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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
3-20 Philo Sophia
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sideシロ
←ーー←ーー←ーー
荷物搬出後( 3-9囚人監視の中で…の飲み会前 )
←ーー←ー
ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「うはぁ~~、ベッドで横になりたぁ~~ぃ」
硬い土の地面の上キャリーケースを転がし歩いていると、まだ少し力の入らない腕や重怠い脚の疲れよりも頭の中、目と耳の奥が酷い花粉症の時みたくボーっとしている。
ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「ハハ本当にね。いくら基本自由とは言え、見知らぬ人との缶詰は疲れるよね。でもとりあえずは荷物が戻って来て良かったよ」
あ…
" これ僕と色違いだから、誕生日おめでとう "
ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「…えぇ、これはリュウコウ君に貰った大事なキャリーケースですしね」
そんな折フワリと蘇った情景にそう答えると、リュウコウ君はとても柔らかな笑顔を返してくれた。
そして適当な場所で足を止め腰を下ろし、英国王室御用達の黒いキャリーケースに手を掛ける。
カパっ
「……………… 」
最初に目に付くのは袋越しにも判る青みを残したバナナの房。
それと隙間なく詰められた衣類と靴。
記憶にあるそれらを退かしながら、ギュウギュウ詰めとなっている中身を順に確認していくと
カサ…
ん?
奥から出てきたのは40cmほどのやや薄く平べたい箱。
それは贈答品の様にラッピングが施されている。
なんだ?
プレゼントなんか買っ…
" 切れ味でしたら少し値段は張りますが、この青紙スーパーが一番になりますね "
誰かが急につけたTVを見るような感覚。
けどこれは既視感の様な断片でない短編集の様な追想。
ビリビリビリっ
" 大きなカボチャや、あと鳥の骨なんかも切るんですが "
" カタイ物もお切りになるんですね?でしたらこの上の段の玉鋼の物がお勧めかも知れませんね。お値段がもう少しこう…お高くなってしまいますけど "
さて、これをどうするか…
それを流し見しつつ箱を開封するオレは、自分自身の行動に苦笑いを浮かべつつ思案に耽った時
「シロ君、とりあえず祝勝会でもしない?」
タイミングを見計らったかの様にリュウコウ君が取り出し掲げるのは、一筆書きされた筆文字が吠える豪華なラベルの一升瓶。
「…ですね」
ここは精神的な疲労により一旦棚上げ。
……
…
ー飲み会 ( 3-11 Lily Ray~ 憐嗟反応 ) 後ー
酔い潰れた八参を機内へと運び終えた後、オレ達は直ぐに機外の元居た場所へ戻った。
「それ………って、サーマンさんへのお土産用?」
「と、言う名目で用意した自衛用装備…の様です」
そう言って少し固い声音のリュウコウ君が見つめるのは、改めて箱から取り出した刃渡り33cmの牛刀包丁(約10万円)。
「確かに今の中国は何にでも難癖付けて拘束するだろうから、ナイフなんかの刃物は危ないだろうね… 」
本来の目的とは違うと言うだけで、その研ぎ澄まされた妖しさはオレ達の視線を引き寄せる。
「とは言えこんなの用意してるとかヤバいですよね?」
「…いや、事ここに及んではシロ君の言った色々の現実味が増すばかりだし、想像外にこそ備えるべきなんだと脱ぐ帽子ももう無いよ」
「ハハ、なら良かったです。はいコレリュウコウ君の分」
「あ、うん」
「それと鞘とあとこれ」
「スポンジ?」
リュウコウ君は渡されたそれを指先で摘み不思議そうに眺める。
「はい、スポンジグリップを切ったやつです。なのでちょっと固いですけどこんな感じで強引に持ち手に嵌めて下さい」
「へぇ、鯉口の代用品ってことだね」
「はい。とは言え靭性の高い玉鋼でもこれはあくまでも包丁、突きには向いていないのをお忘れなく」
「…ハァ~~、僕は本当に面白い友達を持ったなぁ」
尊敬出来る先輩からそんな風にしみじみと言われるのは嬉しいけど、今後次第でその評価は変わるかもな。
「じゃオレも酔ったんで少し仮眠しますね」
「あぁ、おやすみ」
遭難した集団の行き着く先は原始的な生存競争だろうから…
でもオレは躊躇わない。
守りたいモノを守る。
例えこの先の関係が失われるとしても、生きてさえいてくれればそれで良い。
……
…
ー芝木達合流前ー
「ってか意外っ⁉︎ シロさんって入れてんだな。ちょっと見せてくれよ」
入れてる?
あ…
" ジジジジジジジジジジジジッ "
" ブハハッ、流石のシロも手を握り締めるか?」
これは…ダイヤか?
見覚えのない額の傷を持つ甚兵衛姿の男だけど、その顔立ちは間違いなく10数年振りになる中学時代の同級生。
" マジで切れない剃刀、だなっ……痛ぅってかこれ後どんくらいかかるっ…ッ~ "
" 眼はまわりも含めて1時間ありゃいけるけど、羽は急いでも4~5時間はかかるな。日ぃ改めるか?"
ジジジジッジジジジッジジジジジジジジ
" いや、全部ッ頼むっ"
「シロ君背中」
「ぇ…ぁぁ、背中…か」
" どこでも良いから当てろッ射て射てッ "
耳の奥、焼き付いたように木霊する声と、それに乗って訪れる切迫した焦燥感に息苦しさ。
またこれか。
しかもこの後…
" ハァッ…ハぁッハァっ…『ドッ!? 』
ーズグンッ√
「っッ… 」
でも今回襲って来た痛みは喉ではなく胸。
『『ズシャァァァーーッ‼︎‼︎ 』』
それに映し出されたのは山中を走り転倒した自分視点。
やっぱりオレは大ケガを?
その余りに生々しい衝撃と、リアル過ぎる痛みの反芻から胸を確かめるけど、そこにそれらしい傷痕は微塵も無い。
ピーーーーーーーーー
更に突然の耳鳴りに襲われる。
" このまま熱が下がらなければ……、それに上手く助かったとしても… "
何だ?
「シロさ…ぅわあっ⁉︎ 」
突然尻餅をつき慌てる宗彌。
「シロさんどしたん?大丈夫なんかよ」
それを横目で見て睨む八参。
「…あぁいや、何でもないよ大丈夫」
「んなら良いけどさ、風邪引く前に服着ろよ。俺も今寒気が走ったし」
「あぁそうするよ」
そう答えると頷いた八参は、立ち上がった宗彌の方へと歩いて行った。
さっきのは誰の声だ?
ん?
熱と言うワードから体調を崩しがちだった子供の頃を思そうとした時、見覚えの無い女の子の姿が浮かび上がる。
誰だっけ……
「フゥーーー~… 」
記憶、戻るのかな…
「シロさん、少しよろしいでしょうか?」
取っ掛かりも見えない真っ暗闇の淵で途方に暮れていると、こちらに向かって来た真黎さんに呼ばれる。
「どうしました?」
「探索に参加して頂ける男性が2名、いらっしゃいました」
「その2人、何か気になる点は有りませんでした?」
間髪入れずオレがそう言うと、真黎さんは露わにした驚きを飲み込み
「えぇ、顔見知りでは無いと仰っていたのですが… 」
「そうではないと?」
「シロさん達があの怪物と戦っている時、その2人は何やら揉み合って話していたんです。でもさっきはその事すら無かった様な口ぶりと態度で」
そして続けつつ躊躇いがちに八参を見た。
「…そうですね、気を付けておきます」
「はい、それでは」
「あの真黎さん、機長達の様子はどうですか?」
頭を下げかけていた彼女は少し俯いたまま首を振った。
「でしょうね、この状況は既に貴方方の職域を超えていますから。だからここからは切り替えて優先させて下さい。貴女一個人としての思いを」
「私個人…ですか」
「…こんな場所に居続けてたら殆どの人が平常心を失います。それは例え最低限の食が確保出来たとしても…です。そしてその時、二本しかない貴女の手は何を守りますか?守り切れますか?少しでも後悔をしないよう考えておいて下さい。望まない形で死の瀬戸際に立たされる…なんて状況に陥る前に」
「私、そんなに心配ですか?」
繰り返される忠告に少し困った様な、少し心外だとも言いたげな真黎さん。
そうだよな。
人を容易く喰い千切るあのバケモノの前に飛び出して、それでも助けを求めようとはしなかった人なんだから。
でもだからこそ
「何もしなかった何十人なんかよりも、利己の線を踏み越えられる人に無駄死にしてほしくないんですよオレは」
このもどかしさ混じりの本音をそのままぶつける。
「……シロさんって、冷たそうな見た目とは真逆の方ですよね」
「オレの内面は見たままですよ。その点のギャップと言うのなら、それは寧ろ真黎さんの方こそだと思いますけどね」
「私、笑うのが苦手なんです。…昔から」
「いいんじゃないですか?多分真顔の方が魅力的ですし」
「アァ~っ、その言い方だと笑顔がブサイクみたいじゃないですかぁフフっ…フゥ。ではもしも、もしも今回行かれる探索から皆様が戻られた時、現在のこの状況に、好転が見られなければ……… 」
そう言って長い睫毛を寝かせクスリと鼻を鳴らした真黎さんだったけど、そこから先、品良く胸に押し当てた手で絞り出すよう綴る言葉は直ぐと詰まる。
「なんとしても無事生き残りそして帰る。その一点に集中して足掻きましょう。同じ状況に置かれた1人として、一緒に」
だから躊躇う続きを引き出すよう強引にオレが付け足すと、まだ見えない何かに引かれる彼女は精一杯顔を持ち上げた。
「…はい。ありがとう…ございます」
あ…
遮る曇り空。
アスファルトの土手。
そしてまとわりつくよう生い茂る雑草の中、背筋を伸ばして咲いている一輪の向日葵。
そんな何処とも思い出せないな情景を不意に去来させたのは、気丈に振る舞い続ける彼女が初めて見せた無防備な笑顔。
「うん、やっぱ真黎さんは真顔が良いかも」
「ヒドイですっ、だから言ったのにっ」
←ーー←ーー←ーー
荷物搬出後( 3-9囚人監視の中で…の飲み会前 )
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ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「うはぁ~~、ベッドで横になりたぁ~~ぃ」
硬い土の地面の上キャリーケースを転がし歩いていると、まだ少し力の入らない腕や重怠い脚の疲れよりも頭の中、目と耳の奥が酷い花粉症の時みたくボーっとしている。
ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「ハハ本当にね。いくら基本自由とは言え、見知らぬ人との缶詰は疲れるよね。でもとりあえずは荷物が戻って来て良かったよ」
あ…
" これ僕と色違いだから、誕生日おめでとう "
ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「…えぇ、これはリュウコウ君に貰った大事なキャリーケースですしね」
そんな折フワリと蘇った情景にそう答えると、リュウコウ君はとても柔らかな笑顔を返してくれた。
そして適当な場所で足を止め腰を下ろし、英国王室御用達の黒いキャリーケースに手を掛ける。
カパっ
「……………… 」
最初に目に付くのは袋越しにも判る青みを残したバナナの房。
それと隙間なく詰められた衣類と靴。
記憶にあるそれらを退かしながら、ギュウギュウ詰めとなっている中身を順に確認していくと
カサ…
ん?
奥から出てきたのは40cmほどのやや薄く平べたい箱。
それは贈答品の様にラッピングが施されている。
なんだ?
プレゼントなんか買っ…
" 切れ味でしたら少し値段は張りますが、この青紙スーパーが一番になりますね "
誰かが急につけたTVを見るような感覚。
けどこれは既視感の様な断片でない短編集の様な追想。
ビリビリビリっ
" 大きなカボチャや、あと鳥の骨なんかも切るんですが "
" カタイ物もお切りになるんですね?でしたらこの上の段の玉鋼の物がお勧めかも知れませんね。お値段がもう少しこう…お高くなってしまいますけど "
さて、これをどうするか…
それを流し見しつつ箱を開封するオレは、自分自身の行動に苦笑いを浮かべつつ思案に耽った時
「シロ君、とりあえず祝勝会でもしない?」
タイミングを見計らったかの様にリュウコウ君が取り出し掲げるのは、一筆書きされた筆文字が吠える豪華なラベルの一升瓶。
「…ですね」
ここは精神的な疲労により一旦棚上げ。
……
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ー飲み会 ( 3-11 Lily Ray~ 憐嗟反応 ) 後ー
酔い潰れた八参を機内へと運び終えた後、オレ達は直ぐに機外の元居た場所へ戻った。
「それ………って、サーマンさんへのお土産用?」
「と、言う名目で用意した自衛用装備…の様です」
そう言って少し固い声音のリュウコウ君が見つめるのは、改めて箱から取り出した刃渡り33cmの牛刀包丁(約10万円)。
「確かに今の中国は何にでも難癖付けて拘束するだろうから、ナイフなんかの刃物は危ないだろうね… 」
本来の目的とは違うと言うだけで、その研ぎ澄まされた妖しさはオレ達の視線を引き寄せる。
「とは言えこんなの用意してるとかヤバいですよね?」
「…いや、事ここに及んではシロ君の言った色々の現実味が増すばかりだし、想像外にこそ備えるべきなんだと脱ぐ帽子ももう無いよ」
「ハハ、なら良かったです。はいコレリュウコウ君の分」
「あ、うん」
「それと鞘とあとこれ」
「スポンジ?」
リュウコウ君は渡されたそれを指先で摘み不思議そうに眺める。
「はい、スポンジグリップを切ったやつです。なのでちょっと固いですけどこんな感じで強引に持ち手に嵌めて下さい」
「へぇ、鯉口の代用品ってことだね」
「はい。とは言え靭性の高い玉鋼でもこれはあくまでも包丁、突きには向いていないのをお忘れなく」
「…ハァ~~、僕は本当に面白い友達を持ったなぁ」
尊敬出来る先輩からそんな風にしみじみと言われるのは嬉しいけど、今後次第でその評価は変わるかもな。
「じゃオレも酔ったんで少し仮眠しますね」
「あぁ、おやすみ」
遭難した集団の行き着く先は原始的な生存競争だろうから…
でもオレは躊躇わない。
守りたいモノを守る。
例えこの先の関係が失われるとしても、生きてさえいてくれればそれで良い。
……
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ー芝木達合流前ー
「ってか意外っ⁉︎ シロさんって入れてんだな。ちょっと見せてくれよ」
入れてる?
あ…
" ジジジジジジジジジジジジッ "
" ブハハッ、流石のシロも手を握り締めるか?」
これは…ダイヤか?
見覚えのない額の傷を持つ甚兵衛姿の男だけど、その顔立ちは間違いなく10数年振りになる中学時代の同級生。
" マジで切れない剃刀、だなっ……痛ぅってかこれ後どんくらいかかるっ…ッ~ "
" 眼はまわりも含めて1時間ありゃいけるけど、羽は急いでも4~5時間はかかるな。日ぃ改めるか?"
ジジジジッジジジジッジジジジジジジジ
" いや、全部ッ頼むっ"
「シロ君背中」
「ぇ…ぁぁ、背中…か」
" どこでも良いから当てろッ射て射てッ "
耳の奥、焼き付いたように木霊する声と、それに乗って訪れる切迫した焦燥感に息苦しさ。
またこれか。
しかもこの後…
" ハァッ…ハぁッハァっ…『ドッ!? 』
ーズグンッ√
「っッ… 」
でも今回襲って来た痛みは喉ではなく胸。
『『ズシャァァァーーッ‼︎‼︎ 』』
それに映し出されたのは山中を走り転倒した自分視点。
やっぱりオレは大ケガを?
その余りに生々しい衝撃と、リアル過ぎる痛みの反芻から胸を確かめるけど、そこにそれらしい傷痕は微塵も無い。
ピーーーーーーーーー
更に突然の耳鳴りに襲われる。
" このまま熱が下がらなければ……、それに上手く助かったとしても… "
何だ?
「シロさ…ぅわあっ⁉︎ 」
突然尻餅をつき慌てる宗彌。
「シロさんどしたん?大丈夫なんかよ」
それを横目で見て睨む八参。
「…あぁいや、何でもないよ大丈夫」
「んなら良いけどさ、風邪引く前に服着ろよ。俺も今寒気が走ったし」
「あぁそうするよ」
そう答えると頷いた八参は、立ち上がった宗彌の方へと歩いて行った。
さっきのは誰の声だ?
ん?
熱と言うワードから体調を崩しがちだった子供の頃を思そうとした時、見覚えの無い女の子の姿が浮かび上がる。
誰だっけ……
「フゥーーー~… 」
記憶、戻るのかな…
「シロさん、少しよろしいでしょうか?」
取っ掛かりも見えない真っ暗闇の淵で途方に暮れていると、こちらに向かって来た真黎さんに呼ばれる。
「どうしました?」
「探索に参加して頂ける男性が2名、いらっしゃいました」
「その2人、何か気になる点は有りませんでした?」
間髪入れずオレがそう言うと、真黎さんは露わにした驚きを飲み込み
「えぇ、顔見知りでは無いと仰っていたのですが… 」
「そうではないと?」
「シロさん達があの怪物と戦っている時、その2人は何やら揉み合って話していたんです。でもさっきはその事すら無かった様な口ぶりと態度で」
そして続けつつ躊躇いがちに八参を見た。
「…そうですね、気を付けておきます」
「はい、それでは」
「あの真黎さん、機長達の様子はどうですか?」
頭を下げかけていた彼女は少し俯いたまま首を振った。
「でしょうね、この状況は既に貴方方の職域を超えていますから。だからここからは切り替えて優先させて下さい。貴女一個人としての思いを」
「私個人…ですか」
「…こんな場所に居続けてたら殆どの人が平常心を失います。それは例え最低限の食が確保出来たとしても…です。そしてその時、二本しかない貴女の手は何を守りますか?守り切れますか?少しでも後悔をしないよう考えておいて下さい。望まない形で死の瀬戸際に立たされる…なんて状況に陥る前に」
「私、そんなに心配ですか?」
繰り返される忠告に少し困った様な、少し心外だとも言いたげな真黎さん。
そうだよな。
人を容易く喰い千切るあのバケモノの前に飛び出して、それでも助けを求めようとはしなかった人なんだから。
でもだからこそ
「何もしなかった何十人なんかよりも、利己の線を踏み越えられる人に無駄死にしてほしくないんですよオレは」
このもどかしさ混じりの本音をそのままぶつける。
「……シロさんって、冷たそうな見た目とは真逆の方ですよね」
「オレの内面は見たままですよ。その点のギャップと言うのなら、それは寧ろ真黎さんの方こそだと思いますけどね」
「私、笑うのが苦手なんです。…昔から」
「いいんじゃないですか?多分真顔の方が魅力的ですし」
「アァ~っ、その言い方だと笑顔がブサイクみたいじゃないですかぁフフっ…フゥ。ではもしも、もしも今回行かれる探索から皆様が戻られた時、現在のこの状況に、好転が見られなければ……… 」
そう言って長い睫毛を寝かせクスリと鼻を鳴らした真黎さんだったけど、そこから先、品良く胸に押し当てた手で絞り出すよう綴る言葉は直ぐと詰まる。
「なんとしても無事生き残りそして帰る。その一点に集中して足掻きましょう。同じ状況に置かれた1人として、一緒に」
だから躊躇う続きを引き出すよう強引にオレが付け足すと、まだ見えない何かに引かれる彼女は精一杯顔を持ち上げた。
「…はい。ありがとう…ございます」
あ…
遮る曇り空。
アスファルトの土手。
そしてまとわりつくよう生い茂る雑草の中、背筋を伸ばして咲いている一輪の向日葵。
そんな何処とも思い出せないな情景を不意に去来させたのは、気丈に振る舞い続ける彼女が初めて見せた無防備な笑顔。
「うん、やっぱ真黎さんは真顔が良いかも」
「ヒドイですっ、だから言ったのにっ」
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