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第6話 影の国

11 星の浜辺にて

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 波の音と水の冷たさに、ゆいりは目を覚ました。

 倒れた体の半分に、水が打ちせては引いていた。顔は砂にもれている。
 目をあげると、満天まんてんの星空が目に入った。

 かげの国にまよんでからずっと感じていた、体の半分がそがれたような不可解ふかかいな感じは消えていた。やっと自分のすべてが、自分のなかにもどってきた感じがする。

 横を見ると、るりなみがたおれていた。

「るりなみさま……」

 そうだ、うしなわれていた自分の半分は、るりなみにここまでれてきてもらった気がする。るりなみが影の国まで来てくれて、助けてくれたのだ……。

 ゆいりはるりなみを助け起こすと、すう、すうと息をしているのを確認かくにんした。
 だが、意識いしきは失っているままだ。

 ゆいりはるりなみをかかえ上げると、波打ちぎわから砂浜のなかほどまで運んでいった。

 砂は白く、あわく光っていた。そのあいまあいまに、星の形をした大きめのかたまりがあり、それらの星は発光はっこうするいきもののようにちかちかと光っていた。

 星のいくつかを手に取って、ゆいりはしげしげとながめる。
 貝のような素材そざいだ。それぞれに形がちがっている。

「これは……この中に、世界が」

 ひとりそうつぶやくと、「そうじゃ」と返事が返ってきた。
 ゆいりは顔をあげて声のぬしを見つけた。

 見知った老人が、いつのまにかゆいりのとなりに立っていた。

「影の国は、楽しめたかの?」

 ゆいりと合わせた目を、三日月のように細めて、老人はそう問いかけてきた。

「先生……まったく、なにを考えていたんですか」

 老人に敵意てきいがないことをたしかめてから、ゆいりはそう問いかえした。

「ひとりでくのはさびしくての。ちょこっと、いたずらさせてもらったというわけだ」
「ちょこっといたずら、ではすみませんよ。るりなみ様が助けに来てくださったからよかったものの」
「そのるりなみというぼうやだが」

 老人は寝入ったままのるりなみをしたしげなまなざしで見下ろした。

「影の国の深奥しんおうで、よくがんばったものだ。おさな姿すがたになって迷子になっていたおまえさんの影を、しっかりつかまえていてね」
「私の影を……るりなみ様が」

 ゆいりはるりなみを見つめた。
 なにがあったのか……るりなみが目覚めたら、たずねてみたい。話してくれるだろうか。

「さて」

 老人が星空を見あげた。

「わしはあの月にでも探検たんけんに行こうかの」

 老人はゆいりを見て、にっ、と笑うと、体を自由にちぢみさせて、星空のほうへぐんぐんと伸びていった。

「先生!」

 老人の顔がもう見えなくなってしまった頃、引き伸ばされたゴムが縮むように、老人の足がんでいった。

 かっかっか、という高笑たかわらいが、夜空からひびいてきた。

「ゆいり、るりなみ、幸運こううんを!」

 そんな声がしたかと思うと、老人の姿はかき消えてしまった。
 わりに雲が途切とぎれ、大きな満月が、星空に姿をあらわした。


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