ユイユメ国ゆめがたり【完結】

[番外編] 第７話 虹の王冠

４ 七色の精霊

　ゆいりは「少し、いいですか」と言いながら、指先ゆびさきをくるりとさせて、じょうろの口を指さした。

　じょうろの中に、こぽこぽと音を立てながら、水が満みたされていく──ゆいりが心の中で思い描えがいて、口には出さずに呪文じゅもんを唱となえたとおりに。

　るりなみが「わぁ」と声をあげるうちに、鉢はち植うえの草花にも、ゆいりは魔法をかけた。
　植物たちはぱっと弾はじけるように、花びらや葉をいっぱいに広げ、もっともっとと水を待つ状態じょうたいになった。

　それから、ゆいりは助言じょげんをする。

「水をまくときに、心で思い描いてください。夢で見たように、虹にじがかかるところを。それを、見えている目の前の世界に、胸を差さし出すようにして『映うつし出す』のです」
「胸で……映し出す？」
「胸の奥に湧わく力で、そっと、心の光景こうけいを押おし出すようにするのですよ」

　るりなみは「やってみる」と言って、じょうろを両手で握にぎりなおし、胸の前に構かまえた。胸の奥の光景こうけいをたしかめているのが、ゆいりにも見て取れる。

　それからゆっくりと、じょうろの水をまきはじめた。

「わぁ！」

　るりなみの小さな庭いっぱいに、じょうろから降ふる水の雨と遊ぶようにして、いくつもの虹がかかっていった。

　その小こぶりな七色の輪わの周りに、そよ風に乗ってきたものが──心を持つものが、すっと溶とけ込むように宿やどったのが、ゆいりにはわかった。

　心を持つものを宿したとたん、虹の輪はわっと広がって、球きゅうのようにきらめいた。それは一瞬いっしゅんのことだったが、るりなみにもしっかりと見えたようだった。

　虹の精霊せいれいが、そこにいる。

　遊び踊おどる姿すがたこそ見えないが、喜よろこんでいるのが伝つたわわってくる。

　水の雨を降ふらしきったあとも、小さな虹たちはその場に残って輝かがやいていた。

　るりなみはそれをじっと見つめている。
　精霊の声に、耳を澄すましているようでもあった。

　その姿を見ながらゆいりは、心の芯しんがあたたかくなるのを味わっていた。


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