28 / 37
第十一話 夏祭り(四)
しおりを挟む
それからぼくたちは色々な屋台を巡った。
だけどぼくもつゆりさんも、幼い子たちに混じって輪投げや金魚すくいをするような勇気はなかったし、祭り櫓の周りで踊っている人たちの輪に入っていくような活発さも持ち合わせていなかった。
花より団子。わたあめを食べたりラムネを飲んだりして、どちらかといえば食べることに徹していたような気がする。
それでも楽しかったのは夏祭りの空気に当てられたからだろうか。それともつゆりさんと一緒にいたからだろうか。
多分その両方だな、とぼくは独りごちた。
そして、楽しい時間というものははあっという間に過ぎてしまうもので。
祭りの終わりを告げるアナウンスが流れる。音楽は止み、皆散り散りと帰り始めていた。
「……そろそろ帰りましょうか」
「……そうだね」
名残惜しいが仕方がない。
ぼくたちも帰るためにゆっくりと歩き出そうとした。けれど、つゆりさんがふと何かに気づいて歩みを止めた。
「どうしたの?」
「あれって河童さんですよね?」
「うん?」
ほらあそことつゆりさんが指差す方を見遣れば確かにそこには河童がいた。
あっちへふらふらー、こっちへふらふらー。その足取りは千鳥足で見ていて非常に危なっかしい。
「あいつ、酔っ払っているのか?」
「ちょっとあれは心配ですね」
「そうだね。……行く?」
「行きましょう」
河童を回収することを決めたぼくたちは人の波に逆らって歩き出した。
河童に直ぐに追いつけると思ったのだが、人混みをなめていた。特に走り回る小さな子どもたちを避けるのが大変だった。彼らは前を気にすることなく我が道を行くと言わんばかりに突進してくるから。
河童が神社の竹林へと入って行ったのは見たのだが、その中に入るのは憚られた。
昼間でも入ったことのないそこは真っ暗で人気がなくてただただ不気味で。
酔っ払いに言っても無駄と思おうが、「何でこんなところに入って言ったんだよ!」と文句を言いたくて仕方がなかった。
それに、何となく嫌な感じがする。「つゆりさんは戻った方がいいよ」と言ったけれど、彼女は河童が心配だからと首を振った。
――普段はあんなだけど、つゆりって意外と頑固なんだよねぇ。
と、前に管狐が言っていたのを思い出した。ああ、確かにそうかもなと心の中でその言葉に頷いた。
「足もと気をつけて」
「はい」
懐中電灯なんて持っているはずもなく、携帯端末の懐中電灯のアプリで足もとを照らしながらゆっくりと歩いて行く。
落ち葉があまり積もっていない小道を進んでいけば、開け放たれた空間へと辿り着いた。
その空間の中央に大きな石碑が鎮座していた。
何やら文字が刻まれているが、くずし字であるため何と刻まれているのかわからない。
その傍らに見知った姿を見つけて、ぼくとつゆりさんは驚きの声を上げた。
「か、河童!」
「河童さん!」
河童がうつ伏せで倒れていた。
酔っ払って寝ているのか?それとも、また頭の皿の水が乾いてしまったのだろうか?
干からびそうになって地面に伏していたいつぞやの日のことがぼくの頭の中を過ぎる。
急いで駆け寄ろうと一歩足を踏み出す。だが――
「え?」
地面につくはずだったぼくの足は、何故か空を切った。
だけどぼくもつゆりさんも、幼い子たちに混じって輪投げや金魚すくいをするような勇気はなかったし、祭り櫓の周りで踊っている人たちの輪に入っていくような活発さも持ち合わせていなかった。
花より団子。わたあめを食べたりラムネを飲んだりして、どちらかといえば食べることに徹していたような気がする。
それでも楽しかったのは夏祭りの空気に当てられたからだろうか。それともつゆりさんと一緒にいたからだろうか。
多分その両方だな、とぼくは独りごちた。
そして、楽しい時間というものははあっという間に過ぎてしまうもので。
祭りの終わりを告げるアナウンスが流れる。音楽は止み、皆散り散りと帰り始めていた。
「……そろそろ帰りましょうか」
「……そうだね」
名残惜しいが仕方がない。
ぼくたちも帰るためにゆっくりと歩き出そうとした。けれど、つゆりさんがふと何かに気づいて歩みを止めた。
「どうしたの?」
「あれって河童さんですよね?」
「うん?」
ほらあそことつゆりさんが指差す方を見遣れば確かにそこには河童がいた。
あっちへふらふらー、こっちへふらふらー。その足取りは千鳥足で見ていて非常に危なっかしい。
「あいつ、酔っ払っているのか?」
「ちょっとあれは心配ですね」
「そうだね。……行く?」
「行きましょう」
河童を回収することを決めたぼくたちは人の波に逆らって歩き出した。
河童に直ぐに追いつけると思ったのだが、人混みをなめていた。特に走り回る小さな子どもたちを避けるのが大変だった。彼らは前を気にすることなく我が道を行くと言わんばかりに突進してくるから。
河童が神社の竹林へと入って行ったのは見たのだが、その中に入るのは憚られた。
昼間でも入ったことのないそこは真っ暗で人気がなくてただただ不気味で。
酔っ払いに言っても無駄と思おうが、「何でこんなところに入って言ったんだよ!」と文句を言いたくて仕方がなかった。
それに、何となく嫌な感じがする。「つゆりさんは戻った方がいいよ」と言ったけれど、彼女は河童が心配だからと首を振った。
――普段はあんなだけど、つゆりって意外と頑固なんだよねぇ。
と、前に管狐が言っていたのを思い出した。ああ、確かにそうかもなと心の中でその言葉に頷いた。
「足もと気をつけて」
「はい」
懐中電灯なんて持っているはずもなく、携帯端末の懐中電灯のアプリで足もとを照らしながらゆっくりと歩いて行く。
落ち葉があまり積もっていない小道を進んでいけば、開け放たれた空間へと辿り着いた。
その空間の中央に大きな石碑が鎮座していた。
何やら文字が刻まれているが、くずし字であるため何と刻まれているのかわからない。
その傍らに見知った姿を見つけて、ぼくとつゆりさんは驚きの声を上げた。
「か、河童!」
「河童さん!」
河童がうつ伏せで倒れていた。
酔っ払って寝ているのか?それとも、また頭の皿の水が乾いてしまったのだろうか?
干からびそうになって地面に伏していたいつぞやの日のことがぼくの頭の中を過ぎる。
急いで駆け寄ろうと一歩足を踏み出す。だが――
「え?」
地面につくはずだったぼくの足は、何故か空を切った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる