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第3話 風の旅立ち
3 闇色の風
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ぶわっ、と嵐のような激しい風が、山の上のほうから吹きおりてきた。
荒れ狂うような風は枝を遠くへ飛ばしてしまうと、意志があるかのように、もう一度こちらへ向けて吹きあげてきた。
風の子の風じゃない!
るりなみはろうそくの火を守ってしゃがみこんだまま、息をのんだ。
新しく現れた激しい風は、ちっぽけなつむじ風のような風の子を狙うかのように吹き荒れる。
老木の近くの宙空に、ぱっ、と風の子が人の姿になって浮かんだ。暴風にあらがうように手を振り回す。
「な、なんなんだ! あっちへ行け!」
だが、荒れた風は風の子の周りで吹きすさび、風の子をめちゃくちゃに揺さぶった。
そして、暗い闇の底から響くような声がした。
「……風の子よ……そなたを……闇の色に染めてやろう……!」
荒れた風が、さっ、と暗い色に染まっていった。
風の中にインクがこぼされたかのように、荒れた風は黒い風になっていく。
風の子が悲鳴をあげた。
そのまま黒い風は風の子を取り巻いて、連れ去ってしまおうとした。
「その子を連れて行かないで!」
るりなみはろうそくを守ることも忘れて、大声で叫んだ。
すると……。
るりなみの手の中で、ろうそくの炎が、一気に大きく燃え上がった。
そしてその炎から、まばゆい光が、わっ、と広がっていった。
あたたかな光が、小道も、老木も、黒い風も、あたりのすべてを包みこんでしまう。
「……おおぉぉぉ!」
黒い風が苦しげにうめく。
子どもの姿をした風の子が、その隙をついて、るりなみの背後に逃げこんできた。
一面の光の中で、ぶわり、と最後の波を立てたかと思うと、黒い風は山の上へと去っていった。
「これは……心の灯じゃ……」
光に包まれた老木が、しみじみとつぶやくのが聞こえた。
光はゆっくりと薄れていき、るりなみの持つろうそくの炎ももとの大きさに戻った。
風の子は泣きじゃくっていた。
「大丈夫、もう怖くないよ」
るりなみはそっと声をかける。
風の子はしゃくりあげながら、ぽつりぽつりと言った。
「あいつ……本物の『悪しき風』だった……怖かったよ……心がわぁっ、と闇に包まれて……」
るりなみは、風の子が泣きやむまで、そばにたたずんでいた。頭をなでようと手を伸ばしてみたが、触れることはできなかった。
それでも風の子はるりなみの手を握り返すようにして、「ありがとう」と言った。
「もう、いたずらはやめるよ。俺、そろそろ行くね」
「あ、待って!」
離れていこうとする風の子を、るりなみは呼び止めた。
「僕の名前はるりなみ。ねぇ、友達になろう!」
「友達に……?」
風の子は目をぱちぱちとさせたものの、ひゅん、と風の姿になり、飛び去ってしまった。
「あ、いっちゃった……」
るりなみは少し残念に思いながらも、仕方なしにろうそくを抱え直した。
ところが、るりなみが森の奥を目指して歩き始めたそのとき。
「るりなみ!」
声がしたかと思うと、るりなみのうしろから、ひゅっ、と風が通り抜けていった。
「友達だからな!」
風は、るりなみの返事も聞かずに、また去っていった。
だがるりなみは、とてもあたたかな気持ちになって、微笑んだ。
* * *
荒れ狂うような風は枝を遠くへ飛ばしてしまうと、意志があるかのように、もう一度こちらへ向けて吹きあげてきた。
風の子の風じゃない!
るりなみはろうそくの火を守ってしゃがみこんだまま、息をのんだ。
新しく現れた激しい風は、ちっぽけなつむじ風のような風の子を狙うかのように吹き荒れる。
老木の近くの宙空に、ぱっ、と風の子が人の姿になって浮かんだ。暴風にあらがうように手を振り回す。
「な、なんなんだ! あっちへ行け!」
だが、荒れた風は風の子の周りで吹きすさび、風の子をめちゃくちゃに揺さぶった。
そして、暗い闇の底から響くような声がした。
「……風の子よ……そなたを……闇の色に染めてやろう……!」
荒れた風が、さっ、と暗い色に染まっていった。
風の中にインクがこぼされたかのように、荒れた風は黒い風になっていく。
風の子が悲鳴をあげた。
そのまま黒い風は風の子を取り巻いて、連れ去ってしまおうとした。
「その子を連れて行かないで!」
るりなみはろうそくを守ることも忘れて、大声で叫んだ。
すると……。
るりなみの手の中で、ろうそくの炎が、一気に大きく燃え上がった。
そしてその炎から、まばゆい光が、わっ、と広がっていった。
あたたかな光が、小道も、老木も、黒い風も、あたりのすべてを包みこんでしまう。
「……おおぉぉぉ!」
黒い風が苦しげにうめく。
子どもの姿をした風の子が、その隙をついて、るりなみの背後に逃げこんできた。
一面の光の中で、ぶわり、と最後の波を立てたかと思うと、黒い風は山の上へと去っていった。
「これは……心の灯じゃ……」
光に包まれた老木が、しみじみとつぶやくのが聞こえた。
光はゆっくりと薄れていき、るりなみの持つろうそくの炎ももとの大きさに戻った。
風の子は泣きじゃくっていた。
「大丈夫、もう怖くないよ」
るりなみはそっと声をかける。
風の子はしゃくりあげながら、ぽつりぽつりと言った。
「あいつ……本物の『悪しき風』だった……怖かったよ……心がわぁっ、と闇に包まれて……」
るりなみは、風の子が泣きやむまで、そばにたたずんでいた。頭をなでようと手を伸ばしてみたが、触れることはできなかった。
それでも風の子はるりなみの手を握り返すようにして、「ありがとう」と言った。
「もう、いたずらはやめるよ。俺、そろそろ行くね」
「あ、待って!」
離れていこうとする風の子を、るりなみは呼び止めた。
「僕の名前はるりなみ。ねぇ、友達になろう!」
「友達に……?」
風の子は目をぱちぱちとさせたものの、ひゅん、と風の姿になり、飛び去ってしまった。
「あ、いっちゃった……」
るりなみは少し残念に思いながらも、仕方なしにろうそくを抱え直した。
ところが、るりなみが森の奥を目指して歩き始めたそのとき。
「るりなみ!」
声がしたかと思うと、るりなみのうしろから、ひゅっ、と風が通り抜けていった。
「友達だからな!」
風は、るりなみの返事も聞かずに、また去っていった。
だがるりなみは、とてもあたたかな気持ちになって、微笑んだ。
* * *
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