縁を結んで切り裂いて

札神 八鬼

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本編

第三十三話 ストーカーはどっち(ごはん編)

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私が志摩さんの家に着くと、
志摩さん以外に複数の人が食卓を囲んでいた。
実乃里ちゃんと碧生くんは分かるんだけど、
後二人は誰なんだろう?

「あの……そこの二人は?」

「ああ、レキは九十九ちゃんに会うの初めてだっけ
九十九ちゃんは私と碧生くんの同級生だよ」

九十九 奏つくも かなでと申しますわ
宜しくお願いしますね、暦先輩」

「うん、よろしくね九十九ちゃん」

「それとね、九十九ちゃんはムカ……」

「わー!!!」

突然九十九ちゃんは狼狽えて実乃里ちゃんの口を塞ぐ。
一体どうしたのだろうか?

「な、何でもありませんわ!」

「でもムカなんとかって……」

「き、聞き間違いですわよきっと!
私どこからどう見ても普通の人間ですし!」

「九十九さん、暦先輩なら多分大丈夫だよ」

「で、でも……」

九十九ちゃんは躊躇いがちに視線を逸らす。
明らかに何かを隠していそうだが、その何かは分からない。
ムカ何とかは関係ありそうだなとは思ってるけど。

「暦先輩は九十九さんが何者でも怖がらないし、
それに、拒絶する人ではないよ、きっとね」

碧生くんは優しい笑顔で更に続ける。

「もっと恐ろしいモノを沢山見てきた人だからね
きっと本当の九十九さんも受け入れてくれるよ」

「……………」

それでもなかなか言い出せない九十九ちゃんの肩を、
志摩さんがポンと手を置く。

「奏の嬢ちゃん、ここは暦を信じてやってはくれねえか」

「志摩様……」

九十九ちゃんの不安げな目が志摩さんに向く。
そんな九十九ちゃんに対し、志摩さんは優しい声で続ける。

「俺も暦の嬢ちゃんの全てを知ってるわけじゃねえ
だが、優しい奴かそうでないかは何となく分かるもんだ」

「俺から見りゃ、暦の嬢ちゃんは大丈夫だ
きっと、奏の嬢ちゃんが何者であっても受け入れてくれる」

「……………」

「奏の嬢ちゃんは、人間を信じたいんだろ?
人間を愛したいんだろ?
それなら、一度でも良い、
嬢ちゃんを信じてやってはくれねえか?」

「……………分かりましたわ」

九十九ちゃんは小さく頷くと、私に向き直る。

「私、見た目は人間の少女ですが、
実は大百足なんですの」

「へぇー、ムカデさんだったんだ
だからムカ何とかって言ってたんだね」

「…………嫌いに、なりました?」

「ううん、なってないよ?
そもそも九十九ちゃんの事全然知らないし、
ムカデなんだーって、思ったくらいかな
もし機会があれば、仲良くなれなら嬉しいな」

その言葉を聞いて、九十九ちゃんは明らかにほっとしたような顔をした。

「なっ、大丈夫だったろ?」

そんな志摩さんの言葉を皮切りに、九十九ちゃんの目から、
涙がポロポロと溢れ出す。
志摩さんはそんな九十九ちゃんに黙ってタオルを差し出し、
頭をガシガシと撫でていた。

「あのー、そろそろ俺も自己紹介して良いかな?」

九十九ちゃんが泣いてる中、横から知らない男の人が声をかける。
そういえばこの人の事を完全に忘れていた。

「あ、忘れてた」

「酷い!さっきまでここにいたのに!」

傷ついた顔をしながら、茶髪の男は自己紹介を始める。

「俺、佐々木 透ささき とおるって言うんだ
虚の同級生で、志摩様の信者だ!!!」

どや顔で胸を張る佐々木さんを見て、
あ、あの金色キメラくんと似たヤバいタイプだと気付いた。
というか、虚さんが言ってた奇行が激しい親友この人かぁ……

◇◇◇

九十九ちゃんが泣き止んで、二人とも自己紹介が終わった所で、
私達は志摩さんの料理を食べ始めた。
志摩さんのごはんは、望ちゃんの味付けと良く似ていて、
やっぱり親子なんだなぁって、しみじみ思った。

「そういや、縁守の坊主はどうして来なかったんだ?」

「ああ、私を気遣ってくれたんです
俺がいないからこそ出来る話もあるだろうって」

「そっか、大事にされてるんだな、嬢ちゃんは……」

「そういえばあの葬式の日に、志摩さんが来ていれば、
志摩さんが私のお父さんになってたかもしれないんですよね?」

「ああそうだ、あの日は残念ながら体調を崩しちまったがな
全く、面目ねえや」

「志摩さんがパパ……
ふふっ、そう考えたらそれも楽しそうかも」

「おっ、なら今から俺の娘になるかい?」

「真斗くんと同棲出来なくなるから、遠慮しておきます」

「ありゃ、振られちまったか
こっちは縁守の坊主の二人でも構わねえぜ?」

「そうすると虚さんが泣いちゃうのでだめです」

「ははっ!息子取られて虚の坊主が泣いちまうたぁ、
そりゃ面白いもんが見られそうだなぁ!」

「それなら俺が志摩様の息子に立候補を……」

「いいえ、そんなの私が許しませんわ!
志摩様、恋人候補として私なんかどう……」

「あー!!!お前、抜け駆けは無しだからな!」

「先に抜け駆けしようとしたのはそっちでしょう!?」

「はははっ、お前さんら、仲良さそうで何よりだよ!」

「「仲良くないです!!!」」

豪快に笑う志摩さんを見ながら、私もつられて笑う。
ああ、こんな賑やかな食卓が理想だったなって、
懐かしくて眩しくて、愛しい光景を見ながら思う。
私の本当の家族は、その理想からかけ離れたものだから。
怒号や悪口が飛び交う、居心地の悪い食卓だったから。
だから、こんな食卓にまた戻れたことが、ただ嬉しかったんだ。

「レキ、志摩のおじちゃんのごはん美味しいね!」

隣で実乃里ちゃんが頬にごはん粒を付けながら笑う。
その屈託のない笑顔に顔が綻び、
私は笑いながら『ごはん粒付いてるよ』と教える。
そしたら実乃里ちゃんは『え!?どこ!?』と、
必死に取ろうとするけど、全く取れてなくて、
それが可笑しくて、可愛くて、愛おしい。

「ここだよ、実乃里」

「あ、ほんとだ、碧生くんありがとう」

碧生くんも優しい笑顔で実乃里ちゃんに笑いかける。
相変わらず九十九ちゃんと佐々木くんは喧嘩してるけど、
どこか楽しそうで……

「なあ、嬢ちゃん」

「どうしましたか?志摩さん」

「望は……俺の娘は……
嬢ちゃんにとってはどんな人だった?」

「そうですね……望ちゃんは……」

◇◇◇

望ちゃんは優しい人だけど、
男の人には恵まれなくて、
いつもくだらない理由でフラれてた。

「ねえ、望ちゃん」

「どうしたの?暦ちゃん」

「この前付き合ってた人どうしたの?」

「別れちゃった」

「別れちゃったの?今度はどうして?」

「お前の作る飯はガサツだから嫌なんだって
私、お父さんの作るご飯好きだったから……
ちょっと自信なくなってきちゃった」

「どうして?望ちゃんのごはん美味しいよ?」

「ふふっ、そう言ってくれてありがとう、暦
そうよね、あんな男の言うこと気にしたらダメよね」

「その人、何で望ちゃんのごはんがいやで別れたんだろ?
いやなら食べなきゃ良いのにね」

「良い?暦
ああいうタイプの男はね
尽くして貰えるのが当たり前だと思ってるの
そういう男は大抵、本当は大した事ないから、
暦も気を付けなさいね」

「はーい」

例えガサツでも、ちょっぴり下手っぴでも、
私にとっては誰にも負けない美味しいごはんだったんだ。
だから私は、望ちゃんのごはんが一番好きだったの。

◇◇◇

「…………そうか」

志摩さんが寂しそうに呟く。
懐かしそうに、悲しそうに。
望ちゃんの事を思い出しているのだろう。

「あの、良かったらまた来ても良いですか?」

「構わねえが……どうしてだい?」

「志摩さんの料理を食べたら、望ちゃんの味に会える気がして……
忘れないように、したいんです」

「……………ああ、そう、そうだな
忘れたくなんてねえよな」

「嬢ちゃん、またいつでも来てくれや
とびきりの美味い飯、御馳走するからよ」

そうして志摩さんは豪快に笑いながら、
私の頭をガシガシと撫でた。

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