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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない
1-5 Do Say?Life
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sideヒロ
…
…
今にも閉じそうな眼…
…
…ン…
その隙間に潜り込む光。
それがカーテンの裾から漏れ出した陽光だと、固い床の感触が教えてくれた。
・
・
・
右腕をおデコに乗せて眼を閉じると、眠気と噛み合う瞼が心地良い。
窓越しの車の音。
クラクション。
・
・
・
それに階下の生活音。
世の中がとっくに起きている朝の雰囲気が、僕の意識を否応にも浮上させ始める。
すると思い出される昨日のあれこれ。
眠る前の徒労と疲労。
視界を覆う右腕をズラし見た時計の針は、8:41を指している。
そろそろ起きないとな。
原付も無くなったし…
((スゥゥーー…ふぅーー~~~~… ))
しかし…
今日はいつもみたく好き勝手動けない。
「……………… 」
部屋の中に誰かがいるって、こんなにも雰囲気変わるっけ?
なんて久しぶりに感じつつ静かに顔を動かして、ローテーブルの尾根向こうのベッドを眺める。
あれ、起きてる……よな。
仰向けの彼女は真っ直ぐと天井を見つめていた。
慣れない部屋でただ寝れなかったのか、僕より早く目が覚めただけなのか…
全く動く気配の無い彼女の、少し虚ろに見えるその横顔に、僕は瞬きすら忘れるほど見入ってしまった。
((ブブブブブブブブブッブブブブブブブブブッ))
床を振動させる携帯が9時5分前を報せる。
「………… 」
それでも彼女に反応は無い。
僕は静かに起き上がり洗面所へと向かった。
キュキュ…ジャーーーーーー
『パシャっ、パシャっ、パシャっ』
適度に冷たい水温が、肌から脳を覚まさせる。
フゥーー…
横に掛かっているタオルで顔を拭き終えると、隅に束ねられたままの彼女の服が目についた。
…
…
「…っ?」
血?
じゃないよな…
あの子の擦り傷はそんな酷くなかった。
パサ…
女性の物だからと申し訳ない気持ちになりつつも、置いてある服を手に取った。
腕辺りの泥汚れの他に、滲んでいるシミ?らしき跡が何箇所もある。
模様?
ふとシロが来ていた服を思い出す。
飛び散ったペイント…はカラフルだったな。
それと比べるとこれは模様じゃなくて汚れ…だよなぁ。
…
…
赤黒いシミの部分を近づける。
いや、まさかね。
とりあえず洗濯した方が良いよな。
こんだけ汚れてるし。
勝手に洗うことに迷いを感じた僕は、部屋の方を一瞬向いてみるもすぐに諦めた。
キュキュキュ…
『シャシャーザザーーーーーボバババババババババっ』
洗濯前の湯煎。
シャワーヘッドから勢いよく出るお湯に打たれる衣服は水分を吸い込むと、溶かされていく絵の具みたいな汚れを表面に浮かばせる。
それは乾いていた時とは違う鮮やかな色。
ある意味想像してた通りのその色に、僕は鼻血でも出していたのかもとそれ以上は深く考えないようにした。
バシャバシャっバシャバシャバシャっ
そしてしっかりと濯いでからすぐに洗濯機に放り込み、洗剤と漂白剤と柔軟剤をいつもの倍入れて回す。
ピッピッピッ
『ジャーーーーーー…ゴワンゴワンゴワン、ゴワンゴワンゴワン… 』
部屋に戻ってすぐ彼女の方を見るけれど、せかせかと動く僕に無反応のまま天井を見つめている。
「……ぁ」
"あのさ"
音にはならなかった言葉。
僕はそれを飲み込んで部屋を出た。
「ありがとうございました」
ウィーーーン
部屋から歩いて5分ちょっとのコンビニで、パンとオニギリと適当なお菓子を買った。
スタスタスタスタスタ…
「……はぁ。………はぁ」
穏やかな陽射しが照らす朝、住み慣れた近所を歩いている僕の呼吸は酸欠気味。
こびり付いて離れないあの横顔が、今にも消えてしまいそうな気がして。
スタスタスタっスタっスタっスタっタっタっタっ
そんな事を考え出すと一気に加速しだす不安。
抑えきれなくなったそれは僕を引っ張るように走らせた。
タっタっタっタっタっ
「ハァ、ハァ、ハァ… 」
((ちょっとちょっとぉっ、聞いた?))
((なになに?))
そしてゴミ出しや掃除をしている近所の人たちとすれ違う。
((あそこの家の犬死んだみたいよぉ))
えっ?
タっタっズザ…
僕は思わず立ち止まった。
((えぇっ、そうなのぉ?病気?))
((じゃなくてね、どうやら殺されたらしいわよ。警察を呼んで被害届を出したんですって))
殺…された?
頭の中には家を出る前の光景が脳裏に浮かぶ。
排水口に流れていくあの濁った水が…
スタ、スタ、スタ…
「ハ、ハハ…は」
まさかだって。
((けどあんな大きな犬が本当に殺されたの?))
そうだよ。
あんな小柄な女の子がどうやってピットブルを殺せるのさ。
((えぇ、みたいよ。だから犯人はもしかして毒入りの餌でも投げ込んだのかしらね?あの犬あちこちから苦情も出てたし… ))
((けど物騒ね、なんだか気持ち悪いわ… ))
集まった人たちを横目で見ると、恰幅のいいオバサンがこっちを見ていた。
スタ、スタ、スタスタスタ…
手に下げたコンビニ袋がガサガサと揺れ、さっきとは違う切迫感が僕の背中を押す。
タンっタンっタンっタンっタンっ
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァハァっ… 」
階段は二段飛ばしで駆け上がる。
ガチャ、『バタンっ』
タっタっタっタっ
廊下を大股で歩きリビングに行く。
「「………… 」」
部屋に入ると目が合った。
ベットの上で体育座りをしていたミレと。
そして "突然消えるわけ無いだろ?" と数分前の自分に言い放ちつつ、ちゃんと視界に存在する彼女に心底安堵してる自分も居た。
カサっ、ガサっカサ…
動き出した僕はローテーブルに買って来た物を出し並べ、ぼーっとこっちを見ている彼女を手招く。
そしてオニギリの包装を引き取って、のそりと動き出した彼女の方へと静かに置く。
「どうぞ」
「……… 」
すると躊躇いがちにそれを掴んだ彼女は、僕の対面に静かに腰掛けた。
パリっと海苔の破ける音がする。
まつ毛…長いな…
それにやっぱり瞳の色が薄い。
それと凄く綺麗な鼻筋だけど欧米人みたく彫りは深くないか…
もぐもぐもぐ…
う~~ん。
こうして見ると普通に日本人にも見える。
けどハーフにも見える。
互いの警戒心が薄らいだ今、女の子らしく両手でオニギリを持つ彼女を改めてよく見ると、切れ長の目元は充分に大人の雰囲気を纏っていた。
20歳は行ってる?
だったら安心なんだけどな。
パキキっ
「もぐもぐゴクン。これお茶、ティーね?」
そう言って蓋を開けたペットボトルを渡す?
「………… 」
けど言葉は全く通じていない。
投げた球の方を見ている様子がないから。
ふぅ…
今のところ判明した事実は一つか。
とりあえずめッッッちゃ美少女。
はい。
「…………… 」
そんな僕の視線に構うことなく、彼女は黙々と食べ続けていった。
「ナインティーン、OK?」
そしてお互い食べ終えた後僕は時計を指してから同じ絵を描き、19時まで戻らないことを伝える。
二度三度と繰り返すことで一応彼女は頷きを返してくれた。
う~ん、本当に分かったのかな?
細かなコミュニケーションが取れないのは本当に不便。
それからミレを指し玄関ドアを指して、部屋から出てはいけない事を伝える。
これも多分伝わったはずだ、うん。
あ~もう時間が足りないっ
もう少し早起きするべきだったか。
クソっ
「それじゃねっ」
時計の針に合わせて自然と急ぐ身体。
長く染み付いた習慣と戦う久し振りに慌しい午前。
『ガチャ、バタンっ』
ジャリ…カチャン。
タっタっタっタっタ…
だけど出勤前の憂鬱さを忘れてたのはいつ以来だろう?
職場に着いて暫くしてから、僕はふとそんな事を思った。
…
…
今にも閉じそうな眼…
…
…ン…
その隙間に潜り込む光。
それがカーテンの裾から漏れ出した陽光だと、固い床の感触が教えてくれた。
・
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右腕をおデコに乗せて眼を閉じると、眠気と噛み合う瞼が心地良い。
窓越しの車の音。
クラクション。
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それに階下の生活音。
世の中がとっくに起きている朝の雰囲気が、僕の意識を否応にも浮上させ始める。
すると思い出される昨日のあれこれ。
眠る前の徒労と疲労。
視界を覆う右腕をズラし見た時計の針は、8:41を指している。
そろそろ起きないとな。
原付も無くなったし…
((スゥゥーー…ふぅーー~~~~… ))
しかし…
今日はいつもみたく好き勝手動けない。
「……………… 」
部屋の中に誰かがいるって、こんなにも雰囲気変わるっけ?
なんて久しぶりに感じつつ静かに顔を動かして、ローテーブルの尾根向こうのベッドを眺める。
あれ、起きてる……よな。
仰向けの彼女は真っ直ぐと天井を見つめていた。
慣れない部屋でただ寝れなかったのか、僕より早く目が覚めただけなのか…
全く動く気配の無い彼女の、少し虚ろに見えるその横顔に、僕は瞬きすら忘れるほど見入ってしまった。
((ブブブブブブブブブッブブブブブブブブブッ))
床を振動させる携帯が9時5分前を報せる。
「………… 」
それでも彼女に反応は無い。
僕は静かに起き上がり洗面所へと向かった。
キュキュ…ジャーーーーーー
『パシャっ、パシャっ、パシャっ』
適度に冷たい水温が、肌から脳を覚まさせる。
フゥーー…
横に掛かっているタオルで顔を拭き終えると、隅に束ねられたままの彼女の服が目についた。
…
…
「…っ?」
血?
じゃないよな…
あの子の擦り傷はそんな酷くなかった。
パサ…
女性の物だからと申し訳ない気持ちになりつつも、置いてある服を手に取った。
腕辺りの泥汚れの他に、滲んでいるシミ?らしき跡が何箇所もある。
模様?
ふとシロが来ていた服を思い出す。
飛び散ったペイント…はカラフルだったな。
それと比べるとこれは模様じゃなくて汚れ…だよなぁ。
…
…
赤黒いシミの部分を近づける。
いや、まさかね。
とりあえず洗濯した方が良いよな。
こんだけ汚れてるし。
勝手に洗うことに迷いを感じた僕は、部屋の方を一瞬向いてみるもすぐに諦めた。
キュキュキュ…
『シャシャーザザーーーーーボバババババババババっ』
洗濯前の湯煎。
シャワーヘッドから勢いよく出るお湯に打たれる衣服は水分を吸い込むと、溶かされていく絵の具みたいな汚れを表面に浮かばせる。
それは乾いていた時とは違う鮮やかな色。
ある意味想像してた通りのその色に、僕は鼻血でも出していたのかもとそれ以上は深く考えないようにした。
バシャバシャっバシャバシャバシャっ
そしてしっかりと濯いでからすぐに洗濯機に放り込み、洗剤と漂白剤と柔軟剤をいつもの倍入れて回す。
ピッピッピッ
『ジャーーーーーー…ゴワンゴワンゴワン、ゴワンゴワンゴワン… 』
部屋に戻ってすぐ彼女の方を見るけれど、せかせかと動く僕に無反応のまま天井を見つめている。
「……ぁ」
"あのさ"
音にはならなかった言葉。
僕はそれを飲み込んで部屋を出た。
「ありがとうございました」
ウィーーーン
部屋から歩いて5分ちょっとのコンビニで、パンとオニギリと適当なお菓子を買った。
スタスタスタスタスタ…
「……はぁ。………はぁ」
穏やかな陽射しが照らす朝、住み慣れた近所を歩いている僕の呼吸は酸欠気味。
こびり付いて離れないあの横顔が、今にも消えてしまいそうな気がして。
スタスタスタっスタっスタっスタっタっタっタっ
そんな事を考え出すと一気に加速しだす不安。
抑えきれなくなったそれは僕を引っ張るように走らせた。
タっタっタっタっタっ
「ハァ、ハァ、ハァ… 」
((ちょっとちょっとぉっ、聞いた?))
((なになに?))
そしてゴミ出しや掃除をしている近所の人たちとすれ違う。
((あそこの家の犬死んだみたいよぉ))
えっ?
タっタっズザ…
僕は思わず立ち止まった。
((えぇっ、そうなのぉ?病気?))
((じゃなくてね、どうやら殺されたらしいわよ。警察を呼んで被害届を出したんですって))
殺…された?
頭の中には家を出る前の光景が脳裏に浮かぶ。
排水口に流れていくあの濁った水が…
スタ、スタ、スタ…
「ハ、ハハ…は」
まさかだって。
((けどあんな大きな犬が本当に殺されたの?))
そうだよ。
あんな小柄な女の子がどうやってピットブルを殺せるのさ。
((えぇ、みたいよ。だから犯人はもしかして毒入りの餌でも投げ込んだのかしらね?あの犬あちこちから苦情も出てたし… ))
((けど物騒ね、なんだか気持ち悪いわ… ))
集まった人たちを横目で見ると、恰幅のいいオバサンがこっちを見ていた。
スタ、スタ、スタスタスタ…
手に下げたコンビニ袋がガサガサと揺れ、さっきとは違う切迫感が僕の背中を押す。
タンっタンっタンっタンっタンっ
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァハァっ… 」
階段は二段飛ばしで駆け上がる。
ガチャ、『バタンっ』
タっタっタっタっ
廊下を大股で歩きリビングに行く。
「「………… 」」
部屋に入ると目が合った。
ベットの上で体育座りをしていたミレと。
そして "突然消えるわけ無いだろ?" と数分前の自分に言い放ちつつ、ちゃんと視界に存在する彼女に心底安堵してる自分も居た。
カサっ、ガサっカサ…
動き出した僕はローテーブルに買って来た物を出し並べ、ぼーっとこっちを見ている彼女を手招く。
そしてオニギリの包装を引き取って、のそりと動き出した彼女の方へと静かに置く。
「どうぞ」
「……… 」
すると躊躇いがちにそれを掴んだ彼女は、僕の対面に静かに腰掛けた。
パリっと海苔の破ける音がする。
まつ毛…長いな…
それにやっぱり瞳の色が薄い。
それと凄く綺麗な鼻筋だけど欧米人みたく彫りは深くないか…
もぐもぐもぐ…
う~~ん。
こうして見ると普通に日本人にも見える。
けどハーフにも見える。
互いの警戒心が薄らいだ今、女の子らしく両手でオニギリを持つ彼女を改めてよく見ると、切れ長の目元は充分に大人の雰囲気を纏っていた。
20歳は行ってる?
だったら安心なんだけどな。
パキキっ
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そう言って蓋を開けたペットボトルを渡す?
「………… 」
けど言葉は全く通じていない。
投げた球の方を見ている様子がないから。
ふぅ…
今のところ判明した事実は一つか。
とりあえずめッッッちゃ美少女。
はい。
「…………… 」
そんな僕の視線に構うことなく、彼女は黙々と食べ続けていった。
「ナインティーン、OK?」
そしてお互い食べ終えた後僕は時計を指してから同じ絵を描き、19時まで戻らないことを伝える。
二度三度と繰り返すことで一応彼女は頷きを返してくれた。
う~ん、本当に分かったのかな?
細かなコミュニケーションが取れないのは本当に不便。
それからミレを指し玄関ドアを指して、部屋から出てはいけない事を伝える。
これも多分伝わったはずだ、うん。
あ~もう時間が足りないっ
もう少し早起きするべきだったか。
クソっ
「それじゃねっ」
時計の針に合わせて自然と急ぐ身体。
長く染み付いた習慣と戦う久し振りに慌しい午前。
『ガチャ、バタンっ』
ジャリ…カチャン。
タっタっタっタっタ…
だけど出勤前の憂鬱さを忘れてたのはいつ以来だろう?
職場に着いて暫くしてから、僕はふとそんな事を思った。
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