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[第2部] 第8話 夜めぐりの祭り
10 夜に歌を響かせて
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光の矢印に導かれて、るりなみとゆめづきは、小さな庭のある家々が立ち並ぶ区画へと歩いていった。
夜めぐりの祭りのあいだ、光をともして歩く子どもたちを、街の人々はなるべく外には出ずに見守るのがならわしだった。
夜警の大人と、祭りを取りしきる魔法使いが道のあちらこちらに立っているほかは、出歩いているのは子どもたちだけ──月と星の化身、とされる小さな二人連れたちだけだ。
すっかり夜になって青く沈んだ王都の街に、子どもたちの杖の先の光と、彼らがともしていった灯籠の灯りが、ぽう、ぽう、と浮かび上がって見えた。夜の海に、光るくらげたちが踊っているかのように。
ひとつ向こうの通りをめぐる子どもたちの歌声が、風にのって、るりなみたちのもとへと届いてくる。
天にそびえる暦の木
今日は最後のひとひらが
はらりと地上に落ちてくる……
月の化身、星の化身の子どもたちは、歌いながら灯りをともしてまわる、というのもならわしだった。歌われるのは、さまざまな年越しの歌だ。
「私たちも、歌ってみません?」
半歩だけ先を歩くゆめづきが、少しはにかんだ顔でるりなみを振り向いた。
「うん、なんの歌がいいかなぁ」
「私、年越しの歌なら、これが好きです」
ゆめづきは杖を指揮棒のように軽く振りながら、口ずさみはじめる。
今宵の月は時の使者
銀河の星は夢の使者
みんな廻って廻りゆく
今宵は銀河も廻りゆく……
気恥ずかしさもあってか、ゆめづきは大きな声で歌ったわけではない。
けれどその澄んだ声は綺麗に通って、夜の街に響いた。
その歌が聴こえたからか、立ち並ぶ家の二階や三階のカーテンが開いて、そっと見守ってくれるひとの様子も見えた。
るりなみもいっしょになって、ゆめづきの歌を追うように輪唱をした。
今宵の月は銀の使徒
銀河の星は金の使徒
みんな廻って廻りゆく
今宵は年が廻りゆく……
そうして歩いていくうちに、ある通りにさしかかると、るりなみの杖の矢印の光がちかちかとした。
矢印は、通りのはじめの家を指し示した。
るりなみとゆめづきは顔を見合わせ、小さな庭の奥の玄関に、灯籠がさげられているのを目にとめた。
いくつかの踏み石が並べられた庭に入って、家の扉の前で、二人は灯籠を見あげた。
「最初は、私がやってみますね」
小声でゆめづきが言う。
るりなみも小さく「うん」とうなずいた。
ゆめづきが杖を伸ばし、光の宿ったその杖先で、ガラスの灯籠を、こん、と叩いた。
わぁん……、と鐘の音のように調和した音が響く。
それとともに、揺れる灯籠の中に、優しい色の光がともった。
「わぁ……!」
るりなみは思わず、小さく声をあげる。
ゆめづきも嬉しそうに、揺れる灯籠をしばらく見てから、「さぁ、次は」と言った。
二人の杖の先の光は、また矢印の形になり、隣の家を指し示した。
* * *
夜めぐりの祭りのあいだ、光をともして歩く子どもたちを、街の人々はなるべく外には出ずに見守るのがならわしだった。
夜警の大人と、祭りを取りしきる魔法使いが道のあちらこちらに立っているほかは、出歩いているのは子どもたちだけ──月と星の化身、とされる小さな二人連れたちだけだ。
すっかり夜になって青く沈んだ王都の街に、子どもたちの杖の先の光と、彼らがともしていった灯籠の灯りが、ぽう、ぽう、と浮かび上がって見えた。夜の海に、光るくらげたちが踊っているかのように。
ひとつ向こうの通りをめぐる子どもたちの歌声が、風にのって、るりなみたちのもとへと届いてくる。
天にそびえる暦の木
今日は最後のひとひらが
はらりと地上に落ちてくる……
月の化身、星の化身の子どもたちは、歌いながら灯りをともしてまわる、というのもならわしだった。歌われるのは、さまざまな年越しの歌だ。
「私たちも、歌ってみません?」
半歩だけ先を歩くゆめづきが、少しはにかんだ顔でるりなみを振り向いた。
「うん、なんの歌がいいかなぁ」
「私、年越しの歌なら、これが好きです」
ゆめづきは杖を指揮棒のように軽く振りながら、口ずさみはじめる。
今宵の月は時の使者
銀河の星は夢の使者
みんな廻って廻りゆく
今宵は銀河も廻りゆく……
気恥ずかしさもあってか、ゆめづきは大きな声で歌ったわけではない。
けれどその澄んだ声は綺麗に通って、夜の街に響いた。
その歌が聴こえたからか、立ち並ぶ家の二階や三階のカーテンが開いて、そっと見守ってくれるひとの様子も見えた。
るりなみもいっしょになって、ゆめづきの歌を追うように輪唱をした。
今宵の月は銀の使徒
銀河の星は金の使徒
みんな廻って廻りゆく
今宵は年が廻りゆく……
そうして歩いていくうちに、ある通りにさしかかると、るりなみの杖の矢印の光がちかちかとした。
矢印は、通りのはじめの家を指し示した。
るりなみとゆめづきは顔を見合わせ、小さな庭の奥の玄関に、灯籠がさげられているのを目にとめた。
いくつかの踏み石が並べられた庭に入って、家の扉の前で、二人は灯籠を見あげた。
「最初は、私がやってみますね」
小声でゆめづきが言う。
るりなみも小さく「うん」とうなずいた。
ゆめづきが杖を伸ばし、光の宿ったその杖先で、ガラスの灯籠を、こん、と叩いた。
わぁん……、と鐘の音のように調和した音が響く。
それとともに、揺れる灯籠の中に、優しい色の光がともった。
「わぁ……!」
るりなみは思わず、小さく声をあげる。
ゆめづきも嬉しそうに、揺れる灯籠をしばらく見てから、「さぁ、次は」と言った。
二人の杖の先の光は、また矢印の形になり、隣の家を指し示した。
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