16 / 126
第4話 月を編む
1 玉座の間
しおりを挟む
ユイユメ王国の空には、ひとつの月が、満ち欠けをくりかえしてめぐっています。
昼間は、海辺の砂のように白く淡く。夜は、蜂蜜のような色で輝いて。
その月が、どういうわけで満ち欠けをしているのか、知る者は多くありません。
十歳になる王子るりなみは、そんな月のふしぎな秘密に触れることになるのです──。
* * *
ユイユメ王国の王宮、国王の玉座の間。
入り口の近くには何人もの臣下が並び、奥の玉座には国王が座っている。
玉座の周りには、星々をかたどったあかりが吊るされていて、国王もまた、星々の飾りのついた王冠を頭にかぶっている。
そして、ひとりの男が、国王の前でかしこまっていた。
「それでそなたは、月を作れなくなってしまったと申すのだな」
若い国王「あめかみ」は男に同情するように、眉を寄せながらそう言った。
男はなにかの職人のような身なりで、右腕に包帯をまいて肩から吊っていた。
この怪我のせいで仕事ができなくなった、と男は国王に訴えていた。
その仕事というのが……。
「そもそも、わたくしどもが夜空の月を作っているということは、一般の人々には厳重に秘密にされておりまして」
「ああ、私も〝月の職人〟にこうして会うのははじめてだよ」
おそれいります、と月の職人の男は礼をして、困り顔になって訴えた。
「月は、新月の次の日から毎日、決まった時刻に作るものなのです。次の新月までの月は、作りためておいたものがあります。ですが、わたくしが新しく月を作れなくなってしまって……放っておけば、次の新月より先、空から月がなくなってしまいます」
「月がなくなる……それはおおごとだ」
国王はそうあいづちを打ってから、問いかけた。
「だがわざわざ王宮を訪ねてきたというのは、なにかわけがあるのだろう?」
月の職人はしばらく迷ったあと、決心したように国王を見つめた。
「大変あつかましいお願いかとは思うのですが……、王家の方の中に、しばらくの間、わたくしの代わりに、月を作ることのできる方がいらっしゃらないかと思いまして」
「ほう」
国王は興味をひかれたように玉座に座り直した。
月の職人は続ける。
「さかのぼれば、月を作る仕事は、もともと王家の方の得意とするところであったと言われております。誰でもできる仕事ではないのです。月の加護がやどった生まれの者でなくては。ですが王家の一族には、そういう方がお生まれになることがあると聞きます」
「なるほど、おもしろい」
国王は愉快そうに微笑み、入り口近くの臣下たちの中から、ひとりの宮廷魔術師を呼び寄せた。
王子るりなみの教育係でもある青年、ゆいりである。
昼間は、海辺の砂のように白く淡く。夜は、蜂蜜のような色で輝いて。
その月が、どういうわけで満ち欠けをしているのか、知る者は多くありません。
十歳になる王子るりなみは、そんな月のふしぎな秘密に触れることになるのです──。
* * *
ユイユメ王国の王宮、国王の玉座の間。
入り口の近くには何人もの臣下が並び、奥の玉座には国王が座っている。
玉座の周りには、星々をかたどったあかりが吊るされていて、国王もまた、星々の飾りのついた王冠を頭にかぶっている。
そして、ひとりの男が、国王の前でかしこまっていた。
「それでそなたは、月を作れなくなってしまったと申すのだな」
若い国王「あめかみ」は男に同情するように、眉を寄せながらそう言った。
男はなにかの職人のような身なりで、右腕に包帯をまいて肩から吊っていた。
この怪我のせいで仕事ができなくなった、と男は国王に訴えていた。
その仕事というのが……。
「そもそも、わたくしどもが夜空の月を作っているということは、一般の人々には厳重に秘密にされておりまして」
「ああ、私も〝月の職人〟にこうして会うのははじめてだよ」
おそれいります、と月の職人の男は礼をして、困り顔になって訴えた。
「月は、新月の次の日から毎日、決まった時刻に作るものなのです。次の新月までの月は、作りためておいたものがあります。ですが、わたくしが新しく月を作れなくなってしまって……放っておけば、次の新月より先、空から月がなくなってしまいます」
「月がなくなる……それはおおごとだ」
国王はそうあいづちを打ってから、問いかけた。
「だがわざわざ王宮を訪ねてきたというのは、なにかわけがあるのだろう?」
月の職人はしばらく迷ったあと、決心したように国王を見つめた。
「大変あつかましいお願いかとは思うのですが……、王家の方の中に、しばらくの間、わたくしの代わりに、月を作ることのできる方がいらっしゃらないかと思いまして」
「ほう」
国王は興味をひかれたように玉座に座り直した。
月の職人は続ける。
「さかのぼれば、月を作る仕事は、もともと王家の方の得意とするところであったと言われております。誰でもできる仕事ではないのです。月の加護がやどった生まれの者でなくては。ですが王家の一族には、そういう方がお生まれになることがあると聞きます」
「なるほど、おもしろい」
国王は愉快そうに微笑み、入り口近くの臣下たちの中から、ひとりの宮廷魔術師を呼び寄せた。
王子るりなみの教育係でもある青年、ゆいりである。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
妻の死で思い知らされました。
あとさん♪
恋愛
外交先で妻の突然の訃報を聞いたジュリアン・カレイジャス公爵。
急ぎ帰国した彼が目にしたのは、淡々と葬儀の支度をし弔問客たちの対応をする子どもらの姿だった。
「おまえたちは母親の死を悲しいとは思わないのか⁈」
ジュリアンは知らなかった。
愛妻クリスティアナと子どもたちがどのように生活していたのか。
多忙のジュリアンは気がついていなかったし、見ようともしなかったのだ……。
そしてクリスティアナの本心は——。
※全十二話。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください
※時代考証とか野暮は言わないお約束
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第三弾。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる