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第9話 星菓子の花

4 魔法の種

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 部屋に戻り、世話せわがかりたちに朝の挨拶あいさつをしたあと、るりなみは南のとうのゆめづきをたずねていった。

 授業じゅぎょう用事ようじいそがしいのではないか、会えたとしても、大人たちが周りにいて話しづらいのではないか……。
 そんなことも思っていたが、屋上おくじょう庭園ていえんから南の塔への出入り口に、ちょうどゆめづきが立っているところに行きあった。

 ゆめづきは、雪のもった庭園をながめていた。
 るりなみは手をりながら、庭園沿いのわた廊下ろうかけていく。

「ゆめづき、おはよう!」
「すごい景色けしきですね、兄様にいさま。でも、なにかあったのですか?」

 ゆめづきは目ざとく、るりなみがにぎっている布袋ぬのぶくろに気づいたようだった。

 るりなみは、早朝そうちょう東屋あずまやで会った白いかみの少年のこと、その演奏えんそうやこのたねのことを、ひととおり話した。
 ゆめづきは目を丸くした。

「その白い髪の人から、もらったものなのですね?」
「うん、それで、君の時計のことを……」

 時計のねじを種のそばでまくと、植物しょくぶつ栄養えいようになるらしい、という話も、るりなみはなぞの少年の説明せつめいを思い出しながらつたえた。

 ゆめづきはしばらく考えこむように、時計をかくし持っているらしいむねの真ん中に手をあてていた。

「そうですか……この時計をくれたのも、ふしぎな楽器がっきを持った白い髪のかたでした。おそらく、兄様に種をくれたのと同じ方でしょう。でもその人は、時々ときどき王宮おうきゅうにやってくると言ったんですね? 兄様は、今までにその人を見かけたことはありましたか?」

 ううん、とるりなみは首を横に振る。

「見かけていたら、忘れないような人だったよ。たび魔法まほう使つかいなのかな、って」
「ええ、おそらく、そうなのでしょうね。じゃあそれは、魔法の種ですね?」

 ゆめづきの目から、いぶかしむような色は消えていた。
 その目は、るりなみの手の中の星形ほしがたの種を見つめて、きらきらとかがやいた。


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