窓をコンコンとノックする
小さく唸りながらも窓を開ける私の名前は月夜ルカだ
寝ぼけている私の目の前に小鳥達が現れる
小鳥達を見つめると、私の目は優しく細まった
「おはよう、愛しい子達」
「姫様もおはようございます!」
窓から入る小鳥達を見て、クスリと笑いながら自分の身支度を始める
小鳥達はのんびりと空を見ていた
私も身支度を僅か数分で整え、空を見上げる
「夜明けが来る………」
月が消えていく空を見つめ、溜息を吐いた
今年で私は高校生になる
学校は行くがつまらなくて仕方ない
高認を取り、今は行っていないがたまに顔を出せと言われていた
まぁ、関係ないが………
すると小鳥のルーナが、私の肩に留まる
「姫様」
「どうしたのだ、ルーナ」
ルーナは私の瞳を見ると目を細めた
「いつもの場所へ行きましょう」
「くく、やはりお腹は空いているものだな」
ルーナは私の声を聞いて尚更目を細める
こうして笑うのも最近は多くなったからだろう
「院長殿」
「おや、おはよう」
朝ご飯を作っているこの月王施設の院長殿に挨拶をする
施設と思った子は居るだろう
私は少々難ありでな、幼い頃に家族と言う存在だった者達に見捨てられたのだ
今でも覚えている
化け物と産まなければと後悔していたあの声が
「ルカ、君はいつものかい?」
「この子達の分も頼みたいのだが」
院長殿は小鳥達を見ると微笑んだ
「勿論、君の頼みなら叶えるよ」
「ありがとう」
この施設の院長殿や子供らは私の事を理解している
世界の花嫁という魔法も生き物からも愛される者だと言う事を
「ルカねぇ!おはよう!」
「おはよう、今日も挨拶ができて偉いぞ」
子供らを微笑みながらその頭をそっと撫でる
この愛しい子らは皆、親に捨てられた子達だ
心底、憎らしい
私は子供らを見つめ、そっと抱き寄せた
「お前達には幸あれ」
「ルカねぇ?」
子供らは不思議そうにしている
私は離れると微笑んだ
「ほれ、朝食を食べたい子供達はどうするべきかな?」
「お顔を洗うー!」
嬉しそうに走っていく子供らを見つめていると、背中に温もりを感じる
「おはよう、レオ」
「………ん」
背中に頭を乗せているのは私と似ている力を持っている糸瀬レオ
世界の王という者だ
まぁ、実質は口数の少ない優しい奴である
「ほれ、ちょうど呼びに来ているぞ」
「………ルカは?」
レオの言葉に私は少し苦笑した
「いつものだ」
「………わかった」
のそのそと院長殿に連れられて行くレオを見つめる
そして私は庭園へと向かった
庭園にある、古く小さな私の入れる様な家に入る
中には多くの精霊と動物達が寝ていた
私の足音と気配に気が付いた皆は私の周りへと来る
「姫様!」
「花嫁様!」
それぞれがそれぞれの呼び方をして来た
私は苦笑しながらも、皆の頭を撫でる
「愛しい子達、よく寝れたか?」
「「はい!!」」
その言葉に私は満足そうに頷いた
木の実や聖水など、それぞれの者達が必要なものを作っていく
私は朝はあまり食欲がなくて紅茶と、少量のお菓子を食べる
「お前達、あまり無理をするなよ」
「それは姫様もです」
「そーそー!」
正論を言われ、思わず黙り込む
外に出ると、子供らの遊ぶ声がする
「風の友達はもう行くのか?」
「えぇ、久々の仕事よ!」
精霊達は例えるなら風の友達という呼び方をした
「僕らも行く、森のの主がまた御礼に来るよ」
「分かった、愛しい子達も気をつけて」
動物達は名を送る者もいればまとめて愛しい子と呼ぶ
静かになった屋敷を見つめ、私は再び子供らの元へと向かった
「おや、あの子達は元気になったのかい?」
「あぁ、元気になった」
子供らを見つめながら院長殿の淹れた紅茶を口に含む
「新しく変えたのか?」
「アプリコットだよ、美味しいと思ってね」
「なるほど、悪くない」
レオは子供らと遊んでいる
レオ自身は疲れてそうだ
私はチラリと小鳥達を見る
小鳥達は日向ぼっこをしたのか寝こけていた
「おやおや、困った子達だな」
私はふわりと手を動かし、小鳥達を小さなクッションの上に横にする
「おやすみ、愛しい子達」
「ふふ、ルカは本当に愛しているのだね」
不意に院長殿がそう言った
私は振り返り、院長殿を見る
「人も愛していますが、苦手な部類もある」
世界のは花嫁と言えど人の子ではあるのだ
苦手な者もいる
「それでも此処に居る者達は愛しているというのかい?」
「当たり前のことを言うな、院長殿よ」
溜息を吐く私に反して、院長殿は嬉しそうだ
その時、子供らの困った声と泣き声が聞こえる
「ルカ!」
珍しくレオが慌てていた
私がその方へ行くと、一人の子が足に怪我をしている
「ほれ、怪我をしていない子は下がれ」
焦っている子らはレオに任せた
私は泣いている子の頭を撫でる
「ほれ、泣くな」
「だって、痛いもん」
泣いている子はむすっとしていた
私は思わず微笑みながら口を開く
「ほぉ?強い子は泣かないとか聞いたが、君は違うのか?」
「強いもん!」
「よしよし、泣かない子は偉いぞ」
私は泣き止んだ子の前にしゃがむ
そして怪我をしている足に手をかざした
淡い緑の光が怪我に纏う
そして、その光が消えると怪我は無くなっていた
「わぁ!ありがとう!」
「くく、お礼が言えるのは良い子だ」
よしよしと頭を撫でると、レオの後ろで隠れていた子供らが先程の子に謝っている
その様子を私とレオは見ていた
「ありがとう、大丈夫?」
「あんな事するくらいで倒れたりしない、大丈夫だ」
レオは微笑むと、私の頭を撫でる
私はその手を優しく触れ、下ろす
「レオ、お前こそ水分を摂っていないだろう」
「だって」
「愚か者、人の心配よりまず自分だろうが」
院長殿の元へレオを連れて行く
全く、同じ歳とは思えないな!
水分を摂り、元気になったレオを見つめ私は一安心したのだった
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