縁を結んで切り裂いて

札神 八鬼

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本編

第二十九話 甘やかし大作戦!(昼休み編)

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俺は一度だけ、両親と喧嘩したことがある。
それは、両親の口から俺を立川家に預けると聞いた時だった。

「真斗、落ち着いて聞いて欲しいんだ」

「何?お父さん」

「お前をしばらくの間、立川家に預けることにした」

僕の意見を聞くこと無く進められた話……
信じられなくてお母さんを見ると、
お母さんはただ寂しそうに頷くだけで、
何も言ってはくれなかった。
自然と声が……震える。

「どうして?僕のこと……嫌いになったの?」

「そうじゃない、これは必要なことなんだよ
お前はマガイモノとの縁を結びやすいからね
対抗手段が必要なんだ」

「これは立川さんと話し合って決めたことなの
どうか分かってちょうだい真斗
これは、あなたの為なのよ」

両親はこうは言ってるけど、
本当は僕を厄介払いしたいだけなのかもしれない。
無意識にマガイモノを誘き寄せる俺を、
表面上は気にしてないような素振りをしていたが、
もしかしたら、裏では疎ましく思っていたのだろう。

「お父さんとお母さんの嘘つき!!!」

僕の意思関係なく立川家に預けられることではない。
ただ、素直にお前が邪魔だと言ってくれなかった事が、
僕にとってはショックだったのだ。

「違う、違うんだ真斗、聞いておくれ
俺達はお前のためを思って……」

「嫌いになったならそう言えばいいじゃん!
どうしてそんな嘘つくの!?」

「私達はあなたが心配なのよ、どうか分かって」

手を差しのべる両親の手を、無理やり振り払う。

「お父さんもお母さんも大っ嫌い!!!」

そうして僕は逃げるように家から出た。
両親の制止も無視して、一人になれる場所を目指して走っていく。

◇◇◇

「はぁ……はぁ……はぁ……」

必死で走って、気付けば秋月神社に辿り着いていた。
僕は肩で息をしながら、鳥居の近くで腰掛ける。
今は誰もいないようで、人の声は何も聞こえなかった。

「カミサマ……」

靴も履かずに家出したからか、足は擦り傷だらけになってて、
歩いてるだけで少しだけ痛かった。
それでも何とか賽銭箱の前までたどり着く。

「僕は、いらない子なんですか?」

当然ながら返事は返ってこなかった。
カミサマは見てるだけで、助けてはくれない。
自分の無力さが心の中を支配した。

「痛い……痛いよ……」

遂に心も体もすり減って、その場でしゃがみこむ。
ここで泣いても、誰も手は差しのべてくれない。
ただ虚しくなって、余計に涙がはらはらと流れる。

「………かえろ」

こんなことしてても仕方無い。
ここで泣いても両親に酷いことを言ったのは事実なのだ。
早く帰って嫌いと言ったことを謝ろう。
そうすれば、また仲の良い家族に戻れるかもしれない。
擦り傷だらけの足でその場を後にした。

◇◇◇

僕の家の前で、何故か人だかりが出来ている。
いつもはここまでの人はいないはずなのに、
珍しいこともあるものだ。
けれど、同時に嫌な予感もした。
僕は人混みをかき分け、人混みの中心に入る。

「ねえ、何して……」

信じられない光景に目を見開く。
人混みの中心にいたのは、その無惨な死体は……
僕の、両親だった。

「お父さん!お母さん!」

無我夢中で両親に駆け寄る。
この全身傷だらけの男女は、見間違いでも何でもなく、
僕のかつての両親の死体だった。

「どうして、こんなことしたの?」

何故か右頬が腫れている村長に問いかける。
隣の志摩さんは村長を睨み続けていた。

「どうしても何も、あなたが縁守に選ばれたからですよ」

「え……」

「おめでとうございます、あなたは選ばれたのです」

「やはりこんな子供に背負わせるのは間違ってる!
この子はまだ幼いんだぞ!?
その因習はそろそろ廃れさせた方がいい!」

「何を仰る、逃げ道を残しておけば、
縁守の役目を放棄するやもしれません
そうすれば、縁守の役目に集中できるでしょうからね」

「選択肢を潰しているの間違いだろ!
まだ親元の庇護が必要な年頃だぞ!?
縁守になることを強要する事の何が儀式なんだ!?」

志摩さんは、僕の代わりに必死に怒ってくれた。
けれど今の僕には、別の事が頭の中をぐるぐると回っている。

最後に、両親に嫌いと言ってしまった。

それどころか、謝ることも出来ずに、
そのまま死なせてしまった。
それが僕の……いや、俺の心残り。
だから俺は誰かに嫌いなんて言わないし、言うつもりもない。
一度でも言ってその後に死んでしまったら……
きっと後悔するだろうから。

◇◇◇

現在はお昼休み、今日のお弁当は真斗くんが作ったらしい。
屋上への階段を、ルンルン気分で上っていく。

「今日はご機嫌だね、暦
そんなに俺が作ったお弁当楽しみ?」

「うん!本当は家宝にしたいんだけど……
ちゃんと味わって食べるね!」

「味わいすぎて昼休み終わらないようにね」

「善処はする……」

「ねえちょっと、どうしてそこで目を逸らすの?」

屋上についてお弁当を開けると、
お弁当には私の好きなものが沢山入っていた。
それに真斗くんが作ったものだからか、
心なしか普通の卵焼きも、何だかツヤツヤして見える。

「わあ、全部輝いてる……
これが真斗くんが作ったお弁当?
真斗くんが作ると光るんだね」

「うん、多分それは幻覚かなぁ
実際は俺が作っても光らないからね」

「でも実際光ってるし」

「眼球に加工フィルターでも搭載してる?」

「私の目にそんな機能ないよ?」

「じゃあ幻覚だね」

「いただきまーす!」

「いただきます」

早速卵焼きを箸で掴んで口に運ぶと、
程よい甘さが口に広がった。

「甘くて美味しい!!!」

「良かった、暦は甘い卵焼きが好きって聞いてたから、
砂糖を多めに入れてあるんだ」

「真斗くんが作ったと思うと、
いつもより美味しく感じるね!」

「ああ、俺が作ったという相乗効果もあるんだ
まあ喜んでくれるならそれで良いよ」

「少し焦げてるかもって言ってたのに、
全然焦げてないじゃん!」

「あはは、暦に焦げたものを食べさせるわけにはいかないからね
俺も頑張ったんだよ」

ふと気になって真斗くんのお弁当を覗き込むと、
真斗のお弁当が異様に黒いのが気になった。

「あれ?何か真斗のお弁当黒いね?」

よく見ると、真斗くんのお弁当は、
私と同じものが入っているのにも関わらず、
ほとんどは焦げているものばかりだった。

「あれ、もしかしてこれ……」

「バレちゃったか……」

真斗くんは恥ずかしそうに頭をかく。
バレたとは何のことなのだろうか。

「これはね、失敗した奴なんだよ
暦に食べさせるわけにもいかないから、
俺の弁当箱に入れることにしたんだ」

「え、そうだったの?」

「あれ、バレたわけじゃなかったの?」

「うん、さっぱり分からなかった」

「はあぁぁ~ーーー………」

真斗くんは大きなため息を溢したかと思うと、
腕で顔を隠す。心なしか顔だけじゃなく耳も真っ赤だ。

「今カッコ悪いから、あんま見ないで……」

「見る」

「え、ちょ」

「ガン見する」

赤面する真斗くんもカッコいいのだから仕方無い。
恨むなら自分の顔面偏差値の高さを恨んで欲しい。

「ちょ、カッコ悪いからって言ったでしょ?
俺の話聞いてた?」

「聞いてたけど聞いてなかった」

「どっち!?」

真斗くんは私がガン見するのを諦めたのか、
隠していた腕を降ろし、赤面したイケメンが露になる。
気を抜けば鼻血が出そう。

「はい、おしまい!これ以上は見ちゃダメ!」

赤面した真斗くんにデコピンされた後、
私は盛大に鼻血を出し、意識を手放した……
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