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第一章 白紙病
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「白紙病…確か先生はそう言っていたな。
この白い世界は、病気のせいだったのか…」
白紙病…最近認知され始めた病気。
世界は全て白く見えて、
人は奇妙な形をした紙人形に見える。
そんな異様で脆そうな姿は、
少しでも力を入れて握れば、
くしゃりと壊れてしまいそうだった。
どうしたら治るかなんて知らない。
だけど、この病気は少し特殊で、
あの奇妙な紙人形の感情が
色となって現れるのだ。
まるで霧のような感じで、
紙人形の辺りを漂って、
しばらくすると消える。
どうやらこの病気は人の感情が目に見えるらしい。
僕も紙人形と同じように感情を出せれば、
この世界も少しは鮮やかになるだろうか。
あの色とりどりの感情は、
鮮やかな世界を彩るにはぴったりだった。
だけど、僕の感情はそう簡単に出せるわけもなく、
これも病気のせいなのだろうか。
表情も、感情も、いつの日か凍り、
冷たい氷の中にいた。
いや、それは違うな。
ただ僕は心を閉ざしているだけだ。
あの日から、ずっと…
自分の世界の彩りを消してまでして…
あの日?それはどの日のことだ?
分からない…思い出せない…
けど、思い出したくもないんだ。
僕の目の前には、色の塗り忘れた絵のような、
線画の世界が変わらずそこにあった。
「・・・一旦落ち着こう。
分からないことは先生に聞くのが一番だ」
先生は僕を診断してくれた人。
人?人…なのかな?
不思議と先生はあの紙人形には見えないんだ。
まあ、分からないことをいくら考えても解決しないからやめておく。
僕は先生のいる部屋の扉を軽く叩いた。
「先生、まだいる?」
「どうした?診断はもう終わったはずだが」
「先生…僕は何故、白紙病にかかったのですか?」
僕がそれを聞くと、先生は悲しそうに微笑んだ。
「それはね、お前の為だよ」
「僕の為?」
「そう、お前の為だよ。
多分あのままだったら、
君の精神は持たなかっただろうからな」
「・・・」
先生は不思議な人だ。
僕が悩んでいると真っ先に気がついて、
得意な魔法で不可能なことも可能にしてしまう。
僕はそんな先生を尊敬している。
でも先生は自分のことを、
私の魔法は不可能を可能にすることしか出来ない。
場合によっては何の意味も持たない魔法だと言っていた。
あまり自己評価は高くないらしい。
「ああそうだ、
お前に大事なことを言い忘れていた」
「言い忘れていたこと?何ですかそれ」
「人間にはなるべく近づくんじゃないぞ」
「・・・どうして?」
「それもお前の為だ」
「それも僕の為?」
「ああ、人間に近づけば…
いや、何でもない。
とにかく、人間には関わるな。
話しかけられても無視しろ」
「・・・分かった
なるべく人には会わないようにする」
「よし、良い子だ」
その言葉を聞いてほっとしたのか、
先生は僕の頭を乱暴に撫でてくれた。
僕は軽く会釈をして部屋を出る。
あの時の先生の目は真剣だった。
一体何があったのか。
どうしてそこまで人を避けたがるのか。
僕の答えは人にある気がした。
僕は考え事をしながら鬱蒼と生い茂る森の中を歩く。
壁のような高い木も、変わらず線画のままの動物達も、
いつもの見慣れた風景だ。
でも、一つ見慣れないモノがあった。
猫のような奇妙な姿…
この紙人形は、きっと人の子供だ。
その倒れている紙人形はぴくりとも動かない。
・・・死体かな?
少女「・・・うぅ…」
僕がしゃがんで紙人形の顔を覗き込むと、
微かに少女の声で小さな呻き声が聞こえた。
「あ、良かった生きてる」
生きてはいるが、未だに動く気配はない。
「病気?もしくは怪我…かな。
とりあえず先生の元に連れていこう。
先生なら何か分かるかもしれない」
僕は少女に爪を突き立てないように慎重に持ち上げると、
先生の診察部屋へと向かった。
僕は紙人形と同じだ。
大きく鋭い爪、人なのか動物なのか分からない、
二つをミックスしたような姿。
僕は人間、皆と一緒。
一つ違うとするならば、僕の体は硬く頑丈なことくらいだ。
なのに先生は人に関わるなと言う。
その理由は、ワ カ ラ ナ イ。
どうして?先生。
僕はただ、皆と同じになりたいだけなのに…
先生「軽い軽傷だね。
少し手当てをしてやればすぐに治るよ」
「良かった、大丈夫そうですね」
先生「ところで、君」
「何ですか?」
先生「人間には関わるなと、
先程忠告したはずだが?」
「・・・先生はどうして、
僕を人から遠ざけようとしているのですか?」
先生「君は人と友好関係を築けるような存在ではないからだ。
いざという時に情に流されてしまっては困るからね」
「・・・そうですか…それで、先生」
先生「何だい?」
「僕に、名前はあるんですか?」
先生「そうか、そういえば言ってなかったね。
お前の名前はドーデンだ」
ドーデン「僕の名前って、どんな意味があるんですか?」
先生「それは、今君が知らなくても良いことだ」
ドーデン「・・・そう…
じゃあ、何も聞かないことにします」
先生「うん、それで良い。
君は何も知らなくて良い。
むしろ、知られたら困る情報もあるからね」
ドーデン「?あの、それはどういう…」
先生「それで、用は済んだかな?」
ドーデン「はい、あの紙人形のことを
宜しくお願いしますね」
先生「ああ、私に任せておくれ」
ドーデン「では、お願いします」
僕は外へ出る為に扉の前へと歩いていく。
しかし、僕の足はそこで止まり、
もう一度先生がいる方へ振り返った。
ドーデン「ああ、そうだ」
先生「どうした?ドーデン」
先生はきょとんとした顔で僕を見つめている。
自分でも、どうしてそう言ったのか分からない。
ドーデン「紙人形はすぐに壊れるんですから、
扱う時は気をつけて下さいね」
先生「分かっているよ」
僕は自分の言動を不審に思いながら先生の部屋を出た。
見に覚えのない言動。
まるで何かを知っている口ぶり。
僕の知らないはずの事実。
何度見ても真っ白な記憶。
僕は大事なことを忘れている?
分からない…
僕の世界は変わらず味気ない線画の世界のままだ。
ああ、眠くなってきた。
少し休もう、このままだと僕が倒れてしまう。
もう疲れてしまった。目を閉じてしまおう。
休めばきっと、こんな悩みなんて消えるはず…
そして僕は、意識を闇の中へと放り投げた。
◇◇◇
先生「さて、彼もいないことだし、
私はやることをやろう」
目の前には傷を負った少女が静かに寝息を立てて眠っている。
先生「さて、どうするかね…
薬の材料…としては今いらないし。まあ、普通に」
先生はどこからか鋭利なナイフを取り出した。
先生「この方法が一番妥当だろうな」
先生は少女の首めがけてナイフを振り下ろす。
しかし、少女が寝返りをしたことで、
喉元にナイフが突き刺さるのは免れた。
ナイフは少女の髪を切り裂き、
少女の喉ぎりぎりに突き刺さっている。
先生「・・・チッ」
先生は軽く舌打ちをすると、ナイフを抜いてどこかにしまった。
今の先生に先程の狂気は感じない。
先生「もう一度やったら、流石に起きそうだしな…」
そんな先生の顔は酷く不機嫌そうである。
先生「仕留め損ねはしたが、
まあ、こんな所に好き好んで何度も入る奴はいないだろ。
元気になったら即刻追い出すか」
出来れば、
二度と会わなければ良いのだが…
先生「そうだ、ドーデンの様子を見に行こう」
先生がドーデンを探していると、
彼は疲れたのか、寝息を立てて眠っていた。
先生「ドーデン、こんな所にいたのか。
して、何故こんな森のど真中で?」
まあ、どこで寝るかなんて個人の自由だが…
ドーデン「・・・しい…」
先生「ん?何か言ったかな?」
よく耳を澄ませると、ドーデンは寝言を言っていた。
ドーデン「色…色・・・が欲しい…
僕も、紙・・・のよ…な…鮮やか・・・色・・・欲し…」
先生「・・・そりゃあ、私も見せてあげたいさ。
だけどね、君は一度色を望み、そして色を拒んだ。
だから君の世界は白紙なんだ」
白紙の世界は、色を拒んだ証。
白紙の記憶は記憶を消した証。
全て君が望んだことだ。
君の病気を治すには、紙人形の絵の具が必要だ。
白紙なんて塗り替える程の、
赤い、赤い、真っ赤な絵の具が…
でも、それを君は望まない。
壊すことを望まない。
一人でも壊せば、また白紙病を発症するだろう。
私は誰を壊そうがどうでも良い。
だって人は嫌いだから。
一度も私を肯定したことがないから。
別に誰が死のうと知ったことじゃない。
私に大切な人なんていない。
誰が亡くなろうと悲しくもならない。
だけど、君が死んだら私が困る。
何でだろうね…私には分からないよ。
先生「ああそうだ、君にはこれをあげよう」
私は眠っているドーデンの傍らに白い封筒を置いた。
先生「今の君には、それはただの
白紙の手紙にしか見えないかもしれない。
だけどね、その“白紙の便り”は
白紙病が治った時に見ると、色鮮やかに輝くんだ」
今は、何も見なくて良い。
何も知らなくたって良い。
こんな事言うのも不謹慎かもしれないが、
私は今の君をまだ少し眺めていたい。
未だに白紙の世界にいる、何も知らない君を…
だって、君が壊れてしまったら
また記憶を消さないといけない。
完全に壊れて動かなくなる前に、
全て白に戻さないといけないのだから。
だから、もう少しだけ私を知らない君でいてくれ。
真実を知るのは、もう少し後で良い。
目が覚めると、自分の近くに見知らぬ物が
置いてあることに気づいた。
ドーデン「ん?何だろうこれ」
封を開けてみてもそこには何も書かれていない。
僕の見ている世界と同じ真っ白な白紙の便りだった。
ドーデン「一体誰が…」
周りを見渡しても誰もいない。
もう送り主はどこかに行ってしまったのだろう。
ドーデン「送り主は知らないけど、
僕もちゃんとお返しをしよう。
この手紙と同じ、真っ白な白紙の便りを」
誰が何の為に、僕にこれを送ったのかは知らない。
ならば送り主を探そう。
そして見つけたらその人に聞くんだ。
君にこの白紙の便りは、どう見えているのかと。
この白い世界は、病気のせいだったのか…」
白紙病…最近認知され始めた病気。
世界は全て白く見えて、
人は奇妙な形をした紙人形に見える。
そんな異様で脆そうな姿は、
少しでも力を入れて握れば、
くしゃりと壊れてしまいそうだった。
どうしたら治るかなんて知らない。
だけど、この病気は少し特殊で、
あの奇妙な紙人形の感情が
色となって現れるのだ。
まるで霧のような感じで、
紙人形の辺りを漂って、
しばらくすると消える。
どうやらこの病気は人の感情が目に見えるらしい。
僕も紙人形と同じように感情を出せれば、
この世界も少しは鮮やかになるだろうか。
あの色とりどりの感情は、
鮮やかな世界を彩るにはぴったりだった。
だけど、僕の感情はそう簡単に出せるわけもなく、
これも病気のせいなのだろうか。
表情も、感情も、いつの日か凍り、
冷たい氷の中にいた。
いや、それは違うな。
ただ僕は心を閉ざしているだけだ。
あの日から、ずっと…
自分の世界の彩りを消してまでして…
あの日?それはどの日のことだ?
分からない…思い出せない…
けど、思い出したくもないんだ。
僕の目の前には、色の塗り忘れた絵のような、
線画の世界が変わらずそこにあった。
「・・・一旦落ち着こう。
分からないことは先生に聞くのが一番だ」
先生は僕を診断してくれた人。
人?人…なのかな?
不思議と先生はあの紙人形には見えないんだ。
まあ、分からないことをいくら考えても解決しないからやめておく。
僕は先生のいる部屋の扉を軽く叩いた。
「先生、まだいる?」
「どうした?診断はもう終わったはずだが」
「先生…僕は何故、白紙病にかかったのですか?」
僕がそれを聞くと、先生は悲しそうに微笑んだ。
「それはね、お前の為だよ」
「僕の為?」
「そう、お前の為だよ。
多分あのままだったら、
君の精神は持たなかっただろうからな」
「・・・」
先生は不思議な人だ。
僕が悩んでいると真っ先に気がついて、
得意な魔法で不可能なことも可能にしてしまう。
僕はそんな先生を尊敬している。
でも先生は自分のことを、
私の魔法は不可能を可能にすることしか出来ない。
場合によっては何の意味も持たない魔法だと言っていた。
あまり自己評価は高くないらしい。
「ああそうだ、
お前に大事なことを言い忘れていた」
「言い忘れていたこと?何ですかそれ」
「人間にはなるべく近づくんじゃないぞ」
「・・・どうして?」
「それもお前の為だ」
「それも僕の為?」
「ああ、人間に近づけば…
いや、何でもない。
とにかく、人間には関わるな。
話しかけられても無視しろ」
「・・・分かった
なるべく人には会わないようにする」
「よし、良い子だ」
その言葉を聞いてほっとしたのか、
先生は僕の頭を乱暴に撫でてくれた。
僕は軽く会釈をして部屋を出る。
あの時の先生の目は真剣だった。
一体何があったのか。
どうしてそこまで人を避けたがるのか。
僕の答えは人にある気がした。
僕は考え事をしながら鬱蒼と生い茂る森の中を歩く。
壁のような高い木も、変わらず線画のままの動物達も、
いつもの見慣れた風景だ。
でも、一つ見慣れないモノがあった。
猫のような奇妙な姿…
この紙人形は、きっと人の子供だ。
その倒れている紙人形はぴくりとも動かない。
・・・死体かな?
少女「・・・うぅ…」
僕がしゃがんで紙人形の顔を覗き込むと、
微かに少女の声で小さな呻き声が聞こえた。
「あ、良かった生きてる」
生きてはいるが、未だに動く気配はない。
「病気?もしくは怪我…かな。
とりあえず先生の元に連れていこう。
先生なら何か分かるかもしれない」
僕は少女に爪を突き立てないように慎重に持ち上げると、
先生の診察部屋へと向かった。
僕は紙人形と同じだ。
大きく鋭い爪、人なのか動物なのか分からない、
二つをミックスしたような姿。
僕は人間、皆と一緒。
一つ違うとするならば、僕の体は硬く頑丈なことくらいだ。
なのに先生は人に関わるなと言う。
その理由は、ワ カ ラ ナ イ。
どうして?先生。
僕はただ、皆と同じになりたいだけなのに…
先生「軽い軽傷だね。
少し手当てをしてやればすぐに治るよ」
「良かった、大丈夫そうですね」
先生「ところで、君」
「何ですか?」
先生「人間には関わるなと、
先程忠告したはずだが?」
「・・・先生はどうして、
僕を人から遠ざけようとしているのですか?」
先生「君は人と友好関係を築けるような存在ではないからだ。
いざという時に情に流されてしまっては困るからね」
「・・・そうですか…それで、先生」
先生「何だい?」
「僕に、名前はあるんですか?」
先生「そうか、そういえば言ってなかったね。
お前の名前はドーデンだ」
ドーデン「僕の名前って、どんな意味があるんですか?」
先生「それは、今君が知らなくても良いことだ」
ドーデン「・・・そう…
じゃあ、何も聞かないことにします」
先生「うん、それで良い。
君は何も知らなくて良い。
むしろ、知られたら困る情報もあるからね」
ドーデン「?あの、それはどういう…」
先生「それで、用は済んだかな?」
ドーデン「はい、あの紙人形のことを
宜しくお願いしますね」
先生「ああ、私に任せておくれ」
ドーデン「では、お願いします」
僕は外へ出る為に扉の前へと歩いていく。
しかし、僕の足はそこで止まり、
もう一度先生がいる方へ振り返った。
ドーデン「ああ、そうだ」
先生「どうした?ドーデン」
先生はきょとんとした顔で僕を見つめている。
自分でも、どうしてそう言ったのか分からない。
ドーデン「紙人形はすぐに壊れるんですから、
扱う時は気をつけて下さいね」
先生「分かっているよ」
僕は自分の言動を不審に思いながら先生の部屋を出た。
見に覚えのない言動。
まるで何かを知っている口ぶり。
僕の知らないはずの事実。
何度見ても真っ白な記憶。
僕は大事なことを忘れている?
分からない…
僕の世界は変わらず味気ない線画の世界のままだ。
ああ、眠くなってきた。
少し休もう、このままだと僕が倒れてしまう。
もう疲れてしまった。目を閉じてしまおう。
休めばきっと、こんな悩みなんて消えるはず…
そして僕は、意識を闇の中へと放り投げた。
◇◇◇
先生「さて、彼もいないことだし、
私はやることをやろう」
目の前には傷を負った少女が静かに寝息を立てて眠っている。
先生「さて、どうするかね…
薬の材料…としては今いらないし。まあ、普通に」
先生はどこからか鋭利なナイフを取り出した。
先生「この方法が一番妥当だろうな」
先生は少女の首めがけてナイフを振り下ろす。
しかし、少女が寝返りをしたことで、
喉元にナイフが突き刺さるのは免れた。
ナイフは少女の髪を切り裂き、
少女の喉ぎりぎりに突き刺さっている。
先生「・・・チッ」
先生は軽く舌打ちをすると、ナイフを抜いてどこかにしまった。
今の先生に先程の狂気は感じない。
先生「もう一度やったら、流石に起きそうだしな…」
そんな先生の顔は酷く不機嫌そうである。
先生「仕留め損ねはしたが、
まあ、こんな所に好き好んで何度も入る奴はいないだろ。
元気になったら即刻追い出すか」
出来れば、
二度と会わなければ良いのだが…
先生「そうだ、ドーデンの様子を見に行こう」
先生がドーデンを探していると、
彼は疲れたのか、寝息を立てて眠っていた。
先生「ドーデン、こんな所にいたのか。
して、何故こんな森のど真中で?」
まあ、どこで寝るかなんて個人の自由だが…
ドーデン「・・・しい…」
先生「ん?何か言ったかな?」
よく耳を澄ませると、ドーデンは寝言を言っていた。
ドーデン「色…色・・・が欲しい…
僕も、紙・・・のよ…な…鮮やか・・・色・・・欲し…」
先生「・・・そりゃあ、私も見せてあげたいさ。
だけどね、君は一度色を望み、そして色を拒んだ。
だから君の世界は白紙なんだ」
白紙の世界は、色を拒んだ証。
白紙の記憶は記憶を消した証。
全て君が望んだことだ。
君の病気を治すには、紙人形の絵の具が必要だ。
白紙なんて塗り替える程の、
赤い、赤い、真っ赤な絵の具が…
でも、それを君は望まない。
壊すことを望まない。
一人でも壊せば、また白紙病を発症するだろう。
私は誰を壊そうがどうでも良い。
だって人は嫌いだから。
一度も私を肯定したことがないから。
別に誰が死のうと知ったことじゃない。
私に大切な人なんていない。
誰が亡くなろうと悲しくもならない。
だけど、君が死んだら私が困る。
何でだろうね…私には分からないよ。
先生「ああそうだ、君にはこれをあげよう」
私は眠っているドーデンの傍らに白い封筒を置いた。
先生「今の君には、それはただの
白紙の手紙にしか見えないかもしれない。
だけどね、その“白紙の便り”は
白紙病が治った時に見ると、色鮮やかに輝くんだ」
今は、何も見なくて良い。
何も知らなくたって良い。
こんな事言うのも不謹慎かもしれないが、
私は今の君をまだ少し眺めていたい。
未だに白紙の世界にいる、何も知らない君を…
だって、君が壊れてしまったら
また記憶を消さないといけない。
完全に壊れて動かなくなる前に、
全て白に戻さないといけないのだから。
だから、もう少しだけ私を知らない君でいてくれ。
真実を知るのは、もう少し後で良い。
目が覚めると、自分の近くに見知らぬ物が
置いてあることに気づいた。
ドーデン「ん?何だろうこれ」
封を開けてみてもそこには何も書かれていない。
僕の見ている世界と同じ真っ白な白紙の便りだった。
ドーデン「一体誰が…」
周りを見渡しても誰もいない。
もう送り主はどこかに行ってしまったのだろう。
ドーデン「送り主は知らないけど、
僕もちゃんとお返しをしよう。
この手紙と同じ、真っ白な白紙の便りを」
誰が何の為に、僕にこれを送ったのかは知らない。
ならば送り主を探そう。
そして見つけたらその人に聞くんだ。
君にこの白紙の便りは、どう見えているのかと。
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●●●●●●●●●●●●●●●
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