Hotひと息

遠藤まめ

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1章 出会いと疲れ

【11話】疲れた人と疲れた先輩

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 空の疲れもとい悩みを取ることに失敗した拓也は残念さよりも怒りのほうが強かった。
一人で抱え込み誰にも助けを求めない。そのくせ誰よりも悩んでいる。

 いつものように軽食を作ったり仕込みをしたり洗い物をしたりと最初の頃よりも圧倒的に慣れた手つきで仕事をこなしていった。空と店長と拓也の三人だけだったが空と店長がいたおかげかいつもよりも大変ではなかった。
昼時も過ぎ、客の数も減り一段落といったあたりで拓也は休憩へと入った。
「……」
休憩室には空がいたが拓也は気にすることなく入り携帯をいじりだした。以前とは違い会話をしようと慌てたり気まずさに慌てることもなく。
むしろ若干慌てていたのは空の方であった。きっと以前のことで気まずくなったのだろう。
何もなくただただ沈黙であふれかえる休憩室。

 休憩も過ぎ静けさ感じる午後のこと、その人は来た。いや来てしまったというべきか、あの日の疲れた男がノックへと来店してきた。
拓也にとってそれはチャンスでありバットタイミングでもあった。まだ答えは定まっていない状態の来店、これでは以前と何も変わっていない。
「……いらっしゃいませ…。お一人でよろしいでしょうか?…」
「おう」
空が男を席へと案内する。そもそも拓也はキッチン担当なのでホールへと向かうことはまずない。あの日が異例なだっただけだったのだ。
「愛想がねぇな…」
男は席につくなりそうつぶやいた。拓也はその言葉に苛立ちを覚えたが空は特に反応することなくメニューを差し出した。
「……ご注文がお決まり次第お呼びくだ…」
「トーストプレートとアメリカン」
空が言い終わる前に男は午後であるにも関わらずトーストプレートを注文した。あの日のように。
「……かしこまりました。トーストプレートとアメリカンですね。少々お待ちください」
そう言い空が立ち去る。小さなため息を残して。
「拓也くん、お願いしていい?」
店長はいつもとは違い真剣な眼差しを向け拓也にそう言い、コーヒーカップを用意しはじめた。
拓也は以前とは違い慣れた様子で食パンをオーブントースターにいれてトーストプレートを作り始めた。答えが定まらないだけでなくあの男のもとにすら行けないということをもどかしく思いながら。

 完成させたトーストプレートをカウンターに置き空にあの男へ持っていくよう促した。
空もそれに応じ持っていく。
「お待たせいたしました。アメリカンとトーストプレートです」
男はなにか言うわけでもなくテーブルに置かれるのを眺めていた。
「……ごゆっくりどうぞ」
「まぁ待てよ」
男は空が立ち去るのを止めた。拓也は嫌な予感がした。
「お前、なんでここで働いてんだ?」
「お金を稼ぐためです」
空は男を見ることなく淡々と答えた
「いやそれは『なんで働くか』だろ?俺が聞いてんのはなんでで働いてんのか、だぞ?」
「……はぁ…近いからとかじゃないですか?」
「他人事だな。愛想がねぇのに接客業を好んでやるやつがいるかよ」
「別にそんなの人の自由でしょ。愛想があるから接客業とか勝手に決めつけないでもらえますか」
「はは、そのとおりだな。すまねぇ」
拓也は空が男との話で優勢であると感じ少し安堵していた。
「でもよぉ、楽しくねぇだろ?」
「………」
男はニヤつくように笑い言った。
「楽しくねぇのにやってて何がいいんだ?別にここしか近い店がねぇってわけでもねぇだろ。近くのコンビニで仕入れとか接客とは違ったことでもしてりゃ金は入るし、今よりは楽しいと思うぜ?」
空は黙り込んでいた。拓也は突然立場の逆転に焦りつつも空の回答を待った。
「若いんだ。辞めたって痛くも痒くもねぇだろ。俺と違ってな」
自分を皮肉るように男は続けた。
「今のお前、かなり見えるぜ。新しい働き口でも見つけてみろよ」
それはまるで空がカフェで、ノックで働くことを否定しているような発言だった。
男は空が背をそむけていたためわからなかったのかもしれないが空の目には涙が浮かんでいた。その涙が落ちるその時──
「失礼ですがお客様、今すぐにお店ここから出ていってください」
男と空を挟むように立ち、拓也は男に対して少し睨むような目でそう言った。
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