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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-15 Nothing to Lower〜 鬱て無し

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sideヒロ

「ハァハァハァ、ハァハァ、ハァっハァ… 」

これ……オオイヌノフグリかな?

ぽたっぽたっ…

杖代わりの木の棒を地面について見る青い草花と、その横に垂れ落ちて咲くいくつもの水滴のシミ。

「ヒロ、だいじょうぶ?」

「ハァハァハァ…、ハァうん、大丈夫……ゴクゴクゴクっプフゥーー~」

昨日一日と今日の朝から軽く走ったり歩いたりを繰り返し続け、もうすぐ半分に差し掛かるころらしい。

履き慣れた靴のお陰で今んとこ靴ズレはしてないけど、これでやっと半分て……
足がパンパン過ぎてヤバい。

ハァハァ…
だけど何年もろくに身体を動かして来なかった僕が、こんなに走ったり歩いたり出来るとは正直思っていなかった。
考えてみるとなんかあっちよりも身体が軽い気がする。

これが異世界効果っやつ?
アナザーズハイ?アザーズハイ?
まぁ何でもいいけど嬉しい誤算。
じゃなきゃこんなにも絶対歩けない。

「ヒロ、すこしやすもう」

ミレは分からないようにしているけど、僕のペースを気にしながら進んでくれている。

「ハァハァ、まだ大丈夫。少しずつでも進もう」

だから力を振り絞って足を動かす。
内心焦っているだろう彼女の気遣いに応えたくて。



ザっザっザっザっザっザっザっ…
「ハァ、ハァ、ハァハァ…」

けどこんなに歩いたのは中学の時の林間学校以来か…

"とりあえず身体を十全に動かせる筋力とある程度の耐久力、それから躱して動き続けられる持久力くらいは最低限ないとね"

ハァハァ、はは…
アイツならこんな無様晒さないんだろうな。

けど今ミレの側に居るのは僕。
僕がこの子を助けるんだ。

森に沿った平原を歩いて行きながら、僕はなけなしの気合いを入れ直す。

ガサっガサっ

ん?

『ガサガサガサーーッ』

「ぅえわぁぁあッ⁉︎ 出たモンスターーーーーッ」
ダダタタッ

突如森の茂みから飛び出してきたのは巨大な大蜥蜴リザード

「ミレ逃… 」
ーーー『ブワァ』

反射的に逃げようとした瞬間、ミレは既に短剣を握って駆けていた。

ダダダタタッ
シパャァ「ゲャギッ… 」

そしてあっという間にトカゲの横を走り抜けると、トカゲの首からは見慣れた血飛沫エフェクトが発生する。

「…ぅわっ」

『ビタンバタンっビタンっ‼︎ 」

血飛沫それはゲームやアニメよりもずっと地味だけど

デデ、デカい…めっちゃ。

全長5m?はありそうな大蜥蜴が血と砂に塗れ地面を捥がく様は僕を圧倒し

「……っ(ゴクリ)」

それと同時に命を絶つと言うリアルな凄惨は、目の前のグロさも相まって喉の奥を詰まらせる。

ザ、ザ、ザ、ザ…
「……、……… 」

両手に持った短剣をゆったりと下ろし、首だけ大蜥蜴に向けながら僕の方へと歩くミレ。


「~~っ… 」






カッコウィィーーーーーーーッ‼︎

ザ、ザ、ザ、ザ…
「ヒロ、だいじょう… 」
『ガシっ』
「ミレッっ、スゴいよッ‼︎ めっちゃカッコイイーーーーーっつ」

「?? ななにヒロ…どうした?」

興奮した僕に気圧されるミレ。

けれど今のこの感情は抑えきれないっ

「ミレっ、ちょ、ちょっとその剣貸してっ」
「けん?あぁ、はい」

「ふおぉぉ… 」
ブンっブンブンっ

ん~~、さっきのミレと音が全然違うな。

「ヒロちがう、『ザッ』こう、『ザッ』こうする」

するとミレは踏み込みから身体を動かして見せてくれた。

なるほど。
昔やってた剣道の癖で上体が固かったか…

ブンっブンっ
「………… 」

やっぱダメだな。
根本的な筋力も落ち過ぎてて短剣に手が振られてる。

そして身の程を確認し終えた頃のたうってたモンスターも動かなくなり、辺りはスプラッターな状態が広がっていた……主に色的に。

でもミレには少しも動じた様子は見られない。
ってことはこんなのは普通…なのか?

「いこう」
「う、うん」

ザっザっザっザっザっザっザっザっザ…


少し離れてから振り返る。

当たり前だけどあの巨大な生き物は僕たちを食べようと襲って来た。

もし僕1人だったら…

「……ゴクリっ」

想像したら一気に恐ろしくなる。

「ねぇミレ?」
「なに?」
「アレよりももっと強い…分かる?え~と大きくって… 」

僕は恐竜をイメージして両手で噛みつく動作をした。

「あぁ、つよいわかった。あれつよいない」

アレが強くないってことは…

「もっと強いのが… 」
「うん、いる」

マジで?
異世界チョーヤベェじゃん…

「フ…、けどミレのがつよい。だいじょうぶ」

少し青褪める僕を鼻で笑うミレは自信満々。

はぁ…
そりゃ襲ったヤツらも秒でやられますわ。



……


夜。


敵の正確な数が分かった。

「……そっか。ミレが逃げたくらいだから想像はしてたけど、かなり厳しいな… ゴクっゴクっゴクンっ」ゴシゴシっ

主要な敵は200人ほどだけど、他にも人質で脅されて従ってる人達がいて総勢1500。

僕は口から溢れた水を手先で拭い、狼狽える気持ちを出来るだけ抑えながらミレを見る。

けれど彼女には動じた様子がない。

何故だ?

たしかにミレは予想の何倍も強かった。
だけどそのミレが一度は敗走と言うか逃げて来てる訳だろ?

その時と今の唯一の違いは僕が加わっているということだけ。

「…………… 」

僕弱いよ?

目標が人質解放だから上手くすれば戦いを避けられるかもだけど、いや最低でも200人の敵が待ち構えてるのにそれは都合良すぎ……と言うか無理でしょ。

辛そうなミレの力に何とかなりたくて来た僕だから、数日前よりも全然前向きなミレの様子は嬉しいけど…

ぅ~ん…どうしたもんかなぁ。

そんな事を考えて眠りにつき、異世界に来ての2日目も過ぎて行った。




……



3日目朝。



「… ……ん… 」

昨日もだったけど疲労せいか知らずに寝入ってしまう。
けど疲れ過ぎのせいなのか、それとも緊張のせいなのか深くは眠れた気がしない。

「んーー~~っ…フゥーー~」

けどこっちは本当に気候が良いな。

昼はポカポカ陽気で夜は涼しくて、長距離移動でなければ実に過ごし易いところ。

トポっトポっトプっパシャパシャっ
「ぷぅッ」

起き上がった僕は怠い身体を伸ばし、そしてペットボトルの水で顔を洗う。

それにこの水も…

『チャプっチャプっ』

不純物どころか微かな濁りすらない透明度はミネラルウォーターと遜色ない。
途中にあった小川で汲み取っただけなのに。

だからの水分の残量を気にせず使えるし、夜眠る前に身体を流す事も出来たのは助かった。

トポっトポっトプっパシャパシャっ




それから朝食へと移り、僕が食べ始めようとすると…

「このままいくと夜、つく」

ミレが少し厳しい表情で言った。


「…そっか、うん」

おそらくここまで50~60km以上は歩いたと思う。
けど湧いてくるのはやっとかと言う満足感などではなく、何とも言えない緊張感。

パキっ、もぐもぐもぐもぐ

昨夜色々と考えた。
だけど町の作りや建物の位置など何も分からない想像の中では、結局のところ妙案どころか不安だけが浮かんで来る始末。

もぐもぐ…もぐ…もぐ…

食べ慣れたブロック型の携帯食が、いつもより口の中でまとわりつく。

まずは現地を見て見ないと。

僕は鬱々とした何かをそう片付けて食事を終えた。




……




夕暮れ。


ザっザっザっザ…
「ヒロ、もうすぐ、見える。ここからあぶない」

これまでよりも一層トーンを落としたミレに対し、僕は無言で頷いた。


それから警戒しつつ15分程歩くと、遠くに町らしき建造物の集まりが見え始めた。
建物が密集している手前には壁があり、そしてそのまわりを人らしき粒がちらほらと動いている。

グイっ「っわ… 」

そのタイミングでミレに袖を引っ張られ、森の入り口へと連れて行かれた。

ちょっと不用心だったかな。


ザっザっザ…
「夜までここで、まつ」

そう言うとミレは適当な木の枝を持ち、地面に町の見取り図らしきものを描き始めた。

ザリザリジャリ…
「こことここが入るところ、ミレのかぞくは…ここか、ここに居る…とおもう」
「うん」



そうして2人して見取り図に見入っては、あれはこれはと繰り返す作戦会議。


「~~…だから、こことここへんにアイツらいて、入るのはだいじょうぶとおもう」

僕は頷きつつ考える。

敵は当たり前に人質が居るらしき場所を中心に配置されていた。
けどそれでも人質をなんとかしなければ、たった2人の僕たちに勝ちの目なんてない。

「ミレ、町の人で協力したすけてくれそうな人は?いない?」

「たすけてくれそうな人… 」
「うん。兵士…え~と、戦う人、じゃなくていいから」

もしそんな人が1人でも居れば、陽動でも何でも手札が増える。

何か案なり策なりを考えないと…





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