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プロローグ

彼の一日の始まりは朝からである!

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目覚まし時計が鳴る。
伸ばされる手。
指先はややさまよった後に、目覚ましのアラームを止めるのに成功した。
あくびが二回連続で出る。
目をこすった後、彼はベッドから出た。
目覚まし時計に忠実な人間というのは、
それだけで三文の得をするのかもしれない。
いや、別段早起きではないから得はしていないのかもしれないが…。
とにかく、相馬宗一そうまそういちという高校生は、特に朝弱いわけでもなく、目覚ましが鳴れば起きられる少年だった。
生活態度は普通。成績は普通。遅刻もよほどの事情がなければ滅多にしない。
格好も性格もすべてが平凡…。
彼を扱おうとする人間…。
たとえば、教師や親などにしてみれば扱いやすい人間だろう。
趣味と言えば、パソコンくらいだろうか。
今時の少年らしく、様々な電子機器を使いこなし、動画を見たり、ゲームをしたりである。
ただ、今一歩、踏み出していることがあるとすれば、そのためのツールであるパソコンを自作してしまうことくらいであろう。
暇と資金に余裕があるときはパソコンのパーツを扱っている店に行き、自分のパソコンを強化したり、ネットでそのための情報を収集したりもする。
それ自体、パソコンに疎いものや完成品のパソコンを購入して使用している者たちから言わせれば、「宗一そういちはすげーな!」といった評価である。
しかし、同じような趣味を持つ人間の中で比べてしまえば、やはり、「普通」といった評価の域を出なかった。
部屋のカーテンを開け、太陽の光に目を痛くした。
部屋を出て、いつも通りシャワーを軽く浴びて身支度を整える。
目が覚めたところでテレビを付けて、たまたま流れていた天気予報を聞く。
食事は同居している従姉妹と当番制であり、今日は従姉妹の番であった。
従姉妹は宗一そういちよりも八歳は年上であり、公務員をしていた。
どういう仕事なのかは以前に説明して貰ったことがあったが、なんだか、難しい内容だった。そんなことがあるので、宗一そういちは彼女の仕事を「公務員」という一言で解釈している。
そこそこ美人だとは思うし、それなりにもてそうだが、独身だし、彼氏の話も聞いたことがない。
とにかく、忙しそうな女性で、残業は当たり前であり、たまには家に帰らないこともあった。
宗一そういちの実の両親は昔々に事故でなくなっている。
それ以来、従姉妹夫妻に引き取られ、育てられた。
彼女は姉のような存在であるし、彼女にとっての宗一そういちは弟のような存在であった。
その従姉妹がこのマンションを購入したのが、三年前。
宗一そういちはそれまで暮らしていた地元から離れた高校に進学することになり、こうして高校に近い従姉妹のマンションで居候している。
居候生活も一年が経過し、この間、進級して高校二年生になった。
真新しい学校という環境に慣れない一年生の時ほどの緊張感はなく、学校を去らなければならない、卒業を控えた三年生ほど慌ただしくもない。
二年生という中間期をダラダラとではないが、やはり「普通」に宗一そういちは暮らしていた。
従姉妹が作ってくれているであろう朝食。
そろそろありついておこうとテーブルへと向かった。
用意されていた食べ物を見て、宗一そういちはため息をつく。
「またか…」
半ば、呆れるよりは諦めた顔つき。
テーブルの上にはあんパンが一つとキャンディチーズが三個。
手紙が添えてあり、「ごめん! 昨日は食材の買い出しが出来なかった!」と書いてある。
まあ、今までに何回もあったことだ。
当番制は敷いているものの、個人の事情によりである。
自分でなにか作ろうかとも思うが、手紙の内容を思い出す。
食材がない。
それに感づいたとき、「仕方ないが、諦めよう」という結論が導き出された。
キャンディチーズを用意している辺り、一応、栄養にも気を遣っているつもりなのだ。
彼女がそういう性格なのも自分は理解している。
一日に三食はきっちり食べる主義だが、昼の学食までは我慢することにした。
とりあえず、あんパンは食べる。
チーズはどうしようか迷ったが、やめた。
お腹が減ったら後で食べよう。
そう考えて、制服のポケットに押し込んだ。
時間もちょうど良くなってきた。
今日もいつもの一日が始まる。
少なくとも、方丈学園二年A組、相馬宗一そうまそういちはそう思っていた。
いや、思い込んでいたのだ…。
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