白紙の便り

札神 八鬼

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第二章 魔女集会

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先生の部屋に向かうと、
先生が誰かと言い争っている声が聞こえる。
僕は心配になって扉を開けた。

ドーデン「先生、どうし…」

紙人形「残るったら残るもん!」

その瞬間、僕の言葉を遮る程の大声で、紙人形が叫んだ。

先生「だからさっきから帰れと言ってるだろうが!
お前に残られてもこっちは困るんだよ!」

そして先生も紙人形に負けないくらいの怒鳴り声で
紙人形を部屋から追い出そうとしている。
なかなか紙人形が出ていかないので、
表情には怒りの感情が出ていた。
この時点で相当イライラしているのは間違いないだろう。

紙人形「帰らない!ずっとここにいる!」

紙人形はあくまで帰るつもりはないようだ。
まるで自分の家かのように先生の部屋でくつろぎ、
先生のベッドでゴロゴロしていた。
それを先生が許すはずはなく、
紙人形を自分のベッドから離そうとしていた。

先生「居座るな!私に手伝いなんかいらない。
人間は大人しくあるべき場所に帰れ!」

紙人形を無理矢理追い出そうとする先生と、
ベッドの布団を掴んで必死に抵抗する紙人形。
・・・僕は一体何を見せられてるんだろう…

紙人形「嫌だ!私ここにいるもん!
先生の意地悪!」

先生「このクソガキ…
私がいつお前の先生になった」

ドーデン「先生、一体どうしたんですか?」

先生「ああ、ドーデンか。
今少し困ったことになっていてね」

ドーデン「困ったことって、今の状況のことですか?」

先生「ああ、そうだ。
この人間は完治した途端、
私の手伝いをすると言って聞かなくてね」

ドーデン「良いことじゃないですか」

先生「全然良くない」

ドーデン「何故?」

先生「私はね、人間が嫌いなんだよ。
なるべく人間とは関わりたくない」

ドーデン「いつから、人が嫌いになったんですか?」

先生「人間とは、一度も上手くいった試しがないんだ。
偏見と残酷さを持つ生き物。そして…」

私の同胞を当たり前のように殺すんだ。

ドーデン「そして?」

先生「・・・いや、やっぱりやめよう。
この話は私が半永久的に封印するよ」

その言葉を聞いたドーデンは、
不思議そうな顔で私を見つめていた。

先生「いずれ分かるさ。今は言わなくても良い」

ドーデン「・・・そうですか…
先生が話したくないなら良いですけど」

先生「・・・ああ、今はまだ話せないんだ。
どうせ話すならしかるべき時に話したい」

私の正体を明かすには、君はまだ何も知らなすぎる。
もし自分の正体を知ったら、君はどう思うのだろうね。

◇◇◇

あれから数日が経ったが、
あの紙人形は変わらず先生の部屋に居座り続けた。
先生いわく、何度追い出しても
気づけばまた戻ってくるそうだ。

先生「おい、勝手に触るな!
私の私物の中には人間が触ると
命に関わる物が沢山あるんだぞ!」

紙人形「ねえ先生、それ何作ってるの?」

先生「もうすぐ戦争が始まる。
私が今作っているのは、
その戦争に使われる兵器だ」

紙人形「先生は、そんなもの作って楽しいの?」

先生「楽しくなんてないさ。
人間に良いように使われてるようで気分が悪いよ」

紙人形「じゃあ何で作ってるの?」

先生「それは…」

すると先生は僕を見て、悲しそうに笑う。

先生「人の命を奪いたくない心優しいあの子を、
人殺しの兵器にしたくないからさ」

ドーデン「先生?」

何故、僕を見て言うんです?
まるで、僕がその兵器だと言っているような…

ドーデン「僕は、人間なんですよね?」

先生は、ただ笑うだけで答えてはくれなかった。

◇◇◇

人というのは実に身勝手だ。
必要以上に群れを作り、
周りと違う者は大勢で攻撃することで追い出そうとする。
人は己と違う者を嫌うのだ。
故に悪口・悪意・暴力が生まれる。
人は誰しも鋭利なナイフを持っている。
そのナイフは振り上げただけでその者を傷つけ、
場合によっては殺す。
僕にはそれが理解できない。
ナイフは皆持っているが、全員が使うわけではない。
一見大人しそうに見えても、
中身はとても危険な者だっている。
彼(もしくは彼女)は、いくら攻撃しても
キリがないからナイフを使わないだけなのだから。
だって、一度ナイフを使ってしまったら、
全員殺らなきゃいけないだろう?

「その時改めて思ったんだ。
やっぱり人間は愚かで醜いんだって」

先生「・・・で?
まさか私にその話をする為だけに
魔女集会に呼ばれたんじゃないだろうな?」

「ああ失礼、君にはもう分かりきってることかな?
悪かったねヴェル」

ヴェル「くだらん話は飽きた。
もっと面白い話はないのかヒェスタルテ」

タルテ「えー、これ僕のとっておきだったのに…
この話ですらつまらないなんて、
ヴェルって変わってるよね」

ヴェル「お前の話が長いだけだよクソタルト」

タルテ「タルトじゃなくてタルテだもん!
ていうかそのいじりやめてよ!
何かあだ名的に甘ったるいじゃん!」

今私の目の前にいるのは、
この魔女集会に参加している時点で大体察しただろうが、
勿論私も彼も魔女の一人だ。
彼の名はヒェスタルテ。
魔女の中では珍しく市街地に住む魔女だ。
その影響なのか、やたらと長くてどうでもいい話をしてくる。
明るく陽気でお喋り好きな為、
他の魔女達は彼のテンションについていけず、
今の所私だけが唯一の話し相手のようだ。
呼び方は何でも良いと言っていたので、
私はタルトと呼んでいる。
当の本人はあまり気に入ってないようだが…

ヴェル「お前が無駄に菓子のような名前をしてるからだ。
恨むなら名付け親を恨むんだな」

タルテ「くっ!名付け親僕じゃん!
自分にぴったりだって思ってたのに、
まさかタルトいじりされるなんて…」

ヴェル「確かお前の名前の意味は、
姿・形という意味だったよな?」

タルテ「うん、そうだよ」

そう言いながらタルテは自分の腕を変化させ、
黒い触手のような物体に変えた。

タルテ「僕は変幻自在の魔女。
僕に決まった形なんてないし、
どんな姿にだってなれる。
勿論形を変えることもね」

ヴェル「ああ、だがお前の触手はざらざらしてて、
触り心地はあまり良くないがな」

タルテ「気にする所そこ?」

ヴェル「何だ、何か不満か?」

タルテ「・・・そういえば、
ヴェルの名前の由来は、
確か毒からだったよね?」

ヴェル「分かりやすく話題を逸らしたな」

タルテ「良いから答えて」

ヴェル「・・・ああ、確かに私は
毒を作り出せる魔女だ」

私には、対象者が毒だと認識するモノを
作り出すことが出来る能力を持つ。
それは普通の毒だったり、
精神的なものだったり、
無慈悲に命を奪う兵器だったりと様々だ。
そう、私の毒は確実に命を蝕む。
だから人間とは仲良くやれた試しがない。
今だって、私は戦争に使う兵器を
作る為の道具に過ぎないのだ。
そして、もっと沢山の命が散っていくのだろう。

タルテ「おい、どうしたヴェル
そんな怖い顔して何か考え事か?」

ヴェル「うるさい洋梨タルト。
少しくだらんことを考えていただけだ」

タルテ「フルーツまでトッピングされた!?」

そう、くだらんことだ。
私には関係ないことじゃないか。
たかが人間、善意しか無い者などいない。
彼らが私の領域入ってこない限りは、
人間の事情など私の管轄外だ。

タルテ「僕タルトじゃないし!
さっきからタルテだって言ってるじゃん!
ねえ!聞いてる!?」

外野のタルトがうるさいがガン無視しよう。

タルテ「つーか何で他の魔女達
ヴェル以外は僕を避けるの!?
もっとお話しよーよ!」

それはお前の話がいちいち長すぎるからだろ。
後、何か知らんがウザい。

タルテ「魔女集会も呼ばれなかったから勝手に来たのにさ。
皆僕に話しかけてくれないんだもん!」

お前勝手に参加してたのかよ。
流石に私の所にも招待状きたぞ。

タルテ「ねえヴェーーール!
暇暇暇~~~!話し相手になってよお」

うるせえ。
あと、体揺するな酔うだろ。
あーー!うぜえうぜえ。
これだからクソタルトは面倒なんだ。
本当にタルトになんねえかな?

タルテ「ねえ、ヴェル。
もしかして、僕が本当にタルトになんないかな?
とか思ってないよね?」

ヴェル「エスパーなの?
良い機会だしうるさい魔女から
本当のタルトに転生しねえか?」

タルテ「絶対にやだ」

ヴェル「チッやっぱ断るか」

タルテ「何か舌打ち聞こえたんだけど?」

ヴェル「聞き間違いだろ。
それともタルテは今ここで
聞き間違いじゃないと証明出来るのか?」

タルテ「また始まったよ。
ヴェルの面倒な性格が」

タルテはまた悪い癖が出てきたヴェルを見ながら、
やれやれと言いたげな顔をしていた。

ヴェル「元からこの性格なのでな」

タルテ「ねえ聞いてよ皆!
ヴェルが僕に意地悪してくるんだよ!」

私とタルテの周りにいた魔女達は、
急に話を振られて巻き込まれたくなかったのか、
次々とどこかに消えてしまった。

ヴェル「おいタルト、
話に関係ない他の魔女まで巻き込むな」

ヴェルはそんなタルテを冷たい目で一瞥しながら、
予め魔女集会で用意されていた紅茶を飲んでいた。

タルテ「ヴェルが僕の話を聞いてくれないからじゃん」

ヴェル「今まで充分過ぎるくらい、
お前のクソ長い話を聞いてやっただろ」

それを聞いたタルトがまた騒ぎ始めたが、
どうせ大した内容じゃないだろう。

タルテ「じゃあさ、一つだけ聞いて良い?」

ヴェル「何だ」

ヴェルはお茶請けのお菓子を食べながらタルテを見つめた。

タルテ「今、何回目?」

その言葉でヴェルの手が止まった。
しかしタルテはそれを気にせず話を続ける。

タルテ「今、何回繰り返してるの?」

ヴェル「・・・何回目だと思うんだ?」

ヴェルは答えようとはしない。
黙ったままこちらを睨み付けている。
しかし、タルテには大体の予想がついたようだ。

タルテ「・・・そう、まだか」

ヴェル「・・・悪かったな…」

小さくヴェルがそう呟いた。

タルテ「悪くなんてないさ。
この問題は彼自身しか解決出来ないからね。
で?今度は上手くいきそう?」

ヴェル「・・・せっかく忠告したのに、
また人間が関わってきた。今回も無理だろう」

タルテ「そっか、また繰り返すんだね」

ヴェル「何度も言うが、
この事実を知っているのは私とお前だけだ。
くれぐれも他の者に漏らすなよ」

タルテ「分かっているよ。
流石に僕もそこまで薄情じゃないからね」

ヴェル「今度こそ、私が彼を止めなければ…」

タルテ「さて、今ドーデンくんはどうしてるだろう。
犠牲者が出なければ良いけど」
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