縁を結んで切り裂いて

札神 八鬼

文字の大きさ
上 下
43 / 51
幕間

幕間 三つ巴のカミの唄

しおりを挟む
我らが縁の三神様
役目を終え、天に登りし三柱
許されよ 我らが罪を許されよ
神の力にあやかる為、
愚かな一人の狩人が、一匹の狼を仕留めた
許されよ 許されよ 許されよ
それは、マガツサマの偉大なる子孫である
それは、替えの聞かぬ生命である
許されよ 許されよ 怒りよ鎮まりたまえ
マガツサマの怒りを鎮める為、
我らは三つの人柱を差し出した
許されよ 許されよ 許されよ
名を奪い、肉体を奪い、家族を奪う
許されよ 許されよ 許されよ
ああ、我らが三つ巴の神々よ
紛い物の神々にこいねが
我らにどうか、縁の加護を与えたまえ

◇◇◇
三つ巴のカミサマの話。
この村の先祖が犯した罪のうた
関係がないとは言わない。
今では俺もその罪深い一族の一人なのだから。

許されよ、我らの罪を許されよ。

これは決して許されてはならない、罪の唄なのだ。

◇◇◇

とある日に、3歳くらいの幼子が、
唄を歌いながら遊んでいるのが見えた。
あの忌々しい罪の唄を、辿々しく口に出していた。
俺はその少女が話しやすいようにしゃがんで、話しかける。

「その唄は、誰に教えて貰ったのかな?」

「ママが歌ってたの」

少女は答えた後にはっとなって口を手で塞ぐ。

「ママが、知らない人と話しちゃダメって……」

「ああ、自己紹介がまだだったね
俺は志摩 景勝しま かげかつ
元は縁壊だったんだ」

「えんこわしって何?」

「迷子になった魂を導いてあげる人のことだよ」

「どうやって導くの?」

「うーん、難しいな……
目には見えないけれど、縁というものがあってね
それがあるとあの世には行けないから、
それを切って、あの世に行かせてあげるんだ」

「あの世ってどんなところ?」

「いつか人が行くところかな」

「…………なら」

少女はうつむいて下を向き、小さな手のひらをぎゅっと握る。

「お兄ちゃんも、いるのかな……」

「お兄ちゃんがいるのかい?」

「お兄ちゃん、帰ってこないの」

「また明日遊ぼうって、言ってくれたのに……」

「…………そっか」

「帰ってきてくれると良いね、お兄ちゃん」

「…………うん」

寂しそうに頷いた後、少女は再び唄を口ずさむ。
所々抜けてる所があるが、きっと難しい部分は覚えきれなかったのだろう。

「ゆりゅされよ、ゆりゅされよ、
われらがついをゆりゃさえよ
かみのいからにあやかうため、
おおかなひとりのかりうおが、いっぴきのわんわんをたおした
ゆりゅーゆりゅーゆりゅー
そいは、まがつしゃまのししょんでありゅ
それは………えーと、うーんと、なんだっけ?」

少女はボールを弾ませながら、頭を悩ませる。
ここから先が思い出せないようだ。

「おじしゃん、この先の唄知ってる?」

「知ってるけど、これは罪の唄だからな……
あんまり教えたくはないんだ」

「ついの唄?」

「これはね、悪いことをした人の唄なんだよ」

「そうなの?」

「そう、だから君はその先は知らなくて良いんだよ」

「悪いことしたら、ごめんなさいしなきゃダメなんだよ?」

「ああ、そうだな
許して貰えるかは分からないが……」

「おじしゃんならきっと大丈夫だよ」

小さな少女がにぱっと笑いかける。
その笑顔は穢れを知らぬ純粋無垢なもので、
俺にはとても眩しいものに見えた。
しばらくして、少女が大太刀に貼られたシールに気がつき、
キラキラと目を輝かせた。

「おじしゃん、シール好きなの?」

「ああ、これは……娘が貼ったものだよ」

「私と同じくらい?」

「いや、大人のお姉さんだよ」

「お姉さんもシール好きなの?」

「君くらいの年齢の時は好きだったかな」

「そのお姉さんはどこにいるの?」

「お姉さんは……遠くに行ってしまったんだ」

「そうなんだ!早く帰ってくると良いね!」

「そう……だな……帰ってきてくれたら嬉しいよ」

小さな少女と話す内に、名前を聞いてみた。
この少女は古橋 希ふるはし ねがいという名前らしく、
いつも遊んでる子が遊べなくなったから、
ここまで遊びに来たらしい。

「ここに来ればワンワンが遊んでくれるから寂しくないの」

「ワンワン?」

「うん!もうすぐ来ると思うんだけど……あ!」

少女の視線の先には、
結崎 碧生がこちらに向かって歩いていた。
しかし目が赤いので、今回はマガツサマの方なのだろう。

「待たせたな、人の子」

「ワンワン!」

「ワンワンじゃない狼だ!」

「ワンワンはワンワンだよ?」

「全く、これだから3歳の幼子は……」

マガツサマが幼児に振り回される様を遠くで見ながら、
その場を静かに離れる。
望のことはまだ、忘れられそうにない。

「ごめんな、望
俺はお前の望むように、忘れられなかったよ」

許されよ 許されよ 我らが罪を許されよ。
娘の約束一つも守れない、愚かな父を許されよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

処理中です...