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第四話 少女(二)
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……何だこの状況は!
下を向きながらぼくは心の中で叫んだ。
緊張のせいか、はたまた困惑のせいか、それとも両方のせいかわからないが手汗がヤバい。無茶苦茶ヤバい。
その理由は至って簡単。目の前に、先程出会ったばかりの少女がいるからだ。
机を挟んで若い男女が二人して座り込んでいる。まるでテレビで観たことがあるお見合いの場面ようだ。……いやまあ、違うけども。
首を振って変な思考を振り払う。
正直言って気まずい。非常に気まずい。
どちらも話さない沈黙状態がずっと続いているのだ。
仮ではあるが自分の部屋に女の子を招くなんてこと、この十数年間生きてきた中でしたことなんてなかったし、そもそも女の子と学校以外で話すなんてしたことがない。
学校でも委員会とか事務的なことでしか話したことないし。……あれ、自分で言っていて何だか少し情けなくなってきた。
と、そんなことは今はどうでもいい。
ただでさえ女子と話す機会なんてないというのに……。しかも、今日初めて知り合った子とお喋りしろだなんて、そんなこと――
ぼくにはハードルが高過ぎる!
「あ、あの……」
「は、はい!?」
急に声を掛けられて、ぼくは思わず大きな声を出してしまった。しかも、その声は裏返っていた。
うわー、はっず!
恥ずかしくて再度俯きそうになったぼくに、少女が提案してきた。
「あの、まずはお互いに自己紹介からしませんか?」
「は、はい」
少女に言われて居住まいを正す。しっかりしろ、自分!
「えっと、じゃあまずはぼくから。ぼくの名前はにき。まつなばあちゃんの孫です」
「私は、つゆりと言います。近所に住んでいて、よくお婆様に話を聞いてもらっているんです。さっきはお見苦しい所を見せてしまって……本当にごめんなさい」
彼女は深々と頭を下げた。
彼女曰く、裏庭に野菜を取りに行っているばあちゃんを待っている間に眠りこけてしまったらしい。
「いや、もう大丈夫だから。顔を上げて」
その遣り取りは先程散々やったからか、言われて直ぐに彼女は顔を上げた。
そして、再びの沈黙。
……ああ、もうどうすればいいんだろう。
そもそも、こんな場を作ったばあちゃんもばあちゃんだ。
応接間に通すと思いきや、ぼくの部屋まで彼女を案内させるし。
お茶を持ってきて場を取り繕ってくれるかと思いきや、
「それじゃあ、後は若いもんに任せるとするかねぇ。私は昼ご飯の用意してくるからね。後でご飯持ってきてあげるからね」
とか何とか言って、説明も何もなくこの場を去って行ったのだ。
いやまあ、それに文句も言えないぼくも悪かったんだろうけど。笑顔ながらも有無を言わせないその空気が父さんと似ているんだよなぁ……流石は親子だ。
なんて、現実逃避はここまでにして。
目の前の少女――つゆりさんをちらりと見遣る。はてさて、どうしたものか。
他に何を話していいかわからず困り果てていたちょうどその時、ふと後方から気配を感じた。
ま、まさか――
「にきー、何してるのー?」
「何してるのー?」
予感的中。ひょっこり顔を出したのは、この家に棲まう小鬼たちだった。
おいおい、お前たち何登場してきてんだよ!?
叫びたい衝動に駆られたがぐっと堪えた。
ここで叫んでみろ。突然怒鳴ってつゆりさんをびっくりさせたくはない。
第一、あやかしが視えないつゆりさんに何もいないのに叫んでいる変な人と思われかねない。会ったばかりで変人だと思われるのは嫌だ。
しっしっ、あっち行け!
手振りで小鬼たちを追い払う。だが、悲しきかな。こともなげに奴らはこの部屋へと入ってきた。
いやいやいや、何で入ってくるんだよ!
「お見合いしているのー?」
「お見合いお見合いー」
つゆりさんがいる手前、怒鳴ることもできない。
ぼくが怒鳴らないのをいいことに、小鬼たちはぴょんぴょんと飛び跳ねたり、辺りを駆け回ったりし始めた。
ああもうこいつらは!
顔に手を当てて溜息を吐く。
不意に、くすくすと笑い声が聞こえてきた。
その声はつゆりさんのものだった。
ぼくは顔から手を離して、彼女を見つめる。彼女の視線はぼくではなく明らかに小鬼たちの方に向いていた。
――まさか。
「つゆりさん」
「はい?」
「もしかして、こいつらのこと視えているの?」
「え?」
ぱちくりと彼女は瞬きをした。
……ああ、もしかして違ったかもしれない。意味不明なぼくの行動に対して笑っただけだったのかもしれない。
「いや、何でもないよ……」
弁解しようとしたら、彼女がおずおずと口を開いた。
「……にきくんも、視えるんですか?」
この子たちが、と彼女が指差したその先には小鬼たちがいて――。
「そうだよー」
「そうだよー」
と、彼女の質問に答えたのはぼくじゃなくて小鬼たちだった。
「にきも視える人間なんだよー」
「なんだよー」
「お前たち勝手に人のことカミングアウトしてるんだよ!?」
「だって、にきの反応が遅いからー」
「遅いからー」
「ああもうお前たちあっち行ってろ!」
口を尖らせる二体をぼくはひょいと掴み上げる。そのまま部屋の外へと追い出して、襖を閉めた。
外から何やら文句が聞こえてくるが無視だ無視。
暫くして飽きたのか、ぱたぱたと足音が遠ざかって行った。
ぼくは溜息をついてくるりと身を翻した。
すると、くすくすと笑うつゆりさんが目に入ってきた。
「あー、えっと……騒がしくてごめんね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
謝る者と謝られる者。
先程とは完全に立場が逆だ。
それに気づいて、何だかおかしくなった。
つゆりさんもぼくと同じことを思ったらしい。
ぼくたちは二人して笑い合った。
下を向きながらぼくは心の中で叫んだ。
緊張のせいか、はたまた困惑のせいか、それとも両方のせいかわからないが手汗がヤバい。無茶苦茶ヤバい。
その理由は至って簡単。目の前に、先程出会ったばかりの少女がいるからだ。
机を挟んで若い男女が二人して座り込んでいる。まるでテレビで観たことがあるお見合いの場面ようだ。……いやまあ、違うけども。
首を振って変な思考を振り払う。
正直言って気まずい。非常に気まずい。
どちらも話さない沈黙状態がずっと続いているのだ。
仮ではあるが自分の部屋に女の子を招くなんてこと、この十数年間生きてきた中でしたことなんてなかったし、そもそも女の子と学校以外で話すなんてしたことがない。
学校でも委員会とか事務的なことでしか話したことないし。……あれ、自分で言っていて何だか少し情けなくなってきた。
と、そんなことは今はどうでもいい。
ただでさえ女子と話す機会なんてないというのに……。しかも、今日初めて知り合った子とお喋りしろだなんて、そんなこと――
ぼくにはハードルが高過ぎる!
「あ、あの……」
「は、はい!?」
急に声を掛けられて、ぼくは思わず大きな声を出してしまった。しかも、その声は裏返っていた。
うわー、はっず!
恥ずかしくて再度俯きそうになったぼくに、少女が提案してきた。
「あの、まずはお互いに自己紹介からしませんか?」
「は、はい」
少女に言われて居住まいを正す。しっかりしろ、自分!
「えっと、じゃあまずはぼくから。ぼくの名前はにき。まつなばあちゃんの孫です」
「私は、つゆりと言います。近所に住んでいて、よくお婆様に話を聞いてもらっているんです。さっきはお見苦しい所を見せてしまって……本当にごめんなさい」
彼女は深々と頭を下げた。
彼女曰く、裏庭に野菜を取りに行っているばあちゃんを待っている間に眠りこけてしまったらしい。
「いや、もう大丈夫だから。顔を上げて」
その遣り取りは先程散々やったからか、言われて直ぐに彼女は顔を上げた。
そして、再びの沈黙。
……ああ、もうどうすればいいんだろう。
そもそも、こんな場を作ったばあちゃんもばあちゃんだ。
応接間に通すと思いきや、ぼくの部屋まで彼女を案内させるし。
お茶を持ってきて場を取り繕ってくれるかと思いきや、
「それじゃあ、後は若いもんに任せるとするかねぇ。私は昼ご飯の用意してくるからね。後でご飯持ってきてあげるからね」
とか何とか言って、説明も何もなくこの場を去って行ったのだ。
いやまあ、それに文句も言えないぼくも悪かったんだろうけど。笑顔ながらも有無を言わせないその空気が父さんと似ているんだよなぁ……流石は親子だ。
なんて、現実逃避はここまでにして。
目の前の少女――つゆりさんをちらりと見遣る。はてさて、どうしたものか。
他に何を話していいかわからず困り果てていたちょうどその時、ふと後方から気配を感じた。
ま、まさか――
「にきー、何してるのー?」
「何してるのー?」
予感的中。ひょっこり顔を出したのは、この家に棲まう小鬼たちだった。
おいおい、お前たち何登場してきてんだよ!?
叫びたい衝動に駆られたがぐっと堪えた。
ここで叫んでみろ。突然怒鳴ってつゆりさんをびっくりさせたくはない。
第一、あやかしが視えないつゆりさんに何もいないのに叫んでいる変な人と思われかねない。会ったばかりで変人だと思われるのは嫌だ。
しっしっ、あっち行け!
手振りで小鬼たちを追い払う。だが、悲しきかな。こともなげに奴らはこの部屋へと入ってきた。
いやいやいや、何で入ってくるんだよ!
「お見合いしているのー?」
「お見合いお見合いー」
つゆりさんがいる手前、怒鳴ることもできない。
ぼくが怒鳴らないのをいいことに、小鬼たちはぴょんぴょんと飛び跳ねたり、辺りを駆け回ったりし始めた。
ああもうこいつらは!
顔に手を当てて溜息を吐く。
不意に、くすくすと笑い声が聞こえてきた。
その声はつゆりさんのものだった。
ぼくは顔から手を離して、彼女を見つめる。彼女の視線はぼくではなく明らかに小鬼たちの方に向いていた。
――まさか。
「つゆりさん」
「はい?」
「もしかして、こいつらのこと視えているの?」
「え?」
ぱちくりと彼女は瞬きをした。
……ああ、もしかして違ったかもしれない。意味不明なぼくの行動に対して笑っただけだったのかもしれない。
「いや、何でもないよ……」
弁解しようとしたら、彼女がおずおずと口を開いた。
「……にきくんも、視えるんですか?」
この子たちが、と彼女が指差したその先には小鬼たちがいて――。
「そうだよー」
「そうだよー」
と、彼女の質問に答えたのはぼくじゃなくて小鬼たちだった。
「にきも視える人間なんだよー」
「なんだよー」
「お前たち勝手に人のことカミングアウトしてるんだよ!?」
「だって、にきの反応が遅いからー」
「遅いからー」
「ああもうお前たちあっち行ってろ!」
口を尖らせる二体をぼくはひょいと掴み上げる。そのまま部屋の外へと追い出して、襖を閉めた。
外から何やら文句が聞こえてくるが無視だ無視。
暫くして飽きたのか、ぱたぱたと足音が遠ざかって行った。
ぼくは溜息をついてくるりと身を翻した。
すると、くすくすと笑うつゆりさんが目に入ってきた。
「あー、えっと……騒がしくてごめんね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
謝る者と謝られる者。
先程とは完全に立場が逆だ。
それに気づいて、何だかおかしくなった。
つゆりさんもぼくと同じことを思ったらしい。
ぼくたちは二人して笑い合った。
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